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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第2部
エジンベア
  元戦士の店

「なっ、なんでアッサラームに!?」
 訳も分からずいきなりルーラでアッサラームに飛ばされ、私の頭の中は混乱を極めていた。
「……うっ」
 真冬のエジンベアから突如常夏のアッサラームに移動したからか、もしくはあまりの急展開に気が動転しているからか、大声を上げた途端、立ち眩みが襲う。
 若干くらくらした頭を必死で振り払いつつも、私はユウリにどういうことなのかと視線を投げ掛ける。
 だがユウリは灼熱の太陽の下でも涼しい顔をしながら、「早く行くぞ」と一言言い放つと、さっさと先へと進んでいってしまった。
 いったいどこへ行こうというのか。そう疑問を持つ私だったが、歩くにつれ、彼がどこに向かっているのか何となくわかってきた。
 もしかして、これから向かうところって……。
 気づいたところで、大きな建物の前でぴたりと立ち止まる。
「あら、お兄さん。まだ開演時間には早いわよ? それとも、誰かお気に入りの子にでも会いに来たのかしら?」
 建物の側でチラシを配っていたバニーガール姿の綺麗なお姉さんが、やってきたユウリに優しく声をかけてきた。そう、ここは以前シーラに連れられてやってきた、アッサラームの劇場だった。
 バニーガールは大人びた笑みを浮かべるが、ユウリは首を振り、
「俺は勇者のユウリだ。今日は知り合いに会いに来たんだが、ビビアンという踊り子はいるか?」
 そう名乗った途端、女性はハッとしたように目を丸くした。
「あらあなた、あの時の勇者様じゃない!! お久しぶりね」
 そう言って彼女は、笑顔でユウリの肩を軽く叩く。
「? 俺はお前とは初対面のはずだが」
「ふふ。こうして話すのは初めてだけど、この前劇場のお手伝いしてくれた時、何回か見かけたの。あの時はありがとうね」
 にっこりと笑う彼女は、女の私でもドキッとするくらい魅惑的だった。けれどユウリは全く動じることなく、無反応のままである。
「それより、ビビアンはどこにいる?」
「ああ、あの子なら、稽古場で踊りの練習してるわよ。案内するわ」
 勇者のそっけない態度にも嫌な顔一つせず、バニーガールのお姉さんは私たちをビビアンさんのところまで案内してくれた。ユウリってば、もうちょっと愛想よく受け答えしてもいいのに。
「ビビー! あなたにお客さんよー!」
「え? 私にお客さん?」
 劇場に隣接する扉のない稽古場の中で、艶やかなピンクの髪を揺らしているのは、間違いなくビビアンさんだ。彼女は一人で踊りの練習をしていたらしく、こちらの視線に気づいたのか後ろを振り向くと、私たちの姿を見るなり目を丸くした。
「えっ!? も、もしかしてあなた、ユウリくん!? それにミオちゃんまで!! 一体どうしたの!? あれ? シーラは!?」
 驚きのあまり、すぐに思いついたであろう言葉を次々と並べ立てるビビアンさん。
 ビビアンさんはシーラのかつての仕事仲間で、ここの劇場の踊り子として第一線で活躍している。美人で明るいだけでなく何かとお世話になったりして、私から見たら頼れる年の近いお姉さんと言った雰囲気である。ちなみにナギもビビアンさんの踊りを見てすっかり虜になっていたが、ビビアンさんにとってはあまり目立った印象は持たれていないようだ。
「お久しぶりです、ビビアンさん。訳あって、今シーラたちとは別行動をしてるんです」
「あら、そうなの? ていうか、そんなに年も離れてないんだし、さん付けなんかしなくていいわよ。敬語もいいから」
