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魔法科高校の劣等生の魔法でISキャラ+etcをおちょくる話

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第二百七十話

 
前書き
違うんだ。研究室に配属されて書く時間が無いんだ。決して研究室の3Dプリンターで遊んでたとかじゃないんだ。 

 
ついぞ彼女からの接触はないまま、直江津高校の卒業式前々日を迎えた。

忍野メメは行方不明。

貝木泥舟は街を去り。

影縫余弦は隔離され。

手折正弦は死んでいる。

この街に残る専門家は俺だけだ。

ちなみに明後日には俺も街を離れる。

鏡の国が怖いからだ。

俺は、俺が一番怖い。

もし鏡の国の自分が’本物の織斑一夏’だったら?

もし鏡の国の自分が全てを憎む殺戮者だったら?

もし鏡の国の自分が全てを食らう吸血鬼だったら?

俺の中にあるありとあらゆる裏面。

抑えている不満や不安。

それが表に出てきたとき、俺は一体どうなってしまうかわからない。

そして俺は何でもできる。

文字通り何でも。

だから街を離れる。

間違った願いが実現しないように。

だがその前に、見届けたいと思ったのだ。

「久しぶり。暦さん」

北白蛇神社へ向かう階段の一段目。

山の麓の初めの階段に腰掛け、俺は暦さんを待っていた。

寒くないように随分着込んでいるが、移動は飛ぶので対して問題ない。

「久しぶり。暖かそうな格好してるね、一夏君」

「いいでしょこれ。もっふもふであったかいよ」

「白くてふかふかで雪の妖精みたいだね」

「そういう歯の浮くようなセリフは女子にいいなよ。
あれ以来、育さんはどう?」

「随分とヤンデレになったよ」

「そう。よかった。あ、言い忘れてたが君の彼女は私の手の中だ」

「知ってる。この間電話が来たから」

「それもそうか。いやはや、まったくもって羨ましい限りだ。
まさか恋人のために自分の頭脳を差し出すとは」

「カンヘリア、だっけ? 君の国で束博士を手伝ってるって聞いたよ」

「俺の国ではないんだけどね。あそこの管理者は束さんと11のISコアだよ」

「事実上の絶対王政、いや、帝政かな?」

「それを言うなら皇帝と言うより神に近いかもしれない」

「王権神授説だね」

立ち上がり、お尻についた土をはたく。

「さ、行こうか暦さん」

「行くってどこに?」

「北白蛇神社だよ。暦さんも目的は同じでしょう?」

トンっと飛び上がり、浮遊する。

暦さんの隣に、目線の合う高さで飛びながら山道を登っていく。

山道を登っていく中、暦さんから問われた。

「今度は何を企んでるんだい?」

「んー。今回も傍観者だよ。いつもどおりね」

「また、僕の因縁ってやつか」

「そうさ。だから俺は見てるだけだよ」

明後日、きっとすべての決着がつくのだろう。

そういえば暦さんって羽川翼とくっついたけど直木とのデートはどう改変されたんだろうか?

「急に話変わって申し訳無いけど今日と明日の予定どうなってるか教えてくれない?」

「え?今日は受験のために大学に行くけど…」

「一人で?」

「いや、育と戦場ヶ原行くよ」

「明日の予定は?」

「特に決まってないけど、一応後期第二志望の為に勉強しようかと思ってるよ」

「勤勉だね」

山頂の神社に着いた。

それでもまだ受験の時間には余裕がある。

「おはよう。こよみん、一夏君」

「おはようございます」

「やぁ臥煙」

臥煙は半分俺を無視するように暦さんに目を向ける。

「大変なことになったようだね、君の体は。こよみん」

「いえ大変ってことは…そんなには」

「そうだね。大変なのはどちらかというと余弦の方か。まさか彼女が狙われるとはね。いやーこれは予想外だったよ私としても」

「予想外ってことはないんじゃないですか?何でも知っているでしょうあなたは」

「おいおい、久しぶりに会った友達に対して皮肉かい?こよみん」

「影縫が排除されたのは単純に邪魔だったからだ。
影縫余弦本人じゃなく式神である斧乃木余接が。だから彼女を無力化・無効化するために主の方を始末したってことさ。
指揮系統のトップであるご主人様がいなくなればあのキメ顔童女なんて恐れるに足りないからね。
余接を君の家に送り込んだのは純正の人造怪異である彼女ならば君を守り得るからなんだけど、どうもそれを嫌った奴がいるみたいだ」

