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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百四十五話 M作戦

 
前書き
多少なりとも気分が良いので更新しました。

コメント返答は暫しお待ち下さい。

作戦名は、知ってる人なら知っている某特撮番組の有名な作戦名です。 

 
帝国暦484年11月5日

■オーディン 帝国印刷局

「うむ、中々の出来だが、未だ未だな」
印刷局の技師達が出来上がった紙幣を見ながらあれこれと話し合っている。
「紙質はほぼ完璧なのですが、発色の差が出ます」

「未だ未だ研究の余地有りか」
「しかし、フェザーンマルクに比べて、ディナールは作りやすいですね」
「聞くところに因ると、叛徒共は万年金欠でフェザーンからの借款で何とかしてるそうだから」

研究員にしてみれば、帝国も財政赤字に見舞われてはいるが、流石にそれを言う訳にもいかない。

しかし帝国の場合、門閥貴族の関係で放漫経営で赤字になっているような物で、原作ではラインハルトがリップシュタット戦役後に貴族の資産を没収した結果累積赤字が消し飛んだとされているため、同盟の様に完全に赤字な訳では無いのである。

「それにしても、集められた時には、フェザーンと叛徒の紙幣の偽造研究とは思っても見なかったな」
「まあ我々にしてみれば、研究だが、お偉方には作戦だからな」
「まあ、時間はタップリあるんだ、焦らずに完璧を目指そう」
「そうですな」


帝国暦485年12月1日

■オーディン ノイエ・サンスーシ 小部屋

何時ものように、この部屋に帝国の未来を考える為政者達が集まり、悪巧みをしていた。

そんな中、テレーゼが、今回のフェザーンと同盟の紙幣偽造について説明している。
「帝国の紙幣とフェザーンや叛徒の紙幣との差ってなんだか判りますか?」
「殿下の事ですから、紙幣の質とかで無い事は判りますが」

艦隊編成で忙しい中、ケスラーも参加している。
「ええ、紙質とかは関係無いのよね。我が国の通貨は紙幣も有るけど金貨も流通しているわ、そして紙幣には兌換能力(紙幣に金貨と交換出来る保証がされている)が有る」

「なるほど、フェザーンマルクも叛徒のディナールも不兌換紙幣(紙幣が金貨とは交換できない)です」
「テレーゼ、しかしその事が今回の事と何か関係があるのか?」
「はい、言っては悪いのですが、帝国マルクは政府に信用が無くても流通は可能です。それに金貨であれば地金の価値でもペイできるので、信用度が有るんですけど」

「なるほど、フェザーンマルクとディナールでは発行元の信用だけで流通している訳じゃな」
「そうです、其処へ大量の精巧な偽札が流通したらどうなるか」
テレーゼが、ニヤリとしながら語る。

「確実に流通した側の経済は混乱するはずです」
「それはそうじゃが、何処まで混乱するやら」
フリードリヒ四世も効果に疑問を持っているようだ。

「大昔、地球で世界大戦が有りました。その時ドイツがグレートブリテン連合王国(イギリス)の5ポンド紙幣を全流通量の10%も偽造し流通させた結果、戦争後に至るまで経済が混乱し、当時は国際的な通貨であったポンドが一気に衰退し、グレートブリテンの経済、国際的地位が低下し、大混乱に陥ったのです」

テレーゼの蘊蓄に皆が感心しながら、話を聞いている。
「しかし、どの様にそれだけの紙幣を叛徒の領域に流通させるのですか?イゼルローンからのスパイルートでは危険が多いのではありませんか?」

ケスラーの危惧は皆の危惧でもある。イゼルローン要塞から密かに伸びるスパイ網は極秘の物であるためそう易々と使うわけにもいかないからである。

「その点については、今直ぐに行う訳ではないのです。長期展望に基づいた計画なのですから」
「ほう、それはどの程度の物じゃ?」
フリードリヒ四世は娘の知恵を興味津々に楽しんでいる。

