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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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無印編
  第60話:愛する者の為に

 
前書き
読んでくださりありがとうございます。 

 
 シンフォギア装者に透を加えた5人とジェネシスの魔法使いにフィーネを加えた戦闘は、意外な事に拮抗していた。

「オラァッ!」

 奏の薙ぎ払いが数人のメイジを纏めて吹き飛ばし、その合間を縫って攻撃してきたメデューサの一撃を受け止める。アームドギアとライドスクレイパーで鍔迫り合いをする2人だったが、直ぐに別のメイジが奏の脇腹や背中を突こうと向かってきた。

「ちっ!」

 ピラニアの様に群がってくる雑魚メイジに奏は小さく舌打ちすると、軸をずらしてメデューサとの鍔迫り合いから逃れた。逃がすまいと振り返り追撃するメデューサだったが、奏のアームドギアの石突がメデューサの脇腹を横から殴りつけ動きを阻害した。

「ぐっ!?」
「こっちくんなお前ら!!」
[POWER∞SHINE]

 メデューサが怯んだ瞬間、奏は周囲から近付くメイジを蹴散らそうと『POWER∞SHINE』を放つ。オレンジ色のエネルギーの刃が放射状に広がり、群がろうとしていたメイジ達を悉く薙ぎ倒していった。

「ハァッ!」
[蒼ノ一閃]
「ハッ! 動きが見え見えだぜ!」
「まだだぁッ!!」

 その横ではヒュドラ目掛けて、翼の『蒼ノ一閃』が放たれる。ヒュドラはそれを回避して斬りかかってくるが、翼は彼が自身の間合いに入ってくるとアームドギアを手放し逆立ちすると両脚を大きく開いてそのまま回転し始めた。

[逆羅刹]
「何だとッ!?」

 足のパーツが変形して出来た刃が、プロペラの様に回転してヒュドラに襲い掛かる。これは不味いと剣で弾き距離を取るヒュドラだったが、翼は離れようとしたヒュドラに対しサバットのような動きで蹴りと共に足の刃で攻撃を続けた。空中であるにも拘らず見事な体捌きで脚により放たれる斬撃を、ヒュドラは防ぐことしかできていない。

 2人とは別の場所で、響と透、クリスの3人がメイジ達の包囲網を突破しカ・ディンギルに取り付こうとしていた。幹部2人は奏と翼が何とか抑えてくれている。あとはフィーネを突破して、破壊するなりなんなりしてカ・ディンギルを止めるだけ。

「行けぇぇぇぇぇぇッ!!」
[MEGA DETH PARTY]

 クリスの腰部アーマーから放たれた小型ミサイルが、カ・ディンギルとの間に居るメイジを片っ端から撃ち落としていく。さらにその穴を埋めようとしてくるメイジには、ガトリングで進路を妨害する。

 これで響と透の行く手を妨害するメイジは居なくなった。残る障害は、フィーネのみ。

 響と透はフィーネに向け一直線に駆けていく。2人を前に、フィーネは不敵な笑みを浮かべていた。迎え撃つつもりなのだ、正面から。それが出来ると思っている。

「透君、行くよ!!」

 響の声に無言で頷き、透は両手にカリヴァイオリンを持ちフィーネに飛び掛かる。幅の違う二つの刃がフィーネに振り下ろされた。それをフィーネは両の鎖鞭で防ぐ。
 それこそが2人の目的だった。フィーネの武器は2本の鎖鞭のみ、それは颯人も気付いた戦闘におけるフィーネの弱点だ。それを塞がれてしまえば、フィーネには打つ手がない。

 そこを響が突く。

「だりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」

 透が作った隙に、響がフィーネに近付きジャッキを引いたガントレットを叩き付けようとする。

「甘いわッ!!」

 しかしフィーネも一筋縄ではいかなかった。透の攻撃を防ぐ為に使った2本の鎖鞭が、そのまま透の体に巻き付き簀巻きにする。それをフィーネはハンマーの様に振り回し響に叩き付けた。

