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おっちょこちょいのかよちゃん

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110 さらなる激動へ

 
前書き
《前回》
 赤軍の長・重信房子と相対したかよ子達。房子は広島で奪ったという異世界の剣を使用してかよ子達を圧倒する。だが、かよ子達も怯まずに反撃を行い、激しい戦いとなるが、あと一歩追い詰めた所で房子は奥平・岡本諸共撤退してしまう。戦いを終えたかよ子達はさりの護符の能力(ちから)でそれぞれが元いた所に戻るのだった!! 

 
 かよ子は清水に帰った。
「かよ子、お疲れ様。大変なクリスマス・イブだったわね」
「うん、でも・・・」
 かよ子は思う。この日、始めて日本赤軍のリーダーに会った。とても恐ろしそうな女だった。
(絶対に渡せない・・・。この杖は・・・!!)
 かよ子はまた誓う。そしてもうすぐ始まると予感する。大きな大きな戦いが。

 三河口と奏子は元の商店街へ戻った。
「奏子ちゃん、ごめんよ・・・。折角二人で楽しめた所だったのに赤軍の奴の邪魔が入って・・・」
「ううん、そんな事どうでもいいわ。気にしないで。また、何かあったらいつでも私を頼りにして・・・」
「あ、うん・・・。じゃあね」
「バイバイ・・・」
 二人は別れた。

 房子は全員に撤退命令を出した。
「く、欲張ったツケかしら?」
「総長、申し訳ございません」
「こうなったら政府も利用するべきね。何の為の日本赤軍なのか・・・」
「勿論、この腐り果てた日本を治す為ですよね」
 奥平が答える。
「そうね、大日本帝国の復活は近づいて来ていると思えばいいわ」

 かよ子の家では父が予約していたというクリスマスケーキを買って帰って来た。
「只今」
「あ、お帰り、お父さん・・・」
「どうしたんだ?元気ないな」
「実はね、隣の羽柴さんとこのさりちゃんが赤軍に襲われて皆で助けに行ったのよ」
「そうだったのか!?大変だったな・・・」
「うん・・・」
「名古屋の街は凄い大変だったわ。赤軍にあちこち破壊されて・・・」
「うん、高校の文化祭の時よりもずっと酷かったよ・・・。それから、赤軍のリーダーにも会ったんだ」
「赤軍のリーダーだって!?」
 かよ子の父もこのニュースには驚かない訳には行かなかった。二人はそれ以上は何も言えなかった。これからの戦いに緊張感が出てくる山田家のクリスマス・イブの晩餐はあまり楽しいとは言えなかった。

 ただ何かをする用がないというのに、藤木茂は外に出ていた。夕焼けの中、富士山が見える場所に来ていた。
(ああ、いいな、あの富士山は堂々と立ってて・・・。俺なんか、なにもできない卑怯者なんだ・・・。笹山さんには嫌われるし、皆から卑怯、卑怯って言われるし・・・。僕なんかここに居ても意味ないよな・・・)
 藤木にとっては絶望のクリスマス・イブである。そんな時、ある人物から声を掛けられた。
「おやおや、そこの坊や、どうしたのかしら?」
 藤木は振り返った。そこには美しい女性がいた。
「実は、クリスマスが楽しくなくて・・・。いつものように皆から卑怯、卑怯って言われて、好きな女の子からは嫌われるし、もう自分も、ここにいるのも嫌になって・・・。うう・・・」
 藤木は喋るうちに段々泣き始めた。
「酷い子達ね。よってたかって皆でいじめて・・・。可哀想に・・・。そうだ、この私が坊やをこんな嫌な所から解放させてあげましょう」
「で、できるんですか?」
「ええ、坊やの願いを叶えてあげるわ。まずは私が楽しい所に連れて行ってあげるわね。もう、ここには戻る事はないわ。いいかしら?」
 藤木は一瞬葛藤した。このまま戻らなくて親が心配しないか。友達の永沢とかが心配しないか・・・。
「あ、でも・・・」
「迷っているのね。でも、皆も坊やの事をよく思っていないんじゃないかしら?卑怯者だって。それに好きな女子(おなご)からも疎まれて。私は絶対に坊やをそんな可哀想な事はさせない。坊やに相応しい嫁も用意するわ」
「え・・・」
 藤木はその女性に言われて思う。このままいてもどんなケースでも卑怯と罵られるし、好きだった女子・笹山かず子がそんな卑怯な自分にまた振り向いてくれるはずもない。藤木の迷いは消えた。
「はい、お願いします。でも、行く前にちょっと待っててください」
「ええ、いいわよ。坊やの準備ができたらいつでも連れて行くわ」
「はい!」
 藤木はまず自宅に戻る。そして手紙を書き始める。そして封筒にしまい、家を出る。
(父さん、母さん、ごめんよ・・・。でも、ここにいても僕の卑怯は治らないんだ・・・)
 そして藤木は自分が書いた手紙を持って走り出す。そこは「かつて好きだった」女子の家の前だった。
(笹山さん、もう僕にとって君は遠い過去の人なんだ。もう、君を忘れるように努力するよ・・・)
 藤木はその手紙を笹山家のポストに入れた。そしてあの女性が待っている所へ戻った。