「はい、まずは来年早々のG作戦に依って、ヴァンフリート星域への進出で基地ごと捕獲。それが成功した後で、フェザーン経由、いやシャフト技術大将からルビンスキー経由や、偽亡命者によりヴァンフリートでの敗北を拭いたい叛乱軍宇宙艦隊司令長官ラザール・ロボス元帥と、その腰巾着のアンドリュー・フォーク中佐へ、イゼルローンツヴァイと首飾りの情報を与え、建設途中の今攻めなければ、イゼルローン回廊が難攻不落になると錯覚させ、大艦隊を誘き寄せ、B作戦で撃退します」

「殿下の仰る様に事が運びますか?」
ケーフェンヒラーが危惧したように話す。
「そうですね、確かに机上の空論と言えますが、叛徒の主立った者達の性格や思考を総合的に研究させた結果、乗ってくる確率が非常に高いと出ました」

「485年はヴァンフリート星域、第6次イゼルローン要塞防衛戦で大規模戦闘は終わると思います。その辺は帝国軍三長官に釘を刺す必要が有りますけど」

「テレーゼ、仮に思惑通り、叛乱軍が大損害を受けたとしてそのまま畳みかけた方が良いのでは無いか?」
フリードリヒ四世の疑問は参加者全員の疑問でも有った。

「では父上、仮にこのまま叛乱軍を撃退し叛徒共を征服したとして、その後どうなさいますか?」
逆に質問返しを受け、フリードリヒ四世も考えてしまう。
暫く考えた後、徐に答える。

「新領土として分割統治する訳にもいかないと言う事か」
「そうです。叛徒は民主共和制という衆愚政治にドップリ浸かっています。今現在は叛乱軍として攻めかかって来ていますけど、軍が消滅すれば、後は民衆による終わりのないゲリラ戦が続くでしょう」

「しかし、それならば鎮圧すれば良いのでは?現に貴族の叛乱では鎮圧に成功していますし」
さしものケスラーも同盟市民の感情までは推し量れないようだ。

「ケスラー、考えても見て、貴族の叛乱と叛徒の叛乱は全く別物よ。貴族の叛乱は親玉達を潰せばお仕舞いだけど、叛徒は叛徒の領土全域でゲリラ戦を130億近い者達が繰り広げるのよ。しかも自然発生的に次ぎ次ぎに起こる叛乱を静めたとしても又何処かで叛乱が発生するという鼬ごっこでいつまで経っても終わらないわ。そうなれば、帝国軍全軍を廻したって足りないわね」

「そうですな、長く叛乱軍の捕虜となっていた儂にすれば、殿下の考えは当を得ていますな」
ケーフェンヒラーがテレーゼの話に理解を示す。
「なるほど、一罰百戒をしても無理だと」

「そうなるの、彼等は帝国からの逃亡者だからこそ、帝国の支配下に入るのを徹底的に拒絶するだろう」
「その為には、帝国の損害を減らしながら、叛乱軍の戦力を徹底的に減らして、経済的に二進も三進も行かないようにする事が必要なのです」

「テレーゼ、それは何故かな?」
「敵が攻めてくるかも知れない状態なのに、軍に大損害が出たら、どうすると良いでしょうか?」
「うむ、構わず徴兵と、徴集か…なるほどそう言う事なのじゃな」

阿吽の呼吸で娘の言いたいことが判ったフリードリヒ四世、流石父娘である。
「はい父上、叛徒共の首魁はなりふり構わず徴兵するでしょう、更に増税と赤字国債の大規模発行、更に経済的な裏付けのない紙幣の大発行を行うでしょうね」

「確かに、どんなに嫌でもそうするしか有りません」
「大規模なインフレと、社会的な労働力の枯渇、返す当てのないフェザーンからの借款、それにも係わらず自分達の利益を貪欲に求める起業家と政治屋達、そして死ぬのは末端の可哀想な市民達と来れば」

「反戦運動が起こるわけですな」
「ケスラー正解、まあ帝国にも大学生を中心に反戦運動が有るけど、以前なら帝政打倒と一緒に叫ばれていたのが、今はその辺が減ってきているけど、それに学生運動って一刻な熱病みたいな物なのよね。大学という特殊な箱庭で頭を働かした結果かな」

