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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第2部
エジンベア
  渇きの壺

「それでね、ユウリってば一人でさっさと行っちゃうんだよ」
「それは……何か考えがあってそうしているのでは?」
 翌日。予定どおりお城に向かったユウリと別れ、私は再びマギーのお店で留守番をすることになった。
 マギーは、田舎者扱いされている私を唯一受け入れてくれたお店の店主であり、入国できなかった私とユウリを助けてくれた恩人でもある。しかもその理由が、ユウリを『勇者物語』の主人公と重ね合わせているからと言うことであり、彼のことをよく知らないマギーは、今でも彼のことを物語に出てくる勇者だと思い込んでいる。
 確かにユウリ自身、レベル三十を越えている時点でまさしく物語の主人公然とした存在なのだが、たまに前触れもなく髪の毛を引っ張ったり、しょっちゅう私を田舎者扱いしたりするので、少なくとも私の中では完璧な主人公とは言い難い。それでも彼のお陰で私はマギーのお店にお世話になることが出来たので、彼には感謝しなくてはならないのだが。
 マギーのお店には開店と同時に訪れたからか、お客さんは殆ど来ていない。なので私はお客さんには見えないよう、カウンターの陰に隠れ、隣に立っているマギーと世間話を楽しんでいた。
「そうだ、ミオさん。よかったらミオさんもこの『勇者物語』読んでみません? 著者が今若者たちの間でも人気の高い新進気鋭の方なんですよ」
 そう言ってマギーが見せたのは、片手で持つには少し辛いほどの厚さの本だった。マギーから本を受け取りパラパラとページをめくると、びっしりと並んだ小さな虫のような文字が目に飛び込み、唐突にめまいを起こしてしまう。
「だ、大丈夫ですか?」
「ごめん……。活字は苦手で……。全部読むには時間がかかるから、マギーがかいつまんで教えてくれると嬉しいな」
 私は頭を抱えつつ、本を彼女に返した。後で気づいたが、こういうところが田舎者たる所以なのかもしれない。
「わかりました! ではまず魔王が復活する三十年前の話からお話しましょう!」
「そこからなの!?」
 思わぬ長丁場に、つい突っ込みをいれる私。それでもやる気に満ちたマギーは早速本を開くと、上機嫌で話し始めた。
 流暢に話すマギーは、とても楽しそうだ。それだけでなく、彼女の丁寧でわかりやすい話し方は難しい内容でもすらすらと頭の中に入る。次第に私もニコニコしながら彼女の語る姿を眺めていた。それに気づいたのか、照れながらもはにかむマギーに対し、同年代ながらも可愛いと感じてしまう。すると、ふとメガネ越しに覗く彼女の素顔が視界に入る。
 素顔のマギーは目も大きくパッチリとしていて、とても愛らしい顔立ちをしている。色白の肌は滑らかで美しく、整った鼻筋と小さな唇は、メガネを外せば多くの人が虜になってしまうほどの魅力を持っていた。ただ、かけているメガネがやたらと大きく、顔とのバランスを悪くしているのだ。
 すると、先ほどから私の視線が気になるのか、彼女は急に話を中断してしまった。
「ごめん、集中出来なかった?」
「いえ、あの、こんな風に私の話を聞いてくれる人なんて、身内以外で初めてだったんで嬉しくて……」
「そうなの? でも聞いててとっても面白いよ」
 そう言うとマギーは淋しそうに首を横に振った。
「そんな風に言ってくださるの、ミオさんだけですよ。勇者物語ばかり読む年頃の女なんて私くらいですし。つい最近も、いつもお店に来る人に『変わった子だね』って言われてるんですよ」
「え!?」
 こんな可愛くて優しい子を変わり者呼ばわりするとは、なんて失礼な人なんだろう。
「だから、ミオさんみたいに私のことを受け入れてくれる人がいるって知って、嬉しいんです」
 そう言って顔を綻ばせるマギーは、本当に嬉しそうだ。
「ねえマギー。あなたとっても美人なんだから、眼鏡を外してみたら? そしたらきっと、誰も変わってるなんて言わないと思うけど」
 私が正直な感想を述べると、マギーは思いきり首を横に振った。
「何言ってるんですか、ミオさん。私なんか全然美人じゃないですよ。それに、メガネがなかったら何も見えなくなっちゃいますし」
「え、そんなに目悪いの?」
「はい。裸眼だと自分の顔が殆ど見えなくて。きっと夜遅くまで本を読んでるからだと思うんですけど、どうしても読みたくって……。だから外に出るときはいつもこれをつけてるんです」
 そっか、じゃあ自分の素顔がどれだけ美人なのかわからないんだ。
「うーん……。ホントに美人なのに、なんか勿体ないなあ」
「ありがとうございます。でも私は、容姿よりも本の話をする方が好きなので、今のままで充分なんですよ」
 本人がそう言ってしまっては、これ以上周りがとやかく言う必要はない。
「そっか。ならさっきの続き、聞かせてよ。私も勇者物語は昔からよく聞かされてたし、何より今は主人公と一緒に旅してるようなものだしね。何か参考になるといいかな」
「はい、もちろん!」
 私の要望に、マギーは笑顔で返事をした。
 その後、私たちはユウリが戻ってくるまで、勇者物語についてお互い夢中になって話し込んだ。趣味が他の人と違うだけで、マギーは普通の女の子と変わらない。そんなマギーと話している時間はとても楽しかった。
「随分暇そうだな」
 その声にハッとして、私は後ろを振り返る。店の扉が開く音にも気づかず話し込んでいたのか、いつの間にかユウリがカウンター越しに私たちの向かいに立っていた。
「ユウリ! いつ戻ったの!?」
「つい今しがただ。店の外にまでお前らの話し声が聞こえてたぞ」
 何と言うことだ。妙にお客さんの入りが少ないなと思ったら、私たちの話し声のせいで入りづらかったのかもしれない。
「ごめんマギー、私のせいでお客さんが入らなかったのかも……」
「気にしないでください。うちの店はいつもこんなものなんです。この国の人たちには少しカジュアル過ぎるみたいで」
「えっ!? こんなに素敵なお店なのに!?」
 でも確かに、他のお店は格調高いと言うか、貴族の人が御用達にするようなお店ばかり並んでいた。私みたいな庶民にはマギーのお店はおしゃれで洗練されたイメージしかないが、この国の人たちにとっては考え方が違うのかもしれない。
「おい。無駄話はいいから、早く行くぞ」
「行くってどこへ?」
 だが、私の問いにユウリは無言を貫いたまま、再び店を出ようとする。私は慌ててマギーに向き直ると、
「あ、あの、今日はありがとう! また今度聞かせてね」
「はい、私も楽しみにしてます!」
 そう忙しなく別れを告げ、マギーのお店をあとにしたのだった。



