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最期の祈り(Fate/Zero)

作者:歪んだ光
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決闘(お前が言うな!!)

……気まずい。昨日の一件からずっと箒とギクシャクしまいっぱなしだった。二人で歩くもさっきから会話が弾まない。気まずい雰囲気のまま食堂に入ると、そこには既に見知った顔があった。
「おはよう、切嗣。朝、早いんだな」
切嗣は、パンを片手に電話帳みたく分厚い本を読んでいた。
「おはよう、一夏。たまたま目が覚めてしまったからね」
そう言うと、また本の方に目を戻してしまう。正直、今の箒と二人きりで黙々と食事をする苦行には堪えられなかったので、食事をとってくると迷わず切嗣の横に腰掛けた。
「何読んでるんだ?」
「ISの関連図書、かな」
それっきり会話が途絶えてしまう。
しょ、しょうがないだろ。凄く真剣な顔で勉強している奴に話しかけるほど野暮じゃないんだよ。
結局、黙々と食事をとる事になってしまったが、
「一夏は、このまま校舎に行くのかい?」
不意に切嗣が、様子を伺うように喋りかけてきた。
「ん、ああ。そのつもりで用意して来た」
「じゃあ、食べ終わったら行こうか。何か悩んでいるみたいだし、離してくれれば相談にのるよ」
……改めて思うが、切嗣って凄く優しい奴なんじゃないだろうか。そう本人に言ってみたところ、苦笑と共に否定された。
「いや、残念ながらね。僕は君が考えているような人間じゃないよ。寧ろ、残酷な部類に入ると思う」
「それって……」
俺は切嗣の発言に引っ掛かりを覚えてしまった。少なくとも切嗣は俺の知るなかで、最も優しい奴だ。そこに何故、自己評価とは言え「残酷」という言葉がはいるのか。
「さて、そろそろ行こうか」
しかし、切嗣は、この話はここまでというように会話を打ち切った。


……遠くない未来、一夏は思い知る。切嗣の行動を。
誰よりも優しいが故に、誰よりも残酷になってしまった男の生き方を……





「……ということですので、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ……」

朝食の後、切嗣の仲介により、何とか箒と和解する事が出来た一夏であったが、その表情は依然として芳しく無かった。否、より正確に言うなら、授業が始まるまではその表情は明るかった。現在、真耶の話す授業内容に全然ついていけず、首を傾げるばかりだった。
「織斑君、何か分からないところはありますか?」
そんな一夏を見かねてだろう。真耶が100%善意からの問いかけを発した。
「あ、えっと……」
「分からないところがあったら聞いて下さいね。何せ私は先生ですから!」
その時、若し仮に、彼の心の中を読み取ることが出来る人物がいたとしたら、こんな諺が見えた筈だ。「聞くは一時の恥。聞かぬは末代の恥と」




嘗て「ことわざの解体」という問題が提起された事がある。簡単に言うと、諺は徳川封建時代に出来たものであり、昔はその諺群を支える、地縁共同体に元ずく共通の観念があった。だから、諺の弊害は無かった。しかし今は、その共通の観念は失わされてしまったので、今の時代に諺を乱用するのは危険だという考えである。しかし、
「先生!」
「はい、織斑君!」

「ほとんど分かりません!」



今回の場合、別にそんな共通の観念が失われたとしても、第三者に共通の考えを持たせるには十分過ぎるほどの威力を誇っていた。
『時と場合を考えろ』と。

「え、えっと……織斑君以外で今の段階で分からないっていう人はいますか?」
『……』

完全に想定外の状況に出くわし、まず自分の説明不備を疑う真耶は、恐らくとても良くできた人なのだろう。
……問題は
「……織斑、入学前の参考書は読んだのか?」
「えっと……あの分厚い奴ですか?」
「そうだ。必読と書いてあった筈だが?」
 しばらく一夏は何かを思い出す様な素振りをした後に答える。
「あー、古い電話帳と間違えて捨てました」

参考書を棄ててしまう馬鹿(一夏)だろう。

教室に、まるで出席簿で頭を叩いたような小気味よい音が鳴り響いた。
「〜!!」
「はあ……必読の字が読めんのか、お前は」
「うぅ……す、すいません」
「後で差発行してやるから一週間で覚えろ。いいな」
「いや、一週間であの量は「やれと言っている」……了解しました」
それから、痛みに悶えている愛すべき弟を一瞥すると、千冬は他の生徒にも言い含めるように喋り始めた。
「ISはその機動性、攻撃力、制圧力とこの世界(.....)における過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深く知らずに扱えば必ず事故が起きる。そうしない為の基礎知識と訓練だ……」



