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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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『蒼い雫』VS『砂漠の鷹』

月曜日、第3アリーナ

 織斑先生と山田先生に案内されて私は一夏さん、箒さんと一緒に第3アリーナのオルコットさんと反対側のAピットにいます。箒さんは一緒に教えていたということで、セコンド扱いで同じピットに入ることを許されています。

「カストはこの後すぐオルコットとの模擬戦がある。お前のISはその間に届くと思われる。時間がないからフォーマットとセッティングは素早く済ませるように」

「あ、ああ」

「一夏さん! 返事返事!」

「へ? あ! は、はい!」

「ふん」

 私の言葉に慌てて一夏さんが言葉を正したことで織斑先生が振り上げていた出席簿を下ろしました。もう少しでまたトールハンマーを貰うところでしたね。

「では私は行きます」

「む? まだ時間には早いぞ?」

「いえ、一夏さんの機体を見るのは終わった後の楽しみに取っておきたいので」

「ふ、そうか」

 遠回しの勝利宣言に織斑先生が軽く笑います。

「片方の生徒に肩入れするのは教師として失格ですが頑張ってくださいね、カストさん」

「はい、ありがとうございます」

山田先生の激励に笑顔で私はそう答えます。織斑先生と山田先生は、それ以外は何も言わずに共に奥に歩いていきました。多分奥にある管制室に行ったのでしょう。

 私は鎖に通して首に下げている指輪を握りこみました。一瞬の沈黙の後、専用機『デザート・ホーク・カスタム』が私の体を包みこんでくれます。
 このISになったのはつい最近……それでも使っているコアは同じなので温もりに包まれる感じがします。

 オーストラリアの砂漠の色に近いサンドブラウンの装甲。この色は故郷を思い出させてくれる。
 背中には大きな前進翼、足の部分にもカナードが付いていて戦闘機に近いような形状をしています。そして特徴的な大きな手甲と所々に現れる大きな飾りは左右対称で作られていてバランスを悪くしないように意匠されています。
 基本装備の左手の盾が一瞬遅れて手元に現れます、ISの半分ほどを覆う大きな楕円形の盾で、現れる瞬間は注意しないと重さで体をそちらに引っ張られて少しだけ体が左に傾いてしまいます。
 さらにその後左右後ろの腰の部分にそれぞれの武装が配置されます。

「常備装備とは珍しい……」

 箒さんがそれを見て呟きました。その呟きも最もです。『デザート・ホーク・カスタム』は武装を量子化できるISとしては珍しくいくつかの装備を基本武装として常備してあります。その常備装備も量子化出来るのですけど、他の装備は常備装備としては採用できないのでそのままにしておくほうが楽なんですよね。

「これが、カルラの専用機……なんか戦闘機みたいでかっこいいな」

「そうですか? ありがとうございます」

 お世辞でも何でもない真っ直ぐな言葉を一夏さんがかけてくる。こういう所に箒さんは惹かれたのでしょうか? まあそれは今考えるようなことではありませんね。

「では、行きます」

「ああ、頑張ってな!」

「勝ったら一夏さんと戦うんですけど?」

「あ、そうか……うん、でも俺はカルラに勝って欲しいな!」

「そ、そうですか……」

 ですからなんでこう……もういいです。ほら、また箒さんが機嫌悪そうになりますし………

「……行きます!」

 カタパルトに両足を固定し力を入れた瞬間、カタパルトが押し出されてアリーナに飛び出し、軽く機体を回転させながらアリーナの中央部分の中空に停止します。
 そのすぐ後にオルコットさんが反対側のピットから発進し私の少し上の位置で停止しました。
 鮮やかな青い機体。『ブルー・ティアーズ』ですね。その背後には特徴的な4つのフィンアーマーを備えています。

「あら、ISにそのような大きな盾なんて、不恰好ではありませんこと? オーストラリアの技術者を疑いますわね」

 オルコットさんの見下すような声が開放通信で聞こえてくる。
 会った瞬間に挑発ですか。いえ、でも相手の冷静な判断力を失わせると言う点で戦いの前の挑発は有効です。

 ……オルコットさんの場合は素の可能性が高いでしょうけど。

「放っておいてください」

「まあいいですわ。どうせあの男性では勝負になりませんもの」

「そうなるかどうかはわかりませんけどね」

「あら、随分買っていますのね。まあ、格は違うとはいえ貴方も代表候補生ですもの。これが実質クラス代表決定戦。少しは粘ってくださいませ!」

「そちらこそ!」

 オルコットさんが手に持っているのは2mを超える長大なライフル。

―データ検索、67口径特殊レーザーライフル『スターライトmkⅢ』と該当―

 ISのハイパーセンサーが瞬時にデータを見つけて教えてくれます。
 レーザーライフル、ですか。実用化はされている中ではかなり大きな口径のものですね。
 そう考えて右腰のスカートにマウントされている18mmアサルトライフル『ハディント』を取り外して構える。銃の状態は良し、マガジンも装填済みで安全装置も解除してあり、いつでも撃てる状態です。

『それでは、始めてください』

 開始の合図とほぼ同時に私とオルコットさんが射撃体勢に移行した。

『行きますわよ!』

 瞬間オルコットさんが私より一瞬早くレーザーライフルのトリガーを引くのが確認できた。

―警告、敵IS射撃体勢に移行を確認。初弾エネルギー装填―

 ISの警告が出る前に回避行動を行い、今までいた場所をレーザーが通り過ぎる。相当な早撃ちの上に精度も高いですね。

 次弾の射撃も……はやい!

