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時々無性に食べたくなる

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第二章

 そうして時々お茶漬けを食べていたが美樹は高校の修学旅行でイタリアに行くことになった、そこで母にこの時も嬉しそうに話した。
「ピサの斜塔やコロシアムも観てね」
「そうしてなのね」
「本場のパスタやピザも食べて」
 イタリア料理の話もした。
「楽しんでくるわね」
「そうしてね、一生に一度の高校の修学旅行だしね」
「満喫してくるわね」
「ええ、そうしてきなさい」
 母はこう言ってだった。
 娘を送り出した、美樹は意気揚々と友人達と共にイタリアに旅立った。
 母は夫それに息子と娘がイタリアの景色や歴史的な建造物それにイタリア料理を楽しんでいると思っていた、それで残された一家で娘はどうしているかと話していたが。
 日本そして家に帰ってだった。
 美樹は開口一番だ、母にこう言った。
「晩ご飯お茶漬けにして」
「あんた何言ってるのよ」
「だってイタリアにいた間ずっと食べたかったのよ」
 母に切実な声で語った。
「イタリア料理も美味しいけれど」
「あっちにもお米あるじゃない」
「リゾットよね」
「それでもなのね」
「リゾットはリゾットよ、あそこお茶自体がないのよ」
 美樹は母に強い声で話した。
「コーヒーじゃない」
「紅茶は主流じゃないのね」
「日本のお茶なんて見たことなかったわ」
 イタリアにいる間そうだったというのだ。
「それでお米はインディカ米でリゾットで食べるから」
「日本みたいに食べないのね」
「そう、そもそも主食じゃないしね」
「あちらは主食パンだしね」
「それでお茶漬けがある筈がないから」
 だからだというのだ。
「来てすぐに食べたくなったけれど」
「あんたの時々が出たのね」
「なくてね」
「ずっと食べたかったの」
「イタリア料理は美味しかったけれど」
 それでもというのだ。
「お茶漬け食べたかったのよ」
「そうなのね」
「そう、だから食べていい?」
「お茶漬けのもとあるわよ」
「じゃあそれでね」
「食べるのね」
「本当に時々食べたくなるから」
 美樹の言葉は切実なものだった。
「食べさせてもらうわ、しかし和食ってメジャーになったっていうけれど」
「お茶漬けは違うのね」
「お寿司やお刺身や天麩羅やすき焼きでね」
 メジャーなものはというのだ。
「お茶漬けはないのね、このこと覚えておくわ」
「まあそこは仕方ないわね」
「そうね、日本じゃないからね」
「じゃあ日本に戻ってきたし」
「今夜はお茶漬け頂くわ」
 こう言ってだった。
 美樹はこの夜実際にお茶漬けを食べた、そのお茶漬けは実に美味く美樹は満足した。そして時々食べられるものは他の国ではあるとは限らないことを教訓として頭の中に入れた。


時々食べたくなるもの   完


                    2022・2・21 
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