 そういってぱたぱたと手を振る。
「そ、そう? じゃあ私のこともミオって呼んで欲しいな」
「もちろん!」
 彼女との距離が親密になったところで、ビビアンは話をもとに戻す。
「で、私に一体何か用?」
 すると、ずいと一歩前に出るユウリ。何を言うのかと思ったら、
「こいつが美少女コンテストに優勝できるよう、協力してくれ」
「ええっ!?」
 と、いきなりとんでもないことを提案してきたではないか。
「びしょうじょ……コンテスト?」
 驚愕する私に対し、ポカンとした顔をするビビアン。そして言った張本人は不愛想な表情を一切崩さず、
「礼は出すから、このド田舎女をコンテストで優勝出来るように変身させてくれ」
 と、再びビビアンに頼んだ。しかしビビアンは眉をひそめる。
「ちょっと聞き捨てならないわね。ミオはこの素朴さが可愛いんじゃない。なんでわざわざ変える必要があるわけ?」
「……っ」
 まさか反論されるとは思ってなかったのか、一瞬言葉につまるユウリ。ていうか、ビビアンの可愛さに比べたら私なんて月とスライム以下なのだが。
「……エジンベアでは素朴さは全て田舎者扱いだ。田舎者である限り、あの国では出場どころか入国することすら出来ない」
「ええ……、なにその国……。意味わかんないんだけど」
「とにかく、こいつが優勝しないと最後の鍵が手に入らない。お前みたいに垢抜けた奴の助けが必要なんだ」
「う~ん、なんか全然お願いされてる気がしないけど、まあいいわ。シーラの仲間のためだもの。協力するわ」
 え? なんだか急な展開についていけないけれど、私をコンテストに優勝させるために、ビビアンが協力してくれるってこと?
「ビビアン。大丈夫なの? 別に嫌なら断っても……」
 ユウリの無茶な申し出にもかかわらず、ビビアンは私の言葉をかき消すように首を横に振った。
「いやいや、むしろミオみたいな原石を私の手で磨き上げられるなんて楽しみでしかないわよ?」 
 そう言うと、野心に溢れた表情で私の肩を掴んだではないか。
「ただし……やるからには妥協は許さないからね」
「へっ!?」
 こちらを見返すビビアンの目は、とても嘘をついているようには見えない。
「そうだわ! どうせならアルヴィスにも手伝ってもらいましょうよ! ちょうど今自分の店にいるはずだから、一緒に来て!」
 そう言うと、ビビアンは私の手を取り、すぐさま稽古場を後にした。ユウリも何か言いたげではあったが、おとなしく後をついていく。
 そしてこの時の私は、これから起こる二人の特訓の内容など知る由もなく、今日は良く手を引かれる日だなあ、と他人事のように考えていたのであった。



「アルヴィスー!! いるー!?」
 勢いよくアルヴィスさんのお店の扉を開け放つが、生憎そこにいるはずの主の姿はなかった。
「この時間は開店の準備してるはずなのに……変ねえ」
 がっかりした様子でビビアンは辺りを見回す。薄暗いアルヴィスさんの店は、一方には壁にかけられた数枚の大きな鏡と、それと向かい合わせになるように置かれた椅子、さらに反対側の壁の方にはカーテンが張り巡らされていて、一体何の店なのか見ただけでは全くわからなかった。
 そういえば、最初にアッサラームに来たとき、ユウリはアルヴィスさんのお店に行ったはず。ならどんなお店なのか多少は知っているのではないか。
 そう尋ねたかったのだが、気づけば何故か近くにユウリはいなかった。
「あれ? ユウリもいない……」
「やだ、本当だわ。どこ行ったのかしら」
 ビビアンと同じく私も辺りを見回すが、ここにいるのは私たちのみ。途中ではぐれてしまったのだろうか?
