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ペルソナ3 ファタ・モルガーナの島(改定版)

作者:hastymouse
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【 承 】

 
前書き
さて、いよいよ建物に侵入です。
元のゲームでは「城」「美術館」「ピラミッド」「宇宙ステーション」「カジノ」「船」と多彩なパレスが登場します。P5Rでは新たに「研究所」も出ましたね。これだけいろいろやられてしまうと、それに匹敵する奇抜なシチュエーションの設定は大変です。まあP3らしさがあって、しかも歪んでる感じが出ればいいかな、と思って雰囲気を変えてみました。必然的に侵入の経緯も前回よりは丁寧に書いてます。
 

 
モルガナの後について森を抜けると、そこに異様な形の・・・宮殿といってもいい建物が現れた。「異様な形」というのは、まるでさまざまなパーツを適当に組み合わせたかのような「いびつさ」によるもので、その形を何かに例えるとしたら、何よりタルタロスの外観に似ているとも言えた。
高い塀に囲まれていて、仰々しい正面の門にはかがり火がたかれている。
全員が茫然としてその異様な建物を見つめた。
「まさに歪んだパレスだ。非現実感がすごいな。」美鶴が呆れたような声を洩らした。
「それで、どうする? 探ると言っても何をどう探ったらいいんだ?」真田が問いかけた。
「それはだな・・・」モルガナが答えようとしたところで
「あ・・・あれ? あの門のところに立っているの、アイギスじゃない?」と、ゆかり が指さした。
正面門の脇、守衛のように立つ姿は、確かにアイギスの特徴的な姿をしている。
「確かにそうだ。・・・しかし何かおかしいな。」美鶴が首を傾げた。
その姿にはどこか違和感がある。そもそもこんな場所にアイギスがいるはずがない。
「行ってみるか。」真田はそう言って身を潜めながら歩みを進めた。
木立の中を近づいて、適度な距離まで来たところで真田が木陰から手を振ってアイギスに合図してみる。
それに気づいたのか、アイギスはいきなり一直線にこちらに向かって突進してきた。
両手を後方に広げた独特の走り方はまさしくアイギスだ。しかし、接近してくるとその顔には、シャドウのごとき仮面をつけているのが見えた。
「危ないぞ。そいつはお前らが知っているヤツじゃねえ。」モルガナが警告を発する。
身の危険を感じた真田は、高速で突っ込んできたアイギスからかろうじて身をかわした。
かわされたアイギスが急停止し、反転した瞬間、モルガナが飛びかかってその首にしがみつく。そして「正体を見せろ」と叫んで顔から仮面を引きはがした。
途端にアイギスの姿が崩れ、異形の怪物に変貌する。
「やはりシャドウか!」
真田はすかさず召喚器を頭部に向けた。
「カエサル!」
呼び出されたペルソナが、シャドウに向けてジオダインを放つ。
電光が激しく瞬き、シャドウはその強烈な一撃で、黒い塵となって消し飛んだ。
跡形もなく消え去った後、シャドウのいた場所を皆が厳しい表情で見つめた。
「なんだその力は!」
真田を見て、モルガナは驚きの声を上げる。
「この力はペルソナと呼ばれている。俺の心の力が形となった、言わば俺の分身だ。」
「ペルソナか・・・すげえ力だな。・・・ひょっとして、お前らみんなできるのか。」
モルガナが見回すと、全員がうなずく。
「これは心強い。ワガハイ、ついてるぜ。」
モルガナが満足そうにニヤリと笑った。
「しかしこのシャドウ、なぜアイギスの姿をしていたんだろう?」
美鶴が不思議そうに訊いた。それに対してモルガナが答える。
「こいつはこのパレスの主の歪んだ認知が生み出したものだ。つまりこのパレスの主は、そのアイギスという奴を知っていて、こういう風に認知していたってことだな。本人ではなくてまさに影・・・シャドウとは言い得て妙だ。」
「パレスの主がアイギスのことを知っている?」
改めて全員が顔を見合わせた。

