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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百四十四話 赤い彗星

 
前書き
お待たせしました。

今回はテレーゼがネタに走りました。

帝国歌劇団は一応皇太子の喪中のためと称して明年の485年の発足予定ですが、実際は訓練不足で見せるほど技量が上がっていないためなのでした。 

 
帝国暦484年10月23日

■銀河帝国オーディン憲兵隊総監部 ラインハルト・フォン・シェーンヴァルト

姉上との、楽しい2週間はあっという間に過ぎてしまった、昨日姉上は後宮へ帰ってった。折角姉上との8年ぶりに一緒に居られたのに、皇帝の元へ戻らねば成らなかった!口惜しい、今に見ているがいい、必ず貴様をその座から引きずり落とし犯してきた罪を後悔させながら、ジワジワと処刑してやる!

皇帝だけではなく、その眷属や門閥貴族の輩も同じだ、キルヒアイスがいてくれれば、俺が皇帝になることなど簡単なことだ、軍で出世し元帥になれば、後は如何様にもなるのだから、早くこんな憲兵隊などから、宇宙へ戻りたい物だ、そうしなければ武勲の立てようがないではないか!

■銀河帝国オーディン憲兵隊総監部 ジークフリード・フォン・キルヒアイス

また、ラインハルト様が明後日の方向へ精神をお飛ばしなさっている、確かに8年ぶりにアンネローゼ様と2週間も共に過ごしたのだから、余韻を噛みしめていることも判るが、態々我が家からアンネローゼ様の寝ていた布団とシーツやお座りになった椅子を下宿のご自分の部屋に移してそれで寝たりするのは如何な物だろうか?

自分もアンネローゼ様のシーツなら欲しいのだが、いやいや、そんな恐れ多いことを考えたらいけないな。アンネローゼ様よりラインハルト様の事をお頼みされた以上は、例えラインハルト様が変な趣味に走ってもそれをフォローするのが、自分自身がアンネローゼ様に対して決めた事なのだから。

それにしても、上の空でも、確りと資料の検査だけはしているところは流石ラインハルト様だ、あれならば、心配はないだろう。ん?ラインハルト様が何か発見したようだ。

「キルヒアイス、此を見てくれ」
ラインハルト様が差し出した書類を見ると、先年廃止された社会秩序維持局の捜査調書の綴りだった。
「社会秩序維持局の捜査調書ですか」

「そうだ、此を見てくれ、酷い物だ、でっち上げの山だな」
見て見ると、冤罪作成や証拠のでっち上げの為のマニュアルまで添付されていた。
「これは、酷い冤罪だらけですね」

「そうだ、ルドルフの作った負の遺産が、この様な事を引き起こしたのだ!」
幾ら二人でも、何処で聞かれているか判らないのに大声で。
「ラインハルト様」

「大丈夫だ、ここは盗聴されていないことは、最初に調べたじゃないか、他人に聞かれるところでは言わないさ」
「確かにそうですが、ここは誰が入ってくるか判らないのですから」

「ああ、判った。次回から気を付けるよ」
全く、ラインハルト様はもう少し防諜に気をつけて貰いたいが、中々駄目な状態だ。
「それにしても、この冤罪は酷いですね、宗教団体だからと言うだけで、サイオキシン麻薬使用の罪を捏造して、監視下に置くとは」

「まあ、宗教などは、弱者のより所だからな、門閥貴族(くず)共にしてみれば、邪魔な存在なのだろう」
「なるほど、歴史が示していますね、虐げられた者達が宗教によって団結し叛乱を起こす」
「まあ、くだらない事だが、そう言う事だろうな」

「此を纏めて、提出しないとですね」
「そうだな、門閥貴族(くず)共が困る姿を見るのも一興だからな」
「はい、ラインハルト様」

ラインハルトとキルヒアイスは、まんまと、テレーゼの敷いたレールの上をノーブレーキで走っていく、その後、憲兵総監グリンメルスハウゼン上級大将に資料を提出した結果、再調査が行われ、地球教への社会秩序維持局が不当な罪をなすりつけていたとして、地球教側に異例の謝罪が行われ、地球教側が安心する事に成る。尤も、帝国側は完全に地球教側どころか、地球自体監視下に置いていたのであるが。

