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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第二部 黒いガンダム
第五章 フランクリン・ビダン
  第一節 救出 第四話(通算84話)

 
前書き
アストナージはガンダムを知っていた。
だからこそ、新たなるガンダムを知ろうとした。
カミーユは知った。
連邦の技師たちもジオンを羨むことを。
戦場に交錯する技術の粋に、君は刻の涙を見る―― 

 
 アストナージに言わせれば、大戦における《ガンダム》のアドバンテージはビームライフルと装甲だけであり、アムロ・レイが搭乗したからこその戦果なのだということになる。

「確かに《ガンダム》の戦果は凄かったさ。けどね、悔しいけどMSの性能が凄かったんじゃない。ありゃあ、アムロ・レイが凄かったのさ。現に同等の性能があったRGM-79S《ジム・スナイパーカスタム》の戦果は特筆するもんなんかない。兵器ってのは、パイロットに恵まれなきゃ単なる棺桶にしかならないんだよ」

 アストナージの言うことは基本的に正しい。ただし、一概にそれだけとも言い切れないものはあった。それは当時連邦内の粋を極めた技術の結晶と言っても過言ではないほど可能な限りの技術を集めたものだったからだ。ジオンがコストパフォーマンスから断念したフィールドモーターや加工の難しいルナ・チタニウムの装甲材への使用、稼動時間の増大を企図したヘリウムコア、ヘリウムコントロールコア、ペガサス級追従のための大気圏突破装備、脱出カプセル代わりの可変戦闘機コアファイターなど枚挙に厭わない。しかし、戦争というものは一機のMSでどうこうできるものではない。量産できなければ、その高性能は存在しないのと同義である。

 しかも、当時の連邦軍パイロットは即席もいいところで、たかがシミュレーションを数時間やっただけでMSに搭乗させられたケースも多かった。それ故に、アムロがかなり突出した才能を発揮したことが解る。だが、戦後、ニュータイプを忌避した連邦軍上層部と政府によって、その事実は封殺されていった。つまり政府主導のMS高性能説――《ガンダム》神話の捏造である。

「賭けてもいいが、アムロ・レイが二人いて《ガンダム》と《ゲルググ》で戦ったら、《ゲルググ》が勝つね」

 連邦の技師をして、そう言わしめるだけの技術力がジオンにあるということが、パイロットにとって恐怖であり、軍にとって脅威であり、政府にとって悪夢であった。だからこそ政府は、戦後の縮小したジオンの軍需産業から溢れた技術者たちを大量に雇用したのだ。高名なエリオット・レム技術大佐などは、再入植していたサイド1から連邦開発局へ半ば強引に迎えられている。その他にも多くの研究者たちも流れたという。事実、連邦はジオンのMSを躍起になって研究した。共同開発案もあったが、自らの技術を踏襲されることを懸念したため、断念に到ったという。

 その成果は《ジム》の近代化改修やこの《ガンダム》開発に見ることができる。《ガンダム・マークⅡ》に採用されているムーバブルフレームはフレキシブルアーマーとモノコック構造の融合――つまり二つの相反する構造によって産み出されてた。《ガンダム・アレックス》で初めて考案されたムーバブルフレームは技術的な問題から部分的な採用に留まり、マグネットコーティングとの相性のよさはシューフッターの「過敏すぎる反応と追従性」という一言からも伺えたが、ジムにフィールドバックするためには、全面使用は不可能だった。それはセミモノコック構造の限界だった。

 セミモノコック構造は、マイナーチェンジによる組み換えで小刻みに性能を向上させられるようになっており、メンテナンス性はジオン製MSと比較しても遥かに高いが、汎用性の高さゆえに局地戦における適合性や個体性能の限界値は低いままだった(ただし簡易にパーツを交換し局地戦にある程度対応させることは可能)。その上、過去の資産と生産性・互換性を維持するために、大幅な新設計を受け付けない規格になってしまっていた。そのためムーバブルフレームという新しい概念が生まれても機体の設計そのものが大きく変えられないため、《アレックス》の量産型とも言える《カスタム》《クゥエル》にムーバブルフレームを一部しか採用出来なかった。

 対してモノコック構造は装甲と一体整形されているため、生産性は高いが互換性が低く、常に新規設計を要する。だがそれが、逆に新進性の高い新しい設計が可能だった。そこに着目したフランクリン・ビダンが考案したのが、モノコック構造から装甲を分離し、ムーバブルフレームに追従可動させるフレキシブルアーマーという概念である。ムーバブルフレームと一体成型された各部位はフレキシブルアーマーによって有効な部位に装甲を移動させることが可能になり、ムーバブルフレームの有効性は飛躍的に向上した。致命的な欠陥はジムシリーズにフィードバックできないという点だが、それは逆にジムシリーズを再設計し、部品レベルでの互換性を保たせるということで《ガンダムマークⅡ》の開発が始まったのだが、それはカミーユもアストナージも知る由もないことだった。

「技師長!」

 アンナの叱責が飛ぶ。アストナージがとりついているため、カミーユのコールが滞っていたからだ。

「アストナージさん、後で続き聞かせてもらいます」
「おまえ、いい子だよ」

 まだ話足りなそうな顔をして、アストナージがコクピットから離れていく。

――G03、発進シークエンスに入れ
「G03、了解」
――コンディション、オールグリーン

 コンソールには先発したエマのG01が三角のカーソルで表示されていた。一瞬、不快な気分がもたげたが、これも任務と押さえ込む。

「カミーユ・ビダン、G03、ガンダム行きますっ」

 GOのサインとともに《ガンダム》がリニアカタパルトの上を滑る。濃紺の機体が純白の艦体に写り込んだ。 
 

 
後書き
Gはゴルフですね。 
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