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川越城の主

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第二章

「よいな」
「あの沼は」
「言われていますが」
「それでもですか」
「そうじゃ、それでもじゃ」 
 周りに笑みさえ浮かべてだった、太田は答えた。
「よいな、責は全てわしが受ける」
「では、ですか」
「外堀と沼はつなげ」
「一つにしますか」
「その様にする」
「ではな」 
 こう言ってだ、そしてだった。
 太田はその城の外堀と沼をつなげさせた、そうした城にした。そうして戦に備えさせた。だがその城を築くと。
 攻めやすい平野の城と聞いて上杉家と争う家が早速攻めてきた、だが太田はその城にいてこう言った。
「案ずることはない」
「敵の数は相当なものですが」
「それでもですか」
「そうじゃ、全くじゃ」
 それこそというのだ。
「恐れることはない、しかと守ればな」
「よいですか」
「この城を守れますか」
「城の兵は少ないですが」
「それでもですか」
「うむ、何ということはない」
 まさにというのだ。
「確実に守れる」
「左様ですか」
「では、ですな」
「ここは守りますか」
「しかと」
「その様にする」
 城の兵は少なく敵の数は多い、しかも城は守り難い。誰もがそう思ったが太田だけは落ち着いていた。そのうえでだった。
 彼は戦に入った、敵は数を頼りに攻めてくるが。
 外堀に入ったところで不意にだった。
 霧が出た、それに敵の兵達は戸惑った。
「何だ、これまで晴れておったが」
「急に霧が出て来たぞ」
「これはどういうことじゃ」
「妖術でも使われたか」
 皆急に周りが見えなくなったので不安になった、しかも。
 空は乱れ何処からか強い風が出て来た、辺りは霧に加え真っ暗になった。
「まだ昼だぞ」
「真昼間なのだぞ」
「それで何故じゃ」
「何故ここで暗くなる」
「これは妖術ではないのか」
「まことにそうではないのか」
 城を攻める者達は皆驚いた、しかしそれで終わりではなく。
 堀そしてそことつながっている沼の水が増えて波まで出て来た。そうして自分達を飲み込まんばかりの高さになったので。
 敵の兵達は慌てて逃げ出した、かくして戦は上杉方の勝ちとなった。ここで太田は家臣達に笑みを浮かべて言った。
「わしの読み通りじゃ」
「あの、急にです」
「霧が出て来てです」
「空が乱れ風が吹き」
「真っ暗になってです」
「波まで出ましたが」
「挙句は洪水の如くになりました」
 家臣達は太田に自分達が見たもの、敵を退けたものを口々に話した。
「あれは一体」
「一体何でしょうか」
「まともなものに思えませぬ」
「妖術でしょうか」
「それともあやかしでしょうか」
「あやかしじゃ」
 それだとだ、太田は答えた。
「実はな」
「まさかと思いますが」
「あの沼にですか」
「あたかしがいたのですか」
「うむ、何でも名はヤナという」
 太田はこの名前も出した。 
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