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アパッチ

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第二章

「どうしようもないわ」
「そやね」
「何もなくてどうするんや、そしてうどんを出せんと」
「うちはやね」
「飯食えんで、どないするんや」
「あんたが戻って来るまでやけど」 
 ここで女房は夫に俯いて話した、黒い髪の毛を後ろで団子にしている。おかめに似た顔立ちでもんぺを穿いている。
「何とか食いつないできたんや」
「うどんもないのにか」
「そやねん、うちもうどんは作れるけど」
「やっぱりうどんはわしやな」
「それであんたが帰って来るまで。戦死の届けは戦争終わるまでこんかったから生きてると思って待ってたし」
「それでわしが帰ってからか」
「そう思って来たけど」
 それがというのだ。
「何とか食いつないで」
「それでどないして食いつないできてん」
「大阪城の方行って」
「大阪城かいな」
「あそこも酷い空襲で無茶苦茶になってるけど」 
 それでもというのだ。
「あそこ工場あって兵器造ってたさかい」
「それでも空襲で滅茶苦茶になったんやろ
「そやけど工場があったやろ」
 それでというのだ。
「鉄のガラクタが一杯あって」
「それをか」
「拾って売って」
 それでというのだ。
「お金にしたりそのガラクタをお米と交換したりして」
「生きてたんか」
「そやねん」
「そやったか、ほなや」
 明日川は女房の話を聞いて言った。
「うどんの麺とおつゆのだしを買う為にや」
「その為にやね」
「わしも行くで」
「大阪城の方にやね」
「それで鉄くずよおさん艇に入れてや」
「それを売って」
「お金作ってや、自分等の食い扶持も稼いで」
 そしてというのだ。
「取引してたお店ともや」
「また取引して」
「その為の金も稼ぐしな」
 鉄くずを売ってというのだ。
「暫くはな」
「お金稼ぐか」
「そうしてこか」
「またうどん屋やる前に」
「麺もおつゆもないんやったらしゃあない」
 それならというのだ。
「まずはや」
「そうしていって生きて」
「金稼いでな」
 そしてというのだ。
「またうどん屋やるで」
「ほな今から行こか」
「大阪城の方にやな」
「そうしよか」
「夜でもやな」
 今の時間はというのだ。
「それでもか」
「正直お昼とか夜とかな」
「言うてる場合ちゃうか」
「今は」
 とてもというのだ。
「まず食べへんと」
「それやな」
「もう皆食べものがなくて」
 それでというのだ。 
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