「そいつは余接自身には手を出せなかったのだろう。
彼女は純正の怪異だから。
だからご主人様の方に手を出したってこと」

「ちなみに俺はその当のカオスに避けられてるようだからな。手出しはされてない。
まぁその場合でも吸血鬼という格も自由度も高い怪異をわざわざ相手取るとも思えない。
一方コタンジェントはそこまで格も自由度も高くない。
だからコタンジェントが取れる策は二つに一つ。
奴が式神のまま指示待ちの役立たずになるか、それとも怪異としての本文を捨て暦さんを助けるか。
だが怪異の本文を捨てたりすればどうなるか暦さんはよくわかってるでしょ?」

「一夏君の説明を補足すれば、純正の怪異でなくなった斧乃木余接はあちらとしても手を出せる存在となり恐れるに足りなくなるのさ」

暦さんが考え込むような素振りを見せる。

ここまで立て続けに情報を押し付けられるとそりゃぁ情報整理もしたくなるだろう。

「忍ちゃんは今グッスリお休み中かい?こよみん」

「えぇ、最近はすっかり夜行性でしてこの時間は大抵寝ていますね」

「まぁそれは彼女なりに思うところがあるってやつなんだろうね。有事の際に生活をあえて怪異としての本質に近づけているというか」

「我が姉君はぐっすりか。普段のクソガキっぷりも相まって寝顔は天使なんだろうなぁ」

「おや、自己紹介か一夏君?」

「うるせーよ臥煙」

「もっとも既に怪異でなくなりかけている彼女がそうしたところであまり意味がない。
完全な不死身でもなければ完全な吸血鬼でもない今のキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードにはどのみち24時間体制で君を警護することなんてできないんだけれどね」

「暗殺を防ぐってのは難しい。それは例えるなら将棋でコマを1つも取られることのないまま勝利を収めようってくらいの無茶かな。誇り高い、情の深い指揮官だろうとどうしたって捨て駒は生まれる」

「歩の1枚を守ろうとしていたら王を失う、って話ですか?」

「そうさ。銀河英雄伝説の両雄や諸提督でもそれはできない」

「飛車だって角だって金将だって銀将だって時には捨て駒に成り得る。捨て駒に成り得ないのは王だけだ。
思えば不思議な遊びだよね将棋っていうのは。例え王将以外の全ての駒を取られたところで王さえ生き残っていればそれで勝つことだってできるんだから」

「さてこよみん、君は自分が王将だって思うかい?」

「いえ、まさか」

そこで暦さんは俺に視線を向けた。

君だろ?とでも言いたげだがそれは違う。

「俺はキングじゃないよ。少なくとも今このゲームにおいては」

俺はオーディエンスだ。

「そう今この町に王はいない。今王位が空席なんだこの町は。だから色々と不具合が起きる。つまりは王だけ抜いて将棋をやっているようなものだね。
飛車角落としで将棋っていうのは聞いたことがあるけれど王を落として将棋ってのは珍しいなぁ。その場合の勝ち負けはどう決めたものなんだろうねぇ?」

「その場合は勝ちも負けもないでしょう。勝利条件も敗北条件もないってことになるんですから」

「そう、勝ちも負けもない状態。それを人は無法地帯と呼ぶ」

「つまりはカオス。混沌だよ。貝木は無風状態、と言ってただろ?」

「忍野は空位のままにこの町を霊的に安定させようとしたけれど私は形だけでも王位を埋めようとした。そのことをこよみんに託して、こよみんはそれに失敗した。それがここまでの流れだったね。
余接を置いておけばいいかと思ったが、命令伝達の中間層がごっそり抜け落ちたからね。
私が直接動くしかなくなった」

