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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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砂に落ちる雫

 10分は避け続けているでしょうか。既にシールドエネルギーも半分になってしまっていて、装甲もかなりボロボロ。
 でもそのお陰でまだ予測の範囲を過ぎませんが、大分『ブルー・ティアーズ』の特徴が分かってきました。

 まずこのビット自体はオルコットさんが操って指示を出していてオートマチックでの攻撃ではないということ。
 そして狙い自体もオルコットさんがつけている。
 最後に最大の特徴は本人が動けないということ。理由は分からないけど、恐らく相当の集中力を要するのでしょう。その証拠にビットが攻撃している間はオルコットさん本人からのレーザーライフルの射撃が全くありません。ばれないように時々飛んではきますが頻度は前より圧倒的に劣ります。またその逆もそう。オルコットさんが射撃をしている間はビットの攻撃は来ません。

 ならば……

 ビットの3つが視界の中に入ってレーザーを乱射してくるがこれは本命ではない。あたればいいという程度、誘導です。ならその誘導に乗るまで!

 迎撃する振りをして一発だけ『エスペランス』の散弾を撃ち込みます。当然のようにビットが射程外に逃げ去るので深追いするように体を前のめりにする。
 その瞬間左手に6連発回転式グレネードランチャー『ミューレイ』を盾で隠すよう展開する。

『貰いましたわ!』

「こちらが……ですけどね!」

 既に装甲の無い背中を狙ってくるのは読めています。
 私は『ミューレイ』を地面に向けると同時にISの制御を変更します。

―反動制御を解除、以後手動に移行します―

 タイミングを見計らって足のブースターを吹かすと同時に『ミューレイ』のトリガーを引いた。
 『ミューレイ』はこの『デザート・ホーク・カスタム』に搭載されている武装の中で最も反動が大きく、一般の人が撃てばそれこそ腕が吹き飛ぶほどの反動をIS自身の制御で無効にしています。
 つまり反動を最低限にすれば……

 ドォン!

「ぐ……!」

 左腕が吹き飛びそうな反動と共に『ミューレイ』から放たれたグレネードが地面に炸裂し、その衝撃と反動で体が反転し浮き上がるのを感じる。『ミューレイ』は私の手が反動に耐え切れず思わず離してしまったけど今は拾う余裕がない!
 それと同時に足のブースターが連動して今までと真逆の方向、後方のビットに向かって飛ぶ!

 慣性を一気に逆転させたため、一瞬気を失いそうになりましたがISのブラックアウト防止システムがそれを防いでくれます
 直ぐ真下をBT兵器のレーザーが通り抜け、さらに後進をかけて足元にビットを捉える。それ目掛けて構えていた『エスペランス』のトリガーを引く!
 至近距離の散弾の雨を受けて蜂の巣になったビットが一瞬後に爆散しました。

『な!?』

 オルコットさんが驚きの声を上げ、その瞬間、一瞬だけどビットが全て止まったのを確認しました。
 
 これで確証が持てました。予想通りビットはオルコットさん自体が操っているようですね。

 またも3つのビットが攻撃を仕掛けてきますが先ほどの攻撃を危険視しているのか遠距離からの射撃で避けるのは容易い。左側の攻撃は全て盾で受け止めながらオルコットさん本人を見る。太陽にも大分慣れました。

 さて、特徴も分かったところでそろそろこちらの反撃といかせて貰います!

 盾を真上、垂直にオルコットさんに向けて構える。

『何をする気か知りませんが!』

 私の行動に、オルコットさんが一気に残りのビットが距離を詰めてくるがそんなことはどうでもいいことです。

 この盾はただの盾ではないんですから!
 