「いって〜」
授業後、先程叱責を食らった一夏は、頭を押さえながら切嗣の元にやってきた。
「は、はは。自業自得とは言え、災難だったね」
「……やっぱし俺が悪いのか」
ガックリと頭をおとす。
「切嗣〜後で勉強手伝ってくれ〜」
情けなさそうに手を合わせている一夏だが、切嗣はその頼みを一蹴し嗣はその頼みを一蹴した。
「いや、実は僕もあれ全部は理解してないんだ。」
すると、側で聞き耳を立てていた女子数名が反応した。
「え?切嗣君も未だ参考書読んでなかったの?」
「うん。三日前に渡されたばかりでね」
自然とクラスからの視線が切嗣に集中する。
「そ、そうなんだ。よく授業が理解できたね」
「まぁ、あの中でも重要な所だけ理解してきただけだけどね。例えば、法律関連の章は完全にとばしたり。とりあえず、授業についていけて安心したよ」
照れくさそうに喋っているが、さらっととんでもないことを言ってのける。未知の知識の重要な箇所を見破る、その難しさは語るまでもない。嘗て、異端中の異端と呼ばれただけの事はあった。
教室全体が戦慄している時、その空気を破るかのように一夏に声をかける人物がいた。
「まだ、あんなものも理解されていなかったのですか?」
「……お前は、セシリアか」
頭が痛いとでも言いたげに顔をしかめる一夏。無理もなかろう。昨日のファーストアプローチが、アレなのだから。
「よろしければ代表候補生だあるこの私が、教えて差し上げてもよくてよ」
「……一夏の知り合いかい?」
多少、当惑したというふうに一夏に答えを求める。
「……残念ながら」
しぶしぶといった感じで肯定する一夏。
(とりあえず、切嗣にも紹介するか)
恐らく、自分の事は知っていて当然と、自ら自己紹介をするつもりは無いだろうと見越して話を進めようとする。
「あー、紹介するよ。こいつはセシリア……」





「結構です」





突如、温もりの無い声が一夏を制した。
「せ、セシリア……?」
「この方に教えて差し上げる名などありません」
絶対零度の冷たさをもって拒絶する。
そのあまりの変わりぶりに一夏は狼狽する。確かに彼女は一夏に対して、かなり無礼な行為をとった。だが、そこにはまだ相手を受け入れるだけの余裕はあった。会話をするということは相手を知る、即ち相手を受け入れる事に繋がる。しかし切嗣に対しては、それが一切無い。言い換えれば、切嗣を完全否定していた。
「どういう事だよ……?何で……」
「この方の第一印象が最悪だからですわ」
「おい、幾らなんでも言い過ぎだぞ!」
憮然と答えるセシリアに、一夏より先に箒がくってかかる。が、
「貴女には関係の無いことです。口を出さないで下さい」
彼女は関係の無いという一言で黙らせた。
「っ!お前……」
「あー、ちょっと良いかい」
我慢なら無いといった風に何か言おうとする箒を止めたのは他ならぬ切嗣だった。
「三人とも、前、前」
最初、切嗣が何を言っているか解らなかった3人だが、言われた通り前を向くと、漸く事態の深刻さに気付いた。
そこには、チャイムが鳴って3分経過したと言うのに未だ席につかない生徒を、優しく見守る織斑先生がいらっしゃった。
「織斑に篠ノ之にオルコットか。3人とも良い度胸だな 」



とりあえず、乾いた音が3回鳴り響いたと言っておこう。



「全く、この馬鹿共が。さっさとクラス代表を決めなければならんというのに……」
その言葉にざわめく生徒達。彼女達の視線は自ずと彼等に集中する。その注目の彼等は……
「あぁ、そんなのもったか」
一人は何の気なしに呟き、
「流石にそれくらいは知っていたか」
もう一人は妙に安心した表情を浮かべていた。




「これよりクラス代表の選出を行う。推薦、自薦は問わない。誰か立候補はいるか?」
「はい。織斑君を推薦します」
「はい。私も織斑君を推薦します」
千冬のセリフが終わらない内に次々と手が挙がっていった。
まぁ、全て推薦で、内訳は一夏:切嗣 =7:3だった。
因みに、一夏はこのクラスに同姓の人がいたのかと見事な勘違いをし、切嗣は「厄介な事になりそうだな」と1人先を見越していた。そして、この予想が正しかった事が5分後、証明された。


「納得いきませんわ!!」
彼女の憤りは、推し量る間でも無いだろう。
結局、セシリアに票は入らず、このままでは票差で一夏がクラス代表に決定するという直前、遂に爆発した。
「このような選出など認められません! 大体、男がクラス代表者だなんていい恥曝しですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
 かつて、魔術師の面汚しなど散々罵倒されてきた切嗣にとっては、不快な思いはするが無視できる類いのものだったが、一夏に限らず日本人の多いこのクラスにとって、看過出来る範囲を超えていた。

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で……」

どう考えても煽っているとしか考えようのない罵倒が続いた。それに伴い、一夏の顔も徐々に赤くなっていった。そして遂に

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い屈辱で…………」

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一不味い料理で何年覇者だよ」
こっちも爆発した。その後、不毛な言い争いが続いた後、

「決闘ですわ!!」



ここに、クラス代表を決めるための闘いが行われることになった。





とある会話
「どうした、衛宮?顔色が悪いぞ」
「いえ、最近の高校生は過激だな〜と」
「全くだ。近頃の奴らは……」


今日のお前等が言うなスレはここですか。 
 

 
後書き
何だかんだで、かなり早く投稿出来ました(笑)
次はいつになるかな〜  
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