「ッ!?」
「うわっ!?」
「透ッ!? 2人とも、大丈夫か!?」

 透を叩き付けられ、諸共にクリスの近くまで飛ばされる響。自分の近くまで飛ばされてきた2人をクリスは気遣いながら、メイジが近付いてこないように銃撃して牽制する。

 その光景を遠目に見て、奏はメデューサの攻撃を防ぎ距離を取った。一度状況を冷静に分析したい。

「くそぉ、時間が無いってのに────!?」

 もうカ・ディンギルの発射は目前まで迫っている。と言うのに、未だカ・ディンギルに近付く事すらできていない。
 その奏に背中合わせになるように、ヒュドラから距離を取った翼がやってきた。

「翼、そっちは?」
「こちらは大丈夫。立花達も、大事は無いみたい」
「あぁ。だが…………」

 奏は砲口から紫電を放つカ・ディンギルを見上げる。先端を怪しく光らせる塔も確かに気になるが、それとは別に奏には気になっていることがあった。

 ワイズマンだ。

──あいつ……メデューサが大人しくなる位に強いんだろうに、手下にばかり戦わせて自分は何してるんだ?──

 ワイズマンは最初に姿を現した瓦礫の上から一歩も動いていない。立ち去る事は無かったが、奏達の邪魔をする事もしなかった。まるでこの状況を観戦しているかのように瓦礫に腰掛けているのが逆に不気味だ。

 そうこうしている内に、メイジが再び包囲を完成させてしまった。あと一歩で決め手に欠けているからか、倒したメイジが再び戦線復帰してきたのだ。

「どうしたら……」
「おい! 人気者共!!」

 どのようにしてこの状況を打開すべきかと奏が思案していると、クリスが遠くから声を張り上げてきた。

「何だ!? 今どうするか考えてんだ!?」
「少しの間で良い! 周りの魔法使い共を黙らせろ! そうすればあたしが何とかする!!」
「何とかって、何だ!?」
「奏! 今は時間が無い。この場で一番適任なのは雪音しかいない!」

 翼の言う通り、今この状況でカ・ディンギルに最も有効な攻撃が出来るのは遠距離攻撃を得意とするクリスである。彼女に任せるのが適任だ。

「そう言う事なら、行くぞ翼!」
「承知!」

 奏と翼はその場で飛び上がると、クリスとカ・ディンギルの間に居るメイジ達にアームドギアを向ける。するとそこから強烈な竜巻が発生し、クリス達の周囲を包囲していたメイジ達を蹴散らしていった。

[双星ノ鉄槌-DIASTER BLAST-]

 奏と翼の連携技により放たれた青とオレンジの竜巻により、クリスの周りがクリアになる。さらに打ち漏らしたメイジを透がクリスに近付けまいと素早く動き回った。風の様に駆け、奏と翼の攻撃を切り抜けたメイジを叩きのめしていく。
 それすらも潜り抜け、クリスに接近する琥珀メイジ。その前に響が立ち塞がり、連撃を叩き込んだ。

「オラオラオラオラッ!!」

 何発も拳を叩き込まれ、琥珀メイジが押し返された。

 仲間たちが時間を稼いでくれたおかげで、クリスの攻撃の準備が整った。彼女の背中に巨大なミサイルを二発背負い、カ・ディンギルに狙いを定める。

「ロックオン! アクティブ! スナイプ!………デストロイィィィッ!」

 発射される二発の大型ミサイル。巡洋艦から発射されるほどのそれは、別々の軌道を描いてカ・ディンギルに飛んで行く。
 その内の一発は、ワイズマンの頭上を通り過ぎようとした。自身の頭上を通り過ぎようとする大型ミサイルを、ワイズマンが一瞥する。

「ッ!? ま、不味い!?」

 これは流石に邪魔されると思い、少しでも気を引こうとアームドギアを投擲しようとした。

 が、予想に反してワイズマンは直ぐに興味を失ったかのようにミサイルから視線を逸らした。

「な、何で?」

 ワイズマンの実力の程は分からないが、あれを撃ち落とせない程度の実力という事はないだろう。雑魚メイジですら魔法の矢を飛ばして遠距離に攻撃できるのだ。ジェネシスの首魁ともなれば、容易く撃ち落とせる筈。

 何故それを見逃したのか?