 店の外に出てからユウリに連れてこられたのは、少し離れたところにある小さな公園だった。公園と言ってもそこかしこに美しい花々が植えられており、まるで手入れの行き届いたお城の庭園のようだった。
 その一角にあるベンチに座った私は、すぐに隣に座ったユウリの表情を盗み見る。確か王様に最後の鍵のことを聞きに行ったはずだったんだけど……。
「何かあったの?」
 わざわざ場所を変えておきながらなかなか話を切り出そうとしないのでこちらから尋ねてみたが、何故かユウリは浮かない顔をしている。すると何かを決意したのか、ユウリはこちらを一瞥すると、ようやく話し出した。
「王様に最後の鍵があるかどうかを尋ねたが、持っていないと言われた」
「あぁ……、それなら仕方ないね」
 さすがにそんな簡単には見つからないだろう。そう頷いていると、
「だが、最後の鍵を手に入れるのに必要なアイテムがこの国の城の地下にあるらしい」
「えっ!?」
「『渇きの壺』といって、本来は西の大陸のある民族が持っていた宝らしい。だが、その情報を入手した何代か前のエジンベア王が、その宝を手に入れようと、侵略という形で強引に手に入れたそうだ」
「侵略……」
 相手の合意も得ず、一方的に制圧し、彼らが大切にしてきたものを奪った。当時のエジンベアは、そんな横行も許されたのだろうか。
 その後のユウリの話によると、結局壺の方は手に入れたものの最後の鍵を入手するまでには至らず、他国から奪った渇きの壺だけが城の地下に今でも眠っているという。
「え、じゃあ結局その『渇きの壺』っていうのは王様からもらえたの?」
 ユウリは苦々しげに首を振った。
「いや、この国の歴史を風化させないためにこれからも保管したいと言われた。そんな下らないことのために手元に残すくらいなら、とっとと手放せばいいのに」
 そう言い切ると、大きく息を吐くユウリ。
「それじゃあ、どうするの? せっかくそんな重要なアイテムがここにあるのに、手に入らないんじゃ……」
「俺も最初はそう思っていた。だが、これを見て考えが変わった」
 ユウリは懐から、一枚の紙を取り出した。
「これを見ろ」
 そう言って私の眼前にその紙を広げて見せたので、私はまじまじとその紙に書かれている文章を読み上げる。
「美少女コンテスト?」
「王国主催の由緒あるイベントだそうだ。一週間後に行われるらしい。その下の方の文章をよく読んでみろ」
「ええと、『優勝者には、好きなものを何でも一つ、国王から褒美としてもらえる』だって」
「つまりお前には、一週間後に開かれるこのコンテストに優勝して、国王から渇きの壺を手に入れてもらう」
「へ?」
 それはつまり、私に美少女コンテストに出場しろってこと?
 あまりに突拍子もない発言に、一瞬思考回路が停止する。
「いやいやいやいや!! 私なんかが優勝なんて無理だって!! そもそもそれ以前に田舎者扱いされててまともに表すら出歩けないのに、何言ってるの!?」
 私が必死で否定すると、ユウリは百も承知といった顔で私を見返した。
「そんなことはわかっている。だから、今から助っ人に頼むことにした」
「?」
 助っ人って、一体何のことだろう、と思い首をかしげると、彼は何も言わずに私の手を取った。
「ユウリ?」
「ルーラ!」
 そして私が疑問の声を上げると同時に、ユウリは移動呪文を唱えた。その瞬間、二人の体が一瞬にして空に舞い上がる。
「ええええっっ!!??」
 何かに引き寄せられるかのように物凄い早さで空を飛んだかと思うと、何事かと考える暇もなく、瞬く間に目的地にたどり着いた。
「ここは…… 」
 キョロキョロと辺りを見回してみると、見たことのある町並みが私の記憶を呼び起こす。そうだ、ここは一度来たことがある。
 寒い季節なのに常夏のような暖かさ。人々は比較的露出の覆い服を着ており、何よりここは仲間であるシーラがかつていた場所。まさかここは……。
「アッサラーム?!」
 そう、私たちが到着したのは、常に温暖な気候で開放的な町、そして以前訪れた場所でもある、アッサラームだったのだ。

 
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