これら、作られた功績により、ラインハルトが大佐に昇進し、遂にキルヒアイスへ並ぶ事に成った。

その事を聞いたテレーゼが『金髪も元帥までは出世させてあげて、一刻ぐらい皇帝になった夢ぐらいは見させてあげましょう』と呟いたとか。

大佐に昇進したラインハルトはキルヒアイスと共に12月1日付けで宇宙艦隊総司令部付き参謀に任命され、宇宙艦隊総司令部へ出頭する事に成るのである。




帝国暦484年10月25日

■銀河帝国オーディン皇帝専用造船工廠

明年早々叛乱軍に対しての侵攻作戦に参加し、ヴァンフリート星域の反乱軍基地を降伏させるために計画された一個艦隊の編成準備に入ったケスラー中将は参謀長メックリンガー少将と共に、新たにケスラー中将に下賜されケスラー艦隊旗艦となる旗艦級新造戦艦を受け取るために造船工廠を訪れていた。

ケスラーにしてみれば本来ならば、大将に昇進した時点で下賜される専用旗艦が中将でしかない自分に下賜されること自体が異常な感じで有ったが、ケスラー自身の立ち位置等が加味された結果、下賜される事になったのであった。

一応今回は対外上下賜という事にせずに、臨時に新造艦をテストに使うという名目で貸与されることにされていた。

ケスラーとメックリンガーが到着すると、工廠の関係者が現れ、挨拶をしてくる。
「ケスラー中将閣下でいらっしゃいますな。小官は造船少将ヴェルナー・フォン・ペルシュケと申します。中将は運が宜しいですな。この(むすめ)をご覧下さい」

些か怪しい言動をしながら、ペルシュケ造船少将がドックのライトを点灯させると巨大な戦艦がライトアップされた。

ケスラー達の前に現れた艦は、見慣れた標準戦艦やヴィルヘルミナ級といったシルエットではなく、テレーゼ皇女殿下の御召艦に非常に酷似していた。

「この()はエリュテイア、赤い乙女という意味がありまして、テレーゼ皇女殿下の御召艦ラプンツェル級三番艦(のいもうと)ですよ」
「なるほど、確かによく似ているが…」
「もの凄く気高く美しい姿でしょう、なんと萌萌な塗装(ドレス)でしょう。そして乙女に相応しい気品を醸し出しています」

ケスラーもメックリンガーも何とも複雑で言い辛そうな顔をしているが、担当技官は何処吹く風か、口角を飛ばしながら説明を続ける。

三番艦(三女)ですので装甲(ドレス)機関(ブーツ)アビオニクス(アクセサリー)等も格段に強化されていますし、一番艦(長女)ラプンツェルでは中央艦体後方(バスト)ブロックがワルキューレ(ビット)格納庫に、二番艦(次女)ヴァナヘイムでは雷撃艇(ファンネル)格納庫と成っていますが、その部分を索敵及び艦隊制御用大型コンピューターシステム装置に置き換えてありますので、未知の領域や小惑星帯などでの索敵や艦隊運動に格段の進歩を遂げているのです」

「なるほど、それならば、想定される戦場でも十二分な働きを期待できるだろうが…」
「そうです。後方には格納庫が残っていますが、此は新開発の(召還した)高速偵察機(使い魔)のスペースとして確保されており36()が搭載される様になっており、戦術戦略に深みが益すこと請け合いです」

やっとケスラーが少将に質問をした。
「所で少将、何故艦色が、赤色なのだ?」

ケスラーは赤色と言っているが、実際は艦体主要部がワインレッド色で更にサーモンピンク色ストライプが施されていた。つまりは赤系統色のツートンで塗装されていたわけである。
ケスラーの質問に、待ってましたとばかりに、造船少将は再度喋り始める。

「この艦の改良点は機関部にも及んでいます。ラプンツェルやヴァナヘイムに比べて機関出力は30%アップしていますので、機動性、加速性も格段の進歩なのです」
「いや、機関ではなく、何故赤いかなのだが」

