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ペルソナ3 ネクラでオタクな僕の部屋に記憶を無くした金髪美少女戦闘ロボがやってきた結果

作者:hastymouse
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第3話(3/5)

 
前書き
3話目にしてようやく外に出てくれました。主人公が迷走するので、最初思っていたのとやや違う方向に進みつつあります。これまではほとんどペルソナのキャラを借りて書いてきたので気づかなかったのですが、愚痴っぽいキャラって自己主張が強いなあ。とにもかくにも二人の巌戸台めぐりの始まりです。 

 
コミュ障気味の僕としては、同じ部屋に(ロボットとはいえ)美少女がいることで、落ち着かずにうろうろしてしまう。
それでもともかく、冷凍していた食パンを解凍して焼いて食べた。
ロボットであるアイナは当然食事をしない。部屋のあちこちを興味深げに眺めている。
その後、3日ぶりに風呂に入り、ようやく生き返った気がしてきた。風呂でいろいろ考えているうちに、気持ちも落ち着いて来た。美少女とはいえロボットなのだ。こちらが何をしても気分を害することはないのだから(そのはずだ)、余計な気を遣わずに気楽に接すればいい。
風呂から出てくると、アイナが僕の書棚をしげしげと眺めていた。
僕の部屋6畳一間の洋間。床には安いカーペットを引いている。
デスクトップPCを置いた小さな座卓。壁に書棚が二つ並んでいて、ゲーム関係の本と漫画とフィギュアが並んでいる。
18インチの小さなテレビを、テレビ台替わりの段ボールに載せてあり、それには数種類のゲーム機が接続されている。
本棚に入りききれない本や雑誌、ゲームソフト 等が床の上に直置きされて積みあがっている。そんな感じの部屋だ。
「奇妙な人形がたくさんあります。」
棚に並べた美少女フィギュアを指さして、アイナが不思議そうに言った。
「そこにあるのはほとんどが僕の好きなゲームキャラのフィギュアなんだよ。」
「ゲーム?」
フィギュアをじっと見つめながら考えている。
(あ・・・これは絶対にわかっていない。)
多分、トランプとか すごろく とか、あるいは野球やテニスなど、自分のわかるゲームになんとか当てはめようとしているんだろう。
「テレビゲーム。わからない? テレビの中でいろんなキャラを操作して、格闘したり、冒険したり、謎を解いたり、恋をしたり。現実にはできないことをやって楽しむのさ。」
「よくわかりません。」
僕はテレビに接続してあるゲーム機のスイッチを入れ、挿しっぱなしになっていた格闘ゲームを立ち上げて見せた。
お気に入りのチャイナ服の女の子を操作して、流れるような連続技でマッチョな大男を叩きのめして見せる。
「これは格闘ゲーム。僕はこんな格闘はできないけれど、ゲームキャラを操作すれば可能だ。勝てば気持ちいい。こうやって楽しむのがゲームさ。」
「なるほどなー。」
アイナは感心したように言った。
「気に入っているゲームキャラのフィギュアを買ってきてそこに飾っているんだ。」
「大変興味深いです。本棚にはゲーム関連の本が多数ありました。ゲームが好きなのですね。」
「好きだよ。好きすぎて仕事にしてしまったくらいに。だから今はゲームを作る会社で働いてんの。」
「好きな仕事ができるのは幸せなことであります。」
そう、僕もそう思っていた。しかし、今やすっかり疲れ果ててしまい、辞めようかとまで考えている。
「現実にはなかなかそうもいかないんだよ。遊ぶ側だったときはゲームをただ楽しんで、ここが好きとか、嫌いとか、もっと面白いゲームを作って欲しいとか、好き勝手なことを言っていたんだけどね。作る側になると、自分のしたい仕事だけをやっているわけにはいかない。思い通りに作れるわけでもないし、やりたくもないつまらない作業を果てしなく延々とやらなくちゃならなくなる。長時間労働で体はきついし、その割に給料は安い。遊ぶ側は気楽だけど、作る側は大変なんだよ。」
アイナにゲームの説明をするつもりだったのが、だんだん仕事についての愚痴っぽくなってきてしまった。誰かにこうして愚痴をこぼすのは初めてのことだった。
「人を楽しませることにも大変な苦労がある、というお話ですね。」
アイナが真剣な表情で訊き返してきた。
「そうなんだよ。好きで選んだ仕事なのに、最近はなんだか辛くなってきちゃったんだ。自分が考えていたような仕事とは違ってたんだ。勝手に夢を見ていて、現実とのギャップに悩んでいるんだ。僕の考えが甘かったのさ。今は仕事を辞めようかとまで思っているんだ。」
アイナは僕の泣き言をじっと聞いていた。聞いてもらえるのが嬉しくて、僕はついこれまでこらえていた気持ちを吐き出してしまった。
彼女は考え深げに、床に積まれたたくさんのゲームソフトを見つめ、その一つを手に取った。ロボット少女アイナの登場するあのソフトだった。
「つまり、あなたが楽しんでいた大好きなゲームも、そうやって誰かが苦労して作ったものなのでありますね。」
「えっ? ああ、そうだろうね。」
予想外の指摘に、僕は虚を突かれてうなずいた。
「あなたが大変な苦労して作っているゲームも、誰かが楽しんでいるんですね。」
「そうだね。そうであって欲しいとおもうよ。」
「苦労をして人を楽しませる物を作る。それが連鎖してまた他の人が喜ぶ物が作られる。私には素晴らしい事のように思えるであります。」
アイナの考え方は驚くほど真っすぐだ
「そんな単純なものじゃないよ。」
僕はそれに同意することができず、ただポツリとそうこぼした。
「そうですか。よくわかりません。でも、人が喜ぶのは良い仕事ですよね。」
「そうかな・・・そうだといいな。」
(そういえばゲームを遊んでいる人のことを、いつの間にかあまり考えなくなってたな。)と僕は思った。

