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川越城の主

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第三章

「それが沼におってな」
「そうなのですか」
「城の外堀とつなげたあの沼には」
「そのヤナがおったのですか」
「うむ、そしてな」
 そのうえでというのだ。
「沼に入る者にああしてな」
「あやかしの術を使って」
「そのうえで追い返していた」
「そうだったのですか」
「左様、わしはその話を聞いてすぐに決めた」 
 まさにというのだ。
「沼と外堀をつなげてじゃ」
「一つにする」
「そうすれば外堀もヤナの場所となる」
「外堀に入る者をヤナが攻める」
「そうなるからですか」
「その様にしたのじゃ」 
 沼と外堀をつなげたというのだ。
「そしてそれがじゃ」
「見事にその通りになりましたな」
「まさに」
「敵を退けてくれましたな」
「戦の時に」
「城はただ築くだけではないな」
 太田は家臣達にこうも言った。
「そうであるな」
「左様ですな」
「それぞれの地形をどう使うか」
「そのことも大事ですな」
「まさに」
「それでどういった城にするかです」
「それでじゃ、わしはこの度はあの沼を使ったのじゃ」
 外堀とつなげたというのだ。
「その読みがあたって何よりじゃ」
「全くですな」
「以後川越の城は容易に攻め落とせぬ」
「そうした城になりましたな」
「当家にとって大きな守りになりますな」
「必ずな、ヤナがおるからな」 
 太田は会心の笑みで答えた、そうして彼自身川越城において戦い敵の軍勢を全く寄せ付けなかった。川越城に伝わる古い話である。


川越城の主   完


                 2020・3・13 
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