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提督はBarにいる。

作者:ごません
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提督と艦娘とスイーツと・EX7

    ~雷:クリームソーダ~

「あ、ホラ司令官!鼻の頭にアイス付いてるわよ?」

「ん、あぁすまん」

 テーブルの向かいに座った雷が、身を乗り出してハンカチで拭いてくる。

「まったく、いつまでもお子様なのね」

「あ~、雷?」

「なになに?どうしたの司令官?」

「俺の世話を焼くのもいいが……もう少し落ち着いて飲んだらどうだ?」

「それは司令官が世話が焼けるのが悪いんじゃない!」

「そうかぁ?」

 別に雷が拭かなくても、『鼻の頭にアイス付いてる』と指摘すればいいだけの話だと思うんだが。俺だってハンカチ位は持ってるしな。

「とにかく!司令官は手のかかる人って事よ」

「へいへい、もうそれでいいよ……」

 いきなり執務室に押し掛けて来て、『クリームソーダが飲みたいわ!』と元気一杯に宣言するのもかなり面倒な人間の類いだと思うんだが。

「それにしても……」

「ん、どした?」

「何で司令官のクリームソーダは緑じゃないの」

「いや、そもそもクリームソーダ=緑って認識が間違いだからな?」

「え、そうなの?」

 そもそもクリームソーダってのは、『炭酸飲料にアイスクリームもしくはソフトクリームを乗せた(フロート)物』っていうのが定義であって、緑色のサイダー……つまりはメロンソーダにアイスの乗った物=クリームソーダというのは正確ではない。

「更に言うならそれは『日本の』クリームソーダだからな」

「えっ、世界的にクリームソーダってコレじゃないの!?」

「あぁ。世界的にクリームソーダってのはバニラとかでクリームの様な風味を付けた炭酸飲料の事らしくてな。しかもよく使われるのはコーラかルートビアらしい」

 ルートビア、と聞いて雷の顔が歪む。マズい物を食べた時にしそうなウェッて顔だ。ルートビアを知らない人の為に説明すると、メンソールの風味と甘味の強い炭酸飲料だ。俺も飲んだ事があるが……味は『飲むサロンパス』って表現がピタリと嵌まる。あの喉を通り抜けていくメンソールのスースーする感じと、鼻に猛攻撃を仕掛けてくる湿布臭さがクセになるって奴もいるらしいが、俺には無理だった。

「アレにバニラの香りを加えるの?うわぁ……」

「更なる悲劇の予感しかしないだろ?」

 好きな奴はホントに好きらしいんだけどな、アレ。





「でもやっぱり、クリームソーダはこの形が美味しいと思うわ!」

 雷はあくまでもメロンクリームソーダが一番だと言いたいらしい。まぁ、大体の店で『クリームソーダ』っていうとメロンクリームソーダが基本だもんな。やっぱこれが一番美味いからなんだろうか?

「確かにな。このどぎつい緑色のソーダに、砕いた氷、その上にアイスクリーム。てっぺんにシロップ漬けのさくらんぼ。クリームソーダって言われるとこのビジュアルが出てくるもんなぁ」

「でしょう?」

 ふふん、と雷は胸を張る。お前が威張る意味が解らんのだが。そういうちょっとした仕草を見ると、しっかりしててもやっぱり暁の妹なんだなぁって思うわ。

「……あ、アイスが半分位になったな」

 よし、いつものやるか。俺はストローを引き抜いてからスプーンを手に取り、アイスの土台になっている砕いた氷の下まで差し込む。そしてクルンとひっくり返し、アイスをソーダの中に沈める。

「ちょ、ちょっと司令官!何してるのよ!?」

「何って、混ぜてんだよ。メロンソーダとアイスを」

 そんな会話を交わしながら、アイスをソーダと混ぜる為にスプーンを上下させながらアイスを崩していく。やがてアイス溶けて混ざり、メロンソーダの鮮やかな緑がパステルグリーンに変わった所で、ストローを再び差し込んでズルズルと啜る。このメロン味とアイスのバニラ風味のクリーム味とが混ざった独特の味!これぞクリームソーダの味だよな。

「……で?何でお前はそんなに怒ってんだよ雷?」

 目の前の雷は膨れっ面だ。

「司令官、いい大人がそんなお行儀の悪いことして恥ずかしくないの?」

「ん?何処が行儀悪いんだよ」

「だってそんな風にガシャガシャアイスと飲み物を混ぜちゃうなんて!」

「なぁ雷、お前はアイスとソーダを混ぜるのがいけないって言うのか?」

「そうよ!それが何か変かしら?」

「あぁ、変だなぁ」

「どこが変だって言うのよ!」

「混ぜるのが駄目なら、最初からメロンソーダとアイスクリーム、別々に頼めば良いじゃねぇか」

「あ」

 俺の指摘にハッとした表情になる雷。気付いたらしいな。そう、雷の言う通り混ぜるのがご法度だって言うならメロンソーダとアイスクリームをハナから別々に頼めばいい話だ。それをわざわざ氷を砕いて敷き詰めるという手間を踏んでまで飲み物の上にアイスクリームを乗せる、という事は見た目を華やかにするという視覚的効果もあるかも知れないが、混ぜて味の変化を付ける事を前提にしていないとおかしな話だ。

「だから別に混ぜたっておかしな話じゃないんだぜ?溢さないように静かに混ぜてるしな」

「なんだかとってもショッキングだわ……」

「まぁ、どうやって飲んでも美味いんだから良いだろ?」

 まぁ、ゆっくり味わって味の変化を楽しむってやり方もあるにはあるけどな。




 グラスの中身は空になり、残るはてっぺんに飾られていたさくらんぼを残すのみだ。

「懐かしいなぁ、ガキの頃はよく弟達とこのさくらんぼの取り合いしたっけ」

「司令官の弟さん達は何をしてるの?」

「ウチは弟が2人に妹が1人居てな。上の弟は本土で軍の整備士、下の弟は医者をやってるよ」

「妹さんは?」

「今大学院生だな」

「えっ?」

「えっ?」

 一瞬シン……と静まり返る執務室。

「司令官……の妹なのよね?」

「あぁ、そうだぞ」

「……幾つ違うの?」

「確か……21コ下だったか」

「ええええぇ!?そんな歳の離れた妹がいるの!」

「あぁ、たまに帰省して散歩してると同級生とかによく言われてなぁ。『お前いつの間に結婚したんだ!』ってよ」


いやホント、我が事ながらビックリするわ。

「はぁ~……司令官の家族って不思議が一杯ね」

「そうかぁ?割と普通だと思うが」

「どの辺がよ!」

 そんな会話を交わしながら、さくらんぼを口に含む。種をペッと吐き出し、手にはさくらんぼのヘタが残る。

「雷、俺の特技を見してやるよ」

「?」

 と首を傾げる雷。さくらんぼのヘタを口に含み、舌で捏ね回す。

「ほれ!どうだ、さくらんぼのヘタ結び。俺結構得意なんだよな~……ってどうした?顔赤いぞ?」

「し、し、し……」

「んん?」

「司令官のスケベーっ!」

 という顔を真っ赤に染めつつ若干涙目な雷からビンタを貰う。

「何故にっ!?」

 そのまま部屋を飛び出していった雷に後日尋ねた所、

 さくらんぼのヘタが舌で結べる
   ↓
 キスが上手い
   ↓
 司令官はテクニシャン
   ↓
 司令官はスケベ

 という事らしい。全くもって殴られ損な気がするが、まぁいいか。

 
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