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MOONDREAMER:第二章~

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第三章 リベン珠
  第4話 始まった冒険

「う~ん、森の空気がおいしい~」
 周りは蒼々とした木々。その隙間から暖かな木漏れ日が優しく差し込んでいる。
 勇美と鈴仙は今、森の中にいるのである。そして、勇美は外界では都会から離れなければお目に掛かれない光景に胸を弾ませるのだった。
 ここは妖怪の山の麓である。勇美と鈴仙は先日永遠亭を旅立ち、現在いるのがここという事だ。
 何故、月の異変の解決の為に妖怪の山へと赴くのか。その事を改めて勇美は鈴仙に聞く。
「それにしても鈴仙さん。何で妖怪の山を目指すんですか?」
「それは、見てのお楽しみよ。そもそもこれは極秘の情報だから、勇美にもおいそれと話す事は出来ないのよね」
「う~、ケチ~」
 等と勇美は鈴仙に窘められて唸るが、その『極秘』の場所へと勇美自身が案内されているという時点で彼女そのものがかなり信頼されているという事に勇美は気付かなかった。
 二人がそのように話していると、そこに妖精が数匹飛び出して来たのである。と、言ってもチルノや大妖精のような人間サイズではなく、本当に妖精といった感じの小型の存在であったが。
「またですか」
「そのようね」
 勇美達はやれやれといった感じの振る舞いでそう言い合った。
 そう、妖精に襲われるのは、彼女達が旅立ってからこれが始めてではなかったのである。幾度となく彼女達は本能的の襲って来る妖精と出くわしていたのであった。
 そして、小型ながら連射の利くエネルギーの弾丸を妖精の群れは勇美達に放って来たのだ。
「勇美さんはあっちを頼むわね」
「はい、任されました♪」
 鈴仙に言われて、勇美は自分の側にいる妖精達へと目を向けたのである。
「はい、プレアデスガン、始動っと」
 そして勇美は天津甕星の力を閉じ込めた銃、プレアデスガンを瞬時に手元に顕現させる。
 そこに先程のエネルギーの射撃が飛んで来る。だが、勇美はそれを難なくかわしながら銃口を妖精へと向けたのだ。
「ごめんね、まずはあなたね」
 言って勇美は銃口を引くと、星の形の弾丸が妖精へと命中した。そして妖精はパンっと小気味良い音を出して消し飛んでしまったのである。
 つまり、殺してしまったという事だろうか? だが、安心して欲しい。妖精というのは生命の成り立ちが人間とは大きく異なる存在なのであり、自然と共にある生命体なのだ。
 故に、彼女達は少しの時間さえあれば、再びその肉体を構成されて元通りに蘇るのである。
 しかし、それも大いなる自然が存在すればこそなのだ。人間の住処の開発が進み、その自然が少なくなっていった外界では彼女達は生きられなくなり、こうして今幻想郷に住まう身となっているのだ。
 その事実を噛み締めて、勇美は感慨深いものを感じていた。──正に妖精は自然の素晴らしさを体現したかのような神秘的な存在だと。
 故に勇美は、これからもこの妖精が住める幻想郷を大切にしていかなくてはいけないと思うのだった。願わくば外界に再び妖精が住める場所が出来たらいいとは思うが、それが叶うのは難しい問題だから。
 大切にしなくてはいけない存在……。だが勇美は今こう思っていた。
「さすがにこうも出て来ると少し煩わしいねぇ……」
 それが彼女の本音であった。いくら貴重な存在といえど、こうもわらわらと出現すると嫌気の一つや二つは感じてしまうのだった。
 ゲームで言えば、強いアイテムは入手が困難で数個しか手に入らないのがいいのであって、それが何十個も手に入っては有り難みが薄れる……そんな感じであろう。
 とりあえず、そう思う勇美は二匹目の妖精へと弾丸を発射し、それも自然へと還したのであった。
 その動作を勇美は難なく行っていっていたのだ。何故なら今まで幻想郷の猛者とばかり戦って来たのだから、これは朝飯前なのである。
 これは、順序が逆になってしまったといえるだろう。本来ならばこういう妖精達のような対処しやすい者で練習を積み重ね、その後で有力者と戦うのが現実的な流れというものだったのだ。
 しかし、勇美は依姫に師事した事により、その順序が狂ってしまったようだ。最初から有力者達と戦う羽目になったという訳である。
 だが、それは決して損はしていないだろう。寧ろ多少無茶な背伸びをした事により勇美は十分すぎる成長を遂げられたのだから。
 取り敢えず勇美は思う。弾幕ごっこのノウハウを飛ばして学んでしまったのなら、今から地に足を付けて基本も押さえていけばいいのだと。
