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帰ると

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第一章

                帰ると
 森山末吉はこの時携帯で日本にいる先輩の堀江康文にこう言っていた。
「いや、やっとですよ」
「日本に戻れるな」
「長かったですね、今回は」
 黒髪をショートにした小さな目を持つ面長の顔で言った。眉は細く短めで背は一七一位でひょろりとしている。
「タイでの仕事は」
「二ヶ月だったからな」
「ええ、本当に」
「うちは長期出張も多いからな」
 堀江は森山に笑って言った、長方形の顔でスポーツ刈りにしている黒髪の量は多く丸く小さい目である。背は一七三位で恰幅がいい外見である。
「仕方ないな」
「ですよね、ただ予定は三ヶ月でしたね」
「それが二ヶ月で終わったからな」
「まだいいですね」
「後はタイ支社の方でしてくれるからな」
「俺はこれで帰国ですね」
「明日からな、それで帰ったらどうするんだ?」
 堀江は携帯の向こうの後輩に笑って尋ねた。
「それで」
「もう後はですよ」
 森山は堀江に明るく笑って答えた。
「俺は新婚ですからね」
「もうその足で家に戻ってか」
「妻と」
「いいな、新婚さんは」
 堀江は後輩ののろけにも笑って言った。
「こうした時は」
「先輩も奥さんいますよね」
「結婚して五年経つと結構お互い慣れてな」
「もう帰ってじゃないですか」
「定期的にやるな、子供もいるし」
 こう末吉に返した。
「もう毎晩とかはな」
「そうなるんですね」
「それでもやることはやるけれどな」
「ですよね、じゃあ」
「ああ、日本に帰ったらな」
「すぐに家に帰ります、妻に早く終わったことは言ってないです」
 森山は笑ってこうも言った。
「早く帰って驚かせたいんで」
「おいおい、それは言えよ」
「言わないで驚かせるのが楽しいんじゃないですか」
 笑って返す森山だった、そして。
 日本に着くとすぐにだった、家に入ると。
 玄関に見慣れない女ものの靴が一足あった、最初は妻のかなが買ったものかと思った。だが家の中に入ると。
 部屋、マンションのその奥から喘ぎ声が聞こえてきた。まさか妻に限ってと思ったが喘ぎ声は妻のもの以外にも。
 もう一つあったが女性のものだった、森山はこれはどういったことかと思ってすぐに声が聞こえる寝室の方に行った。そして。 
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