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パープルロマンス

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第一章

               パープルロマンス
 新堂比呂は細い目で黒髪をショートにしている、やや中性的な顔立ちでほっそりとしている。唇は小さく表情はいつも穏やかだ、背は一六五程ですらりとしている。
 職業はバーテンダーで県でも屈指の腕前で知られている、どんなカクテルも見事に作りオリジナルも生み出している。
 いつも店のカウンターで華麗とも言える捌きでカクテルを作っている。その彼がある常連の客初老の彼に問われた。
「あんた結婚はしてるかい?」
「いえ、独身です」
 新堂は客にすぐに答えた。
「僕は」
「そうなのか」
「はい、三十四になりますが」
 それでもというのだ。
「生まれてこのかた恋愛とは」
「縁がないのかい」
「そうなんですよ、昔からもてなくて」
 客に笑って話した。
「それで今まで誰かと付き合ったこともないです」
「意外だね」
「意外ですか」
「バーテンさんみたいな顔だとね」
 新堂のその顔を見て話した。
「絶対にだよ」
「相手の人がですか」
「いるものだがね」
「いえ、本当に今までなんですよ」
 新堂はその客が注文したカクテル、モスコミュールを作りながら答えた。
「誰ともです」
「付き合ったことがないんだね」
「そうなんです」
「それじゃあこれからは」
「いえ、もう誰かを好きになるとかもなかったですし」
「もてたこともなくてかい」
「はい、これといって」
 こう客に話した。
「ですから」
「これからもか」
「僕は一生誰とも付き合わず独身ですよ」
「それでいいのかい?」
「その方がわずらわしくないですよ」
 やはり笑って言った。
「ですから」
「そうなんだな」
「はい、それじゃあカクテル出来ましたから」
「ああ、それじゃあね」
 客は自分が注文したモスコミュールを受け取った、そうしてその酒を飲んだが彼の恋愛については寂しさを感じた。
 そしてもう一人だった、こんな考えの人間がいた。
 早見しのぶは白く先が尖った白い顔をしている、黒目がちの大きな目を持っていて眉は細く長いもので背は一六四程でスタイルは結構なものだ、少し癖があるが奇麗な黒髪を後ろで束ねている。政令指定都市の市庁舎で若いながら管理職として働いている。
 その彼女が職場で後輩に聞かれていた。
「課長はお相手の人は」
「はい、いないです」
 奇麗な澄んだ上品な声で微笑んで答えた。
「私は」
「そうなんですか」
「どうもそうしたことは私に縁がない様で」
 それでというのだ、後輩と共に市庁舎の食堂で昼食を食べながら話した。
「これまで一度も告白されたことはないです」
「そうなのですか」
「はい、そして誰かを好きになったことも」
 告白されたこともでというのだ。
「ないです」
「そうですか?」
「はい、どうも私に恋愛は無縁の様で」
 それでというのだ。
「ですから」
「そうですか、意外ですね」
「意外ですか」
「課長位の人ですと」
 国立大学を優秀な成績で卒業して市の上級職員として就職して今に至る、そしてその顔立ちとスタイルも見て後輩は言った。 
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