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冥王来訪

作者:雄渾
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異界に臨む
  帰郷 その2

 
前書き
マサキは、現代日本の価値観で考えて行動しています
 

 
神戸港から、日本に入ったマサキは、驚いた
あの大戦により焼失した建物、失われた社会制度、慣習が息づく姿に
大都市圏は、ほぼ《元の世界》の戦前の影響を色濃く残る
解体されず残った帝国陸海軍、複線型の学校制度
不思議な感覚に陥った

二台のセダンで、京都へ向かう
道路事情は多少は良くなっているが、何か立ち遅れた感じがしないでもない
高速道路網も、空襲や世銀の借款が無かったせいか、少ないように感じる
妙に、変なのだ
驚いたのは琵琶湖運河掘削計画だ
これは《元の世界》でも計画されたが、結局、立案者が病死したことで立ち消えになった愚案

何より衝撃的な事実は、都が、未だ京都にあったことだ
《東京奠都》《ご維新》が無く、よく列強に伍する地位になった事に感心したのと同時に、先に要望した《仮住まい》の事を悔やんだ
自分は、東京郊外の心算で言ったのに、交通事情の悪く、蒸し暑く底冷えする盆地になど住む気など更々無かった

京都へ向かう車中、渡された書類を見ながら、同行する人間に問いかけた
「なあ、斯衛軍とは何だ」
脇に座る男が振り返った
男は悩んだ後、こう返した
「斯衛というのは、城内省に付属する独立した軍ですよ」
「城内省、なんだそれは……」
男は呆れた様子で、彼に説明を続けた
「皇帝陛下より大政を委任されている政威大将軍、つまり殿下をお支えする機関です」
(「ということは、将軍直属の親衛隊に……。抜かった」)
「もっとも今は殿下も《表》に、お出ましになる機会も少なくなってしまいましたが」
こちらを睨むような素振りで話し続ける
「外国に長く居らしたと聞いておりましたが……」
マサキは、落ち着いた様子で、返す
「正直、俺はよく知らん。美久も同じだ。そう思って応対してもらえば助かる」
(「で、誰と会うんだ」)
彼は車窓を覘いた
(「着けばわかるが……」)
彼の心中は不安に苛まれていた

マサキは、数名の男が待つ、京都郊外のゴルフ場に連れて行かれた
別にプレーをする訳でも無く、ゴルフコースに出ていたのは訳があった
それは防諜上の理由で、、あえてゴルフ場を選んだのだ
「大臣」、「閣下」という単語から類推するに、恐らく政治家と軍人
彼は、渡されたポロシャツとスラックスに着替えて、男達と歩きながら話した
「君が木原君かね。詳しい話は聞かせてもらっているよ」
初老の男が声をかけてきた
「そうだ。で、何を頼みたい」
持っていたゴルフクラブを、キャディーに渡しながら、続けた
「ならば単刀直入に言おう。来年度中に欧州で大規模な攻勢計画があってね。
君には我が国の、観戦武官と共に欧州戦線を詳しく確認してきてほしい」
当事者ではない日本にとっては、関係のない話にも見える
初老の男は、脇から若い秘書と思しき男に書類を渡されていた
「榊君、この他にも、《例》の資料を持ってきてくれ」
榊と呼ばれた若い男は、カートに資料を取りに向う

マサキは、《例》の資料について訊ねた
NATO案による、白ロシア・ミンスクハイヴ攻略作戦仮計画書、だという答えが返ってきた

「ソ連にまで行って、ゼオライマーのテストでもするのか」
初老の男は、笑いながら答える
「話が早い。それもあるが実は、その気に乗じて欧州戦線において我が国の立場を明らかにしたい
その為のミンスクハイヴ攻略作戦の《観戦》だよ」
話をしている内に、榊が戻ってきた
「大臣、《例》の資料を持って来ました」
厚いB4判の封筒に入った資料が、彼の手に渡された
「一旦、休憩にしましょうか」
左手にはめている自動巻きの時計を確認すると、時間もなく正午であった



 
 

 
後書き
榊 是親の年齢ですが、年齢に関する資料は恥ずかしながら自分のわかる範囲ではありませんでした
集英社刊行の全七巻の『マブラヴ』公式小説、『マブラヴ オルタネイティヴ』公式メカ設定資料集や、Muv-Luv Alternative Memorial Art Book、Muv-Luv Memorial Art Bookにはありませんでした。
『オルタネイティブ』本編開始時の2001年に総理なので、類推することにしました
現実の世界を反映し、総理大臣就任時の年齢が50代から60代が多いと言う事で考えて、1970年代後半を題材にする今作品に登場させました

『オルタネイティブ』の20年以上前になりますので、だいぶ若い年齢だとは思いますが、遜色はないと思います

ご意見、ご感想、よろしくお願いします
 
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