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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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無印編
  第44話:病室ではお静かに

 
前書き
読んでくださる方達に最大限の感謝を。 

 
「ん…………? 朝、か」
「ようやく目が覚めたようだな」
「────え!?」

 翌朝クリスが目覚めた時、壁際にウィズが寄り掛かって彼女の事をじっと見つめていた。彼の姿を見た瞬間、クリスは掛け布団を跳ね飛ばす勢いで飛び起きた。

「な!? テメェはッ!?」
「よく眠れたようだな。何よりだ」

 飛び起きたクリスは最大限の警戒をウィズに向け、布団から飛び出ると未だ眠り続けている透との間を遮るように身を低くして立ち塞がった。体力はともかく、長時間横になり続けていたからか力が上手く入らず、身を低くしていると言うよりはほぼ四つん這いである。
 その様子はまるで全身の毛を逆立てた猫の様であった。

 対するウィズは彼女の警戒など何処吹く風と言った様子であり、余裕の表れか警戒するクリスに対して小さく鼻を鳴らしすらした。それが余計にクリスの神経を逆撫でする。

 そんなウィズを前にしながら、クリスはチラリと透の様子を伺い見た。
 先日と少し違い、額には濡れタオルが置かれている。どうもクリスが寝ている間に疲労か、それとももこれまでの無理が祟って風邪を引いたのか熱を出したらしい。少し汗をかいているようだし、呼吸も少し苦しそうだ。

 彼にウィズを近づけてはいけない。そう考えたクリスは、イチイバルを纏いウィズを牽制しようとする。

 しかし──────

「あぁ、気付いていないようだが、君らが戦える道具は全て預からせてもらった。こんな所で暴れられても困るからな」
「んなっ!?」

 今まで腕組して隠れていたウィズの手の中には、クリスから取り上げたギアペンダントと透から取り上げた各種ウィザードリングがあった。
 クリスは己の迂闊さを悔いた。昨日起きた時点で確認しておくべきだったのだ。いや、あの時点だと気付けても満足に動けなかったのだから、どちらにしろ意味はない。ヘタに抵抗しても力尽くで取り押さえられて終わりだろう。

 結局、クリスに出来る事は抵抗せずに大人しくしている事だけであった。ただそれだと何だか悔しいので、せめてもの抵抗でこれ以上ない位の怒りと力を込めてウィズを睨み付けた。

「……命の恩人に対して向ける目ではないな」
「あ?」
「君達をここへ連れてくるに当たって、颯人に君らを助けるよう指示したのは私だ。それに私が君らを匿っているからこそ、ジェネシスの魔法使いやノイズに狙われる事も雨風と空腹に苛まれる心配もしなくて良くなったんだ。そこら辺をもうちょっと考えて行動しようと言う気にはならないのか?」
「はっ!? 恩を返せってか? 頼んでもいねぇのに押し売りしたくせして、何様のつもりだ!?」

 敵意剥き出しで言い返してくるクリスに、ウィズは肩を竦めるとギアペンダントとウィザードリングを仕舞った。これで完全にクリスと透には抵抗の為の手段が無くなってしまった事になる。

「…………何が目的だ?」

 何とか心を落ち着けて、ここは一先ず大人しくしてウィズの油断を誘う方法に切り替えるクリス。もしかしたら、装備を取り返すだけの隙が出来るかもしれない。

「私の目的はそちらの少年──北上 透の方だ」
「透が?」
「彼はジェネシスの幹部候補だ。それもなかなかに腕が立つときた。となると、何か組織についての情報を持っているのではないかと思ってな」

 ウィズの言葉に、クリスは頭を働かせた。ウィズが嘘を吐いていないのであれば、透は彼にとって貴重な情報源。無碍に扱うようなことはしないだろう。
 生憎とクリスには透の持っている情報がどの様なものなのかは分からないが、少しの間の安全は確保されたと考えて良いかもしれない。