 そうこう彼女が思う内に、今回の彼女が対処した妖精の群れは綺麗に片付ける事が出来ていたのだった。
「鈴仙さん、こっちは済みました。あなたの方はどうですか?」
「大丈夫よ。こっちももうすぐ片付きそうよ」
 そう勇美に言った鈴仙は、すぐに再び妖精達へと向かい合っていた。そして、彼女も手に持った銃を妖精の一体へと向ける。
 その銃はルナティックガン。まるでSF映画に登場するような、いかにも『近未来の銃』といった外観をしていた。そして、特筆すべきは、これは彼女の手作りの銃という事であろう。
 鈴仙は手先が器用なのであった。故に、永琳から学んだ技術を飲み込み、自分のものにするのは容易だったという事である。
 そんな師弟の絆の産物とも言える銃の引き金を彼女は今迷わずに引いたのである。
 すると、そこから絵に描いたような弾丸状のエネルギー弾が発射されていった。それは他でもない、鈴仙自身が弾幕に使用する彼女の力で生み出される弾丸であったのだ。
 つまり、このルナティックガンは鈴仙の力で生成した弾丸を撃ち出す代物という事である。
 それならば、直接彼女が生成した弾丸を敵に撃ち込めばいいと思うだろう。だが、この銃は籠めた弾丸の発射精度や命中精度を飛躍的に向上させる役割があった。断じて見た目が格好良いからという訳ではない。
 勇美ならばそのような理由で使いかねないが、鈴仙は元師匠の依姫に似て真面目な性格なのだ。故にそのようなふざけた理論の元行動したりはしないのである。
 ともあれ、鈴仙が『銃を通して』発射した弾丸は見事に妖精に命中して、これも自然へと還したのだ。
 それを彼女も難なくこなしていった。彼女も昔は依姫の元で修行を積んだ優秀な戦士なのだから、お手の物であった。
 しかし、彼女も初めての経験に多少戸惑いを見せていた。
 それは、基本的に人間は異変を解決し、妖怪は異変を起こす立場にあるという事である。
 だが、何の縁か今鈴仙は純粋な妖怪の身でありながら異変を解決に向かう立場となっていたのだった。これには彼女自身も困惑を覚えるのだ。
 かつて彼女が修行を積んだのは、地上の人間に月が攻め入られた時に備えてであり、彼女が辿って来た経緯は地上の妖怪とは性質が異にするものである。
 だが、彼女は月から逃げて来て地上で暮らすようになったのだ。故に、地上の妖怪としての性質も備わっていったのだ。
 そんな鈴仙が妖怪としての流儀に反して異変を解決する側に今いる。それに対して彼女は思う所があった。──これも勇美に何か影響されたが故かと。
 だとしたら、鈴仙は勇美に些か感謝すべきだろう。勇美のお陰で本来経験出来ない事を味わう機会を得たのだから。
 そのように今までの経緯を思い返している内に、彼女の方も妖精を全て露払いするに至っていたのだった。
「勇美さん、これで全部倒せたみたいよ」
「そうみたいですね」
 こうして二人は取り敢えず、今し方現れた妖精の群れを倒し切る事が出来たようである。自然の一部故に大量に現れる妖精だ。またすぐに襲い掛かって来るだろう。
 だが、辛うじて今は彼女らの気配はしないのであった。これ見よがしに二人は『旅』を再開するのであった。

◇ ◇ ◇

 そして、暫く二人が歩を進めた所で彼女らは森の中にありながら、一際開けた場所へと辿り着いていたのだった。
 そこは、他の場所よりも木が少なく空の見晴らしの良い所である。その性質上、向いている事と言えば……。
「鈴仙さん、ここでお昼にしましょうよ♪」
 そう、休憩には持ってこいという話であった。しかも、何の因果か、座るには丁度良い切り株が二つあるではないか。
「そうね、丁度あそこに座れそうだし、勇美さんの案に賛成ね」
 故に、鈴仙も断る意味を感じないのだった。しかも、ここには幸い妖精や妖怪の気配はないのだ。足を伸ばすには都合が良いというものであろう。
 そして二人はその切り株を椅子代わりにして腰掛けるのだった。
「よっこらしょっと♪」
「……勇美さん、年寄り臭いわよその言い方……」
 だらしない口調で腰掛ける勇美に、鈴仙は呆れながら注意を促した。
「だって鈴仙さん。人間は妖怪よりも早く歳を取るんだよ~」
「14歳の子供が何を抜かすか」
 休憩に入るや否や、二人はそのようにやんややんやとしたやり取りをしていた。その様は実に粋のあったものである。
 その事からも二人には絆が感じられるというものだろう。
 そうこうして鈴仙とやり取りをしつつも、勇美は懐から『ある物』を取り出したのである。
 それは、二個の赤いリボンであった。これはどこかで見覚えがないだろうか?
