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最期の祈り(Fate/Zero)

作者:歪んだ光
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眠れない夜(彼女の信じたもの)

 
前書き
え〜、今回、一人大幅に性格を変えた人がいます。多少味気無くなるかもしれませんが…… 

 
男は弱い。それが私の認識だ。少なくとも、私の家庭はその考えに元づいていた。今の社会認識を考えるなら、恐らく父の態度は無難だったのだろう。女性の事実上の特権的立場というアドバンテージに加え、婿養子という立場。家庭内で誰が強者かは考えるまでも無かった。父は常に媚びへつらい、母の顔色を伺っていた。そんな父は、ある日飛行機事故で死んだ。未だ私が幼いころ、仕事の都合で母とアメリカに向かっている時の事だった。その時、私の中に「様々」な感情が渦巻いた。父に対する悲しみも、死者を悼む気持ちもあった。
だが、その後私に残った、はっきり感じられた感情はそれと正反対のものだった。
「下らない」
常に媚びへつらい、最後は呆気なく死ぬ。恐らく、その時からだろう。私が、男を見下し始めたのは。
だからこそなのだろう。私が「織斑一夏」という「男」に興味と好感、それに対する反発と戸惑いを覚えたのは。彼の眼は「あの男」とは、正反対のものだったから。
……だからこそなのだろう。私が「衛宮切嗣」に過剰な態度をとったのは。今まで見てきた男でさえ、何らかのプライドを感じられた。
しかし、あの目は……私が最も嫌う、全てを諦観しきった「あの男」のモノ、そのものだった。

後に知る。アレは全てを諦めたものではない。全てに絶望してしまった男のものだった。



決闘。その単語から何を想像するか。
お互いがサーベルを構えて向き合い、正面から正々堂々と闘う姿が真っ先に思い浮かぶだろう。他には、西部劇のように2人のガンマンが早打ちを競う、これも決闘だろう。まかり間違っても、対戦者をホテルごと爆破することは含まれない筈だ。
要するに、お互いが対等な条件の下闘うというものが、狭義における決闘だろう。


「……決闘ねぇ。」
「どうしたの、ケリィ?」
「いや、織斑先生に訊いたんだけどね、オルコットは専ら、レーザー兵器を主力とした遠距離戦特化のISを使うんだってね」
「へぇ〜。じゃあ、オリムーは?」
「ブレイドオンリーの超近接戦特化型ISが支給されるらしいよ」
「へぇ〜、それ決闘じゃないよね〜」
闘う前から、一夏が負けるビジョンが浮かぶ戦いなど決闘ではない。





昼休み
「……それにしても、君は勇敢というべきなのか、無謀というべきなのか」
「しょうがないだろ。あれだけ好き放題言われたんだ。黙っていられないだろ」
食堂の隅の席に、一夏、箒、切嗣、本音の順に時計回りで座っていた。
「で、一夏。勝てる見込みは在るのか?」
心配そうに尋ねる箒に、自身たっぷりに返す。
「おう。全然無い」
『……』
「何かツッコンでくれよ。そういう反応が一番辛いんだ」
「いや、まあ良いんじゃないかな。現実と向き合ってて」
「現実って残酷だしね〜」
冷や汗を流しながら答える切嗣と、さらっと酷いことを言ってのける本音。
「……お前のギャグはいつもツッコミ辛いんだ」
多少涙目になっている一夏に追い討ちをかける箒だが
「うう、箒なら分かってくれると思ったのに……」
「……まぁ、ギャグとしては悪くなかったぞ」
涙目で見つめられて、急にデレた。


こんどの闘いへの極秘会議と称して、4人は食堂の一角に集まっていた。……最も、回りを好奇の視線が囲んでいるので極秘もへったくれもあったものでは無いのだが。
「まぁ、冷静に考えて、オリムーの勝率は無いに等しいね」
「うっ……」
何故か胸を押さえる素振りをする一夏。
「まぁまぁ。とりあえず、ISが来るまで何か訓練をしておくといいよ」
そんな一夏をフォローする切嗣。
「訓練か……そうだ。一夏、まだ剣道を続けているよな」
箒が、何か閃きたという風に提案する。恐らく、剣道という実践を通じて、実戦の勘を養うという考えだろう。
着眼点は悪くない。剣道がどれ程実戦に近いかは個人差にも依るだろうが、1週間後に控えた戦いを前に対策を打つというのなら、限り無くベストに近いだろう。ただ一つ。
「おい何故顔を背ける?」
「あの〜箒さん、怒らないで聞いてくださいね?」
「何を言って……まさか止めたのか!?」
「中学3年間帰宅部でした……」
彼が剣道を続けていたという大前提が崩壊しなければの話だが……
「」
「は、はは……」
呆れて物も言えない箒、笑うしかない切嗣。
「使えないね〜」
「のほほんさん、俺に対する突っ込みキツ過ぎない!?」
多少ブラックな本音だった。