 だが、ここではい分かりましたと首を縦に振るような事をするほどクリスは不用心ではなかった。

「情報提供については透が起きてからとして、だ。透から情報を聞き出した後…………あたしらはどうなる?」

 それが重要な所だった。ウィズは信用ならない相手だ。こちらから情報を聞き出したら、もう用済みと言って始末してこないとも限らない。

 その懸念を察したのか、ウィズは落ち着いた声でクリスからの問い掛けに答えた。

「安心しろ、用事が済めば解放してやる。ギアも指輪も返し、自由にすることを約束しよう」

 クリスはウィズの言葉を吟味した。仮面で顔が隠れている為表情を読み取ることは出来ないし、メンタリストの類でもないので僅かな仕草から何かを察する事も出来ない。だが過酷な過去を生きた経験が、クリスに常人以上の危機感知能力に近いものを持たせていた。
 それに従えば、ウィズの言葉に危険なものは感じられなかった。少なくとも装備を返し、自由にすると言う言葉に嘘はなさそうだ。

 だが────

「信用できねぇな」
「ふむ?」
「大人はどいつもこいつも嘘吐きだ! フィーネだって、アタシらを裏切った! お前も大人なんだろう? 都合の良い話でアタシらを釣っておいて、必要無くなったら始末しないってのをどうしたら信用できる!?」

 怒りと憎しみの籠ったクリスの言葉にウィズは何かを考え込むように腕組をすると、徐に彼女に近付き手を伸ばした。
 突然の彼の行動にクリスは身構えるが、彼の手がクリスに触れる事は無かった。

 何故なら、伸ばされたウィズの手を透が掴んで引き留めたからだ。
 今の今まで眠っていた筈の透が起きるどころか、ウィズの手を掴んでクリスに触れないようにしている事に2人は驚いた。

「ッ!? 何?」
「透ッ!?」

 ウィズの手を掴んで引き留める透だが、その様子はとても回復したとは言い難い。呼吸は相変わらず粗いし、顔には汗を浮かべている。誰が見ても無理をしている。
 しかし、その手には尋常ではない力が込められていた。今の今まで疲労と熱で寝込んでいた少年の力とは思えない。

 クリスには指一本触れさせないという強い意志を感じさせる。

 そんな透の手と瞳に込められた強い意志を前に、ウィズは肩から力を抜き手を引っ込めようとした。しかし透はまだ手を離さない。

「安心しろ。お前達2人を傷付けるつもりは毛頭無い。本当だ。信じるのは難しいのだろうが、な」
「…………」
「…………分かった。ではこれだけは返そう」

 出来る限り柔らかな声で透を宥めるウィズだったが、尚も手を離そうとしない透に遂にウィズが折れた。取り上げたウィザードリングの幾つかを透に返し、抵抗の手段を与えると透も漸く警戒を解除したのか手を離し、同時に意識も手放したのかそのまま再び布団に倒れ込み気を失ってしまった。

「透ッ!? 大丈夫か、透ッ!?」
「落ち着いてください」

 再び気を失った透を心配し声を掛けるクリスだったが、音も無く表れたアルドがクリスを宥めると透に布団を掛け直し、濡らしたタオルで汗を拭った。

 暫く透を介抱していたアルドだったが、彼の様子が落ち着いてきたのを見ると一つ息を吐き、立ち上がると腕組してウィズとクリスを交互に見やった。フードを目深に被っている為表情を伺うことは出来ないが、その雰囲気から御機嫌斜めであろうことは容易に伺えた。

 ウィズですらそんな彼女を前にしてバツが悪そうに咳払いをしたのを見て、自分も下手な事をするのは良そうと畏まるクリス。
 大人しくなった2人を見て、アルドは大きく溜め息を吐いた。

「…………今後、私が2人の体調を問題ないと判断するまで一切の諍いは禁止します。宜しいですね?」

 伺い立てているように聞こえるが、言外に「病人が無茶するような騒ぎを起こすんじゃない」と厳命しているのが理解できた。クリスとしては透が少しでも早く治ってくれるように協力する事は吝かではなかったので、ここは大人しくアルドに従う事にした。

 とその時、外から突然喧しいサイレンの音が聞こえてきた。

「何だ、この音?」
「ノイズが出たようですね。これはその警報です」
「安心しろ。この部屋の周りには目に見えない結界を張ってある。ノイズはここには近付いてこないさ」

