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展覧会の絵

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第三話 いかさま師その十二

 部員にだ。また話したのだった。
「彼等に黒幕がいるのなら神が御存知だね」
「何か佐藤君の話って神様が出ることが多いね」
「教会にいるからね」
「そうだよね。けれど神様って」
「神はおられるよ」
 それは間違いないというのだ。神がいることはだとだ。
 十字の言葉はここでは感情が出ていた。それは確信という感情だ。
 その感情を述べてからだ。そしてだった。
 今絵を描き終えた。そしてこう部員に話した。
「この青年には彼等が悪人だとはわからないけれど」
「それでも?」
「神は御存知だよ。そして見せてくれるんだよ」
「僕達にこうして」
「そう、神の僕にね」
 そうするというのだ。彼が話すのはこのことだった。96
 こう話してだった。彼はその絵を見つつまた述べた。
「見せてくれるんだよ」
「悪事をしてもわかるんだね」
「悪行も善行も完全には隠せないんだよ」
「完全には」
「神様は何もかもをお見通し」
「悪人にはそれがわからないんだ」
 神の目、それをだというのだ。
「だからこそ悪事を犯すんだよ」
「けれど悪事は神様が見ているから」
「必ず裁かれるよ」
 ここでも確信を以て話す十字だった。
「間違いなくね」
「ううん、深いね」
「深いかな」
「だってさ。悪人は常に神様が見ててだよ」
 部員は実際に深い思考の中に己を入れて十字に述べてきていた。
「それで裁かれる、それは決まっているって」
「当然だと思うけれど」
「だから。哲学的っていうかね」
 こう十字に話していく彼だった。
「そういうのだからね」
「哲学ね」
「うん、そう思うから」
「哲学と言うけれどね」
 十字はその哲学についてもだ。彼に答えた。
「特に難しく考える必要はないんだよ」
「あれっ、そうなの?」
「そうだよ。哲学は人間の考えだから」
「それでなんだ」
「そう。人が神について考える」
 ここでも神だった。十字の最初に神があるのは間違いなかった。
 それでだ。こう述べるのだった。
「それこそが哲学だからね」
「それだけでいいの?」
「そう、それだけでいいものだから」
「じゃあ誰でも哲学者になれるの?」
「なれるよ。欧州の哲学もそこからはじまったから」
 人が神について考える、全てはそこからだというのだ。
 こう話してなのだった。十字はだ。
 彼が描いたいかさま師の絵を観つつだ。彼にさらに話すのだった。
「この絵も深い哲学があるんだよ」
「それは何となくわかるよ、僕も」
「そうだね。人の悪があるから」
「悪について考えるのも哲学になるんだね」
「その通りだよ。全てね」
 まさにそうだというのだ。十字は。
「そうなるんだよ」
「哲学はそういうものなんだ」
「うん。だから神について考えることも深くなくて」
「簡単だからね」
「そういうものだよ。難しく考えたらかえってわからなくなるものなんだ」
 これが十字の彼への話だった。それをしてだった。
 彼はその絵を今は部室に置くことにした。しかしだった。 
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