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日本国召喚~Country survival~

作者:相模艦長
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邂逅編
  第1話 転移・遭遇

 
前書き
リメイクと言うか、リベンジと言うか…そんな感じで1ヵ月程悩みながら書いてみました。 

 
 その国は、遥か昔よりあらゆる(わざわい)に見舞われた国だった。
 時には人智の手に余る存在(モノ)と対峙し、時には同じ種である筈の者達と刃を構え、その度に多くの犠牲を払いつつも、祖先たちは自分達の祖国を生き延びさせ、子孫に受け継いでいった。
 世界そのものを巻き込んだ二度目の世界大戦から80年もの月日が経ち、その国は90年代に訪れた景気の不況に耐えながらもどうにか国としての在り方を保ち、今に至っていた。
 その国の名は、日本国。

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西暦2025年1月8日 日本国東京都 首相官邸

 その日、東京都千代田区の中心部にある首相官邸では、この年7回目の閣議が開かれていた。

「…官房長官、防衛相、国交相、報告をお願いします」

 日本国政府第100代内閣総理大臣を務める男、垂水慶一郎の問いに対し、最初に石渡俊道官房長官が口を開く。

「突然の『異常事態』より1週間が経過し、現時点で連絡が取れているのは台湾、韓国、ロシア北サハリン地方、太平洋南洋諸島、パラオの計6地域です。また北朝鮮はこの『異常事態』に対し、未だに混乱から立ち直っていない模様です」

 その言葉に、一同は改めて現状の深刻さを自覚する。
 今年の元日、突如、殆どの通信・連絡手段が途絶え、日本は突然混乱の渦に投じられた。突発的な事態に慣れている政府の尽力もあって、3日目には冷静を取り戻す事が出来たものの、朝鮮半島や台湾、樺太北部以外の『外国』と連絡が取れなくなってしまった事に関しては原因を判明させる事が出来ず、こうして自衛隊を動員して周囲を調べるしかなかった。
 石渡に続き、今度は沖忠順防衛大臣と伊能智樹国土交通大臣が口を開く。

「現在、自衛隊は海自航空集団及び空自第602飛行隊を動員して周辺調査を行い、この1週間内で官房長官が述べた通りの地域以外では、南鳥島から東に500km、台湾から南西に200kmの地点にて陸地が発見されたとの事です」

「この情報を受け、現在海上保安庁は第十一管区の巡視船を動員して、台湾海巡署と共同で周辺海域の調査を行っております。 結果は間もなく判明する事となるでしょう」

「そうですか…ともかく、一刻も早い、完全な状況の把握を実施して下さい」

 垂水の指示に、閣僚一同は頷いて応える。
 数時間後、周辺地形が地球と全く異なっている事を理解した日本政府は、『転移』という信じ難い事態が起きたと判断し、これ以上の情報統制によるデマの拡散を防ぐためにこれを公表。同時に付近に新たな陸地が発見された事を公表し、転移に伴って発生した失業者の救済制度としての移民政策を実施する事も公表した。

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中央暦1635年1月14日 ロデニウス大陸 クワ・トイネ公国北東部海域

 その日は海の上の空が晴れ渡っていた。この世界においてワイバーンと呼ばれる飛龍を操る竜騎士、クワ・トイネ公国軍北部方面飛竜騎士団所属、マールパティマ・ウォーレンティス三等佐官は、自身の率いる2騎のワイバーンとともに、クワ・トイネ公国北東海域の警戒任務についていた。
 クワ・トイネ公国から北東の方向には、国は愚か島一つさえ何もない。ただ東に行っても、そこには海が広がるばかりであり、これまでにも幾多の冒険者が東方向へ新天地を求めて進行していったが、今まで帰ってきた者はいない。
 そんな何もない空域を哨戒している理由、それは近年、西隣にある大陸最大の国、ロウリア王国と緊張状態が続いているため、船団による東側への迂回、奇襲が行われた場合、これを早期に探知し、対策をとるため、彼らは自分達の相棒を公国北東海域の空へ飛ばしていた。