 初めて聞くサイレンがノイズの出現を表すものだと聞いて、クリスは血相を変えた。このタイミングでのノイズの出現、これは行方を眩ませた自分達を探し出す為にフィーネが送り込んだに違いない。

「おい、あたしのイチイバルを返せ!?」
「いけません。まだ戦わせられるほど、あなたの体は万全ではないのですよ」
「でも、このノイズはあたしと透を探す為にフィーネが寄越したんだ! なら、透が動けない今あたしだけでもいかないと──!?」

 掛け布団を跳ね除けて動こうとするクリスだったが、アルドは彼女の両肩を掴むと強引に押し倒して布団に寝かしつけた。

「うっ!? は、放せよッ!?」
「駄目です。あなたが戦闘に出ることは許可できません」
「そもそも、戦闘に出てそのまま逃げられたら事だ。返す訳がないだろう」
「透がここに居るなら、絶対戻ってくる! だから──」

 尚も食い下がって戦わせろと懇願するクリスだったが、その頬を突然アルドが引っ叩いた。彼女の行動にウィズは何も言わず彼女を注視し、クリスは一瞬呆気に取られてしまった。

 しかし直ぐに頬を叩かれたことに対する怒りが湧いたのか、顔を赤くして文句を口にした。

「な、何すんだッ!?」
「落ち着きなさい。ノイズが囮で、本命は魔法使いだと言う可能性を考えないのですか?」
「あ────」

 アルドに言われてクリスも気付いた。先日まで執拗に魔法使いが追跡していたのに、ここに来てノイズに捜索させる理由など炙り出し以外にある訳がない。
 大方クリスと透の人の好さに付け込んで、人々がノイズの脅威に晒されたのを黙って見ている事が出来なくなって出てきたところで魔法使いに襲撃させる腹積もりだったのだろう。それが分かっているのに戦いに出るなど、無謀でしかない。

「でも、それじゃあ…………」

 それでも、何もせずにジッとしているなど、クリスには我慢ならなかった。自分達の所為で関係ない者達が巻き込まれるなどあってはならない。

 しかしハッキリ言って彼女の心配と苦悩は無用であった。何故ならノイズの対処が出来る者は、彼女達だけではないのだから。

「無用な心配だな。今頃は、二課の装者と颯人が出撃している筈だ。ノイズだけなら対処は容易だろう」

 ウィズがどこか宥める様にそう告げると、アルドが寝かせたクリスに掛け布団を掛けて彼女の胸の辺りをそっと押さえた。ここで漸く彼女も観念したのか、それ以上の抵抗を止め大人しくなった。

 クリスが大人しくなったのを見て、ウィズは一安心したかのように息を吐くと右手の指輪をテレポート・ウィザードリングに交換した。

「大丈夫だとは思うが念の為だ、私は少し外に出て様子を見てくる。ここは任せたぞ。特に、じゃじゃ馬娘がおイタをしないようにな」
〈テレポート、ナーウ〉

 次の瞬間にはウィズは魔法で転移して部屋から消えた。

 あとに残された、アルドは透の様子を見て再び濡れタオルで彼の額に浮かんだ汗を拭い、クリスはウィズが最後に残した言葉に彼が先程まで居た場所を睨み付けているのだった。




***




 一方、街に出現したノイズにはウィズが言った通り颯人と二課の装者達が対応していた。

 ウィザードに変身した颯人のウィザーソードガンが空を飛ぶフライトノイズを撃ち抜き、奏の槍と翼の剣が、そして響の拳が地上のノイズを次々と屠っていった。

 相変わらずノイズの数は多いが、状態が万全な装者3人と颯人の前には物の数ではない。ノイズはその数を見る見る内に減らしていく。

 そんな時、響の前に一体のノイズが出現した。一見するとタコの様に見えるノイズである。他のノイズに比べると大分大きい。

 だがそれでもギガノイズなんかに比べれば、その大きさは少し大型のバス程度。この程度なら大した事は無いと歌いながら殴り掛かる響だったが、その瞬間ノイズの素早い触手による攻撃が響に襲い掛かる。