 そう、これはかつて八雲紫から貰った、彼女の境界を結んでいるものと同じ物であるのだった。
 これを用いて、勇美は一体何をしようというのか? 答えはすぐに分かるのであった。その裏付けに、鈴仙は勇美の行動に疑問符は浮かべてはいなかったのだから。
 彼女が見守る中、勇美はその二つのリボンを縦に平行に持っていき、まるで宙に固定するかのような体制を取らせたのである。
 否……、それらは『本当に宙に固定』されたのであった。
「うわあ……驚いたわね……」
 当然鈴仙はそのタネのない手品染みた光景に驚愕してしまう。彼女とて幻想の世界で育った身であるが、この演出には鈴仙とて意表を突かれる他なかったのだ。
「そうですね、私も何度見ても驚きますね」
 だが、一番驚いているのは勇美であった。当然かも知れないが、外界で生まれた勇美の方が遥かに幻想の産物に対する免疫がないというものである。
 彼女は『これ』を使うにあたり、その使い方を今まで試してきたのであるが、今の光景の刺激は何度見ても慣れはしないのだった。
 だが、いつまでも驚いてはいられないだろう。勇美はリボン二つを宙に固定するという奇術を披露した後、次なる行動に出る。
 おもむろに彼女は二つのリボンの間に手を差し入れたのである。そう、文字通り『差し入れ』たのだ。
 彼女の手はリボンの間に現れた空間の裂け目の中に入っていたのだった。そして、勇美はそこからある物を取り出したのである。
 そう、このリボン二つは謂わば『携帯型スキマ』といえるものであったのだ。こうして『境界』を持ち運ぶ事が出来、更には八雲紫本人以外にも取り扱う事が出来る代物なのである。
 その中に物品を入れて置けば……最も有名な所で例えれば『四次元ポケット』のように運用出来るという物理法則を超越した、存在自体が反則なアイテムとして活躍させる事が出来るという寸法だ。
 そんな、言ってしまえば『チート的アイテム』の効力を借りて勇美が取り出した物は……、おにぎりを包んだ物が二つであった。それは勇美と鈴仙の昼食を賄うには十分な量がある。後は二人分のお茶もあった。
「さあ、鈴仙さん。ここで一緒にお昼にしましょう」
「そうね。私もお腹が空いているし」
 奇術染みた光景に呆気に取られながらも、鈴仙は勇美に賛成するのだった。超然的演出も食欲を邪魔する事は出来なかったようだ。
 こうして二人の、旅の途中でののどかな一時が始まったのである。
「う~ん、おいし~♪」
 まず舌鼓を打ったのは勇美であった。おにぎりの塩加減、米の食感、海苔の質、具の梅干しの米との絡み具合、どれも取っても一級品だったのだから。
「それはもう、お師匠様の握るおにぎりだからね」
 鈴仙も勇美の意見に賛同するのだった。永琳が薬の知識が豊富故に、生きる糧になる食べ物の扱いも長けている事を今の一番弟子である彼女は良く分かっているのだ。
 こうして二人は『八意特性おにぎり』に魅了され食しながらも、鈴仙が口を開いた。
「それにしても勇美さん、随分と便利な物を貰ったものねぇ~……」
 呆れと感心とどこか卓越した感覚の下鈴仙が呟いた。それに勇美が対応する。
「全くですね。私も大それた物を貰っちゃったって自覚がありますから……。もしかして、紫さんは今回の異変の事を見越してくれたのかも知れませんね」
『それはさすがに……』そう言おうとした鈴仙であったが、寸での所でその言葉を飲み込んだようだ。
 その理由は他でもない、八雲紫という存在そのものが掴み所がないからである。いくら鈴仙が昔は依姫、今は永琳という彼女以上の実力を持つ者の下にいるとはいえ、紫が常軌を逸した概念である事に変わりがないのだから。