ケスラーもメックリンガーも困った顔をし始める。
「通常の30%の出力である以上は、赤い色しか認められないのです!」
なんだか力説しているが、さっぱり判らない二人である。

更に艦体をよく見ると艦体中央の最も高い位置に有るセンサーユニットの天辺に帝国軍の艦艇には珍しいブレードアンテナが1本誇らしげに立てられていた。

「あのアンテナは、邪魔なのではないか?」
ケスラーの言葉を聞いた少将は更にヒートアップしながら答え始めた。
「赤で、30%増で、専用機(プリンセス)ならアンテナ(ティアラ)がないと駄目なのです」

造船少将は訳の判らない理論で捲し立ててくる。
見かねたのか、部下の造船准将が補足説明を開始した。

「失礼致します。小官は造兵准将ラファエル・タウベルトと申します。誠に申し訳ありません。少将は悦に入ると周りが見えなくなる性格でして」
造船准将は非常に気まずそうに謝る。

「それは判ったが、先ほどからの質問だが、何故赤いのか、何故アンテナが露出しているのかだが」

「はっ、赤い塗色ですが、此は現在開発中のビーム兵器を反射・拡散するシュピーゲル・コーティングを施した新素材の表面処理装甲の試験運用として開発された表面処理でして、有る程度までのビームを反射可能です。最終的には白色のシールドを更に張り付ける形で完成する予定ですが、今のところはここまでが最先端と成っております。

そしてブレードアンテナですが、ご存じのように我が軍の艦艇は全て大気圏突入の為にアンテナ類は内蔵していました。その為残念な事ですが、叛乱軍の艦艇より索敵照準等で若干劣る事がありました。それを鑑み、通常時にはアンテナの露出を行い、大気圏突入時には艦内へ収納する方式をテストすることになり、本艦が実験艦として収納式アンテナが装備されたわけです。しかし艦体上部は大気圏突入に影響がないため、そのままの状態で装着してある訳です」

造船准将の自軍の艦艇が只単に優秀であると言わずに、欠点もさらけ出した、懇切丁寧な説明にやっと、ケスラーもメックリンガーも納得できる様になった。

「なるほど、そう言うことだった訳か」
「確かに、艦隊運動では敵に一日の長があることが、エル・ファシルで捕獲した艦の分析でも指摘されていますな」

「当艦はその為に、コンピューターの増設強化をした結果、通常の三倍の演算能力を持つ事に成功し、更に艦隊運動ソフトも最新の物に変更してあるため、艦隊運動制御を通常の三倍にする事に成功しております」

「なるほど、その為にこの艦を艦隊旗艦として使用せよと言う事か」
「殿下の意図が此でハッキリしましたな」
「そうだな」

最初この真っ赤なこの艦を見たとき、ケスラーは以前テレーゼが、母上にお仕置きを受けたときに助けずに、笑っていたので、テレーゼから地味な仕返しを受けたのかと内心は思っていたのであるが、造船官の言葉を聞いて、自分の勘違いだと判ったのである。

しかし、実際には、『ケスラーと言えば、池○秀一じゃない、それならば旗艦は赤くなきゃ駄目だよね、それに三倍でブレードアンテナが無いと駄目だよね』という極々簡単な声優ネタを思い出して指示したので、ケスラーの考えも満更外れていなかったのであるが、此は禁則事項としてテレーゼ自身の胸の内にしまわれたままになった。

その数日後に行われた試運転で、悶える造船少将は、ほっておいて、タウベルト准将の監修の元で高速航法、火器管制などの試験を行い、カタログスペックを上回る機動性、管制能力を発揮しケスラーとメックリンガーを唸らせることになった。

その後正式にケスラー艦隊旗艦として配属され、ケスラー艦隊の渾名として、 rot der Kometロート デル コメート(赤い彗星)部隊と言う袖章がテレーゼ自身から渡されたが、内心ではテレーゼは非常に笑っていたのである。“やっぱ、ケスラーは赤い彗星だよ。それに乙女だから、ロリコンにピッタリ”と。 
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