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日本国召喚~Country survival~

作者:相模艦長
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邂逅編
  第3話 迫る戦火

 
前書き
色々と新キャラ、オリキャラが出てきます。 

 
西暦2029年/中央暦1639年3月25日 日本国東京都 首相官邸

 その日、首相官邸では国家安全保障会議(NSC)が開かれていた。議題は勿論、ロウリア王国の軍事行動である。

「現在ロウリア王国は、10万規模の軍団4個を東部に展開し、付近に夜戦飛行場も多数設営。港湾部では複数個所から終結した軍船が数千隻規模の船団を編成し、多くの兵員を乗せている様子が捉えられています。恐らくクワ・トイネ公国及びクイラ王国に対する軍事侵攻を企図しているものと思われます」

 自衛隊統合幕僚長を務める富樫特将の言葉に、垂水達閣僚は険しい表情を浮かべながら状況図の映し出されたモニターを見つめる。
 去年、この世界を詳しく知るために打ち上げた人工衛星による対地観測で、脅威と見るべき国・地域が無いかどうかを調べる中で、地上に展開する防衛省情報局(ミディス)職員からの報告と併せて、このロウリア王国の動向を知り、今のNSCで話し合っているのだった。

「加えて地上監視及びクワ・トイネ公国からの情報提供で、ロウリア王国軍は『リントヴルム』と呼ばれる地竜や各種魔獣を主力とした部隊を編成しており、ワイバーンも従来種より圧倒的に速いとの事です。 特にリントヴルムは本来フィルアデス大陸にしか生息しない生物との事で、恐らくフィルアデス大陸にある国のどれかが極秘裏に支援をしていたのではないかとの推測を立てております」

「…という事は、何処の国の入れ知恵もある、という事か…厄介な…」

 吉田知重(よしだ ともしげ)外務大臣が気難しそうな表情を浮かべながら呟き、他の閣僚も同様に面倒そうな表情を浮かべる。
 つまりこの一連の軍事行動には、軍事支援で漁夫の利を得たい第三勢力が介在するという事であり、クワ・トイネ公国とクイラ王国のみではどうにもならない可能性もある。恐らく台湾の総統府や中華民国国軍も同様に頭を抱えている事だろう。

「自給率を国内農業プラントの整備で向上させたとはいえ、未だに全国民を満たすために必要な食料の半分はクワ・トイネ公国からの輸入に依存している上に、ロデニウス大陸へ移民した者も200万人を超えている。 このままでは食料供給源どころか我が国の威厳も失いかねない。早急に自衛隊を派遣して、紛争の早期解決を目指さねばならん」

 ロウリア王国とは未だに正式な外交チャンネルが存在しない事や、クワ・トイネ公国軍に比してロウリア王国軍が余りにも膨大な戦力を抱えている事、そして今は平和主義の国是よりも全国民の生存圏確保が最優先される事から、この場合どうするべきなのか、その選択肢は一つしか存在しなかった。

「直ちに国会を開き、クワ・トイネ公国及びクイラ王国との正式な安全保障条約の締結及び国外邦人保護のための自衛隊防衛出動の可否を問う。 直ぐに根拠法の作成及び他党への根回しを行って下さい」

『はい!』

 閣僚一同が垂水の指示に頷いて応える中、垂水はそっと視線を別の場所に移す。そしてその先に座る、1人の男と目を合わせる。

「…もし国家の将来よりも目先の利益のみを求めて牛歩戦術を取る様な者がいれば…その時はお願いします」

「…分かりました」

 垂水の頼みに対し、防衛省情報局長官、渥美大輔はそう言いながら頷いた。
 2時間後、臨時国会が開会され、ロデニウス大陸でのロウリア王国の軍事行動に対して、クワ・トイネ公国及びクイラ王国を救援するために自衛隊を派遣するべきか否かの本会議を開催。
 当然ながら野党勢力の半数は事実上の派兵に反対したが、理想を叶えるための政権奪取よりも現実的な国家の維持と国民の生命を優先する者も多く、合計12時間にも及ぶ論戦の末、衆参両院ともに三分の二の議席の賛成によりクワ・トイネ公国及びクイラ王国との正式な安全保障条約―これまでは相互不可侵条約しか結んでいなかった―の締結と自衛隊の対外派遣が決定された。
 同時期に台湾及び韓国も、軍の派遣を決定し、3カ国の転移国からなる多国籍軍がクワ・トイネ公国とクイラ王国の味方に回る事となった。

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西暦2029年/中央暦1639年3月29日 ロウリア王国 ポート・ハーク市 王国海軍基地

 ロウリア王国最大の港湾都市であるポート・ハーク市に、高らかに喇叭が鳴り響く。
 沖合には何百何千もの帆船が停泊し、その全てに多くの将兵が乗り込んでいる。そして一つの桟橋には、一層豪華に装飾が施された軍船が停泊していた。

