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ペルソナ3 ネクラでオタクな僕の部屋に記憶を無くした金髪美少女戦闘ロボがやってきた結果

作者:hastymouse
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第2話(2/5)

 
前書き
第2話です。相変わらず脱線ばかりしていて、なかなか家から出てくれません。放っておくといくらでも脱線を続けてしまいますので、主人公にはもう少ししっかりしてもらった方が良いかもしれませんね。原作からあまりから逸脱しないようにバランスを調整しつつ、少し違った角度からペルソナ3の世界を眺めていけたら面白いかな、と思っているのですが・・・どうなる事やら。 

 
どういうことだろうか。もう撃たないということなのだろうか。
僕はとりあえず泣きやんだのだが、それでも固まったまま動けなかった。動いて良いと言ってもらわないと、怖くて動くことができない。
「了解したであります。あなたの返答は概ね真実と判断します。」と人形少女が言った。
えっと、それは、僕の安全を認めてくれたということでいいのだろうか?
「う・・・動いていいの?」
「許可します。ただし両手が見える状態でゆっくりと動くであります。」
僕は両手を上げたまま、慎重にゆっくりと上体を起こした。そうして、ようやく彼女の全身が見えた。
人形少女も上体を起こしていて、こちらを見ている。両手は下ろしたままだ。
その姿は先ほどまでとは違い、生きている人間にしか見えなかった。そしてこんな状況ではあったが、さらに美しく見えた。とても危険な存在には見えなかった。
「あの・・・こっちからも質問していい・・・ですか?」
しばしの間、見惚れていた僕は、状況を把握したくなっておそるおそる尋ねてみた。
「システムが正常な状態にない為、セーフモードによる限定的な作動となっているであります。その為、応えられる内容もかなり限定されるであります。」
よくわからないが、どこかに問題を生じているらしい。言葉使いが変なのもそのせいだろうか。
「えっと・・・人間ではないんだよね・・・ですよね。その・・・やっぱりアンドロイド?」
「広義に捉えれば『ロボット』という認識で間違いないであります。」
ロボット、アンドロイド、ヒューマノイド、人造人間、レプリカント、ビメイダー・・・子供のころから慣れ親しんできたワクワクするような単語の数々が頭の中を飛び回った。
「す、すごい。こんな人間そっくりのロボットを、現代科学で作り出せるなんて思ってなかった。まるで漫画かアニメだ。信じられない。」
先ほどまでの委縮した気分から一転し、僕はすっかり興奮してしまった。撃たれるかもしれないという恐怖は、いつの間にかどこかに消え去っていた。
「厳密には100パーセントロボット工学の産物ではありません。現代の科学技術で不可能な部分は、未解析の技術でカバーしているであります。」
「ロボット工学以外の未解析の技術って?」
僕の好奇心はつのる一方だ。子供のころからどっぷりオタクで、SF好き。しかも今やプログラマーという技術者の端くれだ。
軍事利用可能な最先端技術が一般大衆から秘匿されているとしても、今の科学技術でこんな人間そっくりのアンドロイドを作るのが不可能なことは確かだ。
だからこそロボット美少女は妖精と同様、オタク少年のファンタジーなのだ。そんなものの実在を可能にする未解析な技術とは何なのだろうか。
「平易な言葉で言えばオカルトであります。」
「オカルト? 魔法とか、呪いとか、悪魔召喚とか・・・」
予想外のファンタジーな単語が出てきて、脳内はお祭り状態になっていた。脳内カーニバルだ。
いったいなんなんだこの非現実感は。僕はもう撃ち殺されていて、異世界に転生してるんじゃないだろうか。つまらなくて味気ない世の中で過酷な労働に身を削っていたというのに、この世界の片隅にはそんな夢のようなものが実在しているというのだろうか。
「申し訳ありませんが、これ以上は説明できません。データが欠落しており回答不能であります。」
「いったい君はどこの誰が作ったの?」
「回答不能です。」
「名前は?」
「・・・特別制圧兵装七式。個体名称は・・・アイ×@$▲。」
そこで彼女は意味不明の発声をした。うまく声が出せないとでもいうように。
「アイ・・・?」
「データが一部破損しており、正確な名称がわかりません。」
「ああ、そうなんだ。・・・えーと、ちょっと待って、兵装ってことは、つまり戦闘用っていうこと?」
「はい。そうであります。」
(なんで戦闘用ロボットが金髪美少女の姿をしているんだ? あまりにマニアック過ぎるだろう。開発者はアニメオタクなのか。軍隊が戦闘用に美少女ロボ作るというのは意味が分からん。
いや、待てよ。スパイとしては有り得るのかな。金髪だし、ひょっとして外国に潜入させるために造ったとか・・・。いざというときの為に戦闘力も高いスパイロボットという設定はどうだ。
その他の可能性としては・・・変態な金持ちが大金をつぎ込み、外見に拘って造らせた護身用のロボットとか。
実は未来世界ではロボットが人間を支配していて、そこから歴史改編の為に過去の世界に送り込まれてきたとか・・・
それとも娘を事故で失った父親が、娘の姿に似せて・・・ああ、いかん・・・発想がどんどん漫画チックになっていく・・・。)
そもそも、今の僕は小難しいことを考えられるようなコンディションではないのだ。オーバーワークで僕自身が正常稼働とほど遠い状態だった。