その後、しばらく僕が考え込んでいると、アイナは自分が倒れていた場所を見たいと言いだした。彼女としては自分に何があったのかを確認しておきたいのだろう。
彼女がそのままの恰好では、あまりに不自然な目立ち方をしてしまいそうなので、僕の服の中から着られそうなもの選んだ。
スェットパンツの裾をまくり上げ、トレーナーにジャケットを羽織らせる。金髪も目立つのでニット帽をかぶせた。
こうして、少し野暮ったいが、悪目立ちすることはなさそうな姿になった。まだまだ日中は気温も高くて季節感が合っていないが、まあなんとかなるだろう。
二人でアパートから出ると、昨夜 彼女を見つけたゴミ収集所に向かう。ゴミはすでに回収されおり、カラス除けネットも巻き上げられていた。
「ここにゴミ袋がいっぱい置いてあって、その上に倒れていたんだよ。」
アイナがじっくりと周囲を見回す。もしかするとその眼には特殊なセンサーか何かがあって、僕には見えない痕跡を見ることができるのかもしれない。
子供の甲高い声が響いてきた。ゴミ捨て場の裏は少し広い公園になっている。大きな桜の木が何本かあり、春にはちょっとした花見スポットになっている。
遊具が並んでいる場所では小さな子供が何人か遊んでいて、そこから少し離れて、子供を見守る母親らしき女性が数名で話をしていた。
「何かわかる?」
「あちらが気になります。」
アイナが公園に入っていった。奥に並んだ大きな木に歩み寄ると上を指さす。
木のかなり高い位置にえぐれたような傷があった。どうやったらあんな場所に傷がつくのか見当もつかない。
それを見上げて首をかしげていると、今度は花壇に向かい、地面をほじって中から何かをつまみ上げる。
「それは何?」
「私の機銃の弾であります。昨夜、私はここで何者かと戦ったようです。」
「戦った・・・。」
そうだった。彼女は戦闘用のロボットだと言っていたじゃないか。
顔の汚れ、服の破損。何か事故にでもあったのかと思っていたが、もしかすると戦闘によるダメージが原因だったのだろうか。
しかしこんな住宅街の中にある公園で戦闘を行って、周りの民家に全く気づかれないなんてことが有り得るのだろうか。
「・・・いったい何と戦ったというの?」
「回答不能です。しかし私のエネルギー残量が極端に少なくなっていますので、かなり激しい戦闘だったと推測されます。そのとき敵から受けた攻撃により不具合を生じたようです。」
「なるほどね。それで、エネルギー残量が少ないっていうのは、大丈夫なの?」
「戦闘をせず、節約モードで活動すれば数日はもつと思われます。しかし、あまり残り少なくなると再起動に支障をきたす恐れがあります。」
「何と戦っているかわからないけれど、また戦闘になる可能性もあるのかな?」
「否定はできません。」
最悪、僕のアパートが襲撃される可能性もあるのかもしれない。しかも、彼女のエネルギー残量では、これ以上 戦闘を行えないらしい。
僕も巻き込まれる可能性が無いとは言えない。実は、思っていたより深刻な事態なのかもしれない。
それでも・・・僕は彼女のそばにいたかった。
戦闘にあまり実感がわかなかったということもあるが、彼女と話をすることが心地よくて、どうしても手放したくなくなっていた。
「そうか・・・じゃあ、早めに何とかしないとね。」
その時アイナが何か見つけたように、ぱっと目を向けた。。
視線の先を見ると、ちょうどスウェット姿のおばさんが白い犬を連れて公園に入ってくるところだった。
アイナがいきなりそちらに向かって歩き出す。つられて僕も後をついていった。
アイナは、おばさんの前まで行くと、突然「私が誰だかわかりますか?」と尋ねた。
おばさんがギョッとしたような表情を浮かべる。
(何を突然に・・・)と僕も焦った。
それもそのはず、アイナはおばさんに対してではなく、腰をかがめて犬に向かって尋ねているのだ。
「あ~、いやあ、こ、この子の犬が迷子になってしまって、探してるんですよ~。その・・・ちょうどこんな感じの白い犬で。」
僕は困惑したものの、アイナの奇行をフォローしようと必死になっておばさんに話しかけた。
「これはウチの犬よ。」
おばさんが少し気分を害した用につっけんどんに言う。人見知りの僕は、その冷たい視線にすっかりびびってしまった。
その間も、アイナは何やら犬に話しかけている。
「あ、はい。わかってます。さ・・・さあ、アイナ、犬に訊いても無駄だから他を探そうね。」
僕はごまかし笑いをしながらアイナの手を引くと、慌てて公園から連れ出した。
おばさんから見えないところまできて、思わずため息をつく。
「何してんの? 犬なんかに訊いてもダメだろう。」
そのままアパートの方に戻りつつ、僕は言った。
「白い犬に見覚えがある気がしたであります。でもあの犬の方は、私のことを知らないそうです。」
「へ?」
予想外の回答に立ち止まって振り向く。
「でも少し前に、同じような白い犬を連れた人間の子供が、私らしき人間のメスを探しているのに出会ったそうであります。」
(人間のメスって・・)と心の中でつっこむ。
「えーと、それは誰が言ってたの?」
「あの、犬の方です。」
「えー・・・犬の言葉がわかるの?」
「意思を伝え、相手の意図をくみ取ることはできるであります。」
(犬語翻訳機能付き? 戦闘用ロボットになんでバウリンガルが必要なんだ?)
僕は呆れてぽかんとした。
「犬を連れた子供がいたのは、こちらの方であります。」
アイナはそう言うと、僕の反応などお構いなしに、つないだ手をぐいぐい引いてアパートとは反対方向に歩き出した。
なんだかつないだ手を引っ張られるのがうれしくて、僕はそれ以上何も言わずに彼女に引かれていった。
それにしても、もしあの犬の言うことが本当だとしたら、誰かがアイナを探しているということになる。しかも探しているのは子供だという話だ。
(子供がなぜ戦闘用ロボットを探すのだろう?)
いくら考えても、どうにもつじつまが合わなかった。

