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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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魔法絶唱しないフォギア無印編
  大人達のお茶会

 
前書き
どうも、黒井です!

今回は一応最後の幕間。最後なのに出てくるのは大人だけです(汗)

これまでの話に比べると文字数も少なめで薄味感が否めませんが、G編に進む為には個人的にどうしても入れておかないといけない話なのでどうかご了承ください。

G編に向かう前の、オードブル的話とでも思っていただければ幸いです。 

 
 ルナアタック事変の後、櫻井 了子は一時期療養と言う名の軟禁を受けていた。フィーネは既に消滅したとは言え、それを政府上層部に理解しろと言うのは無理な話。事件再発防止の意味も含めて、経過観察やらなんやらで軟禁されるのは至極当然の事である。

 しかしそれも長くは続かなかった。颯人達の軟禁期間を縮めたように、こちらも弦十郎が寝る間も惜しんで了子の身の潔白を日々上層部に説き続けたのだ。当時の詳細な報告に加えて、軟禁中の了子の様子、そして弦十郎の弁護などもあって、了子本人が思っていたよりも早くに軟禁は解除され彼女は晴れて二課の職員として復帰したのである。

 その了子は、今崩壊した本部に代わる新たな仮説本部の研究室にて、装者4人のシンフォギアに関するデータを纏めていた。何しろ12年のブランクがあるのだ。その間に彼女に成り代わったフィーネにより加えられた部分や、そもそも存在自体がイレギュラーな響のガングニールなど気にすべき事は多い。

「う、ん~~~~……ふぅ」

 とは言え、長時間椅子に座ってパソコンと向き合っていれば流石に肩も凝る訳で。全身を解そうとコンソールから離れ背もたれに体重をかけて背筋を伸ばすと、凝り固まった背骨がボキボキと音を立てる。

 自分の体から聞こえてくる音を耳にしに時計を見ると、始めてから結構な時間が経っていた。そんなに夢中になっていたのかと思わず苦笑していると、徐に研究室の扉が開き弦十郎が入ってきた。

「了子君、随分と長い事部屋に籠っていたようだが大丈夫か?」
「弦十郎君? 勿論大丈夫よ。ただちょっと夢中になり過ぎちゃっただけ」
「そうか。とは言え病み上がりの身だ。あまり無理はするなよ」
「病み上がりって、療養は飽く迄も名目上でしょう? 大丈夫よ」

 そうは言うが、弦十郎の目から見ても了子の顔には若干の疲労が見て取れた。そんな彼女の様子に弦十郎が小さく溜め息を吐く。

 思わず心配から小言の一つでも口から出そうになったが、それを口にしたのは彼ではなかった。

「そんな疲れた顔で言っても説得力は無いな」
「えっ!?」
「ッ!? ウィズか?」

 2人が弾かれるように声のする方を見ると、そこには一体何時からそこに居たのか研究室の一画に机と椅子を出してティータイムの用意をしているウィズの姿があった。あまりにも堂々としたその姿に、了子は呆気に取られてしまう。

 一方の弦十郎はと言うと、警戒よりも興味の方が勝ったのか臆することなくウィズに近付いていく。

「どうしたんだ急に? 颯人君を介さず直接来るなんて珍しいじゃないか?」
「…………他に言う事は無いのか?」

 正直、ウィズは2人がもっと狼狽える姿を想像していた。突然姿を現しただけでなく茶会の用意までしているのだ。普通は突然姿を現した事や勝手に机や椅子を出している事に突っ込んでしかるべきだろう。
 だが弦十郎はその程度の事で動じる程容易い相手ではなかった。

 予想よりも淡白な弦十郎の反応に、ウィズはつまらなそうに溜め息を吐くと2人を手招きした。ティーセットを用意された机にはウィズが座っている物の他に2つの椅子があった。それに座れという事だろう。

 促されるままに座る弦十郎と了子。2人が座ると、ウィズはティーカップに紅茶を注ぎ2人に差し出した。淹れたての熱々の紅茶に、了子は必死に息を吹きかけて冷ましている。

「それで、何の用だ? まさかお茶会の誘いに来た訳ではないのだろう?」
「情報共有だ。最近少しジェネシスの連中の動きがきな臭くなってきたんでな」

 そう言いつつ、ウィズは自分の前にあるカップにも紅茶を注いだ。その様子に弦十郎は、どうやって紅茶を飲むつもりなのかと地味に気になった。
 もしかするとウィズの素顔が拝めるかもしれないと少し期待したが、肝心のウィズは注ぐだけ注いで一切手を付けずに話を続けた。

「一応聞いておくが、そちらはジェネシスの魔法使いの動向をどの程度掴んでいる?」
「ん? あぁ……最近世界各地で明らかにノイズによるものとは異なる集団行方不明事件が発生している事と、小さな軍の基地が何者かの襲撃で壊滅している事はこちらでも掴んでいる」

 ウィズの素顔が拝めそうもない事に若干残念に思いつつ、弦十郎はここ最近入ってくるジェネシスによるものと思われる事件を思い出す。集団行方不明はノイズの仕業であればその痕跡が残る筈だし、襲撃事件に関しては僅かながら魔法使いによるものとしか思えない証言が挙げられている。
 どう考えても、ジェネシスの魔法使いが関係しているだろう。

