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DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~ 

作者:山神
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負けず嫌い

 
前書き
今年中にあと何回投稿できるか… 

 
キンッ

遠くまで響き渡る少女たちの声。その中から聞こえる小気味いい金属音。

「OK!!」

後ろに数歩下がったところで手を挙げて白球を捕球する栞里。そのアウトでチェンジになり、明宝学園の選手たちがベンチへとダッシュしてくる。

「莉愛、一回戻ろう」
「はい!!」

それを見てブルペンで肩を作っていた楓が相手をしていた莉愛へと声をかける。既に円陣を組んで次の攻撃の指示を出している仲間たちを見ながら、二人は試合の展開を話しながらベンチへと向かう。

「さすが陽香さんだよね。あの千葉商工をずっと抑えてるんだもんね」
「はい!!すごいですよね!!」

強豪校として知られている相手を普段通りの実力を発揮して抑えているエースの姿に後輩である楓は目を輝かせていた。それに答える莉愛も楽しそうな笑顔を見せていたが、実は相手の実力をよくわかっていないため、純粋な陽香の力に尊敬をしているだけではあるのだが……















「陽香、まだ投げれそうか?」
「はい、大丈夫です」

ゴールデンウィークでの対外試合初戦ということもあり、通常のベストメンバーで試合に臨んでいる明宝学園。さらにこの試合は公式戦を意識するとのことで、アクシデントがない限り選手の交代はしない方向で考えている真田。、

「あと二回だからな、最後まで頼むぞ」
「はい」

さすがに疲れが見え始めているものの、実際の大会でも連投は十分にあり得るため彼女の経験値のためにこの試合は投げ切らせたいと考えている真田。そんな彼の頭の中は色々なことでごちゃごちゃになっていた。

(この試合は問題ないけど、次の試合は胃が痛くなりそうだな)

試合は6回の表。打席には8番の美穂。4対0とリードしている上に、相手は前日からの遠征の疲れか全体的に動きが重そうに見える。

(本当はあと2、3点取ってほしいが、向こうもいいピッチャー出てきたからな)

3回までに4点を奪ったものの4回から出てきた投手にヒット1本に抑えられている状況。恐らく前日も登板したことで先発を回避したエースなのだろうが、やはり実力校のエースゆえか打ち崩すことができない。

(リードを守ることを考えてもいいか。それよりも次の試合が心配で仕方ないわぁ)

昨日の試合で刺激を受けたからかレギュラー陣の調子もいいためこの試合で気になることはない。そのためか彼の頭の中は次の試合のことでいっぱいだ。

(事前に許可は取ったけど、大丈夫か……マジで……)
















一試合目はその後1点を追加し5対0で勝利した明宝学園。その次の試合は千葉商工と作聖学院が試合を行うため、主催校の彼女たちは補助やお昼休憩に入っている。

「莉愛、次の試合のことだけど……」
「うん!!サインとか決めておこう!!」

補助に入る前に二試合目のスタメンが発表され、それを受けて瑞姫と莉愛は二人仲良くお昼へと向かっていた。

「監督も思い切ったよな」
「たぶんお腹痛くなってると思うよ」

そう言ったのはアイシングをしている陽香と次の試合の補助の準備をしている莉子。その後ろでも前半の補助組と後半の補助組で別れ、忙しく動いている。

「二試合目はほとんど一、二年生だからね。次のチームのことを考えてるんじゃないの?」
「まぁ私たちもベンチに入ってるから心配ないと思うけどね」

同じく前半の補助組である栞里と伊織が二人の会話に入る。二試合目にベンチに入る彼女たちは途中まで簡単な補助をして、後半からは次の試合に向けて動く段取りになっている。

「向こうも下級生中心になるんだろうけど……荒れなきゃいいけどな」
「大丈夫だよ、昨日の試合では十分動けてたんだから」

試合経験の少ない下級生が中心となっている二試合目。最高学年でありチームの中心選手である彼女たちは妹を見るような気持ちで不安半分、期待半分といった心境だった。
















「あれ?もしかして向こうのピッチャー……」

千葉商工と作聖学院の試合を終えて数十分後、三試合目が開始された。整列を終えてベンチに戻ってきた作聖学院の一人がスコアラーからオーダー表を見せてもらう。

「やっぱり斉藤だよね?去年全国行ってた」

同じ一年生と思われるその少女は相手投手の名前を見て目を輝かせていた。ある程度の実力あるチームにいたことがある選手ならば、実力と実績がある選手のことを把握しているのは当然なのであろう。

「そんなにいいピッチャーなの?」
「はい!!男子に混じってたのにエースナンバー着けてましたから」

体格差の出始める中学生のタイミングでレギュラーになるだけでもすごいのに、負担の大きい投手を……しかもエースとしてマウンドに上がれる少女はほとんどいない。それだけでも十分印象に残っていたのだろう。

