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DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~ 

作者:山神
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攻め時の見定め

 
前書き
今年も一年間ありがとうございました。
来年もゆるゆるっと描いていこうと思いますのでぜひよろしくお願いしますm(__)m 

 
高校進学後初めての先発投手とは思えないほどの安定した投球を見せる少女。試合も半分が終わったにも関わらずいまだに無失点を続ける彼女がベンチに戻ってくるのを見て、準備を行っている三年生たちは驚いた顔をしていた。

「まさかここまで投げれるなんてね」
「しかも作聖相手にだからな」

キャッチボールを終えてベンチに戻ってきながら感想を述べる伊織と莉子。全国にも出場経験のある強豪相手に堂々と渡り合えっている瑞姫を見てそう言わずにはいられなかった。

「他の一年生も十分動けるしな」
「紗枝なんか猛打賞だもんね!!」

下級生中心でメンバーを組んだにも関わらずそれを感じさせない試合展開を見せる後輩たちに驚きを隠せない。しかし、不思議と焦りは感じなかった。

「次の回から私たちの出番だからな」
「楓が荒れないといいけどね」

外野手用のグローブをはめている伊織と内野手用のグローブをはめている莉子。他にもバットを振る者など各々が準備している明宝ベンチ。活気溢れる仲間たちを見て、彼女たちは嬉しそうだった。

「荒れたらそれも仕方ないさ。しっかり守ってやるだけだから」
「そんなこと言ってエラーしたら面白いのになぁ」

クスクス笑いながら冗談交じりにいった伊織だったが、莉子の鋭い眼光に睨まれ立ち止まる。それに莉子は苦笑を浮かべながらベンチへと戻っていった。
















「明宝さん、守備代えてきたわよ」

4回の裏の守備を終えベンチに戻ってきた選手たちにそう伝える女性。足を組んで試合を観戦しているかのような態度の彼女からのその指摘を受けて、少女たちはグラウンドに目を向けた。

「ピッチャーも変わっちゃったわね。打ち崩せなくて残念ねぇ」

全然残念そうに見えない彼女の態度にムッとした表情を見せる少女たち。その反応が欲しかったのか、女性は彼女たちに気付かれない程度の小さな笑みを浮かべる。

「どうする?向こうも三年生出してるみたいだしこっちも代わる?」
「「「「「代わりません!!」」」」」

怒りを込めた大きな返事。それに満足そうな表情を浮かべた彼女は、頬に手をつき言葉を発する。

「そう。ならいいけど、そろそろ打ってくれないと困っちゃうなぁ」

その挑発的な態度に試合に出ている者たちは顔を真っ赤にしていたが、ベンチに控えていた三年生たちは顔を伏せ、笑っているのを気付かれないように必死の様子。

「もう!!何なのあの人!!」

ヘルメットを被りネクストバッターズサークルで準備をしている二人の内の一人がそう声をあげる。それに対しもう一人は慌ててベンチを確認した後、彼女を宥めようとしている。

「ちょっと、監督に聞こえるよ」
「いいもん!!聞こえるように言ってるんだもん!!」

思っていたよりも悪質だった彼女の思考にベンチと彼女を交互に見ながらあわてふためいている少女。その間に相手の投球練習も終わりを向かえようとしていたため、怒りを露にしていた少女は鼻息荒く打席に向かう。

「ちょっと綺麗でちょっとおっぱい大きいからって!!絶対泣かせる!!」
「どうやって泣かせるのよ……」

打席に向かう少女を呆れたように見送った少女はタメ息を付きながらロジンを手につけバットを馴染ませている。一方打席に入った少女は構えに入るがその身体には力が入っていた。

(絶対打つ!!)
(めっちゃ力入ってるけど……これじゃあ変化球待てないでしょ)

前のめりになっている打者に対して緩い変化球を投じれば待ちきれずに凡打になりやすい。そう思いながら莉愛は楓へとサインを送る。

(昨日の今日ですけど……お願いします)

昨日の紅白戦でのことを思い出し、不安さを感じながらサインを出す。楓もそれがわかっていたのか、投じられたカーブはストライクゾーンにコントロールされていた。しかし……

(真ん中!!)

カウントを取りたい気持ちが強かったためか腕も振れていなかった上にコントロールも甘い。しかし、打ち気に逸っていた打者は身体が突っ込んでおり体勢が崩れていた。

(打ちに来てる!!詰まるはず!!)

