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ペルソナ3 ファタ・モルガーナの島(改定版)

作者:hastymouse
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【 起 】

 
前書き
以前、掲載したものの長尺版です。概ね5割増しくらいになっています。
P3のメンバーがP5のモルガナと一緒にパレス探索を行う話なんですが、そもそも一つのパレスの探索をまともに書くと、すごく長くなるんですよね。前回はとりあえず最後までたどり着きたくて、一気に書き飛ばしてしまいました。しかし、せっかくのパレスを何の変哲もない当たり前の建物にしてしまったことが気になっていました。
ということで、もう少しパレスらしさが出ればと肉付けしなおしています。
リメイク版ですがよろしくお願いします。
 

 
「猫だな」
真田がぼそりと言った。
「猫・・・なのか?」
美鶴は判断に迷ってつぶやいた。
確かに「猫」と表現するしかない姿だが、しかしこんな猫はいない。子供向けの漫画か、ゆるキャラのような姿と言ったらいいだろうか。それがタルタロスの迷宮で大の字になって倒れているのだ。思わぬ事態に、全員が戸惑いつつ顔を見合わせた。

影時間にのみ現れる迷宮の塔タルタロス。その構造は、入るたびに変化して人を惑わす。ここでは何が起きてもおかしくはない。常識の通用しない非現実な迷宮なのだ。
そして、この迷宮の主はシャドウだ。人の精神が暴走して生まれる異形の怪物。タルタロスには、この怪物が無数に巣食っている。
特別課外活動部は、迷宮内に徘徊するシャドウをかわし、時に戦い、内部を探索して塔の上を目指していた。
全てのシャドウを駆逐し、影時間を消すために・・・。

修学旅行から戻って数日が経っていた。
美鶴にとっては、幾月の裏切りで父を亡くした あの「運命的な日」以来のタルタロスとなる。ついこの間の出来事なのに、随分時間が経過したような気がする。その間、美鶴は心が折れ、目標を見失い、ただ後悔と挫折による虚無感に囚われていた。
信じていた人に裏切られ、もっとも大事な人を奪われた。今もその心の傷は癒えていないが、それでも ゆかり のおかげで再び前に進む気力を取り戻すことができた。
今日も、彼女を支えるかのように ゆかり と、そして真田が探索メンバーに名乗り出てくれている。これまで彼女を信じて一緒に歩んできてくれた仲間の為にも、ここで立ち止まることはできない。
タルタロスは依然としてそびえ立っており、影時間もシャドウも存在している。戦いはまだ終わらないのだ。
こうして決意も新たに探索を進めていたところ、次のフロアに上がる階段の手前で、この『猫のような生き物』を発見したのだった。

「シャドウ・・・じゃないですよね。死んでるのかな。」
ゆかり がそっと弓の先でつついていてみるが、全く身動きしない。
「ひょっとしてぬいぐるみ?」
そう言うと、彼女はおそるおそる手を伸ばしかける。
【ゆかり ちゃん。なんだかわからないけど生きている反応はあるよ。気を失っているだけみたい。】
風花から通信が入った。
「生きてるの!? 」
ゆかり は慌てて手を引っ込めると、当惑した顔を美鶴に向けた。
「どうします? これにあんまり時間取られてると・・・そろそろ死神が出てくるかも・・・ですけど。」
「そうだな・・・どうするか・・・。」
常にはっきりした決断をする美鶴ではあるが、さすがに判断に迷って言いよどむ。
「放っておけばいいだろう。こんな所にいるこんな姿の猫がまともな存在なわけがない。相手にしないほうが得策だ。」
真田は無視を決め込んだらしく、すっぱりと言い放った。
(正論で言えば明彦の言う通りだろう。タルタロスで未知の存在に関わることはリスクが大きい。)
しかし、この『猫もどき』の愛嬌のある顔を見ていると、このまま捨て置くことに迷いが生じてくる。
「どう思う?」
困った挙句、美鶴は『彼』に意見を求めた。
「そうですね・・・。」
『彼』は考えながらそう返すと、おもむろに『猫もどき』に歩み寄り、そして無造作に抱き上げた。幼稚園児並みのサイズで軽そうだ。毛がふわふわしている。
「おい!」
真田が驚いて声を上げる。
「大丈夫なのか?」
美鶴も心配げに声をかけた。
「まあ、大丈夫そうです。・・・とりあえず次のフロアへ移動しましょうか。」
彼は穏やかにそう言うと、階段の方に平然と歩き出した。皆はあっけにとられたまま、つられたように後に続く。
階段を上って次のフロアへ。
そこで一同はさらに驚くような光景に出くわした。