「動く?」

「行動するって事さ。怪異の専門家として、自分が出張るしかない状況にコイツは追い込まれた。
だから、来たのさ。
自分の足で、お前の前に。お前を止めるために」

「僕の?いや別に僕は動くつもりとかそういうのはないですよ。
そのために影縫さんは僕のところに斧乃木ちゃんを派遣したっていうのもあるんでしょう?」

「だから、コタンジェントは今動けないの」

「だから君は動ける。もう動ける、それを止める者はいない。そして厄介なことにこよみんが動くとあちらも動く」

「あちら…?」

「あちらというのがどちらなのかは考えなくていい」

「要するには奴だ」

「諸悪の根源にして、カオスの大元さ」

「問題なのは君が動くことは危険だということだ。というよりあちらとしては君が動くのを待っている」

「ただし。先に動いたほうが負けのな。さながらチキンレースだ」

「事の解決策ってのは見えているけれど、しかしそれをするのが少しばかり心が痛むんだ」

臥煙が一歩踏み出した。

暦さんから少し位置を取っておく。

まきこまれたくないしな。

「この町から長らく纏わり付いている暗闇を晴らすための解決策で、そしてその解決策とは君が死ぬことだ」

「え?」

「大丈夫、痛いのは一瞬だよ」

臥煙が踏み込み、目にも止まらぬ速さで刀の一撃を繰り出す。

それに対し、暦さんは自らの腕を刃に変化させ、受け太刀する。

が、それは通用しない。

なぜなら。

スッと豆腐でも切るかのように、变化させた腕が立たれた。

妖刀・心渡。

怪異だけを切る刀。

怪異であれば切れぬものなどない刀。

続く二撃、三撃と、暦さんが切られる。

「こんなことになって残念だよ」

切り裂かれた肉片が灰となって朽ち果てる。

次の瞬間。

「ま、そうなるわな」

暦さんがたっていた場所。

その地面から黄金があふれた。

美しさの擬人化。

美の化身。

言葉を語っても語りつくせぬその姿。

手に握るは一本の太刀。

妖刀心渡。

「死ね」

暦さんを斬り、刀を手にたっていた臥煙に斬りかかる我が姉上。

「エアブリット」

その姉上に対し、臥煙の後方を射出点に圧縮空気弾を放つ。

全身を殴打され我が姉上が後方に吹っ飛ばされる。

が、空中で姿勢を整え、着地する。

「まぁまぁ。落ち着きなよ我が姉上」

臥煙の正面に立ち、影からスクレップを抜く。

抜いた剣は構えずにおく。

「これは必要な事なんだ。そうだろう?臥煙」

「なんだか全て見透かされているようだな。そうだ。忍さん。これはこよみんを人間に戻すのに必要な事なんだ」

「妖刀夢渡。姉上が食い残した、いや姉上が喰らう前にこの盗人が持ち去った我が甥の鎧。それを材料に打った二振りの刀。
それを使って人間としての暦さんをよみがえらせる」

「そうか。どうりで食いでが足りんわけじゃ」

「OK?事情が分かったなら剣をおろしてほしいなぁ」

我が姉上が舌打ちをして構えを解く。

「臥煙が失敗したら、お前ごと斬り殺すからな。ユートピア」

「わかってるよ。っていうか、その時は俺を切る前に俺が臥煙を斬るよ」

スクレップをがりがりと石畳にこすりながら、臥煙から距離を取る。

階段に腰掛け、臥煙が術の準備をしているのを眺めていると、姉上に尋ねられた。

「ん?おぬしは戻らんのか?」

「暦さんと違って俺は吸血鬼でいることに不便を感じてないからね。影もだせる、写真や鏡にも写れる。他人の認識も阻害できる。デメリットに対し余りあるメリットだ。ああでもニンニク入りのラーメン食べると喉が焼けただれるのは嫌かな」

「そうか」

そこで、量子通信が入る。

箒か?と思ったが、相手はトヨタマだった。

『どうした?つべで炎上でもしたか?』

『ISによるテロの計画をキャッチしました』

おっとシリアスな話だったか。

『ほーん。この時期にか。詳細は?』

あまりにもタイミングが良すぎる。

俺を街から遠ざけようと彼女が動いたのだろうか?