「殿下、今まで社会秩序維持局が反帝国、反帝政、反戦運動は厳しく取り締まりをしていたのですが、解体後に特別高等警察が逮捕だけして処分保留になっていますが、殿下のご指示ですか?」
「ええ、彼等を殺すだけでは、未だ未だ十分な利用価値のある人材が勿体ないじゃない」

「しかし、反帝国主義者達はどの様にしても矯正は不可能と愚考しますが」
「ケスラー、考え方の違いよ、私は別に帝国で使おうって言ってないわよ」
テレーゼの言葉に皆が意味がわからない顔をする。

「彼等は、隠れ共和主義者といえましょう。彼等から没収した共和主義に関する禁書を読んでみたけど。綺麗な物ね」
テレーゼが、未だ未だ幼いが母親譲りの端正な顔をにやつかせながら皮肉を吐き捨てる。

「殿下は、発禁書をお読みで?」
ケーフェンヒラーが驚いて質問した。
「ええ、古代の有名な諺に“敵を知り、己を知れば、百戦危うからず”ってあるでしょ。それを実践しただけよ」

「なるほど」
「それで、いやはやチャンチャラ可笑しいわってレヴェルよ」
「どの様な感じで?」

「理想論ばかり書いてあるのよ。共和主義は“人民の人民による人民のための政治”とか“天は人は人の上に人を作らず人の下に人を作らず”とか、それなら何故、叛徒には金持ちが居るのかしら、大勢の貧乏人が居るのかしらね。完全な理想でしかない事を真面目に論じてるんだから、おとぎ話の方が未だ未だ現実的だわ」

テレーゼの比喩に参加者に笑いが起こる。
「なるほど、純粋培養の共和主義者にしてみれば、現在の叛徒共は理想を汚した者達に映るか」
フリードリヒ四世の鋭さがテレーゼの言いたいことを察したようだ。

「ええ、何れ時期が来たら、彼等を叛徒共の元へ亡命させます。更に前々から向こうの社会に溶け込んでいる草に社会的弱者を救済する政治団体を作らせ、団体員による反戦運動を起こさせます。恐らく亡命した連中は理想と現実のギャップから、その誘惑に勝てずに参加してくる者も多いでしょう。そうなれば、大きな社会運動になります」

「つまりは、帝国の不安分子を叛徒の不安分子に変えると言う訳じゃな」
「そんな感じですけどね。尤も叛徒の首魁共は自分達の手足として、憂国騎士団を筆頭とする暴力組織を持って居て、反戦活動などを叩き潰しているそうです。しかも官警がそれに荷担しているとかで、何処が民衆共和制なのやら、全く帝国より酷い状態ですね」

「そうなると、反戦活動をさせても無駄なのでは無いのでは?」
「ケスラーの疑念も確かですけど、その辺は良いんですよ。政治団体は隠れ蓑、実際はその影で社会的弱者集めて彼等を中心にM作戦を行うのが目的の一つですから」

「M作戦?」
「マネーのMです。つまり作成させている偽札を大量に社会的弱者などの同盟市民に配布し経済的な裏付けの無いディナールを大暴落させる訳です。コーヒー一杯飲むのにトランクいっぱいの紙幣が必要で、一片のパンを求める市民が大暴動を起こす。なんて素晴らしいのでしょう」

ニヤニヤと笑うテレーゼに皆がどん引きした。

「それに、帝国にもメリットがありますから」
「なんじゃ?」
「一に危険分子を追放できる。二に叛乱軍が攻めてこない。まあ自棄になって攻めてくるかも知れませんけど。三に叛徒の大混乱にあんな土地を征服してもどうにもならないと、帝国内に知らせることが出来る。まあ門閥貴族には判らないかもしれませんけどね」

