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提督はBarにいる。

作者:ごません
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提督と艦娘とスイーツと・71

   ~アクィラ:豆腐チーズケーキ~

「どうだ、美味いか?」

「ひゃいこぉれす♪」

 フォークを口に突っ込んだまま、蕩けるような笑顔を浮かべているのはアクィラ。リクエストされたのはスフレチーズケーキだった。が、とある娘達の要請でちょいとレシピを特殊な物にしてある。

『しかし……言われてみれば確かに』

「どうしたんです?提督。アクィラの顔をまじまじと眺めて……はっ!?まさか、提督はアクィラの事を」

「ねぇよ。これでも愛妻家なんだぞ俺ぁ」

 どの口が言うか、と言われそうだが俺は自分で自分を愛妻家だと思っている。ケッコンカッコカリした相手に求められれば拒みはしないし、そういう事を致している最中に『好き』だの『愛してる』だのクサい台詞を吐いた事なんぞ数え切れない程ある。それでも、俺から好きだと告げて結婚して欲しいとプロポーズしたのは金剛一人だけだ。これを特別だと豪語する気はないが、今までもそしてこれからも、俺は金剛以外に自分から惚れた女はいないと自信を持って言える。それが俺なりの愛妻家である根拠だ……って、話の本題がズレてるな。

「アクィラ」

「? なんでしょう」

「……お前、太ったろ?」

 ピシリ、と音を立てて空気が固まった様な感覚がある。その証拠に、アクィラが表情も姿勢もそのままに固まっている。口に運んだフォークも咥えたままだ。

「なっ、ななな、何を根拠にそんな」

「明石、ローマ、それに装備・服飾関係の妖精さん」

 びくんっ、と椅子の上でその身体が跳ね上がるアクィラ。その顔は青ざめ、あからさまに目を俺から逸らそうとしている。

「少なくともこの三者から俺に苦情が来てるんだよなぁ、アクィラ。『アクィラの身体がだらしない事になってるから、どうにかして欲しい』ってな」

「嫌ああああぁぁぁぁっ!」

 俺の無慈悲な発言に、聞きたくないと言わんばかりに耳を塞ぎ、頭を左右に振るアクィラ。その度に頬や顎の下の辺りがたるん、たるんと揺れている。割と小顔が自慢だった娘が丸くなってると、いっそ憐れにすら思えてくるな。




「あのなぁアクィラ、艦娘の艤装ってのは意外とデリケートでな。多少の遊びは持たせてあるが、基本的に一人一人の身体データに合わせて微調整されてんだよ」

 身体に直接接続して使う物なのだから、当然っちゃあ当然の話だ。姉妹艦ならばある程度の互換性もあるが、それでも100%の力は引き出せない。

「うぅ……」

「それにな、艦娘は怪我は修復剤で治せても病気は治せないんだ。知ってるだろ?」

 怪我や部位の欠損は治せても、風邪や細菌・ウィルス性の病気、果ては花粉症なんかのアレルギー症は治せない。だから体調管理はある意味艦娘の仕事の一環と言える。

「その中でも厄介なのが生活習慣病……糖尿病やら高血圧やら、放っておくと重大な疾患に繋がりかねない物だ」

「……………」

 アクィラは俯いたまま黙り込んでいる。

「特に肥満は見た目痩せてても内臓脂肪が溜まっている場合もあるから、それが発覚した時には手遅れなんてザラにある話なんだぞ?」

「…………んです」

「ん、何だ?」

 アクィラがぼそりとなにかを呟いた。

「全部この鎮守府が悪いんじゃないですか!ご飯も!おやつも!夜のお酒だって!全部全部、美味しすぎるのがいけないんですぅ!」

 わあぁぁぁ~んっ、とテーブルに突っ伏して泣き叫び始めるアクィラ。俺もその態度に黙り込んでしまった。勿論、呆れてだが。




「いやそこは自重しろよ」

「むりですぅ!」

「なら運動しろや」

「いやですぅ!」

 ダメだこりゃ。ローマ他イタリア組の連中に、フリーダムな性格の奴が多いイタリア艦の中でも、アクィラは我が儘……というか、『辛いことはしたくない、楽しいと感じる事だけしていたい』という困ったちゃんだとは事前に聞いていたが、ここまでってのは予想外だ。