空には星が光っている。波の音に目を向けると海が見えた。海岸がすぐ目の前だ。緩やかに風が流れ、潮のにおいがする。
いつの間にかタルタロスの外に出ていた。
「えっ? なにここ。」
ゆかり は思わず声を張り上げた。美鶴もあり得ない光景に呆然とする。
その時、『彼』がスッと腕を伸ばし、前方を指さした。
「ムーンライトブリッジが見える。」
そこには、見慣れたフォルムの橋がライトアップされていた。
「そんな・・・ここはタルタロスの外なのか?・・・あれだけ塔を上ってきたのに、その上が地上に繋がっているというのはどういうことだ。」
美鶴は困惑して声を洩らした。
「風花。何かわかる?・・・・・・・風花?」
ゆかり が風花に呼びかける。・・・しかし返事はない。いつの間にか通信は途絶えていた。
ゆかり は「だめだ」と言うように首を振って、みんなを見まわした。
「くそっ。どうなってる。嫌な予感がする。」真田が眉をひそめる。
美鶴も予想外の事態の連続に戸惑い、不安を覚えていた。この状態での不用意な行動は危険だ。
「いったん戻りましょうか?」
『彼』の言葉に、反射的に「そうだな。」と応じて、美鶴はもと来た方に振り向いた。
そこで一同は再び驚きの声を上げた。
たった今、上ってきたはずの階段がどこにも無かったのだ。そこはただ砂浜が広がっているだけだった。
「わけわかんない。どういうこと?」ゆかり が嘆く。
「わからない・・・が・・・どうもここはタルタロスではないらしいな。」
美鶴はそう答えることしかできなかった。
「対岸を見てみろ。いつの間にか影時間が終わってるんじゃないか?」
真田の指摘の通り、影時間には全ての照明が消えるはずなのに、ムーライトブリッジはライトアップされ、対岸の街の明かりも平常通りに見えている。
「そんな、いくらなんでも早過ぎじゃあ・・・。」と ゆかり が言う。
「まあ、この場所が現実だとしたらの話だが・・・。」真田がそう言い添えた。
「ともかく現在地を確認しよう。ムーンライトブリッジが見える位置なら、すぐに場所が特定できるはずだ。」
美鶴の言葉に皆がうなずき、海とは逆方向に歩き出した。
緩やかな傾斜を登っていく。そちらの方向は真っ暗だ。不思議なほど人家も街の明かりも全く無い。この大都会に、こんな何もない場所があるということが信じられなかった。
歩いているうちに、汗が噴き出てきた。気が付けば、この季節にしては異常な暖かさだ。半袖でもいいくらいだ。
この違和感は何なのか。つい先ほど、このタルタロスに来るときには、冬を間近に控えた冷たい夜風に身を震わせたはずではなかったか?
非現実感は増すばかりだった。
しばらく上ってから『彼』が振り向き、そして「ここ、島なんじゃないですか?」と言った。
見回せば、確かに今いる場所を海がぐるっと取り巻いているようだ。
「でもこんなところに島なんか・・・いや、うちらの学校が人工島にあるのは知ってるけど、・・・でもこんな無人島じゃないし・・・。」
その ゆかり の言葉にかぶせて『彼』が言う。
「・・・と言うより、さっきから気になってたんだけど、あのムーンライトブリッジの見え方は、月光館学園の屋上からの見るのと同じじゃないかな。」
あらためて見ると、確かにその通りだった。
「つまりここは月光館学園のあるはずの場所ということか。やはり我々はタルタロスがあるはずの場所にいるわけだな。」
美鶴が確認するように言うと、真田がうなずいた。
「現実にこんな場所が存在するはがない。俺たちは今なお非現実な場所にいる。」
「今いるこの島は、本物ではない『幻の島』ってことですか。」
ゆかりが不安そうに声を上げる。
それを聞いて美鶴がつぶやいた。
「幻の島か・・・まるでファタ・モルガーナだな。」
「ファタ? なんです?」ゆかり が聞き返す。
「ああ、ヨーロッパでは蜃気楼のことをファタ・モルガーナと言うんだ。