「キャッチャーも一年生らしいわよ」

そこに付け加えるように大人の色気全開の女性が腕を組みながら彼女たちに情報を伝える。

「そんなにいいピッチャーと組むってことは……」
「よっぽどいいキャッチャーってこと?」
「その子はわかる?」
「いえ……聞いたことないです」

瑞姫の名前を知って興奮していた彼女は莉愛の名前には心当たりがないため首を振る。ただ、下級生を中心として組まれたメンバー構成でスタメンマスクを被るとなれば能力があることは十分わかるようで……

「新チームに向けての試合ってことなんだろうし、力試しさせてもらわないとね」
「いいピッチャーなら特にね」

打席に向かう二人の少女たちは互いに顔を見合わせニヤリと笑う。ベンチにいる少女たちも楽しみになったようで、至るところから声が出ていた。

「ボールバック!!」

瑞姫にボールを返しながらメンバーに聞こえるように指示を出す莉愛。それを受けショートの明里がベースに入る。それを確認してから瑞姫は最後の投球を行い、莉愛がセカンドへのスローイングを行った。

(ストレートもなかなか速いな。これなら実績があるのも頷ける)

右打席に入りながら足場を慣らす少女。彼女はマウンド上の瑞姫を見た直後、背中側から視線を感じそちらへ顔を向けた。

「うわ……めっちゃ見てるじゃん」

サードから打者である彼女をじっと見ている赤髪の少女。その視線があまりにも力が入っており、彼女は苦笑いを浮かべながら構えに入った。

(U-18の渡辺だよね?やっぱり明宝はいい選手がいるんだな)

全国にこそ出てこれないが激戦区東京で上位に入り続けている相手校の情報は少しずつではあるが入ってくる。ただ初めて相対する選手に関してはほとんどデータはないため……

(初球は見ていこうか)

トップバッターとしての役目を果たすことを最優先とした少女。それを見越してなのか、一年生バッテリーは真ん中のストレートから入ってきた。

(えぇ……そんなに打ち気なく見えたかな?)

見送る気配は消していたはずだったが見抜かれていたらしくストライクを一つ献上する形になった彼女は構え直す。そんな彼女に対しての二球目。

(遠っ……)

外へのストレート。際どいところだったが外れてボール。

(追い込む前に試しておけって莉子さんが言ってたっけ?)

試合前に先輩捕手である少女から指示を受けていた莉愛は早速その球種のサインを出す。それを受けた瑞姫は目を細めたが、すぐに頷きモーションに入った。

(明宝のピッチャー顔によく出るよね)

互いに実力校とあってか何度も対戦をしている彼女たち。その際に何人もの投手を互いに見てきているのだが、表情が変わりやすい栞里や優愛を見ているせいか、瑞姫の顔色が変わったことにもすぐに気が付いた。

(たぶん変化球。入ってたら振っていく)

彼女から手から離れたボールは真ん中付近に向かってくる。そのボールを見て失投と思いスイングを開始した途端、地面に吸い寄せられるように急降下していく。

(フォーク!?)

カットしようと軌道修正するが間に合わずあえなく空振り。しかしそのボールは……

バスッ

「ありゃ」

莉愛が弾いて後方へと逸らしてしまう。

「はい、ボール」
「ありがとうございます」

パスボールになる状況ではなかったため球審からボールを渡され瑞姫へと投げる。今の投球を見た二人は同じことを考えていた。

((フォークめっちゃ落ちるじゃん!!))

初めて見た少女も試合前にブルペンで受けていたはずの少女もそのボールに驚愕してしまう。特に味方である少女は慌ててベンチに目をやった。

(まだ初回なんだから、集中しろ)

彼女が見たのは監督ではなく先輩である莉子。彼女は鋭い眼光で睨み付けると、莉愛はビクッと震えて瑞姫に向き直る。

「ちょっと莉子、もっと優しくしてあげなよ」
「いや……そういうつもりじゃないんだが……」

莉子はアイコンタクトを送ったつもりだったのだがそれがわかったのかどうか定かではない。

(ブルペンより全然落ちてるよ。でも……)

莉愛はまたしてもフォークのサインを送る。それを受けた瑞姫は彼女の顔を見た。

(もう一回!!次は捕るから!!)
(負けず嫌いだね、任せるよ)

力の入った目をしていた相方を信じて頷く。身体を大きく使って投じられたボール。リリースされた瞬間は甘いボールに見えるため打者はスイングに入る。

(落ち始めはわかるけど、もう止まらない!!)

地面に突き刺さるようなフォークにまたしても空振り。莉愛はこれを弾いてしまったが、すぐに拾い直し一塁へ送球。無事にアウトにした。

「ナイスピッチ!!」
「ナイスキャッチ」

お互いを讃え合うバッテリー。莉愛は瑞姫に声をかけた後、ベンチを一瞬見るとすぐに顔を逸らした。

「あれは怖がられたね」
「うるさいなぁ、そんなんじゃないだろ」

莉愛の行動に納得できないといった表情の莉子。栞里と伊織は互いに顔を見合わせてクスクスと笑いながら試合の流れを見届けていた。




 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
基本的には練習試合は巻きながらやりたいことだけをやっていこうと思ってます……気が変わらなければ…… 
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