 奏が疑問に思っていると、不意にワイズマンと目が合ったような気がした。

「うッ!?!?」

 その瞬間、奏の背にゾクリと悪寒が走った。今までに感じた事のない感覚だ。息が詰まり、目が逸らせなくなる。

 一方で、ワイズマンの頭上を通り過ぎた大型ミサイルは真っ直ぐカ・ディンギルに向けて飛んで行く。てっきりワイズマンが止めてくれるかと思っていたフィーネは、当てが外れて慌ててミサイルの迎撃に動いた。

「チィッ!? させるかぁぁぁぁッ!?」

 フィーネは鎖鞭を伸ばし、カ・ディンギルに向け飛んで行くミサイルを真っ二つに切り裂き迎撃する。だが放たれたミサイルは二発。もう一発がカ・ディンギルに迫っている筈だった。

「もう一発は?────ハッ!?」

 フィーネが周囲を見渡すと、カ・ディンギルに向け飛んで行く一発を見つけた。カ・ディンギルにではなく、空に向けて飛んで行く大型ミサイル。

 その上に、なんとクリスが乗っていた。彼女は大型ミサイルを乗り物にし、ロケットの様に月に向けて飛んでいた。

「ッ!?」
「クリスちゃん!?」
「おい雪音ッ!?」
「何する気だッ!?」

 透達にすら知らされなかったクリスの行動。彼女が無いをする気なのか分からない4人は、メイジの相手をしながら彼女の動向を見守っていた。

 クリスを乗せたミサイルはあっという間にカ・ディンギルの上空まで飛んで行き、彼女を砲口の正面に運んだ。

「だが、足掻いたところで所詮は玩具! カ・ディンギルの砲撃を止める事などッ!」

 エネルギーチャージが完了したカ・ディンギルの砲口が強い光を放つ。もう発射は止められない。

 フィーネは勝利を確信した。

 その時──────

「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl────」

 戦場に歌声が響く。その瞬間、周囲がピンク色に染まった。

 それが何なのか、クリスが何をしようとしているのかを察し、フィーネと奏、翼が顔色を変える。
 分からないのは絶唱をよく知らない響と透、そしてジェネシスの魔法使い。

「クリスの奴、まさか────!?」
「絶唱をッ!?」
「え? え? 何? クリスちゃん、何をしようとしてるんですか?」
「ッ!!」
「あっ! 透君!?」

 困惑する響の横で、クリスが何をしようとしているのかを察した透がライドスクレイパーに乗りクリスに向けて飛び立った。

 その間にもクリスの歌は続いた。歌いながらもクリスはミサイルに運ばれ、限界高度に達したところで彼女は飛び下りた。それと同時に腰部アーマーが展開し、エネルギーリフレクターが展開される。

「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl」

 絶唱の効果でクリスのフォニックゲインが上昇。二丁拳銃に変形したアームドギアからエネルギーの銃弾をエネルギーリフレクターに放つと、エネルギー弾はリフレクター内で拡散せず反射を繰り返しながらエネルギーを収束させていく。

 まるで蝶の羽の様に広がるエネルギー。
 変化はそれだけに留まらず、二丁拳銃が変形しながら合体し一門の大口径ロングバレルのキャノン砲になる。クリスはそのキャノン砲に残りのエネルギーをありったけ注ぎ込み、カ・ディンギルからの砲撃が行われると同時に引き金を引く。クリスの攻撃はキャノン砲によるものだけでなく、背後に広がる蝶の羽の様なエネルギーフィールドからの光線も加わり、キャノン砲の砲撃と合わせてピンクのビームがカ・ディンギルの砲撃と正面からぶつかり合う。

 (せめ)ぎ合う緑の光とピンクの光。
 そのある種幻想的とも言える光景に、奏達や地下から見ている二課の面々だけでなく、動けるジェネシスの魔法使い達も目を奪われていた。

 その中でもフィーネは驚愕の表情でその光景を見つめていた。

「一点集中!? 押し留めているだとッ!?」

 完全聖遺物・デュランダルをエネルギー源とし、シンフォギアとは比べ物にならない程精巧かつ頑丈に造られた砲台からの一撃を、たった1人の少女が押し留めている。それはシンフォギアとカ・ディンギル、両方の開発に携わっていたフィーネからすれば信じられない光景であった。

