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とある3年4組の卑怯者

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17 恋人(ささやまかずこ)

 
前書き
 自分の代わりに堀内によって負傷した笹山に対して罪悪感を覚えた藤木は、放課後に見舞いに行く事を決める。そして藤木は永沢の言葉からあるけじめをつけようとする!! 

 
 藤木は永沢、山根と下校していた。
「藤木君、今日は大変だったね。笹山さんを必死で庇った君はカッコよかったよ」
「山根君・・・」
「でも藤木君は笹山さんを怪我させたんだ。君も全く悪くないとも言えないよ」
 永沢が嫌みたっぷりに言った。
「永沢君、そんな言い方しなくてもいいだろ!?藤木君は助けを呼んでもないのに笹山さんから庇ってもらったんだ!たとえ藤木君が悪いとしても、藤木君は反省しているし、笹山さんを心配しているよ!そうだろ、藤木君!?」
 山根が藤木を擁護した。
「うん、だから後で笹山さんの家に行こうと思っているんだ」
「うん、それがいいね。笹山さんもきっと喜ぶよ」
 山根が励ました。永沢は藤木と山根のやりとりをドラマのようでくだらないという目で見ていた。

 藤木は笹山の家へ向かっていた。藤木は未だに永沢の言葉を気にしていた。
《藤木君、君は笹山をどうして守ったんだい?君にはリリィという好きな人がいるじゃないか?》
(好きな子が二人いるなんて卑怯で図々しいよな・・・。兎に角、僕は笹山さんの事は・・・)
 その時、城ヶ崎と途中で交わった。
「あら、藤木」
「城ヶ崎さん」
「藤木ももしかして笹山さんの家に行くの?」
「そうなんだ。リリィと一緒に行くつもりでね」
「リリィさんは笹山さんの家を知ってるの?」
「いいや、だから案内しようと途中の別れ道のところで待ち合わせるつもりなんだ」
「そう、じゃあ三人で行きましょう」
「そうだね」
 藤木と城ヶ崎はリリィとの待ち合わせ場所でリリィを待ち、リリィと会うと笹山の家へ向かった。
「こんにちは」
 笹山の母が出迎えた。
「あら、藤木君に城ヶ崎さんね。そちらの子は・・・」
「リリィと言います」
「ああ、そうね、上がってちょうだい。あの子は今自分の部屋にいるわ」 
「あ、あの、おばさん・・・」 
「どうしたの?」
「笹山さんを怪我させたのは僕なんです。本当にごめんなさい!!」
「え、かず子は藤木君を守ろうとして怪我したんじゃ・・・」
「はい、僕を庇ったんです。僕は本当に申し訳なくて・・・」
「でもあの子は藤木君に助けて貰ったからそのお返しで守ってあげようとしたって先生からも電話で聞いたわよ」
「え、そうですか・・・」
 藤木たちは笹山の母に笹山の部屋へと通された。笹山は宿題をやっている所だった。口内の傷口に脱脂綿を当てながら。
「かず子、城ヶ崎さんたちが見舞いに来たわよ」
「え、皆、私のために・・・?」
「ええ、そうよ」
 藤木、城ヶ崎、リリィが入ってきた。笹山の母は「ごゆっくり」と言って部屋を出た。
「笹山さん、口の傷はどう?」
 城ヶ崎が聞いた。
「ええ、脱脂綿を当てていたからさっきよりは喋れるようになったわ。でも欠けた歯の治療で明日は歯医者で学校に遅れるわ」
「そう、でもよかったわ」
 リリィと城ヶ崎はホッとして笹山と話をして楽しんだ。しかし、藤木は黙ったままだった。
(笹山さんに何て言えばいいんだろう・・・)
 やがて、リリィに城ヶ崎は帰ることになった。
「それじゃリリィさん、帰ろうか。藤木は?」
「僕は笹山さんと話したいことがあるんだ。先に帰っててくれるかい?」
「分かったわ、さようなら」
 リリィと城ヶ崎はその場を去った。藤木と笹山の二人きりとなった。
「藤木君、話したいことって・・・?」
 藤木は永沢が言ったことを思い出していた。なぜリリィが好きでありながら笹山を助けたのか、そしてどちらをとるのかけじめをつけるべきであることを。
「笹山さん、僕を庇ってくれてありがとう。でもケガしたのは僕にも責任を感じているよ」
「藤木君、もういいのよ、藤木君は悪くないんだし、私を助けてくれたんだから、それに心配してくれてありがとう」
「でも笹山さんは僕がリリィを好きだというのに、何かおかしく感じなかったかい?」
「え、そんなことは・・・。そうね、ケーキの消しゴムを貰った時に、リリィさんだけじゃなくてなぜ私にもプレゼントをくれたということにはどうしてと思ったけど」
「そうだったんだ、そのことはさくらから聞いたけど。そうなると、今日僕が君を庇ったのもなんか怪しむんじゃないかと思ってね・・・」
「そんな、でも藤木君はリリィさんが好きなんでしょ?それでいいじゃない」
 藤木は思いきって打ち明けようと思った。
「確かに、僕はリリィも好きだ。でも、リリィと会う前から他に好きな人がいるんだ・・・」
「え?」
 笹山の顔が笑顔から唖然とした表情に変化した。
「その人は一年生の時から好きだったんだ。卑怯と呼ばれる僕にもいつも優しくしてくれて、お返しにその人に何かしようと消しゴムをあげたり今日も困っているところを助けようとしたんだ。でも好きだと言えばその人も好きになるわけじゃないってわかってるんだ。もし知ったらうっとおしく思って僕を嫌うんじゃないかと思って、だから想いを伝えられないんだ・・・」
 藤木は泣きそうになっていた。
「それにその人は僕みたいなドジで卑怯で、スケートしか取り柄がないダメな奴よりも、花輪クンみたいなカッコいい男子や、大野君や杉山君みたいな頼りがいがある男子のほうがお似合いだと思ってしまうんだ・・・。そんなことを怖がって伝えられない上に好きな人がもう一人いてどっちか決められないなんて本当に僕は・・・、僕は卑怯者だよね・・・。言いたかったのはそれだけだよ、それじゃさよなら!」
 藤木は恥ずかしくなり、泣きながら去っていった。
「あ、待って!」
 笹山は呼び止めたが、時は遅く、そのまま藤木は帰ってしまった。
「藤木君・・・。そうだったんだ・・・」
 笹山は机の引き出しから、以前藤木から貰ったケーキの形の消しゴムのセットが入った箱を取りだし、眺めた。そして、泣いた。 
 

 
後書き
次回:「迷惑(ほりうち)卑怯(ふじき)
 翌日、学校で藤木は再び堀内に喧嘩を吹っ掛けられる。そして、藤木は今度は誰の助けも借りずに一人で戦うことを決意する・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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