「ま、いっか。多分アルヴィスはそんなに遠くまで出掛けてないはずなのよね。ちょっとここで待ってましょうよ」
 確かに店の扉に鍵はかかっていないので、遠出をしているのは考えにくい。
 ビビアンがちょうど近くにあった椅子に座ったので、私もすぐ側の椅子に腰かけることにした。
 辺りがしんと静まり返ると何だか話をせずにはいられない性分の私は、店内を見回すと、前から思っていた疑問をビビアンに尋ねることにした。
「ねえビビアン。アルヴィスさんのお店って、一体何をやっているの?」
「あら、知らなかったの? アルヴィスはああ見えて……」
「あらヤダ、ユウリくんじゃないの!!」
 すると窓の向こうから、聞き覚えのある野太い声が聞こえてきた。
「噂をすれば、なんとやらね」
 ビビアンはすぐにその声の人物に気づき、椅子から下りて店を出ていく。私も彼女のあとに続いて外に出ると、ユウリとアルヴィスさんが何やら話をしてるではないか。いや、話というより、ユウリの方が一方的にアルヴィスさんに絡まれているように見える。
 相変わらず逞しい体のアルヴィスさんは、以前会ったときは戦士の格好をしていたが、今は元通り(?)、バニースーツを身に付けている。
「やっほ~、アルヴィス。ちょうどよかったわ。あなたに頼みたいことがあるんだけど」
「あら、ビビアン。それにミオまで! 随分珍しい組み合わせネ★ アタシに頼みたいことって?」
 アルヴィスさんはビビアンに気づくと、若干ほっとした様子のユウリから離れ、颯爽とこちらに近づいてきた。
「単刀直入に言うわ。あなたのメイク術で、ミオをとびっきりの美少女に仕立て上げて欲しいの」
「!!」
 そう言って隣にいる私の背中をぽんと叩くビビアン。元英雄の仲間であったアルヴィスさんは、その一言に何かを察したのか、ぴくりと眉を動かした。
「何それ超素敵!! なあに、ミオったら、誰か気になる相手でも出来た?」
 いや、これは戦士としての勘ではなく、バニーガールとしての勘というやつだろうか?
「いやそうじゃなくて……。エジンベアっていう国で美少女コンテストがあって、そこで優勝しなくちゃならないの。それで、アルヴィスさんにも協力してもらおうかと思って」
 そこまで言うと、アルヴィスさんは目をぱちくりさせて、
「え、ミオは今でも十分カワイイじゃない。アタシたちがどうこうしなくてもなんとかなるんじゃないの?」
 と、既視感を感じるような台詞を言った。
「なんとかならないからこうしてお前たちに助けを求めてるんだ。どんな見た目だろうと、こいつの田舎者オーラはあの国では厄介者扱いされる」
 いつの間にかやって来たユウリがアルヴィスに説明する。確かに間違ってはないのだが、ユウリにそう言われると余計に胸に突き刺さる。
「ふぅん。お国柄って奴なのかしらね。アタシはエジンベアに行ったことないからわからないけど」
「とにかく、こいつを優勝させてくれれば礼を出す。頼む、協力してくれ」
 そういうとユウリはアルヴィスさんに向けて頭を下げた。最後の鍵のためとはいえ、プライドの高いユウリが私のことで人に頭を下げるのを見るのは、内容が内容なだけに複雑な心境だった。
「あ、あの、私からもお願いします! 私が優勝しないと、最後の鍵が手に入らないんです!」
 私の言葉に、アルヴィスさんは眉をひそめた。
「最後の鍵? なんか聞いたことあるわネ。ひょっとして、魔王と何か関係があるの?」
「ああ。俺たちは今、魔王の城に行くためにオーブを探している。だが、オーブを手に入れるには最後の鍵が必要なんだ」
 ユウリはテドンであった出来事を簡潔に二人に話した。ビビアンはともかく、ユウリのお父さんであり英雄でもあるオルテガさんと一緒に旅をしたことのあるアルヴィスさんなら、もしかしたら最後の鍵やオーブのことを知っているかもしれない。
「へえ、イグノーねえ……。確かに若い頃、そんな名前のスッゴい偉い人がいたって聞いた気がするワ。でもゴメンなさい、オーブのことは知らないの。それにあの人、そういうアイテムなくても魔王の城に行けるって豪語してたしね」
「……話に聞いてはいたが、俺の親父は想像以上に脳筋なんだな」
 どこか遠い目をしながらユウリは言った。
「そうね。だから最後の鍵っていうのも、浅瀬の祠ってとこにあるのは噂で聞いたけど、実際必要ないからって探そうとすらしなかったのよネ。考えたら、よくそれで魔王の城まで行ったものだワ」
 うーん、やっぱりユウリのお父さんって変わって……、って、ちょっと待って、今、何て言った?
