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パープルロマンス

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第二章

「本当に」
「いえ、三十一になりましたが」
「それでもですか」
「はい、これまでです」
 それこそとだ、しのぶは後輩に微笑んで話した。
「そうしたこととは無縁です」
「意外ですね」
「そうですか」
「はい、まあそういう人生もあるということで」
「それで、ですか」
「過ごしています」
 こう言うのだった、だが。
 しのぶは酒は好きでよく飲んだ、それであるバーのカクテルが美味しいと聞いてその店に行った。すると。
 そこには新堂がいた、彼はしのぶを見て瞬時にだった。
 心を奪われた、それはしのぶも同じで。
 新堂を見てはっとなった、そしてだった。
 じっと彼を見たままカウンターの席に座った、だが。
 そこで何も言わなかった、それは新堂も同じで。
 店の若い娘がしのぶに尋ねた。
「ご注文は」
「あっ、はい」
 しのぶは言われて気付いた。
「そうでしたね」
「何を注文されますか」
「そうですね」
 少し考えてから娘に答えた。
「ジントニックを」
「そちらですか」
「お願いします」
「ジントニックです」
 娘は今度は新堂に言った。
「お願いします」
「・・・・・・・・・」
 新堂は返事をしなかった、じっとしのぶを見ている。だが。
「新堂さん」
「あっ、何かな」
 名前を呼ばれてようやく我に返った。
「一体」
「注文入りました」
「何かな」
「ジントニックですよ」
 すぐにだ、娘は彼に答えた。
「今入ったじゃないですか」
「ああ、そうだったんだ」
「はい、宜しくお願いしますね」
「それじゃあね」
 まだ呆然としている、だが。
 カクテル自体は流石と言うべき手捌きで作って出した、カクテルはすぐにしのぶの前に置かれた。そして。
 しのぶはそれを飲んだ、だがその間もだった。
 しのぶは惚けた様な顔で新堂を見ていて新堂もだった。
 ずっと彼女を見ていた、そしてしのぶは数杯カクテルを注文して飲んで。
 店を出たが新堂はその後で娘に言った。
「あの、さっきの人だけれど」
「どうしました?」
「いや、凄くね」 
 こう言うのだった。
「奇麗だったね」
「確かにお奇麗でしたね」 
 娘もそのことは同意だった。
「さっきの人は」
「うん、あんな奇麗な人いるんだ」
「そうですね」
「またこのお店に来るかな」
「あれっ、新堂さんまさか」
 娘はここで気付いた、そして。
 しのぶもだ、次の日後輩に市庁舎でこう言った。
「昨日素敵な人にお会い出来ました」
「素敵な人?」
「はい、カクテルが美味しいと聞いたバーに行ったのですが」
 こう言うのだった。 
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