「……なら仕方ねぇな。アクィラ」

「ふぇ?」

「お前は解体処分だ」

「え?」

「聞こえなかったのか?お前は解体処分にする。艦娘としての能力を剥奪し、生涯監視付きの生活を送ってもらう」

「な、何でですかっ!?」

「当たり前だろうが。ウチは軍隊だぞ?自己管理も出来ねぇ、このまま行くとその内戦えなくなる兵隊を養う余裕はねぇ」

 ウチは他に比べれば規律は弛い方だろう。訓練は厳しいし仕事はキツイが、その分普段の生活の制限は無しに等しい。外出も煙草も酒も、駄目だと言ったことは無い。だが、あくまでもそれは『軍務に影響が出ない場合に限り』だ。出撃前に飲もうとしてる飲兵衛はキチンと叱るし、仕事と私生活は分けろ、が俺の口癖でもある。

「そんなぁ……」

「当たり前だろうが。そういう奴の事を日本じゃ『穀潰し』ってんだ。真面目に働いてる奴の分の飯を、働かずに食う害虫同然の扱いでな」

「が、害虫……」

 本当の所、アクィラは仕事をしていない訳ではない。燃費が悪く、航続距離が短いために近海での任務が多いがその分、貴重な航空戦力として重宝すらされている。

「なぁアクィラ、このチーズケーキ美味かったろ?」

「?……は、はい」

「実はな、これ豆腐が入ってて普通のチーズケーキの半分以下のカロリーなんだ」

「えぇっ!?こんなに美味しいのに……」

「なぁアクィラ、3日猶予をやる。その間にどうするか真剣に考えろ。今後も艦娘として生きていくのか否か」

 目に涙を浮かべたアクィラの頭を、くしゃりと撫でてやる。

「もし覚悟が決まったら……生活改善は手伝ってやる。任せとけ」

 そう言ってニヤリと笑う。ウチの嫁さんが煩くてな、美味しいのに低カロリーなダイエット向けメニューは結構知ってるんだ。

「はい……!」

 3日後、アクィラは執務室を訪れて頭を下げて来た。『今後も艦娘として働かせて下さい』と。後は俺が全力でサポートしてやるだけだ。    





「ひぃ……ひぃ……提督の鬼ぃ~!」

「ほらほら、アクィラさん?喋る元気があるならまだスピードアップ出来ますよね?(ニッコリ)」

 鎮守府の運動場には、ひたすらトラックを走らされるアクィラと、微笑みを浮かべたままその後ろを追いかける神通の姿があった。

「お~お~、意外と頑張るじゃないかアクィラの奴」

「提督、貴方アクィラのダイエットを手助けするんじゃなかったの?」

 執務室の窓からその様を眺めていると、今日の秘書艦のローマが尋ねてきた。

「ん?ちゃんと手助けはしてるぞ?アイツの飯とオヤツは俺がきっちりとカロリーと栄養素のコントロールしてるからな」

「なら、それだけでも……」

「だが、運動させないとは言ってない」

 そもそも、生活改善をしたいと言い出したのはアクィラの方だろう?俺はそれを『全力で』サポートしているだけだぞ。

「健康的な身体ってのは、適度な運動とバランスの取れた食事、そして適度な睡眠から成り立つ。基本だろう?それに、運動して腹減らしゃあその分飯が美味いからな」

 ダイエットメニューの若干味気無い食事でも、空腹という最高の調味料が加わればどんなご馳走にも勝るだろう。

「貴方、本当に悪党だわ」

「ありがとよ、最高の誉め言葉だ」

 そう言って俺は煙草を咥え、紫煙を楽しんだ。
  
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