キンッ

狙いどおりのはずだった。しかし、打者はギリギリまで粘ると、左腕一本でそのボールを捉えた。

「ショート!!」

三遊間への強い当たり。抜けるかと思われたその打球に莉子は飛び込み捕球すると、すぐさま立ち上がり一塁へと送球。打者走者も懸命に走っていたが、肩のいい莉子の送球はファーストへのストライク送球。ギリギリのタイミングでアウトにした。

「ナイスです!!莉子さん!!」

代わって早々のファインプレーに仲間たちから称賛される莉子。それを受けて莉子は軽く手を振って答えるだけ。その姿は余裕さを感じさせるものだった。

(キャッチャーもできるのにショートも守れるなんてすごい!!)

偉大な先輩の実力に感動しながらポジションへと戻る莉愛。対してヒット性の当たりをアウトにされた少女はますます不機嫌さを顔に表していた。

「惜しかったね」
「次は打つもん!!絶対泣かせるもん!!」
「だからどうやって泣かせるんだって……」

足音を立てながらベンチへと入っていく少女。そんな彼女に監督である女性はあえて何も声をかけない。

「本当にうまいよね、監督」
和美(カズミ)からの攻撃だからあえて煽ったよね」

前の試合で出ていた三年生たちは監督の口車に乗せられている後輩たちを見て笑いを堪えていた。かつては自分たちもされてきたことだからこそ、彼女の言動の意図が手に取るようにわかる。

「ショートがうまかったから抜けなかったけど、普通ならヒットになってる」
「先頭打者がいい当たりを打てれば、次の打者も思いきりを持って打席に入れる」

その言葉通りに続く打者は真ん中に入ってきたスライダーを強打。セカンドの頭を越えていく打球。センターに入った伊織が回り込んで捕球、セカンドへ送球。しかし、わずかに打者走者の足が上回りセーフになった。

「む~ん……」

二人続けてのいい当たりに顔をしかめる莉愛。紅白戦ではゾーンに入ってこなかった変化球が今日は入ってきているものの、すべて真ん中に集まっており痛打されてしまう。

(気持ち厳しめを狙うイメージでお願いします)
(わかった)

ただ、打たれると言うことはしっかりとコントロールされている証拠。そう思い真ん中から外れたところに構えるが……

「ボール!!フォア!!」

今度は制球が定まらずフォアボールを出してしまう。これによりランナー一、二塁。莉愛も溜まらずタイムをかけてマウンドに駆け寄る。

「立ち上がりはどの投手も課題に挙がるからねぇ。このチャンスをものにしてほしいなぁ」

打席の準備をしている少女に聞こえるようにわざとらしく言う女性。彼女の意図がわかっているからなのだろうか、少女は苦笑いを浮かべながら何事もなかったかのようにバットを振る。

「楓さん、いい球来てるので自信持っていきましょう」
「うん。わかった」

頷いているものの焦りを感じているように見える楓。莉愛もどうやって落ち着かせようかと思っていたが、いい言葉が思い付かないままポジションへと戻る。

(変化球が真ん中に集まってきてる……となるとストレートを中心に行くしかないよね)

左打席に入る少女。打順は8番と下位に向かっていくものの、ランナーが二人いる状況では慎重にいかざるを得ない。

(ピッチャーの子も不安定だけど、ずっと気になってるのはキャッチャーなのよね)

ベンチから相手の小さな少女を見つめる女性。彼女は一生懸命にキャッチャーを務めている少女に違和感を感じずにはいられなかった。

(最初は一年生だからかと思ってたけど、所々動きが変なところがあるのよね。もしかしたらキャッチャー経験がほとんどないんじゃないのかしら)

女の勘といったところなのだろうか、莉愛に対して不信感を抱いている監督。ただ、さすがの彼女も初心者をキャッチャーに据えているとは思ってはいないようだ。

(本当は斉藤さんが投げてる時に今の状況を作れればパスボールの確率も増えたんだろうけど、いい打順がなかったのよね。でも、安心してやれてた試合でこのピンチに冷静な判断ができるかしら?)

ニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべながら相手の出方、そしてその後を展開を見届けようという姿勢の女性。それに対し視線を送られ続けている少女はいかにして攻めるべきか、頭をフル回転させていた。


 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
本当はもう少し進む予定でしたが切り良さそうだったので一回切ります。
来年もよろしくお願いしますm(__)m 
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