 だが、クリスの奮闘も長くは続かない。次第にバレルに罅が入り、ギアも罅割れ、口の端からは血が流れ落ちる。土台無理があったのだ。負担の大きい絶唱は長時間効果を持続させる事が出来ない。無限とも言えるエネルギー源による砲撃と一時のブーストによる砲撃、どちらに軍配が上がるか等火を見るよりも明らかだった。

 だが、クリスの顔は何処か穏やかだった。

──そうだよ、透。あたしはパパとママの事が大好きだった! だから、あたしがパパとママの夢を継ぐんだ。歌で世界を平和にする! あたしの歌は、その為に……──

 その間にもクリスの砲撃は弱くなり、カ・ディンギルの砲撃に呑まれていく。このままではクリス自身も砲撃に呑み込まれるだろう。だがそれでも、展開したエネルギーリフレクターでカ・ディンギルの砲撃の威力を弱らせることは出来る。
 そうすれば月の破壊は阻止できるだろう。

 尤も、その場合クリス自身はきっと助からない。カ・ディンギルの砲撃に焼き尽くされるだろう。

 自分の行動が間違っているとは思っていなかったが、それでも悔いが無いとは言わなかった。一番の心残りは、やはり透との約束だ。

──ゴメン、透。やっぱり、透の夢にはついていけそうもないや。でも透ならきっと大丈夫。だから……──

 目前まで迫った緑の巨光。自身を焼き尽くすだろうその光に全てを委ねようと、クリスが目を閉じた。

 その瞬間、クリスの体を誰かが押した。カ・ディンギルの砲撃の射線から押し出したのだ。

「えっ!?」

 一体何が? そう思ってクリスが目を開けると、そこには先程までクリスが居た場所でカ・ディンギルの砲撃に向けて障壁を張っている白い仮面のメイジの姿があった。

 それが誰か? など考えるまでも無い。障壁を張りながらもクリスの事を見る、メイジの仮面越しに自分に向けて微笑む最愛の少年の顔が見えた。

「あ────」

 咄嗟に手を伸ばすクリスだったが、ネフシュタンの鎧と違ってイチイバルには飛翔能力はない。結果、手を伸ばしつつもクリスの体は透から離れて行き──────

「透ぅぅぅぅぅぅッ!?!?」

 クリスの叫びと同時に、障壁が割れ透の体はその笑顔と共にカ・ディンギルの砲撃の光の中に消えていった。

「透君ッ!?」
「北上ッ!?」
「ちぃっ!?」

 カ・ディンギルの光の中に消えていった透の姿に、悲鳴を上げる響と翼。一方奏は、こちらに向けて落下してくるクリスを受け止める為駆け出した。流石にあの高さから落下しては、無傷とはいかないかもしれない。
 奏の行動に気付いた翼と響もそれに続き、3人で落下してきたクリスを何とか受け止めた。お陰で彼女は特にダメージも無く着地に成功する。

「あ、あぁ……あぁぁ、あ…………」

 だがクリスに礼を言う余裕はなかった。地面に降り立ったクリスは、震える手をカ・ディンギルに向け伸ばす。

 クリスが手を伸ばした先で、光る何かが落下していた。メイジに変身したままの透だ。辛うじて消し飛ぶことは無かったが、もう自力で動く力も無いのか重力に身を任せている。
 そのまま落下し、地面に激突したのか彼が落ちた地点で大きな落下音と共に土煙が上がった。

 そこに、クリスの手が届く事は無く──────

「あ…………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」

 擦り切れんばかりの、クリスの悲痛な叫びが辺りに木霊した。 
 

 
後書き
と言う訳で第60話でした。

今回一番の原作との差異は、やはりクリスがカ・ディンギルの砲撃に巻き込まれなかった事でしょうか。ここはどうするか少し悩んだのですが、透がクリスを放っておく筈も無くかと言って魔法で防ぎきれると思う程自惚れてもいないと考えた結果、クリスの身代わりとなって砲撃を喰らう展開となりました。

クリスと一緒に砲撃を受け止める展開も考えたのですが、それは既に別の人がやっているのでまた違った展開を描いてみた次第です。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします。

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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