「そう、集団失踪と軍の襲撃。私が気になっているのは襲撃事件の方だな」
「と言うと?」
「失踪の方は分かる。連中は普通の人間を無理矢理魔法使いに仕立て上げて戦力にしているのだからな。だが軍の施設に攻撃を仕掛けたとなると、嫌な予感がするぞ」
「それはまさか……連中が何か大規模な行動を起こす可能性があるという事か?」
「そう思っておいた方が良い。元より連中の目的を考えれば、世界相手に喧嘩を吹っかけても不思議じゃないんだ。そう遠くない内に何かアクションを起こすと考えておいた方が良いだろうな。上の方にはそう伝えておけ」

 そう言ってウィズはカップを手に取る。思わず弦十郎は『おぉ?』と注目していたが、ウィズはカップの中の紅茶を緩やかに回すとそのままソーサーの上に戻した。思わず肩を落とす。

 実はウィズによって揶揄われている事に気付いていない弦十郎の隣で、茶請けのスコーンを齧りながら紅茶を味わった了子がふと気になった事を口にした。

「そう言えば、颯人君と透君で気になる事があるんだけど?」
「ん?」
「私は話でしか聞いてないけど、魔法使いがファントムって言う怪物になっちゃったんでしょ? あの2人がそうならないって言う保証はあるの?」

 それは颯人から聞かされた事であった。魔法使いは一定の力を得た者が魔力の制御を何らかの形で失うと、体の内に眠る魔力が実体化し怪物化すると。それこそがファントムであり、魔法使いが辿る末路の一つであると言う。
 尤もこれ自体ウィズからの受け売りなので、結果的に言えばウィズから聞かされた事にもなる訳だが。

 その問いに対して、ウィズからの答えは簡潔だった。

「そこは心配するな。魔法使いがファントムに変異するなど早々起こる事ではない。前回のあれは死の間際のヒュドラの生に対する強い執着やフィーネに対する憎しみが原因だろう」

 そこでウィズは何かを思い出したように了子に問い掛けた。

「それよか、そっちこそ大丈夫なのか?」
「大丈夫って?」
「立花 響の事だ。アルドが地味に心配していたぞ」

 逆に問われて、了子は何とも言えない顔になってしまう。それは機密云々ではなく、純粋に彼女でも判断に困る内容である事を意味していた。

「その事ねぇ。正直に言って、私にも分からないわ」
「了子君でも分からないのか?」
「現状では、の話よ。前例がないから、これからどうなるか予想もつかないのよ。そもそもあの子のギア自体かなりイレギュラーだし」
「と言うと?」

 了子は一旦席を立つと、端末を操作してデータをプリントアウトして持ってきた。

「色々と調べて分かったんだけど、どうやら響ちゃんのギアには奏ちゃんのギアと違って絶唱の力を調律・制御する事が出来るみたいなのよ」
「ほぉ?」
「そんな事が!?」

 これは初耳だった。そもそも響が絶唱を目の当たりにしたのが、フィーネとの最終決戦でのクリスの奴だけだったので分かる訳も無い。

「多分、響ちゃんが聖遺物と融合しているからこそなせる芸当でしょうね。負担は響ちゃんに集中するでしょうけど、それを上手く制御できれば今までに比べて格段に低リスクで絶唱が使えるわ」

 そのまま響と彼女のギアについてのあれこれに話が移行しそうになったのを見て、ウィズが席を立った。弦十郎が彼を見やると、これ以上話す事は無いと言う雰囲気を彼は纏っていた。

「まぁ、今の所問題が無いなら私は気にしない。話したい事は全て話した。後は精々頑張るのだな」
〈テレポート、ナーウ〉

 言いたい事を全て言い終え、ウィズは魔法でその場から消えてしまう。後には彼が持ってきたティーセットだけが残された。

「……行っちゃった」
「何と言うか……颯人君が落ち着きを持ったらなりそうな感じの男だったな」

 前々から弦十郎は、ウィズに対してそんな評価を抱いていた。弟子は師匠に似ると言うが、そんな感じだろうか。

 そこでふと、了子はある事に気付き頭を悩ませた。酷くしょうもない事だが、彼女にと手は地味に無視できず面倒な事であった。

「そう言えばこれ……どうすればいいのかしら?」

 そう言って彼女が見たのは、自分の前に広がるティーセットと椅子と机のセットだった。片付けもせずに帰ってしまったウィズに、了子のみならず弦十郎も困った顔になり2人は思わず顔を見合わせ溜め息と共に肩を竦めるのであった。 
 

 
後書き
と言う訳で幕間でした。

了子は少しの間軟禁されてました。乗り移られたようなものとは言え、フィーネと同一人物でしたからね。頭の固い政府上層部なら、軟禁くらいはするかなぁと。

Twitterで明かした事ですが、実はウィズ、ティータイムを大事にしてます。普段も時間に余裕を見つけては、ティーセットを用意して3時のティータイムを堪能してます。

次回からは本格的にG編に突入します。果たしてどのような物語になるのか、どうかお楽しみに!

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします。

それでは。 
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