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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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無印編
  第45話:隠れ家を探せ

 
前書き
どうも、黒井です。

お気に入り登録ありがとうございます!

読んでくださる方達に最大限の感謝を。 

 
 あの後、颯人の魔法で二課本部の司令室に帰還した奏は、早速颯人を問い詰めた。

「んで? あれは一体どういう事なんだ?」

 奏が問い掛けているのはウィズの去り際に颯人が行った事である。
 魔法で転移する直前、背を向けているウィズに対し颯人は、こっそり召喚したイエロークラーケンを気付かれないように彼のローブの裾に張り付かせて共に転移させたのだ。

 その事には彼の背を見ていた響と翼も当然気付いていたので、奏が颯人を問い詰めると2人も気になると彼を見つめてきた。

 3人からの視線に、颯人は何処か楽しそうに先程の行動の意味を話し始めた。

「な~に、簡単な事さ。ウィズの奴が何も教えてくれないのならこっちからウィズの隠れ家の場所を知っちまおうと思ってね」

 そう言いながら颯人は一枚のカードを取り出した。使い魔の見たものを確認する為に彼が使う特殊なカードだ。

「お、映った映った。一番の問題は結界的な魔法で使い魔との繋がりが切れちまうことだったんだが、問題ないみたいだな」
「これ……あっ!?」
「これがウィズの隠れ家か?」

 颯人が持つカードには、イエロークラーケンが見ている光景が映し出されていた。ウィズのローブの裾から離れたイエロークラーケンは、彼に気付かれる事なく隠れ家の様子を観察出来ているらしい。室内どころか、窓から見える外の景色すら見る事が出来た。
 勿論、その光景の中には布団に寝かされた透とクリスの姿も確認できる。ウィズ、透、クリスの3人の姿を、イエロークラーケンは物陰に隠れながら観察していた。

 確かに颯人が送り込んだ使い魔はウィズの隠れ家に潜入できたが、颯人はここからどうすると言うのか?

「んで? これからどうするんだ?」
「我に秘策あり。簡単さ、クラーケン呼び戻してもう一度案内させるのさ」

 先程からチラチラ窓の外に見える景色には日本語の看板などが見える事から、外国でない事は明らかであった。県外であればここまで魔力が持つか怪しい所であるが、少なくとも一度部屋から出て周囲の景色を見ればこの近辺かどうか大体分かる。
 見た事のある景色であればここまで呼び寄せればいいし、見た事の無い景色であれば近場の駅なんかに向かわせれば回収は可能だ。

 帰還の報告もそこそこに、颯人に群がる装者の様子に好奇心を刺激された弦十郎も話の輪に加わる。

「一体何の話をしてるんだ?」
「あ、おっちゃん。喜べ、お探しのクリスちゃんの居場所が分かるぞ」
「なんだとぉっ!?」

 クリスの居場所特定の情報は、弦十郎をもってしても涼しい顔していられないものだったのか奏達を押し退ける勢いで颯人に詰め寄った。その勢いに気圧されながらも、颯人は現状とこれからの展望を述べた。

「ま、まだ特定まではいってないって!? 特定するのはこれから、クラーケンに上手くウィズの隠れ家から逃げ出してもらわないと」

 説明しながら颯人はイエロークラーケンに指示を出し、ウィズの隠れ家の部屋から脱出させようとした。イエロークラーケンは背を向けたウィズに気付かれないように慎重に動き、ドアの郵便受けに向けて移動する。あそこからなら、イエロークラーケンもギリギリ出られるだろう。

