恋人は秘書

「ビール飲もうか」
「行くの八ちゃんでしょ」
「八条グループのチェーン店のね」
　居酒屋のそれだというのだ。
「そこに行って」
「それでなのね」
「飲もうね」
「それじゃあね、ただね」
「ただ？」
「ビールよりもね」
　これを飲むよりもというのだ。
「ワインとか焼酎がいいから」
「身体にはだね」
「いつも言ってるでしょ、お酒は過ぎたら駄目だけれど」
「ビールは痛風になるから」
「義彦君乳酸値高いから」
　それでというのだ。
「出来るだけね」
「ビールは控えた方がいいんだ」
「そう、痛風になるから」
　だからだというのだ。
「出来るだけね」
「ワインとか焼酎とかなんだ」
「そういうの飲んでね。私も付き合うから」
「いや、沙織ちゃんビール大好きでしょ。冷蔵庫なんか」
　沙織の部屋のそれの中はというのだ。
「もうそれこそ」
「それは言わないで」　　
　沙織は義彦のその指摘にむっとして返した。
「いいわね」
「ああ、レディーのね」
「そう、プライベートのことはね」
「それがエチケットだったね」
「そう、だからね」　
　それでとだ、沙織はラーメンの麺をすりつつ答えた。
「言わないでね」
「気をつけるよ」
「そうしてね、それで確かに私ビール好きだけれど」
　沙織もこのことは否定しなかった。
「それでもよ」
「僕に付き合ってくれるんだ」
「人に控えろって言って自分は飲むとか」　
　そうしたことはというのだ。
「よくないから」
「だからだね」
「そう、だからね」
「居酒屋ではなんだ」
「焼酎飲むから」
　飲むのはこちらだというのだ。
「そうするわ」
「焼酎だね」
「ええ、それ飲んで」　
　そうしてというのだ。
「楽しむわ」
「そうするんだね」
「焼酎も好きだし」
「じゃあ僕はワインにしようかな」
「いいと思うわ、あとね」
「あと？」
「お部屋に帰ったら」
　沙織は義彦にそこからのことも話した。