 レーザーが右肩を掠って装甲の表面が焦げる。
 だけど精度が高いということは狙いが大体分かります。このくらいの射撃をする人なら本国にも何人かいましたしね。

 ぎりぎりの位置を縫うように避けて接近しながら『ハディント』のトリガーを引く。激しい銃声と共に弾丸の雨がオルコットさんに襲い掛かります。
 反動はあるのだけれど、そのほとんどは学習能力によってIS自体が相殺してくれています。

 アサルトライフルの面での制圧が得意なだけあって威力と命中率は低いが、その分避ける場所が少ない。オルコットさんは回避行動を取ってはいますが少しずつ確実にその装甲とシールドエネルギーを削ります。

 ISはシールドエネルギーによるバリアーや『絶対防御』などによってあらゆる攻撃に対処でき、操縦者が生命の危機にさらされることはほとんどありません。
 ではどうやって勝負を付けるのかというと、そのシールドエネルギーの削りあいです。シールドエネルギーはバリアーを貫通した時、もしくは『絶対防御』が発動したときに減ります。そしてそのシールドエネルギーは数値化されていて、0になると負け。
 ちなみに『絶対防御』が発動したときは極端にシールドエネルギーを消費します。発動するのは装甲のない肌の直接露出した部分、つまりは操縦者の命に関わる部分に攻撃が当たった時ですね。

 オルコットさんも回避しながらレーザーを撃って来ますが如何せん2m大の銃は取り回しが悪すぎます。遠距離戦なら取り付けられているスコープとISのハイパーセンサーで高い命中率と共に一方的に攻撃できるのでしょうが、この距離だと銃口の向く位置から大体の射撃タイミングが分かってしまいます。折角の特性と早撃ちも台無しですね。

 それに加えて左手の盾と右手の『ハディント』による前進射撃による弾幕はオルコットさんにとって鬱陶しいことこの上ないはず。

 IS同士の戦いはかなりのところ相性で左右されます。
 今回はこちらが有利。逆に言えば近接戦闘主体の『打鉄』のような相手ならば『ブルー・ティアーズ』とオルコットさんの射撃の餌食になるでしょう。

『く! チョコマカ鬱陶しいですわね!』

 オルコットさんがなんとか距離を取ろうと一気に急上昇を行う。

「うっ!」

 追おうとして、止めざるを得ませんでした。
 太陽を背に取った見事な位置取りです。そのせいでセンサーでは捉えているのに姿が視認できません。
 流石にこれは追撃を行うことが出来ず、センサーで捉えている位置に『ハディント』を射撃しながらこちらも距離を取ります。

 狙いが反れたのをチャンスと見てレーザーの雨が降り注いできました。ISの警告に左手の盾を頭上に掲げて防ぎつつなんとか避け続ける。
 盾を正面に持ち替えながらレーザーの来る方向から相手の位置を予測し一気に急上昇。多少シールドエネルギーが削られてしまいますがこの程度はどうってことありません。

『この私の射撃をこうも読むとは、中々やりますわね!』

「それはご丁寧にどうも!」

 ほぼ同じ高さまで上昇すると、距離を取りながらレーザーを射撃してくるオルコットさんが話しかけてきました。こちらの有効射程よりまだ距離がありますね。
 こちらの進路を妨害するように撃ってくるため何らかの時間稼ぎの可能性もあります。こちらも『ハディント』を再び撃ち返しますが、先手を取られている以上回避優先にならざるを得ません。
 なんと言ってもオルコットさんの扱うライフルはレーザー兵器です。一撃の威力は私のアサルトライフルの比ではないはず。直撃だけは避けたいところです。

『ですがそれもここまで。そろそろ本気でいきますわよ!』

 オルコットさんがそう言った途端に『ブルー・ティアーズ』背部のフィンアーマーが外れ、飛翔体としてこちらに飛んできた!

「な!?」

―データ検索、特殊BT兵器『ブルー・ティアーズ』と該当―

 これが……BT兵器!?

 私は慌てて回避機動を取る。4つのビットはそれぞれが不規則な機動を描き上下左右から私を狙い撃ってきました。
 流石に4方向からの攻撃は避けるのが難しい。警告と共に回避行動を取りましたが……

「くう!」

 背中からモロに一発くらってしまった。背後の装甲が吹き飛び、衝撃で私自身も前に押し出されます。シールドエネルギーの消費は装甲に当たったおかげで微々たるものだけどこれを続けられると消耗するのはこちらだけ……

 それに打開策を考える前にこのレーザーの嵐を何とかしないと!

 攻撃範囲を限定させるために高度を下げてアリーナの地面スレスレを飛行します。

『さあ踊りなさい! 私、セシリア・オルコットと『ブルー・ティアーズ』が奏でる円舞曲(ワルツ)で!』

「ダンスは苦手なんですけど……ね!」

 盾で正面から来たレーザーを受け止める。その瞬間他の3つは既に私の視界の外から狙いをつけているのだから大したものです。

 代表候補生の名前は伊達じゃないってことですね!
 先ほどのレーザーライフルよりも口径が低いおかげで威力は低いですが、この物量は正直レーザーライフルを避け続けるよりもきつい!

 更に強度も中々のもののようでアサルトライフルの弾丸が当たっても有効射程の外から撃ってきているから弾き飛ばすだけで破壊できません。
 
 なら武装を変えるしかありませんね。
 『ハディント』を右腰に戻しながら、左腰の24mm対空ショットガン『エスペランス』を右手で引き抜いてかまえます。
 射程は短いけど近距離広範囲に弾をばら撒くこれなら……

 後はチャンスだけ……!
 
 

 
後書き
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