「わっ!?」

 思っていた以上に素早い攻撃に、響は堪らず攻撃を中断し回避する。これほどの攻撃、防御していたら耐え切れない。

 紙一重で回避して反撃に移ろうとする響だが、ノイズは正確に響を捉え次々と攻撃を放ってくる。その連続攻撃に響は反撃する間もなく、回避に専念するしかなかった。

「な、何でこんなに────!?」

 いくら何でも狙いが他のノイズに比べて正確すぎる。響が目の前のノイズに違和感を覚えていると、周囲のノイズを殲滅し終えた奏が合流してきた。

「響、大丈夫か!?」

 見るからに苦戦している様子の響を見て、奏は彼女に声を掛けながら助太刀に入った。彼女の参戦に響が声を上げようとするが、それより早くにノイズが触手で奏に攻撃を仕掛けた。

「ッ!? くっ!?」

 何の兆候も無く放たれた攻撃に、奏は面食らいつつも何とか防御する。踏ん張る為に一旦歌を中断し、ノイズの攻撃を受け止める奏を見て響は隙ありとノイズに殴り掛かる。

 だが背後から殴り掛かったにもかかわらず、ノイズは素早く反応して触手を薙ぎ払い響を叩き落してしまった。

「あうっ?!」
「響ッ!?」
「だ、大丈夫で、はっ!?」

 今度は響と奏、2人に同時にノイズが触手を振り下ろした。奏はともかく、今叩き落されたばかりの響には回避するだけの余裕がない。
 絶体絶命、攻めて防御して耐えようと両腕でガードする響と彼女を援護しようと駆けだす奏。

 その時、“街のあちこちから同じ動きで何人もの颯人が現れ”、ノイズに向けて声を掛けた。

「「「「「「「「「「お~い、タコ野郎! ほら俺はここに居るぞ!」」」」」」」」」」

 同時に声を発する颯人に、ノイズはそれぞれに向けて触手を叩き付ける。

 その瞬間翼が飛び出し、同時に颯人が奏と響に声を掛けた。

「「「「「「「「「「今だ、やっちまえ!!」」」」」」」」」」

 颯人の言葉に反応して、奏と響が既に行動に移っていた翼に続く様に動いた。

「これでッ!!」
[蒼ノ一閃]
「喰らいなッ!!」
[LAST∞METEOR]
「うおぉぉりゃぁぁぁぁっ!!」
[我流・撃槍衝打]

 翼の、奏の、響の放つ技が無防備となったノイズに同時に突き刺さる。大型とは言えギガノイズにも劣る体躯のノイズに耐えきれる筈も無く、3人の攻撃を同時に喰らったノイズは炭素の塵となって風に流されていった。

 それを見届けると同時に、あおいから通信が入った。どうやら今のが最後のノイズだったらしい。
 それを聞いて装者3人はシンフォギアを解除し、颯人も変身を解いた。

「よ! 3人ともお疲れさん」
「颯人さん、さっきはありがとうございました!」

 颯人が声を掛けると、響が開口一番に感謝の言葉を口にした。先程は彼があのノイズの気を引いてくれなければ、響がかなり痛い目に遭っていただろう。正に危機一髪と言うタイミングだった。

「な~に、良いって事よ」
「アタシも助かったよ。でも何であの時、あのノイズは響を攻撃しないで颯人の方を攻撃したんだ? それも律儀に分身全員に?」

 奏はそこが腑に落ちなかった。仮に彼女があのノイズの立場であれば、どう状況が変化しようがとりあえず響にだけは攻撃を仕掛けておく。あのノイズの様に、標的を変えて確実に攻撃できる相手を放置するようなことはしない。

 その疑問の答えは、翼の口から語られた。

「奏と立花は気付いていなかったみたいだけど、あのノイズは音に反応して攻撃を仕掛けるみたいなの」
「音?」
「気付かなかったか? あのタコ野郎、声出してる方にだけ攻撃仕掛けてたんだぜ」

 言われてみれば、最初に響と戦った時も奏が参戦した時も、ノイズにしては正確過ぎる狙いで攻撃を仕掛けてきていた。図体の割に随分と俊敏に動くノイズだと疑問を抱いていたが、それは他のノイズと違い音に反応して動いていたからだったのだ。戦いにおいては基本歌を歌わなければならない、シンフォギアにとってある種の天敵の様なノイズである。

