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とある3年4組の卑怯者

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18 迷惑(ほりうち)対卑怯(ふじき)

 
前書き
 自分を庇って怪我をした笹山の元へ見舞いに行った藤木。そこで彼女への想いを打ち明けた!! 

 
 藤木は走って家へ向かった。
(笹山さん、僕は君を過去の人としてもう諦めるよ・・・)
 笹山が自分に好かれていると知ってどんな反応を示すか、悲哀なオチしか藤木は予想できなかった。みぎわから異常に好かれている花輪のように気持ち悪がるだろうと思った。クラスメイトの冬田美鈴に好かれている大野のように恋愛事に興味がないからとあっさり振るかもしれないし、みどりから好かれている自分のように他に好きな人がいるからと迷惑がるかもしれない。それに自分はリリィが好きだと思われているからもうこれでいいんだとも藤木は考えていた。

 笹山は藤木から貰ったケーキの形の消しゴムを見ながら涙を流していた。
(藤木君は卑怯者なんかじゃないよ・・・。でも、気づいてあげられなくてごめんね・・・)
 笹山は気付いたのだった。自分は藤木にとって恋人であった事を、自分のために藤木は何か親切なことをしようと努めていた事を、そしてリリィと自分、どちらをとるのか、藤木は選べずに苦労を続けていた事を。

 翌日、雨の中藤木は学校へ向かった。そして途中で山根と出会った。
「やあ、おはよう、藤木君」
「ああ、おはよう」
「笹山さんはどうだったかい?」
「うん、傷の方は治っていくようにあったよ。ただ今日は歯の治療で歯医者に行ってから学校行くって」
「そうか、大変だね・・・」

 笹山は2時間目の途中で来た。しかし、藤木は笹山の元へ行く勇気が持てなかった。
(もういいんだ・・・。僕は笹山さんを傷つけたし、もう好きになる資格はないんだ・・・)

 廊下で藤木は後ろから「おい、テメエ!」と呼びかけられた。堀内だった。
「テメエ、調子こいでんじゃねえぞ!」
 藤木は堀内にいきなり掴みかかられ、床に叩きつけられた。
「何するんだ!」
「何ってテメエが調子こぐのがいけねえんじゃねえかよ!」
「君が授業を邪魔して、笹山さんを怪我させたんだろ!!」
「うるせえ!!卑怯者!!」
(ここでやられるだけでなるものか!)
 藤木は怒りに燃えた。
「ああ、僕は卑怯者だ。なら君は迷惑者だ!!」
 藤木は堀内に頭突きをした。堀内も倒れこむ。
(昨日は笹山さんに助けられたけど、今日はそうはいかない・・・。笹山さんの分の借りもここで返さないと!)
 藤木は逃げようとも誰かに助けてもらおうとも考えないと決意した。
「テメエ・・・!何も出来ねえくせしてふざけんじゃねえぞ、オラァ!!」
 堀内が起き上がった。二人は相撲のように取っ組み合った。藤木が再び叩きつけられる。そのとき藤木が足を上げ、堀内の股間を蹴った。堀内が蹴られたところをおさえてしゃがむ。藤木は立ち上がって堀内の顔を殴り付けた。が堀内も同時に藤木のみぞおちを殴った。藤木もみぞおちをおさえて座り込む。
「何もできないって、君だって授業の邪魔しかできないし、何もできないクズだよ!」
「大丈夫、君程じゃないから!」
「じゃあ、真面目に授業受けろ!!」
「うるせえ!!黙れ!!」
 堀内が蹴りにかかる。藤木は必死で後ろに下がってよけた。堀内が再び蹴りにかかる。藤木が立ち上がりその足を捉えた。藤木が堀内の上履きを取り、堀内めがけて投げた。顔に当たって、堀内の眼鏡がずれた。藤木は堀内の足を手から外して壁にぶつけた。既に多くの生徒が野次馬として見ていた。その時、大野と杉山、2組の学級委員・横須が止めようとした。
「藤木、何やってんだ!やめろ!」
 杉山が大野に抑えられている藤木に言った。
「止めないでくれ!これは僕の問題なんだ!自分で決着着けないとだめなんだ!!」
 藤木は大野と杉山に怒鳴って言った。横須が堀内に言う。
「堀内君もやめろ!」
「うるせえ!!」
 堀内は横須の顔を殴って、藤木に詰め寄った。それを杉山が止めようとする。堀内が足で藤木の左膝を蹴る。藤木も堀内の左すねを蹴った。リリィがまる子、たまえ、笹山たちと共に現れた。
「藤木君!?」
 リリィはこんなに荒れている藤木を見るのは初めてだった。彼女は以前みぎわに責められたとき藤木に必死で庇ってもらったことがあるが、その時よりもかなり怒りが表れていた。
「もうやめて!!」
 笹山が思わず叫んだ。藤木が、堀内が、大野が、杉山が、横須が、野次馬となっている生徒全てが皆笹山の方を向いた。
「笹山さん・・・?」
「二人とも何の為に喧嘩してるの?!」
「そ、それは・・・」
「それはね、君を傷つけたこの卑怯者に裁きを下す為にやってんだよ!!」
「何だと、迷惑者!!」
「うるせえ!!」
 笹山は堀内の元へ歩み寄った。そして堀内に聞く。
「私が怪我したのは何もかも藤木君が悪いの?」
「ああ、そうだ、だから俺はこのバカを始末すんだ!お前もこんな奴なんかに盾にされてマジでウザいだろ?おい、卑怯者(ふじき)、今すぐ笹山に謝れ!でなきゃオメエはさらに卑怯だぞ!!」
 その時だった。バチン、という音が響いた。笹山が堀内にビンタしたのだった。
「あ、何すんだよ!アイツにやれよ!!」
「藤木君は何も悪いことはしていないわ!私は自分から藤木君を庇ったもの!それでも藤木君は私のことを心配してくれて謝っていたわ!なのに、堀内君は自分が何やっているのか全く解っていない!堀内君は反省ができない迷惑者よ!そんな人に藤木君を卑怯者呼ばわりしたり、暴力振るったり、謝らせたりする資格はないわ!!」
「うるせえ、うるせえ、うるせえ!!」
 堀内は笹山が言い終わらないうちに怒鳴った。
「なら自分がやったこと反省しなさいよ!!」
「うるせえ!!そんなにアイツの味方すんなら、二人で抱き合ってネンネしてろ!!」
 堀内は卑猥な言葉を浴びせた。笹山は再び堀内にビンタをする。対して堀内は自分を抑えつけている杉山を振り払い、笹山に襲いかかろうとした。
「笹山さん!!」
 藤木も大野を振りほどき、堀内に飛び掛かった。
「おい、藤木!」
 大野が叫ぶも、藤木は構わず堀内の右頬にパンチをかました。そして、藤木は堀内に馬乗りする状態になった。
「いい加減にしろ迷惑者(ほりうち)、笹山さんに手を出すな!!」
 藤木はもう一発、堀内の左頬を殴り付けた。チャイムが同時に鳴り、3年の先生達が来た。
「こらっ、お前らやめんか!!」
 1組の担任が叫んだ。そして、戸川先生と二人で藤木を引き離し、反撃しようとする堀内を2組の担任と3組の担任で抑えた。二人は(まと)めて叱られた。藤木は喧嘩を仕掛けられた側であった為に喧嘩した事を叱られた程度で済んだが、堀内は問題を起こし続けていたせいで、暫くの間母親の監視の下で授業を受ける羽目になり、授業妨害を不可能にされた。なお、笹山は2組の学級委員の横須と南江から謝罪を受けたが、二人に対しては寛容な態度で接し、怒りを見せなかった。
 
