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第三章 リベン珠
  第30話 旅の終りと破壊の神:後編

「鈴仙さん、この勝負、絶対勝ちましょうね」
「ええ、何としてでもね」
 鈴仙は勇美が今しがた抱いた考えを読んだ訳ではないのだ。だが、こうも『楽しそう』に意気込む勇美を目の前にして、鈴仙もその気持ちに応えねばと思うまでであったのである。
 そして、二人は再び視線を純狐の方へと向ける。対して純狐は二人に対して言葉を発する。
「今のは小手調べです。次は当てますよ」
 張り付くような笑みを浮かべながら純狐は言った。
「つまり、今のは余り狙っていなかったって事ですかぁ……」
「そのようですね」
 勇美は参ったといった感じで呟き、鈴仙もそんな勇美に合わせる。
 あんな攻撃を本気で狙って当てられたら、堪ったものではないだろう。そう思うと二人はやるせない心持ちとなるのだった。
 だがこの場に今いるのは、様々な経験を経て強い絆が生まれた自分達なのである。だから、警戒する必要はあれど臆する必要はなかったのだった。
 そんな二人を見て、純狐は満足気に呟く。
「二人とも、いい目をしているわね。昔は私もそうだったわ……」
 そう言葉を紡ぐ純狐は、どこか哀愁を帯びていた。だが、彼女はそんな黄昏た気持ちを振り払うと、先程の張り付くような笑みを戻して二人に言うのだった。
「そんなあなた達には、私も応えないとね! もう一回『掌の純光』!」
 言うと再び純狐の手の平に濃厚すぎる光が集まっていった。しかも、今回は先程よりも集中している様子が窺える。
 今度は先程のように軽々と避ける事は出来ないだろう。そう踏んだ勇美達も意識を集中してそれを見据えていた。
 だが、勇美達には作戦があったのだ。だから、気を引き締めはすれどど、慌てる事はないのである。
 そして、満を持して純狐の手の平から濃光の砲撃が再び行使された。
「鈴仙さん、来ましたよ」
「はい、分かっています」
 勇美の呼び掛けに、鈴仙は応えると彼女は意識を集中し始めた。そして、例の如く狂気の瞳の発動に踏み切ったのだ。
 それにより、濃光の奔流はその軌道を変えたのだ。だが。
「残念でしたね、軌道を変えてもこのままではあなたの相方に当たりますよ」
 そう、純狐の言う通りであったのである。光の砲撃を狂気の瞳で軌道を変えたが、それは多少にしかならなかったのである。
 理由は、敵の攻撃の濃度が余りにも濃い為であった。要は緩い水の流れならば簡単に変えられるが、濁流ともなれば容易ではないという事である。
 このままでは結局は勇美に命中してしまうだろう。だが、ここで終わらせないのが、今の二人であったのである。勇美はここぞとばかりに自分のお得意の手段に踏み切る。
「『大黒様』に『石凝姥命』よ!」
 そう、勇美が依姫との契約により借りる事が出来るようになった、神降ろしの力である。そして、勇美の場合はそれだけには留まらないのである。
 神に呼び掛けた次の瞬間、勇美の目の前に機械の塊が現れ、そして二柱の神の力はそこに取り込まれていった。
 そう、これこそが勇美の真骨頂なのである。そして、さすがの純狐とて今まで見た事のないその芸当に驚くのだった。
「これがクラウンピースから聞いた、黒銀勇美の力……」
「そういう事です。そして……」
 言うと勇美は両手を目の前に翳しながら、スペル名を宣言するのだった。
「【鏡符「光すら吸い込むブラックミラー」】」
 その宣言後、勇美の眼前に現れたのは名前の通りに表面を真っ黒に塗りたくられた不気味な鏡であった。黒い鏡などあるか分からないが、取り敢えず勇美の前に現れたのはそのような代物であったのだ。
 そして、現れた黒い鏡はまるでブラックホールのように純狐が放った光をその鏡面に吸い込んでしまっていったのだった。正に、それは光でさえも引き込んでしまうブラックホールの性質そのものである。
 このような規格外の芸当を見せ付けられても、当の純狐の方は至って冷静であったのだ。さすがは常識では計れない領域に生きる『神』ならではと言えるのかも知れない。
 それどころか、純狐の振る舞いはどこか楽しそうなものを感じさせる程のものとなっていくのだった。
「いいですねあなた。こっちも楽しくなってくるというものですよ」
 その言葉に嘘偽りの類いはないようである。彼女は勇美との戦いで『楽しさ』というのを感じていっているのだろう。