「うむ、それが長期展望と言う訳か」
「はい、もう少しあるんですけどね。叛乱軍を誘き寄せて壊滅的打撃を加えるという作戦も」
「それは?」

「叛乱軍が今後487年までにイゼルローン要塞を攻略すれば、一気に叛乱軍、フェザーン、寄生虫状態の門閥貴族を潰す機会が訪れるのです」
テレーゼの言葉に今度こそ皆が押し黙る。

勇気を持ってケスラーがテレーゼに話しかける。
「殿下、お言葉ですが、イゼルローン要塞はそう簡単に陥落する事は有りません」
「ええ、それは判っているけど、皆が言うように難攻不落など言葉の文に過ぎないのよ。私が叛乱軍の艦隊司令なら、半個艦隊と陸戦隊一個連隊それに帝国の巡航艦数隻と、帝国の軍服300着で陥落させれるわよ」

「テレーゼ、それはどのようにじゃ?」
「簡単な話です。イゼルローン要塞付近に電波妨害をし、帝国領土方面への連絡を断ちます。其処へ密かにカプチェランカから救援を求めて来た巡航艦が叛乱軍に追撃されていたら、その艦隊により数隻の艦艇が目の前で沈んでいく様を見たら」

「駐留艦隊は出撃するでしょうな」
「そうしておいて、ティアマト辺りまで、駐留艦隊を引きつけておいて、追撃されていた巡航艦が入港、そして要塞司令官に面談する。しかしそれが叛徒の陸戦隊の変装だったら?」

「為す術無く、要塞司令部が敵手に落ちるか」
「しかし、要塞には装甲擲弾兵など数十万の兵が居るので、司令室ぐらいサブシステムに切り替えれば良いのでは?」

「其処で、敵が気圧を下げたらどうなるかでしょ」
「皆昏倒するわけじゃな」
「そうです、そうしておいて、トールハンマーでのこのこ帰って来た、駐留艦隊をなぎ払えば、イゼルローン要塞は陥落です」

テレーゼの言葉に、皆の顔が凍り付く。
「陛下、直ぐにイゼルローン要塞の防衛計画を練り直しませんと」
「確かにそうじゃ」

テレーゼ以外の参加者が慌て始めるなか、テレーゼが更に捲し立てる。

「イゼルローン要塞は態と陥落させなければならないのです」
テレーゼの言葉に一気に温度が下がり、ケスラーは冷や汗までかき始める。
「殿下、イゼルローン要塞が陥落すれば、帝国は侵攻される事になります」

「ええ、それが狙いよ。間違いなく、叛徒は帝国領侵攻を行うでしょう、彼等はランチェスターの法則を知らないらしいから、何と言っても叛乱軍の戦闘艦艇はかき集めても最大20万隻程度でしか無いのにもかかわらず、40万を超える帝国軍に勝てると思ってるらしいですから。

恐らくは“民衆の味方の我々が来れば、民衆はこぞって味方して呉れるでしょう”とか言いそうだわ。そんな作戦立てること自体、帝国軍の実力を過小評価しているからこそでしょうね。其処で焦土作戦を行い、帝国奥深くまで引きずり込んで撃滅するのです」

「テレーゼ、その様な事すれば、臣民に塗炭の苦しみを味あわせる事と成る」
「大丈夫ですわ、その為に金髪を元帥にして、監視しているオーベルシュタインを参謀としてねじ込むのですから。金髪を迎撃艦隊の司令官に任命すれば勝手に、自分達で焦土作戦をしてくれますから。あとは三長官と国務尚書が処分してくるでしょうから、忠誠を尽くしてくれる人材はトコトン優遇し大切にするけど、牙をむく連中に情けは無用ですから、精々帝国の為に使ってあげましょう」

恐ろしい事を言うテレーゼにルドルフ大帝の影が見えたとか。
尤も、その後、イゼルローン要塞陥落、焦土作戦、叛乱軍撃滅、フェザーン関連の作戦を聞いた皆の顔に安堵した様子が見えたのであるから、悪影響を知っている、テレーゼが原作通りの作戦をするわけが無いのであると言えた。
 
 

 
後書き
ヤン・ウエンリー、それはテレーゼの罠だ!! 
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