アイナは、おばさんの連れていた犬に教えてもらった通りに進み、たどりついたのは神社だった。
僕の家からは最寄り駅と逆方向になるため、ここまで来たのは初めてだ。この辺だと巌戸台駅の方が近いのかもしれない。
アイナがわき目もふらずにこの「長鳴神社」まで来たのかというと、そんなことは無い。むしろ周りにあるもの全てが珍しくてしょうがないとでもいうように、あっちこっちを見ながらだったので、結果的にかなり時間がかかってしまった。
考えてみると、僕の部屋でも興味津々で見て回っていた。ゴミ捨て場や公園でも、別に特殊なセンサーでサーチしていたわけではなく、単に好奇心でじっくり見ていただけだったのかもしれない。
もしかするとアイナは作られたばかりで、小さな子供のように何もかもが珍しいんじゃないだろうか。
まあロボットに好奇心とか、珍しいという感覚とかがあるのかどうかわからないが、あちこち見て回るその姿には何か生き生きとしたものを感じていた。
階段を上って神社に入ると、境内の一画にブランコなどの遊具が設置してあった。
しかし子供の姿は無く、代わりにどこかやつれた感じの若い男性が一人、ベンチに座っていた。
僕は知らない人に話しかけるのを極度に苦手としているのだが、あまり怖そうな人にも見えなかったので、アイナの手前思い切って話しかけてみることにした。
男性は手元に持ったスケッチブックに、なにかピンク色のワニのようなものを描いている。
(ピンクのワニ? 変なものを描くな・・・)
一瞬戸惑ったが、「すみません。」とおどおどと声をかけてみると、「はい。何か。」と男性は穏やかにやさしそうな声で訊き返してきた。
少し安心して、白い犬を連れた子供の話をすると
「そういえば、時々 夕方頃に男の子が白い犬を散歩させているのを見かけるよ。」
という返事が返ってきた。 
 

 
後書き
ペルソナ3を別視点で見ていくという試みで、神木さんが登場です。CDドラマでは神谷浩史さんが演じていましたので、その声で脳内再生しています。街めぐりはもう少し続きますのでお付き合いの程、よろしくお願いします。 
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