 高揚するその気持ちのままに、純狐は次なる手に出ようとする。
「今のスペルは防がれましたけど、次に行かせてもらうわ! 【殺意の百合】!」
 純狐の次なる宣言が行われると、彼女の両手に無数の白い花びらのようなエネルギーが集まってきた。それは、その成分自体は先程の掌の純光と同じかのようである。
 だが、徹底的に違うのはその数であろう。掌の純光は一本のレーザーであったのに対し、今回のは無数に舞う花びら状の光なのだから。
 その事から、勇美は一つの結論を出した。
「まずいですね……」
「ええ」
 その答えには鈴仙も納得する所であったのだ。理由は、先程の直線上の光ならばこのブラックミラーで吸い込む事は出来るのだが、今のように無数に舞う形ともなればそうはいかないのは明白であったからだ。
 なので、勇美は一先ずこのブラックミラーの解除を行うのだった。
「ふう……さてどうしたものかな?」
 勇美はそう呟くのだった。恐らく今回の攻撃も、先程のように強烈なものとなるだろう。何せ彼女の放つ攻撃の重みは今までにでもほとんど体感出来ない程の代物だったからである。
 だが、今回は光を散りばめた事により一つ一つの威力は純光よりも劣るはず。そこに勇美は勝機を見出だしたのであった。
「さあ、行きますよ」
 その間に純狐の攻撃の準備は整ったようであった。彼女は両脇に広げていた手を、一気に前方へと突き出したのだ。
 それにより、敵の力は勇美達を打ちのめすべく迷う事なく前進して来たのであった。その光景はまるで花びらで造った猛吹雪であるかのようだ。
 勇美の読み通り、これではブラックミラーでは吸い込めなかっただろう。自分の選択が正しかった事に安堵しつつも、勇美は目の前に迫る驚異に意識を集中しながら──新たな神々に呼び掛けた。
「『風神』様に『ネプチューン』様。お願いします」
 勇美のその呼び掛けに応え、次なる二柱の神の力が顕現し、勇美の半身の機械へと取り込まれていった。
 その間にも光の吹雪の猛攻は一気に勇美達を飲み込み、そして暴れ回るのだった。
 その光景を見ながら純狐は思った。──これで直撃だろう、勝負あったなと。
「少し楽しくなっていたけど、これで終りのようですね。もうあなた方は私の攻撃の渦中に取り込まれましたから……」
 そう感慨深く呟く純狐であったが、彼女は些か勝負を見るのを早まっていたようであった。そして、違和感に気付くのである。
「いや、何かおかしい……」
 そう言って純狐は目の前の光景に目を凝らす。──確かに今、彼女らは私の攻撃に取り込まれている筈。そして、その攻撃の規模は……。
「はっ!?」
 その瞬間に純狐は気付いたようだった。この殺意の百合の規模が徐々に弱まっている事に。
 そして、その事実はみるみるうちに明るみに出ていく事となる。勇美達を囲んでいた猛吹雪は吹雪程度となり、更には細雪程度となり、ついには止んでしまったのだった。
「一体何をしたの?」
 そう訝る純狐の視線の先には、じわじわとその答えが見え始めて来るのであった。
「そんな、まさか……?」
 そう呆気に取られながら呟く純狐の視界には、煙突状の突起が生えていたのだ。そして、その効果の名前を勇美は公言した。
「【筒符「サンタ以外も歓迎の秘密の入り口」】です。この中にあなたの殺意の百合は吸い込ませてもらいました」
「そんな事が……」
 勇美の説明に、純狐はまたも素直に驚くのであった。これがクラウンピースから聞いた黒銀勇美の実力かと。ここまでされると、自分は相手を多少なりとも過小評価していたと言わざるを得ないのであった。
 このまま勝負を続けるのは……。そう思った純狐であったが、それをおくびにも出さずに彼女は新たなるスペルの発動を行う。
「【「震え凍える星」】」
 純狐はまたも両手を広げて、そこに力を集める。だが、今回は光ではなく、どうやら名前の通りに冷気の塊であったようだ。
「はっ!」
 それを純狐は掛け声と共に眼前に突き出したのである。すると冷気の塊はまるで雪崩のようになって勇美達へと襲い掛かっていったのだった。
「勇美さん、ここは私に任せて下さい」
 今回のこの敵の攻撃にいち早く反応したのは鈴仙であった。彼女は惑う事なく雪崩を見据えると、そのままスペル発動をする。
「【幻爆「近眼花火(マインドスターマイン)」】」
 そして彼女から放たれたのは、熱と爆発のエネルギーであった。
 冷気と熱。それらがぶつかり合うとどうなるだろうか。