「さて、こういう危険な奴がいるとなると、素直に正面から入るわけにもいかないからな。ついて来い。」
モルガナは宮殿をかこむ塀をまわりこんでいく。
しばらく行くと、太い木の枝が塀の内側から外に張り出している場所があった。
「ワガハイの侵入ルートだ。あそこに吾輩を放り投げ上げてくれ。」
『彼』が言われるままにモルガナを放り上げると、器用に枝にしがみついたモルガナはそのまま枝を伝って塀の内側に向かった。そして姿が見えなくなったと思った直後に、塀の上から縄梯子が投げ下ろされてきた。
「いいぞ。上ってこい。」モルガナが声をかける。
「ええっ! ちょっ・・・あたしスカートなんだけど・・・。」ゆかり が情けない声を上げた。
「じゃあ、そこで待ってるか?」モルガナが冷たく返す。
「う~・・・。」ゆかり は口を尖らせてモルガナをにらんだ。
まず真田が軽々と上り、続いて『彼』もするすると塀によじ登った。さらに今日はパンツスタイルの美鶴も躊躇無く上っていく。
最後に残された ゆかり がしぶしぶと上りはじめた。
真田が先に弓を引き上げ、『彼』が上から手を貸す。苦労してようやく全員が塀の上に揃った。
「ジャージかなんかで来ればよかった・・・。」
ぼやく ゆかり に「こんなことになるとは思わなかったからね。」と『彼』が笑いかける。
続いてモルガナは塀の反対側の木の幹を伝い降りていった。さらに真田、そして『彼』が降り、美鶴もてこずりながらなんとか降り立った。
「ええっ。これ絶対無理。」
ゆかり が声を潜めながらも悲鳴を上げる。
「じゃあ受け止めてやるから、いっそのこと飛び降りろ。」
真田が声をかけ、『彼』も手を広げてうなずく。
ゆかり はしばらく考え込んだ後、涙目になりながら「覗かないでよ。」と力無く言った。 

塀の中は庭園となっている。月明かりの中、モルガナに続き、植え込みに隠れながら宮殿に近づいていく。
先ほどと同じようなシャドウ・アイギスが数体 巡回しており、近づいてきたときには、その度に見つからぬよう身を潜めた。
庭園のところどころに、青銅の像が立っている。その陰に身を隠し、シャドウ・アイギスをやり過ごしたとき、その像を見上げて ゆかり は顔をしかめた。
気味の悪い立像だった。口を半ば開けた虚ろな表情。両手をだらりと下げて、今にも倒れそうな立ち方。見るだけで人を不安にさせる。
「何考えて、こんな気持ち悪いものを飾ってるんでしょうね。」
言われて皆が像を見上げる。
「これは、なんというか、まるで・・・。」と美鶴と言いかけると、「ああ・・・影人間・・・という感じだな。」と真田が続けた。
「影人間ってなんだ?」モルガナが訊いてくる。
「人の精神が暴走し、シャドウとなって体から抜け出したあとの抜け殻だ。世間では『無気力症』とも言われている。ともかく生きる気力というものを全て失った状態で、放っておけばそのまま死んでしまう。ここ最近、急激に増えてきているが、その原因がタルタロスとシャドウにあることは間違いない。」と美鶴が説明した。
「なるほど、これもタルタロスとシャドウがらみというわけか。」モルガナがうなずく。
その後、移動しながら改めて像を確認すると、座り込んだり、何かにもたれかかったりと、姿勢こそ違うものの、その表情はどれも影人間のものだった。
「まともな人間は一人もいないのに、影人間の像はそこら中にある。このパレスの主の歪みが象徴されているようだな。」
モルガナが皆にそう言った。
やがてモルガナは井戸までたどり着くと、すかさずそのすぐ横にある像の台座探った。すると台座の一部がずれて、抜け穴が出現した。
「ワガハイの見つけた城内への抜け穴だ。どうだ、すごいだろ。」
モルガナは得意げに宣言した・・・が、誰も反応しない。
不思議に思って振り向くと、全員がその像を呆然と見上げていた。他の像と同じく影人間の像だ。ただ特徴があるとすれば、その服装は警察官のものだった。
「おい、どうした?」
「これ・・・黒沢さんなんじゃ・・・。」
ゆかり が声を震わせて言った。
「間違いないよ、台座にはまっているプレートに『黒沢巡査の像』って書いてある。」
『彼』が携帯の明かりで照らして見せる。
「知り合いなのか?」
モルガナが驚いたように言った。
「我々の活動の協力者だ。何故、こんなところにあの人の像が・・・。」
美鶴も驚きを隠せないまま、声を漏らした。
「もしかして、ここにある像は、みんな実在する誰かなのか?」
真田の発言に全員がハッとした。
「そんな・・・。」
「まさか・・・。」
その場に重たい空気が流れる。
「プレートに名前が入っているということは、そういうことなんでしょうね。」
『彼』が眉をひそめて、ためらいがちにそう言った。
「このパレスがお前らに関係してる可能性がさらに増したな。それもこれも、パレスの主に会えばわかることだろう。今はともかく先を急ごう。」
モルガナはそう声をかけると、真っ先に抜け穴に潜りこんで行った。
中は天井が低く、四つん這いで進まなければならない。真田から順に穴に入って、モルガナを追う。今度は ゆかり もあきらめたようにため息をついただけで、何も言わずに最後尾でついてきた。
穴を抜けて出た場所は屋敷内の厨房だった。そこからはもう宮殿の中だ。
外観の異様さの割に、中は意外にまともな洋風の作りだった。
しかし庭園と同様、建物の中にも、そこかしこに「影人間」の像が立っている。
「まったく悪趣味なことだ。」と真田が吐き捨てるように言った。
周りを見回した美鶴は、その中のひとつ、座り込んだポーズの像に気づき、その見覚えのある姿に目が釘付けになった。メイド服を着た女性であることが分かる。
「菊乃・・・。」
「また知っているやつか。」真田が尋ねてきた。
プレートを確かめると『斉川菊乃の像』と書かれている。
「うちのメイドだ。私とは幼いころから姉妹のように一緒に育った仲だ。」
美鶴はその像の、魂が抜けたような虚ろな表情をみて、顔に怒りを浮かばせた。
「どういう意味があるのかわからんが、この扱いは冒涜だ。許せないな。」
その言葉に全員が黙ってうなずき、そしてさらに奥へと足を進めた。
広い廊下を抜け、階段を上り、ところどころにあるホールを通り過ぎる。
屋敷内にもシャドウ・アイギスが巡回しているが、モルガナは巧にその隙をついて、身を隠しつつ着実に宮殿の奥へと案内していく。
モルガナには、風花と同じく周囲の状況を感知する力があるらしい。
途中、仕掛けのある扉や隠し通路なども多数あったが、すでに攻略済みだったらしくまったく留まる事が無い。その手際の良さは、本格的な忍者かスパイ、もしくはプロの窃盗犯を思わせた。
「まるでコソ泥になった気分だ。」と真田が言うと
「コソ泥はやめてくれ。どうせなら怪盗と言って欲しいな。」とモルガナが返す。
「ふん。怪盗は気取り過ぎだろう。せいぜいドロボウ猫だ。」
「猫じゃねー!」
すっかり定着してきた掛け合いに、ゆかり と『彼』は顔を見合わせてため息をついた。
時折、回避できないところにシャドウ・アイギスが立っていることもあったが、そういう時は総がかりでペルソナを呼び出し、周りに気づかれないよう速やかに処理した。