 イエロークラーケンは一度振り返り、ウィズがまだ気付いていない事を確認すると一気にドアに近付き郵便受けを開け、投入口から外へ出ようとした。

 その瞬間、一気に視点が動きウィズの顔がドアップで映し出された。

「げっ!?」
『全く、油断も隙も無い奴だな。悪戯小僧め』

 ウィズがそう言った次の瞬間、カードが何の景色も映さなくなる。ウィズが無理矢理イエロークラーケンの指輪を引き抜いたのだ。指輪が無ければ、使い魔はその姿を保てない。

 颯人がやられた……と顔を手で覆って天を仰ぐと、額に何かがこつんと当たり床に落ちる。

「あ痛っ!?」

 何事かと床を見ると、そこにはイエロークラーケンの指輪が落ちている。慌てて再び上を見上げれば、そこにはウィズが魔法を使う時に出る魔法陣があり、次の瞬間消えてしまった。

 消える魔法陣を見て、颯人は悔しそうに顔を歪め呻き声を上げた。

「う~~、くぅぅぅ!?…………はぁ」

 悔し気に呻く颯人だったが、ここで感情に任せて地団太を踏むのは奏達の目もあってみっともないと考えたのか、何とか感情を抑え込み諸々の感情は溜め息と共に吐き出した。

 そんな彼にこれからどうするのか訊ねる奏。

「どうするんだよ、颯人?」
「どう……すっかなぁ」
「おいおい、さっきあれだけ大口叩いといてもうお終いか?」
「か、奏! そんな言い方は……」

 傷口に塩を塗るかのような奏の物言いに翼が苦言を呈すが、今の颯人には奏の言葉が少しありがたかった。ヘタな慰めよりは、奏の様な厳しい言葉を掛けられた方が気が楽だ。

 そんな3人の様子を見ていた弦十郎がふと響を見ると、彼女は何か考え事をしているかのように俯いていた。

「響君? どうかしたのか?」
「あ、いえ。その……」

 弦十郎に声を掛けられて弾かれたように顔を上げた響。実は先程、颯人にウィズの隠れ家の様子を見せてもらった時彼女はクリスが居た事とは別に気になる事があったのだ。

「さっきウィズさんの隠れ家を見せてもらった時、ちょっとだけですけどリディアンが見えたような気がして……」

 響が少し自信なさげに告げると、それを間近で聞いた弦十郎だけでなく颯人達も驚愕に目を見開きながら響に目を向ける。
 響の言葉に弦十郎が更に詳しく内容を訊ねようとするよりも早くに、颯人達が響に詰め寄った。

「響ちゃん、それマジでッ!?」
「は、はい。何となく見たことあるなって思ったら」
「地図!? 藤尭さん地図を!」
「いやそれよりも写真だ! リディアンの写真!」

 目に見えて分かる目印があると言うのなら話は別だ。リディアンのどの部分がどの角度から見えたのか、それによってウィズの隠れ家の場所を特定することが可能となる。

 奏の声に慎二がリディアンを上空から写した写真を持ってきて響に見せると、彼女はそれを見て暫しウンウン唸ると先程の記憶と照らし合わせるかのようにゆっくりと見えた部分を指差した。

「確か……この辺りです」
「ふむ、正門から校舎の一部か」
「どっちから? 右か、左か」
「右から、だったと思います」

 響は記憶の糸を手繰り、先程見えたリディアンの校舎の様子を出来る限り思い出していく。見えた大きさ、近くのビル、その他諸々を聞きながら颯人は地図に凡そのウィズのアジトの場所に辺りを付けた。

「出来たぜ、おっちゃん」

 颯人が響の証言から予測したウィズのアジトがあるだろう場所をマジックで地図に書き込む。生憎と響の証言だけでは正確な場所までは特定できない為、大まかな場所を丸で囲むしかできないがそれでも闇雲に探すのに比べたら十分過ぎる情報だ。

 弦十郎は颯人から地図を受け取ると、大きく頷いた。

「うむ、これだけ範囲が絞れれば後はこちらで探し出せる。助かったぞ、2人とも!」
「いやぁ、今回は響ちゃんのお手柄だよ」
「よくやった、響!」
「全くだ。大したものだな、立花!」
「いや、そんな…………えへへ!」

