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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第二部 黒いガンダム
第五章 フランクリン・ビダン
  第一節 救出 第三話(通算83話)

 
前書き
出撃するエマとカミーユ。
鹵獲したガンダムに乗って。
ブレックスはエマの潔癖さを信じた。
カミーユはエマを信じきれなかった。
不協和音を孕んだ作戦に、君は刻の涙を見る――。 

 
 カミーユが《ガンダム》のコクピットに取りつくと、中から技師長のアストナージが出てきた。アストナージは一年戦争で初代《ガンダム》の開発に加わっていた経験もあり、《ガンダム》の機付長も兼ねることになっていた。アストナージ曰く「近頃の奴らときたら、現物よりマニュアルに飛び付きやがる。技術屋が現物見ないで、どうするってんだ」――つまり、マニュアルのない《ガンダム》の機付長は敬遠されたということなのだが、カミーユから見ると、アストナージは新しいおもちゃを与えられた子供のようにはしゃいでいるだけに感じた。逆に言えば、なり手がいなくて喜んでやっているようにしか見えない。穿っていえば、若手が遠慮した…ともいえる。

「整備はバッチリだぜ、カミーユ」
「アストナージさん、信じてますよっ」

 入れ違いにコクピットに飛び込んで、態勢を入れ換える。リニアシートにバックパックを咬ませて、するりと収まってみせた。こういう芸当は無重力ならではである。

 バックパックアタッチメント、シートベルト、エアバッグ。操縦中のパイロットの命を守るのは狭いコクピットの中ではこの三つだけだ。リニアシートは電磁力の引力と斥力によってフロート構造になっており、それそのものが衝撃緩衝装置を兼ねているが、それで全てを吸収できるはずもない。たかが二メートル強――内寸は一メートル八○余りのインジェクションポッドがコクピットなのだ。狭く感じないのは全周天モニタが周囲の様子を映し出しているからで、錯覚に過ぎない。

 リニアシートの無かった大戦中のMSのコクピットはもっと狭く、計器類で埋まっていた。パイロットは計器を見ながら敵と戦わなければならず、操縦技術そのものよりも熟練度がものを言った。そのため、計器に頭を強く打ち付けて失明したパイロットもいるという。エアバッグも改良はされているが、MS同士の格闘戦で受ける数十Gもの高負荷の前では気休めでしかない。そうした安全性の問題もあり、現在はリニアシートに附随するディスプレイボードのコンソールになっている。

 酸素残量、予備電源、救急キット、気密チェックだけはパイロットが自分で確認しするしきたりだ。誰も整備不良で死にたくはない――というのは建前で、旧世紀の車から続く習慣が義務化しているだけのことだ。自分の見落としならば、責任を他人に押し付ける必要もない、というのが軍上層部の考えだった。空軍や海軍航空隊でも行われている出動前の儀式だった。整備兵に言わせれば「パイロットに機体整備が解るかよっ」となるのだが、口に出す者はいない。相手は士官で自分たちよりも階級も上で権限もある。陰口を叩くのが関の山だ。

 ただし、パイロットは一応、機体のメンテナンスが一通りできなければライセンスを取れない。戦時中でなければエリートなのだ。ただ、目まぐるしく投入される新技術などをいちいち習得していては操縦どころではなくなるから、機付長と整備兵に任せるのだ。パイロットの方も、整備兵と上手く付き合わなければならないから、敢えて整備に細かい口は挟まない。精々がセッティングの微調整やスラスターの噴かし具合である。

 点検は既に終わっていた。すぐに起動シークエンスを始める。炉は既にアイドリング状態だが、MSの起動はジェネレータとは別だ。ジェネレータはほぼ永久機関のように稼働する熱核融合炉で、ミノフスキー物理学が産み出した人類の輝ける文明の利器である。旧世紀に理論上可能とされた核融合炉発電機はエネルギー効率と安全性に優れているが、中性子の放出運動に耐えきれる金属が存在せず、宇宙世紀に入ってもようやく量産に漕ぎ着けたものの、小型化はなかなか出来なかった。小型化はミノフスキー粒子による中性子の封じ込めに成功したことで実現した。

 サブコンピュータが自動的にベリファイチェックを行い、サブモニタに文字列が映画のエンドロールの早送りみたいに流れていく。エラーがあればスクロールが停止してエラー箇所を提示してくれる。

 その間、カミーユはコンソールモニタで武装の確認をしていた。《ガンダム》は滷獲機のため、武装は何もない。そもそもこの機体は一切の固定武装がないのだ。連邦製MSには標準装備である頭部ガトリング砲すらアタッチメント式である。さらにはビームサーベルは着脱式バックパック上部に備え付けられた補助AMBACアームに装着されているため、本体には武装がない。試作機ならではの仕様と言える。

「武装は《リックディアス》のが使えるようにしてあるぜ」

 ハッチから覗き込んだアストナージが声を掛ける。《リックディアス》はアナハイム・エレクトロニクス社で擬装された際にマニピュレータを連邦仕様に合わせてあるため、《ジムII》と共通の武装が使えるようになっていた。《ガンダム》は当然連邦の武装が使えるので、カミーユは《ジムⅡ》で使っていたボウワ社製BR85Aビームライフルを装備させるつもりだった。

「敵艦に乗り込むんですよ? 《リックディアス》のなんかヤバイでしょ」

 敵に奪取されることで《リックディアス》の性能が推測されやすくなるとカミーユは考えたのだ。だが、アストナージの答えは驚くべきことだった。

「なにいってんだ! アナハイムは連邦にも武器を売ってんだ。MSならともかく、バズーカぐらい呉れてやったってかわりゃしないよ。第一このバズーカ、中身はは共和国のツィマッドのだから、連中のマシンじゃ照準も合わせられないって」

 では、何故、逆は可能なのか?

「そりゃ、MSはジオンの十八番だからさ」

 連邦軍の技術士官からジオンへの称賛を聞くとは思わなかったカミーユは面食らった顔を晒した。 
 

 
後書き
アストナージはモスク・ハン博士の下でマグネット・コーティング技術の研究に関わり、G3ガンダムに触ったことのある数少ない技術者です。 
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