「遅い!!」
「ぐはっ!?」
放課後、何はともあれ今の一夏の実力を知ろうと、道場に向かった彼らだが
「隙だらけだ……」
「おごっ!?」
得られた情報は、一夏の戦闘力は無いに等しいというものだった。
「……」
「あがっ!?」
既に箒の目からは完全に生気が失せ、寄ってきた一夏をカウンターするという単純労働に辟易しているという表情だった。
「……もういいよ、箒」
目頭を押さえながら、ストップをかける切嗣。
「がー、体が痛い……」
五体投地で倒れる一夏。
「……どうする、切嗣?」
「……少なくとも、箒のプランは無しだね。実戦の勘を取り戻すのに月単位でかかりそうだ」
「鯛もここまで腐ると別の物質になるんだね〜」
腐っても鯛ですらないのか……
「……とりあえず、こんな訓練はどうかな?」
諦め半分といった感じで、ある練習を提案する。
「定番といえば定番だけど、効果は期待出来るよ」
う〜ん、と頭を悩ませる箒。
切嗣が提案したのはよくある、目の前で木刀を振るというものだった。
確かに、敵の攻撃に対する度胸はつく。だが、それだけだ。それだけでは、未だ足りない。特に、高速で迫ってくるレーザーに対しては。
「う〜ん。じゃあ、こうしない?」
今まで突っ込みに徹していた本音が初めて意見を述べた。


それから1週間、夜9時まで一夏の悲鳴が響き渡ることになった。






「はぁ〜」
セシリアと一夏の闘いが明日に迫る前夜、切嗣は欠伸を噛み殺しながら歩いていた。
最近は一夏の訓練に夜遅くまで付き合い、自然と睡眠時間が削られていた。
アンフェタミンを使っていた頃が懐かしい。今の眠気を覚ます方法は、カフェインか、洗顔に限られているので非常に効率が悪かった。実際、今も部屋に水道が無いので、手洗い場に顔を洗いに向かっている途中だった。
別に、この学園の寮の設備が悪いわけではない。寧ろ、世界最高クラスと言っても過言ではなかった。だが、切嗣の部屋は最低クラスと言っても語弊は無かった。理由は単純。未だ、切嗣の部屋の準備が出来ていないからだ。切嗣の編入は余りに急だったので、学園側もそこまで手が回らなかったのだ。決して忘れているわけではない……多分。
「……」
鏡にある自分の顔を見る。そこには、適度に窶れた顔と、目の隈が見てとれた。5秒ほど見ていたが、何かを振りきるように顔をふると、手洗い場を後にした。そして、
「きゃっ」
「おっと」
曲がり角で誰かとぶつかった。一応、就寝時間は過ぎてないが、ギリギリでもあるため廊下は薄暗い。なので、ぶつかった相手を確認するのに少々時間がかかった。
「す、すみせん。余所見をして……」
「ご、ごめん。考え事を……」
若し、最初から相手が解っていたなら、さっきの会話は無かっただろう。ぶつかった相手はセシリア・オルコットだった。
「……」
気まずい空気が漂う。奇しくも、二人が会話をしたのはこれが最初だった。
「……ふん」
先に耐えられなくなったのは、セシリアだった。
踵を返すと、来た道を戻っていった。
「……随分と嫌われたものだ」
そういうと、切嗣は胸ポケットに手を伸ばし、
「……チッ」
タバコが無いことを思い出して止めた。


あの方は、一夏さんは、他の男とは違うのか?