「マイハーク管制塔、応答せよ。こちらウォーレンティス小隊、担当空域に異常なし。引き続き哨戒を実施する」

『マイハーク管制塔よりウォーレンティス小隊、了解した』

 角笛型の通信魔法具である携帯魔導通信機で管制塔と連絡を取り合ったマールパティマは、視線を真正面に戻す。と、その時、真正面の空域に何かが見えた。

「…ん?何だ…?」

 突然、自分達の目に入って来た黒点に、3人は揃って目を細める。
 自分達以外にいるはずの無い空に、何かが見える。通常は、他の空域から戻る途中の味方のワイバーン以外に考えられない。ロウリア王国からこの空域まで、ワイバーンでは航続距離が絶対的に不足しているからである。
 自分達の住むロデニウス大陸から西の位置にある三大文明圏には、竜母と呼ばれる飛龍を洋上で運用するための専用艦があるらしいが、技術的恩恵を受けにくい位置にあるこの文明圏から外れた地にあるはずがない。
 粒のように見えた飛行物体は、どんどんこちらに進んで来た。それが近づくにつれ、味方のワイバーンでは無いことを確信する。

「羽ばたいていない…」

「生物じゃないのか…?」

 僚騎の竜騎士が不安そうに言葉を言う中、彼はすぐに携帯魔信機を起動してマイハーク管制塔に報告を上げる。

「ウォーレンティス小隊よりマイハーク管制塔、応答せよ!我、北東方面より接近する未確認騎を確認!これより要撃し、確認を行う。現在地、マイハークより東北東400km!」

 相手との高度差はほとんど無い。彼らは一度すれ違ってから、距離を詰めるつもりだった。そしてついに3騎は、飛行物体とすれ違った。
 その物体は、彼の認識によれば、とてつもなく大きかった。羽ばたいておらず、翼に付いた風車の様な何がが4つ、高速で回っていた。
 胴体と翼の先端がピカピカ点滅して光り輝いており、全体的に白色で、胴体と翼に赤い丸が描かれていた。
 彼らは反転して、愛騎を羽ばたかせる。風圧が重くのしかかり、飛ばされそうになる。一気に距離を詰めるつもりだったが、全く追いつけない。ワイバーンの最高速度は時速235km。空を飛ぶ生物の中では最速を誇り、馬より速く、機動性に富んだ空の覇者――ただ三大文明圏にはさらに品種改良を加えた上位種が存在するらしいが――が全く追いつけない。
 相手は、生物なのか何なのかも全く解らない。

「くっ!なんなんだ、あいつは!!」

 自分達飛竜騎士団が追い付く事の出来ない相手に、困惑が広がる。

「管制塔、応答せよ! 管制塔、応答せよ! 我、飛行騎を確認しようとするも、速度が違いすぎる!飛行物体は現在、本土マイハーク方向へ進行!繰り返す、飛行物体はマイハーク方向へ進行中!」

 マールパティマから送られてきた報告内容に、マイハークの飛竜騎士団管制塔のみならず、マイハーク防衛司令部は混乱に包まれた。
 マイハークから400kmの位置で発見され、しかもワイバーンより圧倒的に速い速度で接近してきているとなれば、2時間以内にマイハークに到達する事となる。もしも神話に聞く神龍種だった場合、被害は甚大なものになりかねない。

「第6飛竜中隊は全騎発進せよ、未確認騎がマイハークへ接近中、領空へ進入したと思われる。発見次第撃墜せよ、繰り返す、発見次第撃墜せよ」

 市街地郊外に設けられた全長500メートルの滑走路から、基地に待機していた竜騎士の駆るワイバーンが発進する。その数12騎、現有戦力での全力出撃である。
 彼らはこのマイハークを守るために透き通るような青い空に向かい、舞い上がっていった。
 30分後、第6飛竜中隊は件の飛行物体とマイハーク上空で会敵したが、飛行物体はワイバーンの2倍以上の速度で迎撃部隊を振り切り、マイハーク上空を旋回。市民は恐怖に陥り、混乱が巻き起こったが、10分後に飛行物体はその場から飛び去って行き、守備隊はただ、その謎の飛行物体を見送る事しか出来なかった。

