ハッピークローバー

「そんな状況滅多にないでしょ」
「ほら、問題のある場所を辞める時に」
　一華は富美子に以前何処かで聞いた話をした、ただその話を一体何処で聞いたのか今は忘れてしまっている。
「自分が辞めたら周りもどんどん辞めて」
「そこが駄目になるっていうのね」
「だから辞めるなとか言う人もいるわね」
「一人が辞めてどんどん辞める場所の方が駄目でしょ」
　富美子は一華にあっさりと答えた。
「それこそ」
「その時点でっていうのね」
「そうよ、普通の場所は一人が辞めてもね」
　それでもというのだ。
「どんどん辞めていかないでしょ」
「そうよね」
　一華もそれはと頷いた。
「まともな場所だとね」
「ヤクザ屋さんの事務所に間違って入って」
　そうしてというのだ。
「自分が辞めたら他の人も辞めて」
「ヤクザ屋さんの事務所が潰れたら」
「いいでしょ」
「ヤクザ屋さんの事務所なんてね」
「ない方がいいじゃない」
　こう一華に話した。
「むしろ」
「そうなるわね」
「問題のある場所なんてね」
「暴力教師が顧問やってる部活とかブラック企業とか」
「そうした場所は潰れないと」
　そうならないと、というのだ。
「駄目でしょ」
「自分が辞めてじゃないのね」
「問題のあるところは潰れないと」
　富美子は冷淡とさえ聞こえるまでに淡々と述べた。
「世の中よくならないでしょ」
「ブラック企業とか」
「むしろそうしたところから逃げることはね」
「いいことってことね」
「そう、ブラック企業なんかにいても」
　そうした場所で頑張ってもというのだ。
「いいことなんてね」
「何もないわね」
「ヤクザ屋さんの事務所と同じでね」
「いてもいいことはないわね」
「よくブラック企業で過労死とか自殺とかあるけれど」
「その前に逃げろってことね」
「思い詰めたら誰かに相談してやっぱりどうしようもなかったら」
　またこう言うのだった。
「逃げることもよ」
「大事なのね」
「そうよ、というか暴力教師に教わっても」
「殴られて蹴られるだけでね」
「いいことなんてないし」
　それこそというのだ。
「ブラック企業だってね」
「そこで頑張っても」
「いいことなんてないし」
「逃げた方がいいってことね」
「私はそう思うわよ、生きていてこそ何か出来るんだし」
「自殺するよりも」
「逃げることよ、思い詰めてどうしようもなくなる前に」
　まさにその前にというのだ。
「逃げてもいいの、逃げちゃ駄目なんて」
「使徒が相手でもないと」
「というかあれもあの糞親父が仕向けたとも言えるし」
「ああ、あのサングラスに顎鬚と頬髯がくっついた」
　一華は糞親父と聞いてすぐにこの人物を思い出した。
「あいつね」
「あいつはそうした奴でしょ」
「企むタイプだしね」
「そうとも言えるけれど」
「自分がやらないと駄目な状況でないと」
「それで実際にどうかを見極めることもね」
　その状況をというのだ。