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牛鬼淵

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第三章

 ふとだ、そこにだった。
 一人の美しい女が来た、それはこの世のものではないとまで言える程だった。
 藩士達はその女を見て見惚れかけた、だが。
 吉宗はその女を一瞥しそのすぐ下の水面を見て藩士達に告げた。
「その女が牛鬼である、皆成敗せよ」
「はっ」
「それでは」
「これより」
「囲んで切り伏せよ」
 吉宗自身刀を抜いた、そして。
 女を忽ち取り囲むと一斉に切り掛かった、その動きに戸惑った女は慌てて牛鬼の姿に戻ろうとしたが。
 牛鬼の姿に戻ったところで一斉に切られ突かれた、それでだった。
 頭が牛、身体が大男のあやかしはどす黒い血の海の中で息絶えた、吉宗はその躯を見つつこう言った。
「これでじゃ」
「はい、牛鬼はですな」
「成敗しましたな」
「そうなりましたな」
「そうなった」
 こう藩士達に述べた。
「無事にな」
「はい、しかし」
「殿はすぐにおわかりになられましたな」
「それは何故ですか」
「そうなった訳は二つある」
 吉宗は藩士達に笑って答えた。
「まず化けものは化けてもじゃ」
「それでもですか」
「おわかりになられると」
「そうなのですか」
「影や水だの鏡に映った姿を見よ」
 吉宗は藩士達に話した。
「書で読んだ」
「そういえばそうした話がありますな」
「化けものは化けてもです」
「その正体は影や映った姿に出る」
「そうであると」
「だからな」
 それでというのだ。
「余もおなごの水面に映った姿を見れば」
「牛鬼だった」
「そうであったからですか」
「すぐに見破られてですな」
「我等に言われたのですな」
「そして牛鬼の正体を出す前にそなた達を攻めさせれたのだ」
 こう言うのだった。
「それでだ、そしてもう一つはな」
「はい、そのことはです」
「どうしてでしょうか」
「それは何でしょうか」
「一体」
「余は美しいおなごに興味はない」
 先程よりも笑っての言葉だった。
「だからよ」
「そうなのですか」
「殿は美しいおなごに興味はないのですか」
「左様でしたか」
「美しいおなごでもな」
 例えそうであってもというのだ。
「身体が丈夫でよき子を産めなくては意味がないな」
「そういうことですか」
「身体がどうか」
「それが大事ですか」
「殿にとっては」
「顔はどうでもよい」
 吉宗にとってはというのだ。 
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