「浅瀬の祠? そこに最後の鍵があるのか?」
 いち早く気づいたユウリが、アルヴィスさんに詰め寄る。
「昔聞いた話だし、行ったことないからホントかどうかは知らないわよ? けど、そういう話は何回か聞いたワ。そもそも浅瀬なんて世界中の海にあるじゃない。そんなに重要なこと?」
「それでも、情報がゼロよりましだ。船長に聞けばある程度場所は特定できるかもしれないからな」
 わずかに口角を上げながらユウリが頷く。思わぬところで重要な情報が手に入り、私もつい喜んでしまう。
「横槍入れるようで悪いけど、本題に戻りましょ。つまりその最後の鍵ってやつを手に入れるには、ミオがコンテストで優勝しないとダメなんでしょ? だったら尚更アルヴィスの力が必要だわ。アルヴィスは二人に協力してくれる?」
 ビビアンが話を元に戻してくれたお陰で、アルヴィスさんははっとして私たちに向き直る。
「そうだったわね。話が逸れたけど、そういうことならアタシも喜んで協力させてもらうワ!!」
「本当ですか!? ありがとうございます! アルヴィスさん!」
 私がお礼を言うと、アルヴィスさんはちっちっ、と人差し指を左右に振り、
「堅苦しい挨拶はナシよ、ミオ。アタシのことはアルヴィスでいいから」
 そう言って、ウインクを放った。
「あ、ありがとう! よろしくね、アルヴィス」
「ふふ、こんな将来が楽しみな子をアタシの手でどうにか出来るなんて、久々に腕が鳴るワ♪」
「そ、それどういう意味!?」
 だがアルヴィスは自分の世界に入ってしまったのか、それ以上何も言わなかった。
 なので、先ほどビビアンに尋ねた疑問を今度はアルヴィスにぶつけてみた。
「あのさ、アルヴィス。前から気になってたんだけど、このお店って一体何のお店なの?」
 私の質問に、アルヴィスは意外そうな顔をした。
「あら、確かユウリくんもこの前このお店に来たわよネ? ミオには教えなかったの?」
 急に話の矛先を向けられたユウリの体がびくりと激しく跳ねた。
 確かあのときは機嫌が悪くて、結局何も話してくれなかったんだったっけ。
「ふん、あのときは疲れていたから何も覚えてない」
 明らかに嘯くユウリの態度に、私は当時と同じ違和感を感じた。すると、アルヴィスが頭に石を落とされたくらい驚いた顔をした。
「やだぁ、覚えてないの!? あんなに本気出してメイクしてあげたのに、つれないワネ☆」
「え、ユウリがお化粧!?」
 その言葉に、私は耳を疑う。一体どういうことなんだろう。
「アルヴィス。純真無垢なミオにはあなたの仕事は理解できかねるみたいよ」
「そうねえ。アタシの仕事を理解するにはあと十年早いかもねえ」
 そんな二人の発言に、なんとなく田舎者呼ばわりされているような気がして、私は若干ムッとする。
「要するにアルヴィスの仕事って、お客さんにお化粧をしてあげるってことでしょ?」
 我ながら大人げないなと思いつつ理解した風に答えると、ビビアンが「せいかーい♪」と言いながらちらりとユウリの方を見た。
「世の中には、そういう趣味の人もいるってこと。その人たちのためのお店なの、ここは★」
 そう言ってにっこりと笑うアルヴィスに、いつになく必死な顔でユウリが詰め寄った。
「おい、その言い方だと俺までそういう考えの奴だと思われるだろ! そもそもお前が酔っぱらって無理やりあんなことをしたのが原因じゃないか!!」
 けれどアルヴィスは全く動じることなく、
「だってアナタ、随分辛気臭い顔をしてたんだもの。雰囲気だけでも明るくさせてあげようとしたんじゃない。でもまさかあんな予想以上の仕上がりになっちゃうんだもの。興奮してついご近所の皆さんにお披露目しちゃったワ」
 そう言ってユウリにウインクを放った。
「へえ、化粧したユウリって、そんなに可愛かったの?」