自分と既に寝入っているルームメイト以外誰もいない部屋に、一人の声が空気を震わす。

信じたい。そうだと信じたい。あの方は、確かに私に追い縋ろうとしている。
……だが、未だ早計だ。ならば、見極めなければ……
織斑一夏が本当に違うのか、この目でだしかめなければならない。

不安だ。明日が不安だ。若し違ったらどうしよう。もう、私は信じる事が出来ない。

楽しみだ。明日がこの上無く楽しみだ。若しそうなら、私は……

もう、寝ましょう。いずれにせよ、全ては明日解ることですから……








決戦当日、例の4人と千冬はIS格納庫にいた。
「自身を持て、一夏。この1週間で大分強くなっ……ては無いがましになった」
「おいおい、決戦前でそのジョークは笑えないぞ、箒」
「……」
「何故そこで黙る!?」
一夏の精神は、緊張しているが軽口は叩ける、つまり考えうる限りベストだった。あまり緊張し過ぎてもダメだが、無ければ即座にやられてしまうだろう。
「はは、調子は良いみたいだね。僕も1週間付き合ったかいがあったよ」
「おう……サンキュな、切嗣」
切嗣は普通に一夏を励ます。この1週間、魔術師殺しの特訓を受けて来た一夏は確かに目覚ましい進歩を遂げていた。それを活かせるかどうかは彼次第。
「不具合は無いか、一夏?」
「大丈夫だ、千冬姉」
装備したISの拳を握りしめ確かな感触を確かめる。
「オリムー、負けたらパフェ奢ってね」
「はは、そりゃ負けられないな」
「クラスの皆にね〜」
「破産の予感!?」
相変わらずの本音。いや、
「だから、絶対に勝ってね〜」
彼女なりの激励なのだろう。
「あぁ、絶対に勝つさ」
そう言うと、一夏は決戦の舞台に向かっていった。






「……逃げずに来られましたか」
其処には既にISを装備したセシリアが待っていた。
「当たり前だ。あそこまで啖呵をきって逃げられるか」
その発言が嬉しかったのか、少しセシリアは微笑んだ。
「……やはり、貴方は他の殿方とは違うのですね」
そう言うと、セシリアは続けた。
「だからこそ言わせて頂きます。一夏さん、









この戦い、引いて頂けませんか」






「なっ……!?」
予想外の言葉に狼狽える一夏。無理もない。この戦いを提案したのはセシリアなのだ。まさか彼女から放棄するとは思わなかったのだろう。
「単純な実力から考えて、私が勝つのは明白でしょう」
構わずセシリアは続ける。
「この1週間、一夏さんは私に勝とうと必死でしたね?」
「……ああ」
「だったら、もういいです。貴方が口先だけの人でも、「あの男」のような人物でも無いことは理解出来ました。だったらもう良いです。この戦い、私の負けで構いません。クラス代表の件もお譲りします。ですから……」
「悪い、セシリア」
悪いとは思ったが、セシリアの発言を途中で遮る一夏。
「気持ちは嬉しいが、それは出来ない」
ゆっくり、噛み締めるように、自分の言葉を吐き出す。
「俺さ、この1週間、お前に勝とうと必死で色んな奴等に助けて貰ったんだ」
「……知っています」
「だから、今ここで逃げたら、アイツ等に胸を張って帰れない」
それを聴いたセシリアは、満足そうに息をはいた。
「貴方らしいというべきなのでしょうね……」
「それにな、セシリア」
恐らく、これも彼の本心なのだろう。
「俺は、お前と戦ってみたい。今の俺がどの程度通じるのか、試してみたい」
そこまで言うと、ブレイドを構える一夏。
「ふふ、しょうがありませんね。」
それに答えるようにレーザーライフルを構えるセシリア。
そして、どちらからともなく動き、





今、ここに戦いの鐘が鳴り響いた。





「……あれは?」
「どうした、衛宮?」
「いえ、少し気になるものが……」
そう言うと、切嗣もまた、その場を後にした。









おまけ

……今の俺がどの程度通じるのか、試してみたい」
そこまで言うと、ブレイドを構える一夏。
「ふふ、しょうがありませんね。」
それに答えるようにレーザーライフルを構えるセシリア。
そして、










「宜しい!ならばこれは決闘ではなく誅伐ですわ!!」





「………………は?」




「女性の申し出を断るような蒙昧、生かしておく価値はありませんわ!!」
「……あの、セシリアさん」
「死んで身の程を弁えるがいいですわ!!」
そして、一方的な虐殺が始まった……。 
 

 
後書き
はい、というわけでセシリアの性格を大幅に変更しました。……理由は、アレが急にデレるのはどうしても不自然に思えたのが一つ。もう一つは、こちらの方がストーリーに絡ませ易いからです。
次話、遂に切嗣さん活躍する予定です!(予定です。重要なので二回言いました) 
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