 藤木が教室に戻ると、まる子とたまえ、リリィが出迎えた。
「藤木、アンタ笹山さんを必死で庇ったね~。今のアンタは全然卑怯じゃないよ」
「そうだよ、カッコよかったよ」
「ありがとう、さくら、穂波・・・。でも、一緒に叱られたし、結局は引き分けだよ」
「そんなことないわ、藤木君の勝ちよ。皆藤木君の味方してたし、最後の殴打(パンチ)決まってたわよ」
 リリィが褒め讃えた。
「リリィ・・・。ありがとう・・・」
 今の藤木は卑怯者ではなかった。迷惑者の堀内に裁きを与えた英雄となり、3年生殆どの生徒から労わられた。

 下校時、藤木は野口に呼び止められた。
「藤木・・・。アンタ笹山さんと何も話さずに帰るのかい・・・?」
「え?」
「笹山さんはすぐに来るよ・・・。それじゃ、二人で話を楽しむといいよ・・・。クックック・・・」
 野口はそう言って帰っていった。
(そういえば笹山さんとはあれから話をしていなかったな・・・)
 そして笹山が現れた。
「藤木君・・・」
「笹山さん・・・、昨日は変なこと言ってごめん、それに今日も僕はまた君に助けられたね」
「ううん、こっちこそありがとう。でも私は藤木君のことを解っているようで解っていなかったわ。藤木君は私のことが好きだったのね・・・」
 藤木はついに気づかれたと、緊張で心臓の鼓動が強く響くのを感じた。
(やっぱり僕の事を嫌がるんだろうか・・・。そうだよな、僕みたいな情けないヤツなんか好きになれるわけないよな・・・)
 笹山は話を続けた。
「私は藤木君と初めて会ってから、卑怯って言われる藤木君が辛そうに思ってもっと元気出してあげたいと思っていたけど、それで私の事を好きになっていたなんて・・・。私、藤木君のその気持ち受け入れたいと思うの」
「え・・・?で、でも、笹山さんは、花輪クンとか大野君とか、杉山君の方がいいんじゃないのかい?」
「確かに花輪クンたちも素敵に思うけど、藤木君も失敗もするけど、優しいところがあるから悪くはないわ」
(笹山さん・・・)
「でも、私とリリィさんどちらにするかで迷っていたんでしょ?誰にだってすぐには決められない事はあるから、すぐに決めてとは言わないよ。でも私はいつか藤木君がどっちかに決められる時が来ると信じているわ。もし藤木君がリリィさんを選んだとしても、私はずっと藤木君の友達でいるよ・・・。私、ピアノお稽古あるからこれで失礼するわね。さよなら・・・」
 笹山はそう言って帰っていった。
「あ、うん、さようなら・・・」
 藤木は笹山の言ったことが身に染みていた。そして、彼女は自分の事を友達だと思っていてくれているんだと改めて実感した。
(笹山さん、ありがとう・・・)
 そして午前降っていた雨は止んでいたのだった。 
 

 
後書き
次回:「不登校」
 犬猿の仲の永沢と城ヶ崎。二人の戦いは常に壮絶なものではあるが、ある時、その戦いは思わぬ方向へと進んでしまう・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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