「そうねえ、『可愛い』っていうより、『高嶺の花』って感じかしら☆ 近寄りがたい雰囲気なんだけど、皆遠巻きにこっちをずっと見てるんだもの。でもその中の一人のコがねえ……」
「おい!! これ以上言うな!!」
「何々? もしかして本当に男の人に言い寄られたりでもした?」
ビビアンまでもがウキウキしながら興味津々でアルヴィスの話を促そうとするが、ユウリの殺気はすさまじく、それ以上何か言ったら本気で呪文を放ちかねない雰囲気を纏っていた。
 私としては、お化粧をしたらアルヴィスが興奮するくらい綺麗になれるユウリが羨ましい。現にユウリは私でもそうなるかも知れないと思って、わざわざここまで連れてきてくれたんだろう。
「いいなあ。私もユウリみたいになりたいなあ」
 つい本音を溢してしまったが、それがユウリの逆鱗に触れたらしく、突然無言で私の髪の毛を引っ張ってきた。
「ちょっと、何女の子の髪の毛引っ張ってんのよ、痛がってるじゃない!」
「こいつが馬鹿気たことを言うからだ」
 ビビアンが間に入ってくれたおかげで、私の髪はユウリの手から解放された。けれど今度はビビアンの方が怒りを露わにする。
「なんか、勇者っていう割にはずいぶん心が狭いのね」
「何だと!?」
 ユウリもその言葉が癇に障ったのか、ビビアンを睨み返した。二人の間に火花が見える。
「お前も踊り子のトップスターとかいう割にはまるで大人げないな」
「あら、あなたが喧嘩を売るからそれに私は合わせているだけよ。そんなにムキになるなんて、あなたの方がよっぽど子供じゃない」
「なるほど、女は本性を隠すというが、お前はその典型的なタイプだな」
 まずい。かえって事態を悪化させてしまったようだ。私はおろおろしながら二人の間に入ろうとするが、
「まあまあ、アナタが割って入ったら余計ヒートアップするわヨ、あの子たち」
 いつのまにか私の隣にいたアルヴィスが手を叩き、二人の視線を自分に向けた。
「はいはい、ストップ。それじゃあミオはアタシたちが預かるわ。それでユウリくん、コンテストはいつなの?」
「……一週間後だ」
「なら一週間後にまたここに来て頂戴。それまでにミオをとびきりの美少女に仕立て上げるから、楽しみに待っててね♪」
「別に俺はこいつなんか……」
「はいはい、期限が一週間なんて無茶振りもいいところなんだから、とっとと行った行った。さっ、ビビアン。アタシに依頼したからには、あなたにも本気出してもらうからネ」
「とーぜん!! 私の持てるすべての力を出して、この偏屈勇者にギャフンと言わせてやるからね!!」
 いつの間にかビビアンの目的が変わっているのは気のせいだろうか。
「……わかった、よろしく頼む」
 ユウリはビビアンには目もくれず、アルヴィスに向けて返事をすると、すぐに店を出て行った。
「あの……、急に二人を巻き込むことになっちゃって、ごめんね。二人とも劇場とかお店もあるし、手の空いた時でいいから」
「やーだ、何言ってんの、ミオ。あの子に礼まで出すって言われた以上、アタシは付きっきりであなたを変身させるわよ?」
「右に同じ。私も今日から一週間、舞台を休むことにするわ。中途半端な覚悟は私のプライドが許さないからね」
 私が驚いて二人を見返すと、彼女たちの瞳には、すでに強い意志が宿っていた。
 彼女たちが本気で私に協力してくれる以上、私も生半可な覚悟で受けるわけには行かない。私は二人を見据えると、
「二人とも、ありがとう。これから一週間、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げた。

コンテストまであと一週間。私の長く厳しい試練が始まろうとしていた。
 
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