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バリヨン

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第三章

 尾崎はその前田について泉に話した。
「あの人は確かに欲が深いが」
「それでもですね」
「あの人がご自身で言われる様にな」
 まさにというのだ。
「道は踏み外してはいない」
「そうした人ですね」
「だからまずだ」
「悪いことにはならないですか」
「その筈だ、しかし欲が深いからな」
 このことは事実だからというのだ。
「それがな」
「どうなるかですね」
「果たして小判が貰えるか」
 このことはというのだ。
「わからない」
「そうですか」
「そこは帰ってからお聞きしよう」
 前田自身からというのだ、尾崎は泉に落ち着いた声で述べた。
 そのうえで前田が新潟から戻って来るのを待った、やがて前田はその新潟から帰って来た。すると彼は泉にこう言った。
「いや、わしはやはり欲深で」
「それで、ですか」
「それが妖怪にもわかっていた様で」
 それでというのだ。
「確かにバリヨンと叫び声がして」
「背中に来ましたか」
「頭にかじりつかれました」 
 そうなったというのだ。
「夜の小道で」
「噂通りにですね」
「そしてかじられ重いと思いながらもです」
「それでもですか」
「宿に戻りました」 
 そうしたというのだ。
「この場合は家になりますね」
「そうなりますね」
 泉もその通りだと答えた。
「まさに」
「はい、そして宿に戻れば」
「小判は、ですか」
「それは落ちて来ないで」
 それでというのだ。
「代わりに松脂がです」
「それがですか」
「これでもかと出てきまして」
「小判の代わりに」
「いや、欲を張って行けば」
「小判ではなく」
「そんなものが出ました」
 松脂、それがというのだ。
「そうなりました」
「それでどうされましたか」
 泉は前田をじっと見据えて彼に問うた。
「その松脂は」
「折角ですから売りました」
「そうされましたか」
「松脂は松脂で売れますので」
 だからだというのだ。
「それで、です」
「儲けられたと」
「小判程ではなかったですが」
「それでもですね」
「儲けることは出来ました」 
 このことは適ったというのだ。
「それはそれでよしと考えています」
「それは何よりですね」
「まあ欲が強いと」 
 それならというのだ。 
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