 盾の内側が弾けると同時に何かが射出されて空中で炸裂しました。

『え、煙幕!?』

 そう、煙幕。この盾の中には一発きりですが広範囲に煙を展開する煙幕弾が内蔵されていて、一瞬にしてアリーナ全体が真っ白な濃い煙に包まる。

『し、しかし煙幕なんて……え!?』

 どうやらもう一つ気づいたようです。おそらくハイパーセンサーが正常に働いていないのでしょう。
 この左手の盾、『オーガスタス』にはもう一種類の弾丸が内蔵されています。

 ジャミング。
 空中待機型の小型ジャミング兵器を相手の周りに3つ撃ち出す事で、ISのハイパーセンサーをも狂わす電磁波を30秒発生させる。ただしジャミングが強力すぎるため範囲内にいると自身のハイパーセンサーも使えなくなる上、小型とはいえ10cm大のジャミング兵器は目視で見ればオルコットさん相手ならすぐに撃墜されてしまいます。
 けど、煙幕と組み合わせることでその弱点を補い、最大級の妨害を行うことが出来る。

 この場で役に立つのは熱探知センサーと目視のみ!
 私自身ノイズの走るハイパーセンサーを一度シャットアウトし熱探知センサーに切り替えます。煙幕の中でも『ブルー・ティアーズ』の姿がしっかりと映し出されました。

 右手の『エスペランス』を左腰に戻し、背腰部の1m60cmの実体剣『マリージュラ』を抜刀。相手が戸惑っている内が勝負……この間に決めます!
 煙幕の中を旋回して場所を特定させないようにしながら、熱探知センサーに映っているオルコットさんに真後ろから突進する!

 『マリージュラ』はただの実体剣ではなく実験的とはいえエネルギーソード。そのエネルギーを展開。真っ赤なエネルギー刃が実体剣の周囲に現れ2m前後の長剣と化す。私はその展開が終わると同時に煙幕を飛び出す。

 瞬間、狙いに気づいたのかオルコットさんの目がこちらを捉えた!

『射撃型の私にこんな方法で近接戦闘を挑むなんて!』

 オルコットさんは驚きながらも私が振り下ろしたエネルギーソードの切っ先をギリギリのところで回避、後方に回転しながらもこちらにしてレーザーライフルを向けて撃って来ました。剣を振ったせいで回避してもレーザーが左肩を掠ってしまい装甲が削られますが、ここで怯むとビットが戻ってきてしまいます。わざわざビットを相手にする必要はありません。相手に使わせる隙を与えなければ!

 距離を取ろうとするオルコットさんに離されないように肉薄する。距離を取られれば圧倒的にこちらが不利。ならば喰らいつけるだけ喰らいつく!

「はあ!」

 気合の声と共に振り下ろした剣はまたも避けられて距離を少し開けられる。けど私は撃ってくるレーザーを全て盾で防ぎ、また接近して剣を振るう。
 この繰り返しだ。

 本来のIS同士の戦闘相性なら退きながりながら撃てるオルコットさんの方が有利なのかもしれないけど、私の場合は違う。IS半分を覆う大きさの『オーガスタス』は、この距離では相手から見れば壁も同じ。第3世代用に対熱処理を施された盾表面はオルコットさんのレーザーライフルの射撃を全て遮ってくれる。私は熱探知センサーの示す位置に突っ込んで剣を振るうだけ。

 完全に追う側と追われる側の立場が逆転しました。
 でもジャミングも後10秒ももたない。そろそろ戦略を変えないと煙幕で誤魔化すという手段は通じない。

 この武装はあまり使いたくなかったんですけど……

 続けて斬りかかりながら再び退いたオルコットさんに向けて左手の盾を投げつけた。

『そ……んな程度! 舐めないでくださいます!』

 盾は当然のようにオルコットさんのレーザーライフルの連続射撃に撃たれて弾き飛ばされる。

『盾を捨てるなんて、勝負を捨てましたわね!』

「セット……」

 素早くこちらの姿を視認したオルコットさんがレーザーライフルを構えた。
 それを見計らって私は……

「オープン!」

 言葉と共に左腕を斜め上に振るい…………風を切る音と共にオルコットさんの手からレーザーライフルを弾き飛ばした。

『え!?』

 混乱していてもそこは流石代表候補生。瞬間的にビットをこちらに飛ばしてきています。お見事です。でも……

「今までとは違うんです!」

 振りぬいた左手を振り下ろす。またも風を切る音と共にオルコットさんの左肩に『それ』が直撃しました。
 そのまま『それ』がオルコットさんの左腕に巻きついて拘束していく。