 だから鈴仙は、飲み込んだ言葉の代わりにこう答えるのであった。
「それも、有り得るかも知れないわね」
「鈴仙さんもそう思いますか?」
 彼女が賛同してくれた事に、どこか嬉しいものを感じながら勇美はそう言った。
 それはともあれ、美味しい食事というものは生きる糧なのだ。その命のご馳走を前にして、二人は黙々と口に運ぶのだった。
 そして、気付けば二人とも『完食』していた。余談だが、こういう光景を表すのに実に歯切れの良い新語が作られたものである。
「あ~、美味しかった~」
「そうね~」
 普段から飄々とした勇美のみならず、普段は真面目でしっかりした鈴仙もこの時ばかりは気持ちが緩んでいたのだった。さすがは食の力といった所であろうか。
 そのような心地好い満足の下、鈴仙は口を開いたのだ。
「勇美さん、この旅は大変なものになると思うけど、一緒に頑張りましょう」
 そう勇美は鈴仙に言われたのである。それには勇美とて異論は無かったのだ。
「そうですね、幻想郷の為に、お互い頑張りましょうね」
 そのように返した勇美に対して、鈴仙はこれを言うべきかと何か悩む仕草をしていた。それに勇美が気付く。
「どうしたんですか、鈴仙さん?」
「あ……、勇美さんはその……、依姫様と豊姫様の事も気に掛けているのよね……」
 それが鈴仙が言おうか迷っていた事であった。
 勇美が綿月姉妹、特に依姫を敬愛している事は鈴仙とて周知の事実だったのである。
 だが、鈴仙は彼女達の元から逃げて来た身である。故に鈴仙は思い悩んでいたのだ──今更彼女達にどの面を下げて会うのだと。
 そんな鈴仙の心境を察したのか、勇美はこう言う。
「早く依姫さんと豊姫さんに会いたいのは、特に私だから、鈴仙さんは気を張り詰めなくていいと思うよ」
「でも……」
 勇美の意外な慰めの言葉に嬉しく思いつつも、やはり鈴仙は思い悩んでしまうのだ。
「前にも似た話になったと思うけど、私がお二人の事を想うのは、私からあの人達を求めたからだよ。
 それに対して鈴仙さんは物心ついた時から兵として訓練させられていたじゃないですか。状況が違うんですよ」
 そこまで言い切ると、勇美は一旦そこで一呼吸置き、そして鈴仙に質問をした。
「鈴仙さんは、別にお二人の事が嫌いじゃないですよね?」
「!」
 その言葉に鈴仙はハッとなってしまった。その一言に彼女の中にモヤモヤと渦巻く何かを取り払う力があったのだ。
 そして、心が雪解けのような心地好さに包まれながら、鈴仙は素直な気持ちで答えを返した。
「ええ、もちろんよ。あの二人には迷惑を掛けてしまった申し訳ないと思うくらいで、嫌いになるなんて言語道断ですよ」
 その言葉の後に鈴仙は付け加えた。自分がこうして今地上にいられるのも二人が気を利かせてくれているからこそだという事も気付いていると。
 そこまで聞くと、勇美は満面の笑みで持って鈴仙を受け止めた。普段は小柄なその姿らしい愛くるしい振る舞いをする彼女が、今回ばかりはまるで菩薩のような神々しさすら感じられたのだ。
「その気持ちがあれば十分だと思いますよ。それにお二人も鈴仙が引き摺って思い悩むのを望んだりはしないでしょうから」
「そうね……、勇美さんありがとうね。お陰で吹っ切れる事が出来たわ」
「それは良かったですよ♪」
 完全ではないが迷いを断ち切った鈴仙と、それを嬉しく思う勇美。ここに一層二人の絆は深まったのだった。
「それじゃあ鈴仙さん、旅の続きをしましょうか?」
「ええ!」
 そして二人の道中は再開されようとしていた。
 していたのだが……。
「ん?」 
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