「私は現在の自分の状態が不明であり、どこに帰って何すべきなのかがわかりません。まずは正常な状態に復旧することが優先であります。」
人形少女がそう言った。あまり感情はこもっていなかったが、こころなしか困っているような様子にも見えた。
「人間で言えば記憶喪失状態ということか。連絡方法とか、対処方法とか、何も手がかりが無いの?」
「一度シャットダウンして再起動することで正常に復旧する可能性があります。しかしシャットダウン及び再起動をスタンドアローン状態で行うと長時間かかり、その間 私は完全に無防備になってしまいます。身の安全が確認できた状態でなければ再起動を実施できません。」
「ああ、なるほど。その再起動にはどのくらい時間がかかるものなの?」
「全てシャットダウンして復旧するのに4~5時間と予想されます。」
「つまりこの部屋が安全と確認出来たら、ここで再起動すれば良いわけか。」
「はい。」
とりあえずの方向性は見えてきた。
彼女に何があってこのような不具合を生じたのかはわからない。顔の汚れや服の破損からして、何かの事故にあった可能性もある。それが原因で、作業中のパソコンの電源をいきなり引っこ抜いたような状況となり、とりあえず動けるようになったものの正常な稼働状態ではないらしい。復旧のためには再起動してみれば良いのだが、その為にはまず身の安全を確保する必要があるということだ。
つまり、再起動の間、僕が見ていてあげれば良いということなのだが、彼女からすれば僕が信用できるか、この部屋が安全な場所なのか、現状では判断できないというわけだ。
「わかったよ。それじゃあ、僕 と この部屋 が安全かどうか、気のすむまで確認してくれ。君が正常に復旧するまで、この部屋にいてくれてかまわない。」
「ご協力、感謝するであります。」
彼女は丁寧に頭を下げた。
彼女のために僕が配慮したような雰囲気になっているが、その実、僕はものすごくワクワクしていた。会社に入って以来、いや、これまでの人生において、こんなにワクワクしたことがあっただろうか。
冴えない容姿に低身長。スポーツも不得手。勉強もそこそこ。子供のころからコミュ障気味で、漫画やアニメやゲームだけを楽しみに生きてきた。友達もオタク仲間がほんの数名いるだけ。
そんな1人暮らしの男の部屋に、人外の美少女が転がり込んでくるなんて、まるっきり漫画みたいじゃないか。
この手のジャンルの漫画では、まさに定番のシチュエーションだ。
部屋にやってくるのは、宇宙人だったり、天使や妖精だったり、悪魔や妖怪だったり、そしてロボットだったりと、考えつく限り無数のバリエーションがある。
そして、そこからドキドキのラブコメ生活が展開していくんだ。
孤独なオタクにとって、それはまさに夢のようなシチュエーションなのだ。
そんなご都合主義の漫画みたいな体験ができるチャンスが、自分の身に訪れようとは思いもよらなかった。これでテンションが上がらない方がおかしい。
「そ、それじゃあ・・・それまで一緒にいるわけだから・・」
僕はまず自分の名前を名乗った。
「君の名前は・・・とりあえず・・・アイ・・・アイナということでいいかな。」
「はい、仮称アイナで了解しました。」
アイナ・・・それは僕がお気に入りのロボット少女の名だ。
本棚にはフィギュアだって飾っている。元はアダルトなノベルゲームの登場人物だ。このゲームには複数の女の子が登場し、選択肢によってルートが分岐して違う女の子を攻略することができる。その中の一人がアイナというロボット少女なのだ。
緑色の髪で耳にアンテナのついた可憐な姿をしている。ある日突然、どこからともなく主人公のところに届けられ、戸惑いながらも主人公はアイナと交流を深めていく。健気で献身的でどこまでも可愛らしいその姿は、人外というファンタジーならではだろう。やがて主人公と結ばれた後にその正体が判明し、アイナは本来の持ち主の元に帰ることになる。この別れのせつなさ。そして持ち主に記憶をリセットされたはずのアイナが、奇跡的に主人公の所へ帰ってくる展開は、アダルトゲームとは思えないほど感動時だ。僕はアイナにすっかりハマってしまった。
このゲームはアダルトシーンを除いた全年齢版でも発売され、そしてアニメ化もされ、アイナはすっかり人気キャラとなった。今では元がアダルトゲームだと知らない人も多いだろう。
金髪ではあるが、突然やってきたロボット少女という点ではアイナと同じだ。思わずオタク男が夢見てしまっても仕方がないじゃないか。
そんなこんなでネクラなはずの僕は、これまでの人生でため込んできた鬱屈したものを全てはじけさせるほどハイテンションになっていた。そんなさなか、突然どっとめまいが押し寄せてきて、いきなり万年床にぶっ倒れた。
実のところ肉体的にも精神的にも、とっくに限界を超えていたのだ。
帰宅してきた時点で既に限界だったのに、大量のゴミを運び、代わりに等身大ロボットを背負っ帰ってきて、挙句に美少女戦闘ロボットにホールドアップされ、さらには現実離れした夢のような話を聞かされる。この怒涛の展開は、今の僕にはあまりに厳しすぎた。ハイテンションに耐え切れず、ついにブレーカーが飛んでしまったらしい。
「と・・・ともかく・・・明日・・・また話をしよう。」
僕はそれだけ声を絞り出すのが精一杯だった。
「分かりました。私はエネルギー節約の為、スリープモードに入るであります。」
そんな彼女の言葉を聞きつつ、意識がブラックアウトした。

