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夏の甘い時

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第二章

「何でそこで禿の話が入るんだ」
「お兄ちゃんの未来も予想してよ」
「禿げるのか、僕は」
「十年後はそうでしょ」
「おい、早過ぎるだろ」
 十年後は二十代だ、その年代で禿げるならというのだ。
「それは」
「イギリスの王子様達みたいに」
「おい、それは不謹慎だろ」
「他の国の王族の方々でも」
「ご本人達笑い飛ばしてるけれどな」
 それでもというのだ。
「内心気にしてるからな」
「だからなのね」
「それは言うな」
 名前は出すなというのだ。
「いいな、とにかくこれからな」
「デート行くのね」
「夏祭りにな」
 あくまでこう言い張る彰だった。
「そうしてくるな」
「頑張ってね、それでシャワーも浴びたのね」
「清潔にして悪いか」
「清潔なのはいいわ、ただね」
「ただ?今度は何だ」
「コンドーム持った?」
 死んだ魚の目のまま言った。
「そうした?」
「な、何言った今」
「だから、若しもの時はね」
 その時はとだ、法子はギクリとなった兄に対してさらに言った。
「使うでしょ」
「使うか、あんなの」
「けれどお財布の中に一個はあるでしょ」
「ある筈ないだろ、そんなの」
「あっ、嘘じゃないわね」
 法子は彰の必死の言葉からそのことは察した。
「そうね」
「当たり前だろ」
「じゃあポーチの中に入れてるわね、箱単位で」
「そ、そんな筈は」
「今度は図星ね、ただそこでその反応は未経験ね」
「そういうお前はどうなんだ」
 事実を指摘されて苦し紛れの反撃だった。
「ないわよ」
「ないのか」
「お兄ちゃんと一緒よ」
 つまり未経験だというのだ。
「完全にね、キスも手をつないだことも」
「ないのか」
「ええ、彼氏もいないし」
「そうなんだな」
「けれどお兄ちゃんには瑠璃さんいるなら」
「それならか」
「何があるかわからないから」
 それでというのだ。
「用心の為にもね」
「そういうのはか」
「持っておくべきでしょ」
「未経験の割に生々しいな」
「そういう本も読んでサイトも観てるから」
 それでというのだ。
「私なりにね」
「知ってるんだな」
「そうよ、じゃあ行ってきてね」
「お前は行かないんだな」
「もっと勉強するから」
 受験勉強、それをというのだ。
「だからね」
「大変だな」
「後で行くわ」
「やっぱり行くんだな」
「行かないと」
 それこそというのだ。 
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