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黄金の翼

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第二章

「まさに、だからだ」
「だから?」
「一緒に来てくれるか」 
 ヴェルディに勇む声で告げた。
「いいか」
「一緒にとは」
「決まっている、スカラ座の事務所だ」
 そこにというのだ。
「一緒に行こう」
「もう私は」 
 ヴェルディはメレッリに死んだ目で答えた。
「音楽は」
「まずは来てくれ」
 帰ろうとするヴェルディのその手を掴んでまた言った。
「いいだろうか」
「そういう訳には」
「いいから来てくれ」
 その手を引っ張って強引にだった。
 メレッリはヴェルディをスカラ座の事務所に連れて行った、そうしてだった。
 彼にある台本を差し出した、もっと言えば押し付けた。そのうえで彼に対して強い声で告げたのだった。
「これを読んでくれ」
「これは」
「旧約聖書の話だ」
 それだというのだ。
「それを題材にした作品でだ」
「この台本に曲をですか」
「君に頼みたい」
 こう言うのだった。
「いいか」
「ですがもう私は」
「嫌とは言わせない」
 ヴェルディの才能を知っている、だからこそというのだ。
「何があってもな」
「だからですか」
「君にこの台本を渡すのだ」
「そうしてですか」
「曲を書いてもらう」
「どうしてもですか」
「そうだ、どうしてもだ」
 まさにというのだ。
「いいな」
「台本を捨てたいものです」
「その時はまた渡す」 
 これがメレッリの返事だった。
「何度でもな」
「そうですか」
「だからいいな」
「この台本をですか」
「まずは読んでくれ、そしてだ」
「作曲をですか」
「してもらう」
 こう言ってだった。
 メレッリはヴェルディにその台本を強引に渡した、そうして彼を家に帰らせてから周りに強い声で言った。
「私は賽を投げた」
「ルビコン川を渡った」
「そうなのですね」
「そうだ、後は彼が音楽に戻れば」
 その時にはというのだ。
「一つの名作が生まれる」
「ヴェルディ氏が生み出してくれる」
「そうだというのですね」
「そうだ、後はそれを待つ」 
 まさにというのだ。
「それだけだ」
「そうですか」
「それではですね」
「我々はその名作を見る」
「そうなるのですね」
「あの台本にヴェルディ氏の音楽が合わされば」
 メレッリは確かな顔で言った。 
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