かつて北極海にあると噂され、目撃例が多数あったにもかかわらず、度重なる探索でついに発見することのできなかった島があってな。その幻の島は、ファタ・モルガーナ・ラネズと呼ばれたんだ。」
「どうやったら戻れるんでしょうね。すぐそこに街が見えてるってのに・・・。」
ゆかり が街の明かりを見つめながら言った。。
「山岸との通信は途絶えたままだ。それでも、影時間が終わっていれば携帯電話が通じるはずだ。だが、ここが依然としてタルタロスの中だというなら・・・。」
「電話なんか使えねーよ。」
美鶴の言葉を遮って、ふいに聞きなれない高い声がした。
全員がびくっとして身構える。
「誰だ。」真田が鋭く問いただした。
「ワガハイだ・・・。」
見れば、先ほどまで『彼』の腕でぐったりしていた『猫のような生き物』が身を起こしていた。
「名前は・・・思い出せない。」
「猫がしゃべった!」
ゆかり が驚きの声を上げる。
「猫じゃねーよ!。猫がしゃべるわけねーだろ。」
『猫もどき』は怒ったように返した。
「それじゃあ、なんなんだお前は。」真田が続けて詰問する。
「人間・・・のはずだ。・・・なんかおかしなことに巻き込まれて、こんな姿になっちまったんだ・・・と思う。」
一同は顔を見合わせた。
「どうも昔の事については記憶がはっきりしないんだ。しかし、ここが現実ではなくて異世界だってことはわかる。」
『猫もどき』・・・はそう言うと、『彼』の腕から飛び降りて、すくっと地面に立った。
「異世界か。・・・とんでもない話だが、こんな島の存在すること自体が不自然だからな。一概に否定もできん。タルタロスとも違うようだしな。」と美鶴が言った。
それを聞いて、『猫もどき』が訊き返してくる。
「そのタルタロスってのはなんなんだ?」
「影時間にだけ現れる迷宮の塔だ。」真田が答えた。
「・・・意味が解らない。影時間ってなんだ?」
『猫もどき』は興味津々な様子で、重ねて尋ねてきた。
「夜0時から1時間ほど、普通の人間には感知できずに存在する隠された時間だ。我々は影時間と呼んでいる。」
「なんだそれは! ワガハイは、そんなの知らないぞ。」
「じゃあ、ここがどういう場所なのかは知っているのか?」
真田はいらついたように質問を切り返した。
『猫もどき』の疑問もわかるが、自分たちにとって、今は現状の把握が最優先なのだ。
そもそもこの『猫もどき』が信用できる存在なのかもまだわからない。
そんな真田の心中を気にかける様子も無く、『猫もどき』が自信たっぷりに言った。
「ここは言わば人間の頭の中だ。人の心の歪みが生み出したもうひとつの現実。異世界というわけだ。」
『猫もどき』の言葉に、一瞬沈黙が訪れ、皆が顔を見合わせる。
「・・・そっちこそ意味が解らない。」
真田があきれたように言う。
あまりの話のかみ合わなさに、しばし沈黙が訪れる。
「とりあえずお互いの情報交換が必要なようだな。」
気を取り直したように『猫もどき』が提案した。
「猫の言うとおりだ。」真田も同意する。
「だから猫じゃねえって・・。」
「じゃあ、何と呼べと? 名前を思い出せないんだろ。」
「なんか適当につけてくれ。」『猫もどき』がぶっきらぼうに言う。
「なら猫でいいだろう。」真田がぶっきらぼうに返す。
「猫じゃねー!!」『猫もどき』がまた声を張り上げた。
「まあまあ、真田さん。」
にらみ合う二人を取りなすように、ゆかり が口をはさんだ。
「えーと・・・それじゃあ、さっきのファタモンガー・・・なんでしたっけ?」
「ファタ・モルガーナか?」美鶴は助け舟を出す。
「そう、それから取って、モルガーナ・・・モルガナっていう名前はどう?」
問われた『猫もどき』は、一瞬キョトンとして、それからニヤリと笑ってうなずいた。
「いいぜ。気に入った。」
モルガナはもともと人名でもある。悪くないネーミングだ。
「よし。それでは当面の間、モルガナと呼ばせてもらおう。」
美鶴がとりあえず話をまとめた。

