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黄金の翼

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第三章

「素晴らしい作品が出来る」
「ですが」
 劇場の者の一人がここで言った。
「それはです」
「ヴェルディ氏次第だな」
「今のあの人では」
「最悪のこともか」
「やはりペンを取らないどころか」
 それで済まずというのだ。
「最悪ご自身の命を」
「それはない」 
 メレッリは自殺はないとした。
「彼は信仰心が深い」
「だからですか」
「確かに今は絶望の底にいるが」
 キリスト教は自殺を禁じているからだというのだ。
「それはない」
「そうですか」
「そして彼は存外強い男だ」
「必ずですか」
「またペンを取ってな」
 そうしてというのだ。
「作曲してくれる、また信仰が強いからだ」
「だからですか」
「あの台本は彼に丁度いい」
「旧約聖書を題材にしているので」
「だからだ」
 それでというのだ。
「必ずだ」
「音楽にですか」
「戻ってくれてだ」
 そしてというのだ。
「名作を残してくれる、それもだ」
「それも?」
「それもといいますと」
「歴史に残る名作を残してくれる」 
 只の名作ではなくそこまでのものをというのだ、こう言ってだった。
 メレッリはさらに言った。
「私は彼と街で会った時に神の御業を感じた」
「だからですか」
「それで、ですか」
「必ずですか」
「そうだ、待っている」
 こう言ってだ、そしてだった。
 メレッリは作品が完成することを待つことにした、だがヴェルディは彼以外の者が心配していた通りに。
 創作意欲なぞ全くなかった、それでだった。
 家に帰っても飲むつもりでメレッリから貰った台本はテーブルの上に放り出した、するとそこで開いたページを見てだった。
 何かが変わった、それでだった。
 メレッリの前に自分から現れて言った。
「作曲は順調です」
「そうか」
「はい、ですから」
 それでというのだ。
「待っていてくれますか」
「喜んで」
 これがメレッリの返事だった。
「そうさせてもらう」
「それでは」
「それで完成は何時になるか」
「秋には」 
 ヴェルディははっきりした声で答えた。
「完成します」
「そうか、秋にか」
「この調子でいけば」
「では待っている」
「そして上演は」
「秋に完成するならな」
 それならというのだ。 
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