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展覧会の絵

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プレリュードその一

                     展覧会の絵
                     プレリュード
 社長室でだ。制服の警官達も私服の警官達もだ。
 誰もが顔を顰めさせてだ。その無残な有様を観て言っていた。
「おい、目がこっちでか」
「耳はこっちだぞ」
「舌、こりゃ腕ずくでひっこ抜かれてるな」
「相当痛かっただろうな」
 見れば社長室は血でどす黒く汚れていてだ。一面を支配しているガラス窓は鮮血で染まっている。
 絨毯やソファー、それに社長の机にはだ。肉片や内臓がこびりついていた。
 真ん中にいる豊かな白髪の恰幅のいい男は全裸でだ。あちこちが切り刻まれ潰されていた。目や耳は片方ずつなくだ。特にだ。
「これ睾丸だな」
「そうみたいですね」
 床にだ。丸いものが転がっていた。それを見ての言葉だった。
「これも何か」
「無理矢理手で引き千切ってるな」
「そんなことできるんですかね」
「やろうと思えばな」
 できるというのだ。身体からそのまま睾丸を引き千切ることも。
 しかしだ。それはだとここで話される。
「だがな、そんなことはな」
「普通の人間はしませんよね」
「する筈がない」
 年配のだ。トレンチコートを来た刑事は忌々しげに制服の若い警官に話した。
 そしてだ。その若い警官にこう問うたのだ。
「御前生きているうちに金玉とか舌とか引き抜かれたいか?」
「そんなの嫌に決まってるじゃないですか」
 これが警官の返事だった。
「どれだけ痛いかわかったもんじゃないですよ」
「そういうことだよ。見ろこの顔」
 今度は殺害されたその社長の顔を見ろというのだった。見ればその顔はだ。
 苦悶と激痛に満ちてだ。断末魔の顔でこと切れていた。その顔を見ながら。刑事は警官に問うたのだ。
「生きながらどっちも引き抜かれた顔だろ」
「ですね。じゃあ」
「ああ、こいつは生きながら舌とか金玉を引き抜かれてな」
 そしてだというのだ。
「目をくり抜かれて耳を切り取られてな」
「腹を割かれて内臓を取り出されたんですか」
「こんな惨い他殺体ははじめてだ」
 刑事はまた忌々しげに言った。
「だから見ろ。血もな」
「ここまで飛び散ってるんですね」
「どんなキチガイがやったんだ」
 刑事はその忌々しげな口調で禁止用語さえ出した。
「ここまでええつないコロシをな」
「そうですね。ですが」
「ああ、このガイシャな」
「ええと、名前は渡邊弘樹か」
 それがこの殺された社長の名前だった。
「表向きは大企業の社長だがな」
「ええ、密告が来てましたね」
「裏では女を騙して売春をさせていた屑だ」
「ですね。それを趣味でやっていたとか」
「殺されても仕方ない奴ではあるな」
 刑事はこの被害者の悪を言いはした。そしてだった。
「実行犯の課長とその部下三人もだったしな」
「ええ、課長は電気ノコギリで八つ裂きにされていて」
「部下三人は生きながら熱湯に放り込まれて煮殺されてたな」
「どっちも普通しない殺し方ですよね」
「昔の拷問じゃないんだ。する奴がいるか」
 刑事は忌々しげに語った。
「それにだ。この社長の秘書だってそうだっただろ」
「この社長と共謀して売春やらせてた奴でしたね」
「女のな。昨日だったな」
「ええ、所轄は違いますが」
 それで詳しいことはわからない。だがそれでもなのだ。
「自宅で殺されてましたね」
「両手を縛られて天井から吊るし上げられてだったな」
「はい、乳首や性器を切り取られていて」
 またしてもだ。猟奇殺人だった。
「身体の肉をゆっくりと、鮟鱇みたいに切り取られて」
「そんな殺し方だったな」
「しかもやっぱり生きながらだ」
 生きながらだ。嬲り殺しにされていたというのだ。 
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