「間もなく出撃ですね、シャークン提督」

 その桟橋の上で、1人の青年がロウリア王国海軍を率いる将の1人、シャークン・ジン・カルディアに声をかける。シャークンは声をかけてきた者を見て目を丸くする。

「アルダ殿下…珍しいですね、戦いを疎む貴方がこの場に参られるとは」

 シャークンの言葉に、青年―アルダ・ジン・ローア王子は苦笑を浮かべながら答える。

「戦争を疎む者でも、王族に生まれた以上は激励の一つも出来なければ民の上に立つ者として失格とされるからな。 分かってはいるだろうが、如何に格下の相手だろうと侮らぬ事だ。 相手も火砲を持っているというのだろう?『追い詰められたワイバーンは風竜をも食らう(窮鼠猫を噛む)』という事もあるから、絶対生きて帰って来てくれ」

「…御意に。常に将として心掛けている事を貴方に言われると、何だか面映ゆいですね。では、これにて…」

 シャークンはアルダに一礼し、自身の座乗艦に向かう。その様子を遠巻きに見つめていたアルダは手を振りつつ、心の中で呟いた。

(…叔父上、確かにロデニウス大陸を統一する事はこれからの列強国との関係構築において必要な事です。 しかし、ヒト種には出来ず、逆にエルフやドワーフ、獣人にしか出来ぬ事も多い。 果たして、これ以外に統一の方法は無かったのでしょうか…?)

 その日、ロウリア王国海軍東方征伐艦隊4400隻は、10万人の将兵を乗せて抜錨。一路、マイハークに向けて進撃を開始した。

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西暦2029年/中央暦1639年3月31日午前 ロウリア・クワトイネ国境付近 ロウリア王国東方討伐軍 本陣

 ロウリア王国軍東方征伐軍40万のうち10万は、すでに国境線一帯に構築された野戦用簡易城塞に到着し、侵攻の準備を整えていた。
 この時点でクワ・トイネ公国外務部から、何度も国境から兵を引くよう、魔法通信にて要請が送られていたが、王国政府・王国軍は共にこの要請を無視していた。もう彼の国と戦争することは、決定しているのだから。

「明日、ギムを落とすぞ」

 ロウリア王国軍将軍の1人であるアデム・ジン・オーガスタ一等佐官は、王国陸軍第2騎士団団長を務めるパンドール・ジン・ノルマン将軍からギムに攻め込む先遣隊5万の指揮官の任を与えられていた。
 歩兵3万、重装歩兵1万、騎兵4000、攻城兵器などの戦術兵器を取り扱う特化兵4000、特殊任務を担う遊撃兵1000に魔獣使い500、魔導師100、そして、ワイバーンやリントヴルムを扱う竜騎兵400が現時点で彼の有する全ての戦力である。
 数の上では歩兵が多いが、飛竜騎は12騎いれば、1万の歩兵を足止め出来るとも言われる空の覇者である。それが200騎もいるのである。加えてパタジン曰く『完全飼育下に置く事に成功した』という地竜リントヴルムも存在している。
 本国がこの先遣隊にどれだけ期待をかけているのか、それがよくわかる。任務の重さを実感するアデムは、満面の笑みを浮かべながら、配下の部隊を見つめていた。
 航空兵器が高価な存在なのはこの世界も同様で、ワイバーンは餌代や飼育環境で莫大なコストがかかりやすい高価な兵器である。ロウリア王国の国力であれば、本来国全てをかき集めても、300騎を揃えるのがやっとである。
 しかし今回は、対クワ・トイネ公国戦に、その倍はいる600騎ものワイバーンが参加している。
 噂では、第三文明圏を構成するフィルアデス大陸の列強国、パーパルディア皇国から軍事物資の支援があったとされている。実際はどうなのか、アデムは愚か、実働部隊の指揮官たるパンドールすらも知らない。なにせワイバーンの対弓矢用鎧には国章などついていないので、推測する以外に知りようがない。加えてリントヴルムも、本来育成には5年もの期間がかかる上に飼料も牧草ベースに肉や小麦、魔石を混合させて形成したペレットという高価かつ技術の要る人工飼料が必要となるため、訓練期間を差し引いても10年という短期間で200騎のリントヴルムを用意する事が出来たのは奇跡的にすら思えた。
 いずれにせよ、先遣隊にワイバーンとリントヴルム各200騎が与えられているという、この明らかに過剰な戦力に、アデムは満足していた。

「将軍、ギムでの戦利品はいかがしましょうか?」

 副官の問いに対し、アデムは笑みを浮かべながら答える。

「ギムでは、略奪を咎めない。 女は嬲ってもいいが、使い終わったらすべて処分するように。 一人も生きて町を出すな。全軍に知らせよ」

「はっ…はっ!」

 基本的にアデム配下の部隊は同じ王国軍からも『ろくでなし』扱いされているとはいえ、人としての最低限の理性と人情はある。アデムの部下は、自分達から見ても残虐に思える命令に震えつつ、すぐさま天幕を出ようとする。
 すると、アデムが不意に彼を呼び止めてきた。

「いや、待て…やはり嬲ってもいいが、100人ばかり、生かして解き放て。 周囲の村々に恐怖を伝染させるのだ。それと…敵騎士団の家族がギムにいた場合は、なるべく残虐に処分すること。 我らに逆らう気力を奪ってしまうのだ」

 恐怖に満ちた、されど実に合理的な命令。アデムの心は人間ではない。そう思いながら、部下は、天幕を飛び出し、命令を忠実に伝えに行った。 
 

 
後書き
次回、開戦。 
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