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3日後 洋上 日本国海上自衛隊・台湾海軍合同部隊

 台湾から南西に200kmの地点に見つかった陸地に文明が発見された事を受けて、日本政府と台湾中華民国政府は現地に艦隊を派遣し、外交的接触を図る事を決定した。
 その合同艦隊の先頭を行く航空機搭載護衛艦、DDV-192「いぶき」の艦橋では、2人の男がただ静かに目前に広がる大海原を見つめていた。

「広い海ですね、秋津さん。本当に地球ではない世界に来たのかと疑いたくなります」

 対外接触団のリーダーを務める矢口蘭堂官房副長官の言葉に対し、「いぶき」艦長の秋津竜太一佐はただ静かに真正面を見据えながら言葉を返す。

「ですが、小麦を中心に自給率が危険な状態に入っているのも確実ですし、石油も樺太のオハからの融通でどうにか持ち堪えているという状態です。異世界だと認識するには苦い現実ですが」

「しかし、対潜哨戒機(〈P-3C〉)乗員の報告を本当の事だとした場合、特自も通常の防衛出動で出さなければならなくなるな。通常兵器で十分に対処可能な存在なのか不明だから…」

 矢口がそう言った直後、戦闘指揮所(CIC)から報告が上がってきた。

『艦長、レーダーに複数の反応を検知。12時の方向から3隻の軍船が8ノットの速力で接近中です。航行機動から民間の漁船や商船ではなく、警備艇クラスの艦艇と思われる』

「来ましたか…機関停止、臨検の受け入れ準備を進めよ。 後方の台湾艦隊に通達、最初の外交的接触は本艦が担う。貴艦はそのまま待機し、相手の動向を注視する様に」

 秋津の指示に従い、4隻の軍艦は減速し、相手の船を出迎える準備を進める。そして水平線の向こうから3隻の軍船が現れ、先頭を進む1隻が「いぶき」の真横に接舷を試みてきた。
 その軍船は中世ヨーロッパのガレアス船に近い設計をしており、舷側には幾つもの角盾が並べられており、甲板上には油壺や大型のバリスタが並んでいるのが見えた。

「火砲の類は装備していない様ですね。技術水準で言えば、火薬が発明される以前の中世ヨーロッパといったところですか…」

「自衛隊にとっては然程の脅威とはならない事は分かりますね。では、矢口団長」

「ああ…いざという時は頼む」

 矢口は秋津にそう言って、部下の外務省外交官である田中一久とともに艦橋を後にしていき、秋津はただ静かに彼を見送るのだった。
 その日、日本・台湾両国はクワ・トイネ公国と正式なファーストコンタクトを取る事に成功し、田中率いる外交使節団は3日間の期間をかけてクワ・トイネ公国政府と協議を実施。4日後に日本国及び台湾に向けて外交使節団を派遣する事で決定した。

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西暦2025年1月24日 東京都 首相官邸

 クワ・トイネ公国での外交協議から4日後、クワ・トイネ公国の対日外交使節団は日本側の用意した客船で2日かけて日本に来訪し、まずは福岡県福岡市で1日宿泊。そして2日程時間をかけながら西日本を巡ってもらい、最終的に東京に来てもらう予定を立てていた。
そしてこの日、首相官邸では、新たな隣人となるだろう国の使節団に関する報告会を兼ねた閣議が開かれていた。

「まず、今回我が国が接触したのは『ロデニウス大陸』北東部を領土とする寡頭制国家のクワ・トイネ公国です。住民はヨーロッパ系白人や『エルフ』という不老長寿が特徴的な人種を中心とし、大陸南東部に位置する小国『クイラ王国』とは関係が良好な一方で、大陸西部を支配するロウリア王国とは関係が悪く、近年緊張状態が続いているとの事です」