 奏子は帰宅途中、走って通り過ぎる少年を見つけた。
(あれは確か、藤木君・・・?)
 呼び止める暇もなく、その少年は走り去ってしまった。

「それじゃ、行きましょう」
「うん」
 藤木は女性に連れられる。連れて行かれた場所は清水港だった。その港の海で大きい穴が現れた。二人はその穴に飛び込んで消えた。

 レバノンの赤軍本部に戻って来た構成員達が集う。
「結局、どれも纏めて貰おうという計画は失敗しましたね。どうしましょう」
「そもそも、それらを守る為に別の異世界の道具が沢山送られているし、そいつらの援護が厄介ね。援護する者も消さないといけないけど、何らかの異能の能力(ちから)も迷惑ね・・・。義昭、機械の更なる量産をお願い」
「了解」
 その時、異世界からの声が聞こえる。
「重信房子、聞こえるか?」
「は、はい・・・」
 房子は答える。自分がレーニン様と呼ぶ、男の声だった。
「今。我が世界の者が静岡の清水から一人の男児を連行し、我が世界の元に預けてあると聞いた」
「どんな者なのですか?嘗て修に連れてくるように頼んだ長山治のような賢くて頼りになる男子ですか?」
「いいや、気が小さき少年だ。唇は常に紫色のな」
「その者が役に立つのですか?抵抗などは?」
「ああ、何もなかった」
「これはいいかもしれませんね」
「例えばどんな事か?取引の道具などに使用するのか?」
「ええ」
「貴様らの好きにするが良い。ただ、杖も、護符も、杯も、(いず)れも奪い損ねおって。いい加減しくじりなしで取る事ができんのか?」
「申し訳ございません。練り直します」
「全く・・・」
 レーニンは消えた。丸岡は聞く。
「総長、異世界の人間が一人の少年を連れて来たのですか?それも向こうの世界に預けてあると?」
「そうよ」
「その者に何か能力(ちから)は?」
「特になかったみたいね。向こうの世界でも戦いが激しくなっているのだからスパイにも使えるわ」
 房子は勝利の可能性がこちら側に傾いたかのような確信を得た。
(さて、日本政府・・・。年賀状を送りつけるわよ・・・)

 かよ子はクリスマスプレゼントに父親から動く子猫のロボットを貰った。本物のペットを飼った気分で楽しんだが・・・。
(こんなふうに元の日常がこう続けばいいのに・・・。絶対に杖は渡さない。そして負けない・・・)
 新たな、かつ、激しく、そして、生死を争う戦いに巻き込まれると予測するかよ子は絶対に元の日常を取り戻す事を渇望し続ける。

 そして、激動の時へと進んでいく。 
 

 
後書き
次回は・・・
「本拠地にて」
 クリスマスの日が訪れる。戦争を正義とする世界、赤軍の本部、そして平和を正義とする世界の本部。それぞれの人々は各々の計画を成功させる為に色々と策を練り出して・・・。 
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