 だからこそ颯人は先程、態々何人にも分身してノイズの注意を引く為に声を上げたのだ。そうすればあのノイズは確実にそちらを優先的に狙う。そしてその瞬間が最も隙が出来る瞬間であった。

 颯人からそれらの事を聞かされ素直に感心する奏と響。2人からの視線に颯人は得意げに笑い、引き上げようと右手にテレポート・ウィザードリングを着けようとした。
 そんな彼の後頭部を、何者かが手刀で引っ叩いた。

「んげっ?! な、何だ誰だッ!?」

 突然の事に颯人が面食らいながら背後を振り返ると、そこには右手で手刀を構えたウィズが佇んでいた。
 突然手刀で殴られた事に、当然ながら颯人は食って掛かった。

「何しやがんだッ!?」
「これを見てもまだそんな事が言えるのか?」

 文句を言ってくる颯人にウィズはそう言って左手に持っていた“モノ”を颯人の足元に放った。

 ウィズが放ったモノを見て、颯人だけでなく奏達も驚愕に言葉を失った。
 そこに居たのは琥珀メイジだったのだ。ウィズは戦闘不能にした琥珀メイジを3人、この場に持っ(連れ)てきたのだ。

「こいつらも居たのか」
「あの2人を焙り出そうとしたんだろう。取り合えず颯人、こいつらが暴れないように魔力を封印しろ」
「それくらい自分でやれよ……」
「何だ?」
「い~や、何でも」
〈シール、プリーズ〉

 ぶつくさ文句を言いながらも、魔法でメイジ達の魔力を封印する颯人。メイジ達が魔法使いとして戦力外となったのを見ると、ウィズは何も言わずその場から立ち去ろうとした。

 その時、響が立ち去ろうとするウィズの背に声を掛ける。

「待ってください! あの、クリスちゃん達は?」
「安心しろ。怪我の治療は施し、今は私の隠れ家の一つで休息を取らせている。傷と疲れが癒え、聞きたい事を聞き終えたら解放するつもりだ」
「そうじゃなくて、その──」
「アタシらには会わせてくれないのかい?」

 ウィズが匿ってくれた以上、怪我などの治療に関してはそこまで心配はしていなかった。だが人伝に無事を知らされるのと実際に顔を合わせるのは違う。
 それに何より、響はクリスともっと色々と話をしたかったのだ。以前は色々とあって話せなかった、それこそ他愛のないあれこれである。

 奏はそんな響の気持ちを察し、彼女の言葉を代弁するように問い掛けたがウィズからの返答は素っ気無いものであった。

「悪いが、隠れ家の場所を知られる訳にはいかないんでな。今言った通り、聞きたい事を聞き終えたら解放するつもりだからそれまで我慢していてくれ」

 そう言ってウィズは4人に背を向けてその場を立ち去ろうとする。雰囲気からこれ以上は取り合ってくれないだろう彼に、響は肩を落とし奏と翼は彼の背を睨む。

 一方颯人は、暫しウィズの背を右手の人差し指で顎を叩きながら見ていたが、不意に何を思いついたのかニヤリと笑みを浮かべた。

「ん?」

 それに気付いた奏だったが、それを訊ねて周囲──特にウィズ──に彼の行動を知らせるような真似はしなかった。それが今は最善だと彼との付き合いの長さで気付いたからである。

〈テレポート、ナーウ〉

 そうして彼が何事かするのを見ていると、ウィズが魔法でその場から転移して姿を消した。

 消えたウィズに響と翼はそれぞれ思った事を溜め息にして吐き出したが、奏だけは颯人に伺うような視線を向けた。

 彼女の視線に対し、颯人はそれに気付くとそれはそれは良い笑みを浮かべ右手でサムズアップするのであった。 
 

 
後書き
と言う訳で第44話でした。

原作とは違い、既に響と未来が仲直りしているのでタコノイズに対する戦闘が大幅に変わっております。音に反応する奴って、何気にいろんな作品に出てきますけど基本厄介ですよね。洋画なんかだとグリードを思い出します。

執筆の糧となりますので、感想その他評価やお気に入り登録等よろしくおねがいします。

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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