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牛鬼淵

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第二章

「確かに」
「ならだ」
「おなごの好みもですか」
「考えて人をやろう、また腕利きは何人でもよい」
 こう言ってだった。
 吉宗は牛鬼の成敗に紀州藩でも腕利きの者達を選びその者達を送ってそうしてであった。そのうえで。
 自身も編み笠を深く被り服も藩主のものでなく質素な武家のものにして彼等と共に牛鬼が出るという場所に向かった、そこで藩士の中で特に腕の立つ者達は吉宗に言った。
「あの、殿」
「殿もなのですか」
「行かれるのですか」
「そうされますか」
「余に考えがある」
 吉宗は藩士達に答えた、顔は隠しているが背の高さは目立っている。
「だからな」
「この度はですか」
「殿もですか」
「牛鬼退治に向かわれますか」
「余の剣術や柔術の上ではそなた達には及ばぬ」
 それはというのだ。
「しかしな」
「それでもですか」
「殿にお考えありですか」
「だからですか」
「行かせてもらう」
 こう言ってだ、吉宗はあえて彼等の後ろに隠れる様にして牛鬼が出るという場所に向かった、着いた場所は一見ただの淵であった。着いたのは昼であった。
 しかしその淵には誰もいない、吉宗はその淵と周りを見回して言った。
「誰もおらぬのは話が伝わっておるからだな」
「ここに牛鬼が出る」
「実際に何人も襲われ食われています」
「その話が伝わっていてです」
「それで、ですな」
「そうであるな、しかしここに美しいおなごが来れば」
 それでというのだ。
「確かにな」
「目を奪われますな」
「どうしても」
「そしてその隙にですな」
「牛鬼に襲われる」
「そして食われる、だが」
 吉宗は編み笠に隠した目に強い光を帯びさせて述べた。
「それはだ」
「どうか、ですね」
「殿のお考えでは」
「それは」
「うむ、では淵のところに行こう。水辺のところまでな」
 ここで吉宗は藩士達に告げた。
「まずはな」
「そこに行ってですか」
「そして、ですか」
「そのうえで、ですか」
「牛鬼が来るのを待とう」
 こう言ってだった、吉宗は藩士達と共に淵の水辺のところに向かった。そこで淵の魚達に餌をやる振りをしていると。 
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