夢を見た。
金髪美少女のアイナがピンクのひらひらなメイド服を着て料理をしてくれていた。テーブルで差し向かいに座って楽しく食事をし(うちにはテーブルなんてない)、それから一緒にお風呂に入って(うちの風呂場には、二人で入れる広さは無い)、その後ベットインする(うちにはベットもない)、という絶対に人に言えないような恥ずかしい夢だった。

目を覚ますと外は既に明るかった。時計を見るともう9時を過ぎている。
やばい!会社に行かなきゃ、とドッキリしたところで、今日が久しぶりの休みであることを思い出した。
地獄のような日々は終わったのだ。もちろんとりあえず・・・ということで、すぐにまたいろいろとやらされる過酷な日常に戻るのだろう。
今は何もかも忘れて、このひとときの安息にどっぷり浸りたい。二度寝しよう・・・そう思って寝返りをうってギョッとした。
そこに金髪の女の子がいたからだ。
足を投げ出して壁にもたれたまま目を閉じている。
昨夜の記憶が戻ってきた。
仕事疲れで見た甘ったるい変態な夢はともかく、金髪のロボット少女を家に連れ込んだところまでは確かに現実だったらしい。
慌てて布団から這い出ると、「アイナ・・・」とそっと呼びかけてみた。
途端にどこからともなくキュイーンという小さな起動音が響き、少女がパチリと目を開けた。
「おはようございます。」
「あ・・・おはよう。よく眠れた?」
美しい仮称アイナの挨拶にたじろぎ、僕は赤面しながら尋ねた。
「スリープモードは睡眠ではありません。」
「あ、そう。」
まあ、それはそうだろう。パソコンによく眠れたか訊いたようなものだ。
でも、目の前にいるのはどうみても美少女であり、わかっていてもつい意識をしてしまう。
「スリープ中に何か見えたような気がします。何人かの人と一緒に高い塔を上っていました。記憶が一部戻ったのでしょうか。」
アイナがふいにそんなことを言った。
「えっ・・・スリープ中に見えたって・・・それ夢なんじゃないの?」
「スリープモードは睡眠ではありません。」
「あ、そう。」
まあいい。
とりあえず起き上がると、万年床が照れくさくなって、久しぶりたたんでクローゼットに押し込んだ。 
 

 
後書き
人外の乱入者と同居する漫画は本当に山のように有りますよね。ファミリーな子供向けなら、「オバQ」や「ドラえもん」のように藤子不二雄先生の十八番です。もう少し対象年齢の高いラブコメ風のものになると、高橋留美子先生の「うる星やつら」を筆頭に、それこそありとあらゆる人外キャラが描かれています。当然、もっと対象年齢の進んだアダルトな漫画だってあります。
今回は、長く一緒に生活する話は原作的に無理があるので、1日の話として雰囲気だけでも出せればと思っています。 
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