 その場の全員から絶賛され、顔を赤くしながらも破顔する響。嬉しそうにする響に改めて笑みを浮かべると、弦十郎は捜索の為にその場を後にしたのだった。




***




 それから3日ほど経ったが、弦十郎の表情は芳しくなかった。

 何しろ、結構本腰入れて調査に臨んだのに結局ウィズの隠れ家どころかクリスと透の姿を見たと言う声すら聞かなかったのだ。

 クリスと透の姿を見かけなかったと言うのは、ウィズが徹底して2人を外に出さないようにしていればそうなるだろう。軟禁状態の人間を、ましてや転移と言う反則技で何処かに閉じ込めたのであれば目撃情報が無いのも頷ける。

 だが、確実に街中に居る筈で特にマンションやアパートは虱潰しにした筈なのに、尻尾を掴むことも出来ないと言うのは諜報が本懐であった弦十郎をしてかなりショックな事であった。
 この状況に、弦十郎は堪らず颯人に助けを求めた。

「颯人君。君を頼るようで不甲斐無い話だが、今一度手を貸してはもらえないだろうか?」
「構わねぇよ。って言うか、これに関しては俺の方が志願するべきだったわ」

 ウィズが関わっているのであれば、どこかに必ず魔法が使われている筈と考えるのが妥当だ。つまり、颯人は最初から捜査に参加すべきだったのである。

 颯人は地図を睨みながら思考を巡らせた。

「移動してる余裕はないだろうから、この辺に居る事は間違いないだろう。それが探しても見つからないって事は、認識阻害の魔法で見つからないようにしてるんだろ」
「そんな魔法もあるのか?」
「ここ来る前にウィズと一緒に居た時も、その魔法で隠れ家作ってたから間違いないだろう」
「颯人、お前ならそれ見つける事出来ないか?」

 同じ魔法なら颯人に対処できないかと奏が訊ねるが、彼は残念そうに首を横に振る。

「元々ジェネシスの魔法使いに見つからないようにする為の魔法だからな。俺でもそう簡単には見つけられねぇよ」
「……どうしようもないのか?」

 弦十郎が口惜しそうに訊ねてくる。その口調からは、ここで諦めたくはないと言う思いが感じられる。

 勿論颯人だってここで諦めるつもりは毛頭無い。折角ウィズを少しでも見返せる可能性があるのだ。ここで諦めて堪るか。

「ちょいと難しいけど、こいつらを使えば何とかなるかもしれない」

 そう言って颯人は使い魔達を出す。

 この使い魔達はちょっとした認識阻害の魔法程度なら通用しない。ウィズが本気で他者を寄せ付けないような強力な、それこそ元来た場所に戻ってしまうような結界を張られては手も足も出ないが、気付かれないようにする程度の結界であれば無視して行動できる。
 こいつらを使えば、捜索は可能であった。

「ただ無暗に捜そうとしても埒が明かねぇ。おっちゃん、今回捜索した中で空き部屋はどれ位あった?」
「決して少なくはなかった筈だ。藤尭」

 指示を受けて朔也がコンソールを操作すると、モニターに捜索地点が表示されさらにそこに赤い光点が表示された。その数は確かに多い。両手の指では足りない数だ。

 しかしここまで特定できているのであれば、後は地道な捜索を繰り返せば何とかなる。

「うん…………ここまで分かってればこっちで何とかなる」
「何か他に手伝える事はあるか?」
「いや、とりあえずは俺に任せてくれ。何か分かったら連絡するからよ」

 そう言うと颯人は司令室を出る。背中越しに手を振りながら去って行く颯人を、弦十郎達が見送った。

 それから2日後…………遂に颯人から、ウィズの隠れ家を見つけたと言う連絡が届いた。 
 

 
後書き
と言う訳で第45話でした。

以前ウィズは隠れ家の周りに結界を張っていると言っていましたが、原作でファントムたちがアジトの周りに張っていた結界に比べれば大分弱いです。流石に街中で元来た場所に戻されるなんて事になったら直ぐに騒ぎになりますからね。森の中ならともかく。

執筆の糧となりますので、感想その他評価やお気に入り登録等よろしくお願いします。

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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