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歪んだ世界の中で

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第三話 小さな決意と大きな一歩その二

「そう思ってて」
「大丈夫。覚えるだけだから」
「それだけだったんだ」
「だから希望も今までやれたのよね」
「それはそうだけれど」
「それで何処の高校なの?」
 千春は何気なく希望に彼の通っている高校について尋ねてきた。
「何処の高校に通ってるの?」
「八条高校だよ」
 素直にだ。希望は千春に答えた。
「そこの高校なんだ」
「そうなの。八条高校ね」
「昨日言ったかな」
「どうだったかな」
 その辺りは話をしたにしろあまり記憶がなかった。それでだ。
 特に何でもないといった調子でだ。また言う千春だった。
「けれどこれでわかったから」
「八条高校のことだね」
「それで普通科よね。八条高校の」
「うん、そうだよ」
「あの高校はそれなりのレベルだけれど」
 所謂偏差値はそれなりに高い。つまりだ。
「お勉強できたから入られたのよ」
「まぐれだよ」
 ここでもだ。自信のない顔で言う希望だった。
 その自信のない顔でだ。千春に言うのだった。
「それはね」
「まぐれじゃないから」
「そうかな」
「うん、それなりにお勉強ができるから」
 だから大丈夫だと言うのだ。そしてだ。
 あらためてだ。千春は希望に述べた。
「努力すればいいから」
「努力すればいいのかな」
「覚えるだけでいいから」
 また希望にだ。千春はこう述べた。
「それだけでいいから」
「そんなに簡単なのかな」
「学校の成績上げたいとね」
「覚えるだけでいいんだ」
「そう、それだけ」
 またこう告げる千春だった。にこりと笑ってだ。
 その彼女の言葉を受けてだ。希望もだ。
 顔を少しあげてだ。そして言ったのだった。
「じゃあちょっとね」
「お勉強してみる?」
「ずっと成績悪くてね」
 高校に入ってからのことだけを考えていた。高校一年の一学期だけだ。
 だがその短い時間が今の彼にとっては全てでだ。それで言ったのである。
「それをどうするかは」
「難しいの?」
「できたらいいけれど」
 また俯いた顔での言葉だった。
「だからね」
「それでもなの」
「今は」
「そう、覚えよう」
「それで済むのならね」
 成績が悪いことも言われて続けていてそのことも嫌になっていた。それでだ。
 希望はまずそのことを何とかしようと思った。学生の本分からだ。
 そしてそれからだ。千春はだ。
 希望にだ。今度はこんなことを言ってきた。
「あのね」
「あの?」
「今日はこの電車に乗ってよね」
「そう、中華街に行こう」
 その中華街に行きだ。そこでだというのだ。
「遊ぼうね」
「うん、中華街だと」
「いいお店知ってるの?」
「幾つか知ってるから」
 そこもだ。千春にとっては馴染みの場所だというのだ。 
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