「お前ら、なかなかいい素質がある。見どころあるぜ。」
モルガナが豪華なイスにふんぞり返って上機嫌で言った。
どれだけ進んだのだろうか。ある小部屋に入り込んだところで一息つくこととなった。彼の話によると、この部屋は認知の歪みの影響で、敵に気づかれずに居ることができるらしい。
さすがに緊張の連続で、皆 一様に疲れた表情を浮かべてイスにもたれていた。
「ワガハイも前回ここまでは潜り込めた。もうすぐ目的地だ。この先に、大きなホールがあって、そこにこのパレスの主の玉座がある。」
「玉座・・・王様気取りというわけか・・・。いったいどんな人物なのだろうな。」
美鶴が考え込みながらつぶやいた。有り得ないと思いつつも、どうしてもある人物の顔が浮かんでくる。
「だ~が、そいつと対決する前にまずやる事がある。」
モルガナがひと際高く声を上げた。
「やる事?・・・なんだ?」真田がモルガナに聞き返す。
「オタカラをいただくのさ。」
モルガナがニヤリと笑った。
「オタカラ?・・・お前、本当にコソ泥するつもりなのか?」
真田がさげすむような口調で言う。
「そうじゃねえよ! オタカラというのは、奴を歪めている欲望の源のことだ。それを奪えば、奴の心の歪みが無くなって『改心』する・・・はず・・・。」
「はずっ・・・て、試したことないの?」ゆかり があきれたように訊いた。
「う・・・まだ・・・成功したことは無い。」モルガナの声が急に小さくなる。
「オタカラがある場所は感じ取れるんだが、実物はまだ見たことは無いんだ。」
「じゃあ、本当に改心するかもわからないわけだな。」真田がたたみかける。
「いや、歪みの源を奪うんだ。絶対に改心はする・・・はず・・・。」
モルガナのもの言いがどんどん自信なさげになってきた。
「それで、改心するとどうなるの?」『彼』が穏やかに尋ねた。
「歪みが治り、自分のしてきたことを後悔するようになる。つまり真人間になる。歪みが無くなるから、当然パレスも消える。」
「つまり、この島から出られるということね。」ゆかり が勢い込んで言った。
「・・・はず・・・。」モルガナの声がますます小さくなる。
「はずって・・・。」ゆかり はため息をついた。
「それで、そのオタカラっていったいどこにあるのよ?」
「まだわからねーが、ここからすぐ近くに感じる。方角的に、きっと玉座の近くにある・・・はず・・・。」
 
 

 
後書き
ということで、苦肉の策で絞り出したこのパレスのアイデアは「タルタロス+影人間」です。いかがでしょう。
ダンジョン攻略ってゲームならではの楽しさってところがあるので、文章で丁寧に書いても長くなるだけでダルいんですよね。だから基本的には、既に侵入ルートを攻略済みのモルガナが案内するという展開まんまです。まあ、その内、なんか面白いトラップでも思いついたら、また書き足すかもしれませんが・・・。
ようやくこれで半分。次回はパレスの主の登場です。(まあ、あの人ですが・・・)
 
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