「っ!」
 勇美はその二つの力の衝突により生まれた激しい爆ぜに翻弄されそうになるも、どうにかその場で足を踏みとどまって堪えていた。
 そして、爆発は何事もなかったかのように収まった。そう、二つの力は見事に互いの勢いを相殺したのであった。
 その現実に、純狐は戦慄すら覚えるのだった。
「警戒すべきは特に人間の方だけだと思っていたけど、玉兎の方も厄介ね……」
「今まで勇美さんが依姫様の下で頑張っていたのを見て来ましたからね。私も負けてられないって気持ちになったんですよ」
 そう、勇美に触発されて、鈴仙も自分も努力せねばという気持ちになって今まで鍛錬を欠かさずにいたのだった。その事が今、こうして実を結んでいるという訳である。
 その事実に加えて、神霊たる純狐には感じられていたのだった。──何か、見えない大きな力が流れをこの二人に向かせている事を。こればかりは神たる彼女とて手の出しようがないのだ。
 しかし、だからといってここで身を引く訳にはいかないだろう。弾幕ごっこの勝負に持ち込んだのは、他でもない純狐自身なのだから。
(しかし、私とて伊達に仙霊を名乗ってはいない……その名において勝負は最後まで……)
 そう純狐が想いを胸にした所で、場の空気が変わったのである。
「「!?」」
 これには勇美と鈴仙は驚愕してしまった。ただでさえ今まででも類を見ない強敵を相手にしているのに、これ以上に厄介な事が起こるのかと。
 だが、今までの話から『それ』が何なのかは粗方の想像はついていた。その二人の読みに応えるかのように純狐は口を開いたのであった。
「ヘカーティア!?」
 そう彼女が気兼ねなく呼ぶ事から、その者は幾度となく耳にした『ご主人様』である事は想像に難くないだろう。
 二人が思考を巡らせる中、その者はこの場に一瞬の内に出現したのであった。
 その姿は……。残念ながら全身に赤い炎のようなエネルギーを纏っている為にはっきりとは確認出来なかった。だが、女性という事だけは分かる。
 その者に対して純狐は口を開く。
「何でヘカーティアがここに?」
 その問いに対して、ヘカーティアと呼ばれた者はこう答える。
「クラウンピースから話を聞かせてもらったわ。その話から判断して、さすがのあなたでもこのまま勝負を続けるのは部が悪いって結論に至ったのよ」
「でも、勝負はまだ……」
「何、ここからはあなただけで戦う必要はないわ。今回は『あの作戦』で行くわよ」
「『あれ』をやるというの?」
 その事に驚く純狐であったが、今自分が相手にしている二人なら、それも納得かと思い首を縦に振るのだった。
 すると、純狐はヘカーティアが纏っていた炎に勢いよく包まれたかと思うと、一瞬の内に二人の姿はかき消えたのであった。そして、姿をくらましたヘカーティアの声がどこからともなく響くのだった。
『黒銀勇美に鈴仙・優曇華院・イナバ。勝負は仕切りなおしよ』
「逃げる気ですか!?」
 ヘカーティアの声にいきり立つ鈴仙であったが、それを勇美は宥めるように言う。
「鈴仙さん、こちらとしても敵の情報が無い状態で戦うのは分が悪いですよ。──八意先生からスキマ経由で届いているんですよ、敵の素性についての手紙が」
「お師匠さまから?」
 そう聞いて鈴仙は思った。彼女は永琳に師事しているが故に、その頭脳がいかに物事を良い方向に運ぶかを良く知っているのだ。その永琳から情報が届いたのだ。今はそれを頼るのが懸命というものだろう。
 なので、鈴仙はここは勇美の提案に賛同する事にしたのだった。
「分かりました勇美さん。ここは一先ず体勢の立て直しをするのがいいみたいですね」
「ええ、その方が私達と純狐さん達のお互いのためになると思いますから」
 そう言い合う二人の様子をどこかで見ているヘカーティアから再び声が掛かった。
『話は決まったようね。私達は今、擬似的に創った地獄の世界にいるから、私達を恐れないのならすぐ側に入り口を開けてあるからそこから来なさい』
 そのヘカーティアの指摘通り、辺りを見れば向こう側に黒いもやのような物が漂っていた。これが、ヘカーティアがここに来る際に通って来た入り口だろう。
 それを見て勇美達は、今度こそ最終決戦となる事を覚悟した。その戦いに赴く為に、今は永琳からの情報を確認したりして、体勢の立て直しをするべきだと二人は意気込むのだった。 
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