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失態

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第二章

「それにスウェーデンも来ていますし」
「グスタフ=アドルフ王だな」
「噂によるとかなりの人物だそうですね」
「うむ、相手をするには万全の状況が必要だ」
 戦略的にというのだ。
「だからこそだ。ここはマグデブルグは穏健に手中に収め」
「そしてですね」
「そこを補給の拠点として三方に睨みを効かせたい」
「だあらこそですね」
「うむ、そもそも略奪や虐殺なぞ何も生まない」 
 ティリーはまた村を見た。やはりそこは無残な有様である。
「この様なことはあってはならない」
「全くですね」
「傭兵達は確かに戦力になる」
 実際に彼等を使っている立場の者の言葉だ。
「しかしだ。この者達は一歩間違えるとだ」
「そうですね」
 ティリーも士官もその派手な身なりで巨大な剣やハルバートで装備している彼等を見る。どれもその顔つきは野盗と変わりない。
「最悪の強盗になります」
「金を払わず飯を食わせないとな」
「こうなりますね」 
 士官もまた村を見た。無残な骸達は腐り烏や野犬に貪られている。
 かつては美しかったであろう娘の骸は切り刻まれおぞましい行いが行われた形跡がある。その骸が今目を烏についばまれ腕や胸を犬達に食われている。
 内臓にも烏達が群がり蛆さえ湧いている。士官は眉を顰めさせてその有様を見ながらティリーに話した。
「こうしたことが何時まで続くでしょうか」
「我等が勝つまでだ」
 ティリーも眉を顰めさせながら答える。
「それまでは続く」
「そうですね。やはり」
「スウェーデンも来ているしフランスの動きも気になる」
 帝国と同じ旧教徒の国だが長い間帝国と対立しており今は新教徒達を支援して内乱を煽っているのだ。
「今ここでかたをつけてだ」
「帝国に圧倒的な状況を作り」
「そして戦いを終わらせなければならない」
「ではその為にも」
「マグデブルグを落とす」
 そしてその陥落のさせ方も問題だった。
「穏健にだ」
「はい、戦略基地としまして」
「そこから三方の新教徒達に睨みを効かせて必要とあらば攻めよう」
「そうしましょう」
 士官はティリーの言葉に頷いた。かくしてだった。
 ティリーが率いる皇帝軍はマグデブルグを包囲した。攻勢は大砲を前に出して行われ激しいものだった。だが。
 マグデブルグは堅固だった。中々陥落する気配はない、しかもだった。
「降伏勧告を受けません」
「断固として篭城を続けるつもりです」
「また使者が帰らされました」
 参謀達が本陣にいるティリーに告げる。陣中は殺伐とした雰囲気にある。 
 その中でティリーだけは厳かな物腰で言うのだった。
「そうか。こちらとしてもな」
「可能な限り寛大な条件を出していますが」
「それでもです」
 参謀達は苦い顔でティリーに言う。
「降伏を受けません」
「徹底抗戦の構えです」
「そしてザクセンやスウェーデンに救援を求めています」
「このままでは」
「包囲が長引き過ぎている」 
 ティリーの予想より遥かにだ。
「マグデブルグの堅固さはわかっていたが」
「予想以上でしたね」
「まさかこれだけ堅固とは」
「想像を越えていました」
「かなりのものです」
「そうだ。前よりも堅固になっているか」
 マグデブルグ側としても陥落させられる訳にはいかない、守りは強くしてあった。 
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