島の奥に広がる森の手前でひとまず腰を落ち着けられそうな場所を見つけると、それぞれの事情を話し合うことにした。
特別課外活動部の一行は、影時間とタルタロス、そしてシャドウについてモルガナに説明した。モルガナは本当に初耳だったらしく、その一つ一つにひどく驚いた反応をしてみせた。
一方、モルガナの説明によると、メメントスという人の意識を共有した異世界があり、その中でも特に歪んだ心の持ち主は独自の異空間を作り出すらしい。
「そういうヤツは大概、歪んだ心が生み出した手前勝手な宮殿で、王様になりきっている。」
「人の心の中にあるパレスというわけか。」美鶴が言った。
「いいネーミングだな。まさに歪んだ心のパレスだ。そこではその人間の歪んだ認知が実体化している。今いるこの場所も、島だけではなく、周りに見える景色から空の星まで含めて全てパレスなのさ。誰かがそのタルタロスとやらがあるこの島を、こういう風に認知しているんだろう。」
「誰一人いない無人の島・・・そんな風にか。」
美鶴が考えつつそうつぶやいた。
「なんというか・・・途方もない話だな。」真田がため息をつく。
「歪んだ認知かあ・・・なんだか難しい話になってきたね。」
ゆかり が首をかしげて『彼』に同意を求め、『彼』は「そうだね。」と静かにうなずいた。
「しかし、俺達はどうしてそんなところに迷い込んだんだ?」
「それはワガハイにもわからない。ワガハイは元の姿と記憶を取り戻すために、メメントスを探し回っているんだ。そうしてこのパレスにもやってきた。」
「それなのに、どうしてタルタロスの中に倒れてたの?」ゆかり が不思議そうに言う。
「このパレスを探索している時、いきなりパレスが崩壊し始めたんだ。慌てて脱出しようとしたんだが・・・その後のことはさっぱりだ。」
「この異世界から弾き飛ばされて、タルタロスに出現したというわけか。しかし崩壊したというのなら、なぜ今この場所が存在してる。」
美鶴が不思議そうに問いかける。
「さあな。そこはワガハイにも見当がつかない。」
モルガナは一度考え込むように目を閉じて、それから改めて全員を見回して口を開いた。
「このパレスの主はこの島の中央にいる。そこに答えがあるはずだ。・・・一緒に行って確かめてみるか?」
モルガナが森の奥を指さした。


 
 

 
後書き
そもそもモルガナがいつ誕生したのかは明確ではないのですが、P5開始時点では、かなり経験を積んでいるようでもあるので、それなりにいろいろ冒険してきたんでしょうね。それならP3のメンバーに絡めたっていいんじゃないかと思ったのが発端です。ということで、引き続き、まだ名前も無い頃のモルガナの活躍をよろしくお願いします。 
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