『実行者はファントムタスク過激派。決行日は今日』

『過激派のやつらも学んだっぽいな。決行日当日までお前たちでキャッチできないとは』

つまりギリギリまでクローズドネットでのやり取りしかしてなかったのだろう。

『申し訳ありません』

『気にするな。クローズドネットにはどう頑張っても接続できないんだ。で、目標は?』

『ルクーゼンブルク公国』

「狙いはタイムクリスタル鉱床か!」

マズいな。

非常にマズい。

だが正攻法でもある。

”本来の”ISの基幹要素であるタイムクリスタルを狙うのは正しい。

俺が”同じ立場”でもそうする。

「どうしたユートピア」

我が姉君に声をかけられ、自分が立ち上がっていたことに気づいた。

「ちょっと電話」

『規模は?』

『採掘用の工兵隊が一個中隊規模、戦闘員はア・ズライグ・ゴッホという部隊のみですが、そのような部隊はファントムタスクには存在しません』

『存在しないだろうよ。赤い龍なんてチーム。だってそれ部隊名じゃねぇもん』

『イギリスの伝承にある龍と理解しています』

『その理解でいい。あとは俺が個人的に処理する集められる限りの情報を集め続けろ。情報は逐次アップロード。OK?』

『了解』

ホロウィンドウを開いてアップロードされてくる情報を閲覧していく。

しばらく情報を見ていると、方術の準備が終わったのか、臥煙が小太刀夢渡を振ったのがホロウィンドウ越しに見えたのでウィンドウを閉じる。

刹那、地面に穴が開く。

あの世とこの世をつなぐゲート。

地獄の門。

黄泉の門。

幽明の境。

呼び方は様々あれど、示す事実は一つ。

この世の禁忌にして、人類の夢の実行。

そのゲートから何かが出てくる。

人だ。

青年と、少女だ。

「ふふ。やはりそうなるか。安心したよヒーロー」

八九寺真宵、人を道に迷わせる怪異。

どうあっても家に帰れぬ迷子の少女。

「ようお前様」

横たわる暦さんに、我が姉上が歩み寄る。

石畳に膝をつき、暦さんの頭をスッとなでる。

「阿保が、心配させおって…。しかも少女を一人地獄から融解してくるとは無茶苦茶じゃのう」

「なぁ忍、これってどう考えてもマズいよな?」

と少し後悔するように尋ねる。

「これでまた八九寺は”くらやみ”の発動条件を満たしてしまったんじゃ…」

くらやみは怪異の本分を外れた怪異を処理する”現象”だ。

「そこがこよみんのファインプレーだと言っている」

少し怒ったような、それでいて褒めるような口調で臥煙が答える

「こよみんのミラクルのおかげでここから先の勝負をいくらか優位に進められそうだよ」

優位どころではない。

神になりうる存在。

今の盤面において八九寺真宵はジョーカーだ。

必勝の切り札と言っていい。

さて、暦さんの盤面はすべての手札が揃っただろう。

あとは勝つだけだ。

だが、俺の盤面はどうだろう。

俺は勝てるだろうか。

手札も足りない。情報も足りない。ジョーカーもない。

ぶっちゃけ俺が勝負に参加する必要もない。

だが、こっちもこっちでひと目見たい。

一度会ってみたい。

だから行く。

けどやっぱり、暦さんの盤面も見届けたい。

これはある意味義務だ。

だから、なるべく俺の盤面は一日で終わらせよう。

「来い。カンヘル」

少し浮いて、カンヘルを量子展開する。

アームドアーマーDEも、クアンタのバインダーをベースにしたアームドアーマーも全て装備したフル装備状態だ。

マスクが閉じ、視界にモニターが映る。

「一夏君⁉」

目の前でISを起動され、暦さんがうろたえる。

「どうやら彼女のターゲットにきちんと俺も入っていたらしい。
急用ができたから少しヨーロッパまで行ってくる」

一度マスクを解除し、顔を見せる。

「14年間の、全てのカオスにケリを付けて来い。阿良々木暦」

カンヘルの指でのグッドラックのハンドサインと共にそう言い残し、俺は量子ワープでドイツへ跳んだ。 
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