『ぐ! こ、これは……鞭!?』

 叩きつけられた衝撃に苦痛の声を上げながらオルコットさんが『それ』を視認したようです。

 私の左腕から……正確には手甲の左手首の内側から鋼色の鞭が伸びています。
 仕込み鞭『ユルルングル』。普段は手甲の内側に収納されている超弾性鋼の鞭でこの機体の最大の隠し武器、所謂切り札。

『こ、こんなもの!』

「終わりです!」

 慌ててビットで鞭を焼き切ろうとするオルコットさんを鞭を収納することで一気に引き付ける。
 これがこの『ユルルングル』の特徴。弾き、叩きつけ、絡め取り、引き付ける。

 そのままオルコットさんをゼロ距離まで引き付け、左腕を掴みました。こうすればビットの攻撃にあわせてオルコットさんをそちらに向けるだけで攻撃を防げます。しかも右手には先ほどから展開し、すでに振り上げられた『マリージュラ』。展開できる時間は後10秒ほどだけどこれで……!

 その瞬間オルコットさんの顔が……笑った!?

「お生憎様! 『ブルー・ティアーズ』は……」

 この状態で笑う……ということは……オルコットさんも奥の手!

「6基ありましてよ!」

「でしょうね!」

 腰部の突起が外れて、動く!

 その瞬間に私はその二つを両足で踏みつけた。
 踏みつけただけでは弾くだけで破壊は出来ないし時間稼ぎにしかならないでしょうがこの『デザート・ホーク・カスタム』にもまだ隠し武器があるんですよ!

 仕込み短剣『アドレード』。足と膝の先端に取り付けられた小型の実体短剣で、足に付いているものは角度を180度まで、膝に付いているものは90度まで変更できる。
 そして今、足の『アドレード』は稼動限界ぎりぎりの真下に90度。
 『ブルー・ティアーズ』は両足の『アドレード』に貫かれて煙を上げていた。どう考えても機動不可能です。

 正面を見るとオルコットさんの顔がありました。その顔は正に信じられないといった表情です。

「く、『イン』……!」

 オルコットさんが左手を突き出して何かの名前を叫ぼうとする。多分近接用のショートブレードでしょうけどこの距離でそれは致命的です!

「失礼します!」

「きゃああああああああああっ!!!?」

 声と共に『マリージュラ』を唐竹割に振り下ろした。
 エネルギーソードを無防備な頭に振り下ろしたことにより絶対防御が発動。オルコットさんのシールドエネルギーがゼロになりました。


ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!


『試合終了。勝者、カルラ・カスト』

 けたたましい試合終了の合図と共に勝利宣言が上がりました。
 アリーナから聞こえるクラスメイトの拍手の音が妙に遠くに聞こえます。
 オルコットさんの左腕を絡め取っていた『ユルルングル』の拘束を解除して、エネルギーソード『マリージュラ』を解除。更にアリーナに投げ捨てた回転式グレネード『ミューレイ』も回収します。
 
 そして次は一夏さんとの試合なので私は必然的にBピットへ行かなければなりません。
 当然私とオルコットさんは同じピットへ入ります。

「すいません、あんな卑怯な勝ち方をして……」

「え?」

 ピットでISを解除して初めて言った言葉にオルコットさんはすごい驚いていたようでしたが、隠し持っていた武器で戦った。データでは分かっていたとしてもフェアではありません。

 実際真剣勝負なのだから卑怯も何もないのですがお詫びくらいしないと私の心が痛みます。所謂偽善、エゴと言ったものだと分かっているんですけどね……

「…………いいえ、私の負けを認めますわ」

「え?」

「貴方は貴方のISの特性を生かして戦いましたわ。それで負けたのは私の慢心以外の何者でもありません。貴方の祖国を侮辱したこと、お詫びいたしますわ。許してくださいます?」

 何か嫌味を言ってくるかと身構えていた私は毒気を完全に抜かれてしまった。

「そ、そんな。オルコットさん………」

「セシリア、でよろしいですわ。また、試合していただけます?」

「あ、は、はい! もちろん!」

「今度は負けませんわよ。カストさん!」

「私もカルラで結構ですよ。セシリアさん」

 セシリアさんが差し出してきた右手を、私はそう言いながら両手で握り返していた。
 
 

 
後書き
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