 普段は防衛省情報本部としての表の顔を持ち、一方で国家公安委員会とともに日本を影から守る存在である情報機関、防衛省情報局(ミディス)所属の職員が、垂水達に向けて報告を行う。
 アメリカにおけるFBIやCIAの役割も担う一方で、北朝鮮による邦人拉致事件が発生して以降は事実上の軍特殊任務部隊としての任務も実施する様になった『現代の忍者』は、外務省職員や使節団の泊まるホテルの従業員に変装して彼らの情報を集めており、垂水達はその情報に大きな注目を寄せていた。

「政治体制は複数の貴族で構成される合議を最高決定機関とする寡頭政治体制ですが、代表は伯爵以下の下級貴族の選挙によって選ばれており、決して非民主的な国ではないとの事です。 また彼らの言語は日本語に類似している一方で、文字はアルファベットとは全く異なる表音文字で、一応ローマ字読みで読める程度の文法であるため、翻訳は然程困難ではないと思われます」

「コミュニケーションの点に於いて問題が生じなかったのは、それが理由か…全く以て理解に苦しむところだが…」

 文部科学大臣がため息交じりにそう呟いた直後、沖は職員に尋ねる。

「して、彼らの技術水準はどうなのかね? ワイバーンという大型生物を航空戦力としているのと、独自に無線通信手段を持っている事は「いぶき」からの報告で知っているが…」

「はい。その通信手段に関連する事ですが、基本的な工業技術及び生産手段の水準は15世紀中盤、中世ヨーロッパ中期に該当しますが、通信・医療に関しては現代に近い水準を得ています。 その理由は『魔法』というこの世界特有の生体エネルギーを使った技術の存在があります。例えば魔信機という人体から発するエネルギーないし特殊な鉱石の持つエネルギーを動力として稼働する無線通信システムに、治癒魔法があります。治癒魔法は一部の高い魔力を有した者しか扱うのが難しい魔法ですが、重傷を負った者でさえも瞬時に怪我を治癒する事が可能というものです。 実際、移動中に起きた交通事故にて使節団メンバーの1人が行使し、披露しました」

 昨日の昼頃に流れたニュースの内容が垂水達の脳裏をよぎり、納得の声が上がる。職員は続けて報告する。

「また、このロデニウス大陸以外にも複数の陸地と国家が存在する事も確認されており、これらの国・地域に対する情報局職員の派遣も必要であると、情報局はそう結論付けております。 もし我が国に対して敵対的な行為に出ようとする国がいた場合、それらに対する防衛策も必要となるからです」

「つまりは、防衛省に降ろす(予算)を増やせ、という事か。 対外貿易の全てが途絶えた状態でそんな無茶を行えると思うか?」

 副総理兼財務相を務める村川仁の言葉に、垂水は静かに頷きつつ口を開く。

「だが、全く情報を得る事が出来ずに流されるままにいるのも不味いのもまた事実だ。国会でその正当性を主張しつつ、出来る限り防衛省と情報局の望む形に出来る様にしよう…吉田外務大臣、新井経産大臣、この後の事前者協議は任せました」

『承知しました』

 こうして閣議は終了し、日本政府はクワ・トイネ公国使節団と協議を実施。2日間の会議にてクワ・トイネ公国から年間5500万トンという膨大な食糧を輸入する目途を立てた一方でその見返りに鉄道や近代的な港湾のODA(政府開発援助)と、整備に必要な最低限の科学技術供与を約束し、無事に国交を締結する事となった。
 同様に台湾や韓国も日本の仲介を経て国交を結ぶ事に成功し、食料の問題を解決した日台両国は次にクイラ王国にも使節団を派遣。こちらも順調に国交樹立に向けた外交的交渉に成功し、そちらは莫大な量の石油が出るとあって、日本は樺太のみに依存する状態から脱した。
 こうして異世界からの来訪者と最初に関係を有したクワ・トイネ公国は、その後のこの世界にて、日本と並んで大きな役割を果たす事となる。 
 

 
後書き
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